
ビジネスの場では多種多様な問題が次々に顕在化します。特に近年は、「マネジメント」に関する問題に直面している組織が多く、企業は解決策を模索しています。そこでお話を聞いたのは、書籍『世界のマネジャーは、成果を出すために何をしているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)の著者である井上大輔さん。なぜマネジメントに関する問題が噴出しているのかという前提から詳しく解説をしてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【プロフィール】
井上大輔(いのうえ・だいすけ)
1978年2月14日生まれ、神奈川県出身。OFFICE pianonoki代表。ニュージーランド航空、ユニリーバ、アウディでマネジャーを歴任。ヤフー株式会社マーケティングソリューションズ統括本部マーケティング本部長、ソフトバンク株式会社コンシューマ事業統括コミュニケーション本部メディア統括部長などを経て現職。個人事業主としてマーケティングやマネジメントをテーマとした執筆・講演・企業研修などを行なうほか、上場企業の執行役員としてマネジメントの実務にも現役で携わる。WASEDA NEO「早稲田マーケティングカレッジ」講師。著書に『幸せな仕事はどこにある』、『マーケターのように生きろ』(いずれも東洋経済新報社)などがある。
マネジメントの難易度はかつてより上がっている
現在、日本のビジネスシーンでは、マネジメントに関する問題が増加傾向にあると言われています。その要因はさまざまですが、端的に言えば、「マネジメントの難易度がかつてより上がっている」からだと私は見ています。
たとえば、いまのビジネスシーンでは、多様性を受け入れることが求められています。長い目で見た場合、あるいは社会全体としての視点から見た場合には、それぞれに異なるバックグラウンドやそれに基づく習慣や思考、発想やスキルをもつ人たちを受け入れることは大切でしょう。そうすることで、これまでになかったビジネスが生まれる可能性だってあります。
一方、「多様」の反対である「同質」な集団にもいいところはあります。統制がとりやすく、規律を行き渡らせやすいのです。警察や軍隊では、個性を発揮するより、ルールや共通の価値観に従うことが重んじられるでしょう。集団からはみ出した行動が文字通り命取りになる現場では、そうした行動をなるべく抑えられるよう、同質化の力で管理の難易度を極力下げておく必要があるのです。
多様な組織はこの真逆になるわけですから、当然のことながらマネジメントは難しくなります。
欧米と比べ、日本のビジネスシーンでは、ピープル・マネジメントのノウハウがこれまであまり蓄積されてきませんでした。昭和の日本のような同質的な社会では、管理の難易度がそれほど高くなかったため、「あうんの呼吸」や「空気の力」で知識や技術に頼らずとも部下を管理できてしまっていたのでしょう。その意味では、いまこそマネジメントのノウハウをしっかりと学ぶべきときが訪れているのだと思います。

自己流のマネジメントが悪いわけではない
では、具体的にどのようなノウハウを学べばいいでしょうか? ビジネスであれスポーツであれ、「自己流はよくないものだ」と言われがちですが、その考えについて私は無条件に賛同できません。
たとえ自己流であろうとも、「マネジメントはこうあるべきだ」という自分なりの原理原則があればいいと思うのです。なぜなら、原理原則があれば言動に一貫性をもたせることができますし、そうして一貫性をもって行動していても上手くいかなければ、「この原理原則のこの部分が間違っていたのかもしれない」と修正・調整をすることもできるからです。
それを前提に考えると、「原理原則なき自己流」には問題があります。その場その場の思いつきでマネジメントするような自己流では部下はついていけませんし、好結果を生むのは難しいでしょう。
そこで、みなさんが自分自身の原理原則を考えるうえでヒントになるように、私なりのピープル・マネジメントの原理原則をご紹介します。それは、以下のような「5つの技術」です。
- リレート:関係をつくる
- デリゲート:任せる
- キャリブレート:軌道修正する
- モチベート:背中を押す
- ファシリテート:チームワークをつくる

