お客様はあなたの会社に「1ミリも興味がない」。マーケティングの全戦略は、この残酷な事実を認めることから始まる【新人さんのためのマーケティング講座2 vol.3】

お客様は1ミリも興味がない|フックと翻訳で顧客の注意を勝ち取るマーケティング戦略

📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season2

Season1では、マーケティングの基礎概念からWeb広告の実務知識までを体系的に解説しました。Season2は、配属されてしばらく経ち、実務をこなしながらさまざまな「壁」にぶつかり始めた方に向けて、より実践的なテーマを掘り下げていきます。

まだSeason1を読んでいない方は、まずそちらからどうぞ。▶ 新人さんのためのマーケティング講座 Season 1【全14回まとめ】 ——マーケティングの基礎知識を徹底解説!

新人マーケターの最大の勘違い。それは、「一生懸命作った広告だから、お客様も真剣に読んでくれるはずだ」という幻想です。

残酷な現実を突きつけましょう。あなたが徹夜で作ったそのチラシ、あなた自身が消費者の立場だったら、ゴミ箱に捨てませんか? 現代人は1日に数千件もの広告メッセージに晒されています*1

人間の脳はパンクを防ぐために「高性能なノイズキャンセリング機能」を作動させ、自分に関係ない情報を無意識に遮断しています。あなたの会社がどれほど素晴らしくても、お客様にとってはただの「風景」の一部に過ぎません。

 

私自身、痛いほどこれを経験しました。

かつて京都で塾を立ち上げたとき、「第二言語習得研究に基づいたメソッドです!」と訴求しました。最先端の科学的アプローチ。これなら響くはずだ——そう確信していました。

しかし反応は「なんやそれ?」「意味わからんわ」。ほとんどの人にスルーされたのです。

本記事では、「1ミリも興味がない」という絶望的なスタートラインに立つことの重要性と、そこから顧客の注意を勝ち取るための技術——「フック」と「翻訳」——を解説します。

なぜ「We(私たち)」主語のメッセージは無視されるのか

多くの企業が発信するメッセージには、共通の欠陥があります。

 

主語が「We(私たち)」になっているのです。

「創業100年の伝統技術で作りました!」

「業界初の新機能を搭載しました!」

「私たちの想いを込めました!」

 

——心当たりはありませんか?

しかし、顧客が関心を持っているのは「Me(自分)」のことだけです。

「私の課題を解決してくれるのか?」

「私の生活はどう変わるのか?」

それ以外の情報は、すべてノイズとして処理されます。

 

街中で見知らぬおじさんに「私の自慢話を聞いてくれ」と言われて、立ち止まる人がいるでしょうか。

いません。しかし、多くの企業広告は、まさにこれをやっているのです。

We(私たち)主語とMe(自分)主語の違い|顧客視点のマーケティングメッセージ

脳のフィルターを突破する「フック」の作り方

「興味がない」という状態を突破するには、論理ではなく「反射」を利用する必要があります。人間の脳は、生存に関わる情報だけはスルーできない本能を持っています。

この本能を利用して、無意識のフィルターを突破する「入口」を作る。それがフックです。

フック①:自分ごと化(Pain & Gain)

脳が反射的に反応するのは、「危険(Pain)」「利益(Gain)」の2つです。

これを利用して、「他人事」を「自分事」に変換します。

【悪い例】

「最新セキュリティソフト発売」
→ ニュースとして処理され、スルーされる

【良い例:Painを刺激】

「そのパスワード、3秒で破られます」
→ 恐怖が反射を引き起こし、足が止まる

【良い例:Gainを刺激】

「月々の電気代が5,000円安くなる裏技」
→ 具体的な利益が欲望を刺激する

ポイントは「具体性」です。

「セキュリティが向上します」では弱い。「3秒で破られます」という具体的な数字が、脳に「これは自分に関係ある」と認識させるのです。

フック②:認知的不協和(違和感)

もうひとつの強力なフックは、「常識」と違う言葉をぶつけて、脳をバグらせる技術です。

人間の脳は、予定調和な情報を「知ってる話だ」と判断し、スルーします。

しかし、常識に反する言葉に出会うと、「え、どういうこと?」と立ち止まらざるを得ません。

【悪い例】

「効率的な勉強法を教えます」
→ 平凡。「そういう本、たくさんあるよね」で終わる

【良い例】

「『頑張る』をやめれば、成績は上がる」
→ 常識の否定。「え、どういうこと?」と脳がバグる

この「認知的不協和」を意図的に作り出すことで、情報の洪水の中から顧客の注意を奪い取ることができます。

脳のフィルターを突破するフックの作り方|PainとGain、認知的不協和の活用法

「翻訳」こそがマーケターの本当の仕事である

フックで振り向かせた後、多くの新人がやってしまう失敗があります。

商品の特徴(Fact)をそのまま伝えてしまうのです。

「業界最軽量の100g!」「4K画質で細部まで鮮明!」——これらは事実ですが、顧客の心には響きません。

なぜか。「だから何?」という問いに答えていないからです。

冒頭で触れた私の失敗談の続きをお話しします。

「第二言語習得研究」という専門用語では誰も振り向かなかった私たちは、伝え方を変えました。

「なぜ、この生徒の成績がこんなに伸びたのか? それは裏側に第二言語習得研究という秘密があったからです」

特徴ではなく、顧客が得られる結果(成績アップ)を先に語り、その理由として専門性を添えたのです。

すると、生徒はどんどん増えていきました。

マーケターの本当の仕事は、商品の特徴を、顧客の人生にどう役立つか(Benefit)に「翻訳」することです。

翻訳の実例:100gの超軽量傘

✕ 翻訳できていない

「業界最軽量クラスの100g!」
→ 軽いのはわかった。で、私の生活がどう変わるの?

◯ 体験への翻訳

「カバンに入れていることを忘れる傘」
→ 「毎日持ち歩いても苦にならない」という体験が想像できる

翻訳の実例:高画質4Kカメラ

✕ スペック自慢

「4K画質で細部まで鮮明!」
→ 技術者には響くが、一般消費者には「ふーん」で終わる

◯ 感情への翻訳

「運動会で走る我が子の汗まで残せる」
→ 親の感情を直接揺さぶり、「欲しい」を引き出す

特徴(Fact)と便益(Benefit)の間には、深い