大前提となるのは、部下との「関係づくり」
「1. リレート」は、「関係をつくる」ことです。部下の問題を指摘して軌道修正するにせよ、勇気づけて背中を押すにせよ、関係ができていないと上司の言葉は部下に響きません。関係ができていない人からほめられても聞き流してしまいそうですし、逆に関係ができていれば苦言にも素直に耳を傾けられますよね。どのようなマネジメントのアクションをするにも、この関係づくりこそが大前提となります。
「2. デリゲート」は、「任せる」という意味です。とはいえ、いわゆる丸投げではなく、任せるにしてもたどるべきステップが存在します。まずは相手の能力を「評価する」ことからスタートします。能力を大きく超えるような仕事を任せることはできませんから、きちんとした評価に基づいて仕事を「アサインする」のです。
次のステップが特に重要で、それは「モニターする」ことです。「評価」や「アサイン」は、完璧には上手くいかないのが常です。それゆえ、それを仮説ととらえ、その仮説が間違っていたら修正するプロセスを用意しておく必要があるのです。定例会や1オン1などで報告をしてもらい、思っていたようにうまく仕事がこなせていなければ、手助けやアドバイス、あるいは仕事自体の調整をしてあげます。
最終的にそれでも問題が残るようなら、上司が「介入する」ことも考えます。ただし、上司が介入することで部下の主体性が失われるので、これはあくまでも最終手段と考えるべきでしょう。
次の「3. キャリブレート」は、「軌道修正する」ということです。簡単に言うと「注意する」ことですが、これについては難しいと感じる人も多いはずです。しかし、たとえばマラソンランナーがコースを間違ったことを誰かに教えてもらえれば、ランナーはむしろそのことに感謝しますよね。それと同様で、厳しく否定したり非難したりするのではなく、「こうしたほうがあなたのためになるよ」という意識をもって注意をすれば、むしろ部下からは感謝されるに違いありません。

メンバーそれぞれのエゴを調整し、同じゴールに向かわせる
「4. モチベート」は、「背中を押す」「勇気づける」という意味です。再びマラソンを例に挙げますが、マラソンであれば基本的にはほかのランナーと一緒に走ることになるため、自分が全体のどれくらいの位置にいるかは大よそ見えるものです。
ところが、仕事の場合はそうとは限りません。ひとりで進めなければならない仕事を任され、「ちゃんとうまくできているだろうか……」と不安になることもあるでしょう。そこで、上司としては、「ちゃんと成果に近づいているよ」と教えてあげることで、「それだったらもっと頑張れる!」と部下に思わせることが必要なのです。
ここまでの4つは個人に対する技術でしたが、最後の「5. ファシリテート」は、「チームワークをつくる」ことを意味します。メンバーはそれぞれが「こうありたい」「こうしたい」といったエゴをもっています。それらが、最終的にチームが目指すゴールにつながっているものであればいいのですが、たとえば「とにかく出世したい」というエゴから、ほかのメンバーを押しのけて自分をアピールするようなことがあれば問題です。
だからこそ、メンバーがモチベーションを失ってしまわないように個々のエゴを調整しながら、最終的にチーム全体を同じゴールに向かわせるような働きかけが重要なのです。
ただ、先にもお伝えしたとおり、これらは数多くの企業でマネジャーを経験したり書籍や論文から学んだりするなかで、私なりに体系化した原理原則であり、つまり「私の自己流」です。よって、みなさんが属する組織に向いているかは不明瞭な部分もあります。ですから、「これは自分の組織に向いているな」「もっとこうアレンジしたほうがいいな」など、みなさんなりの自己流をつくるためのヒントとしてもらえたら幸いです。

【井上大輔さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「友だちみたいな上司」に部下はついてこない──成果につながる5つのマネジメントルール
実力はあるのに伸びない部下──カギは“自己効力感”という心理だった
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
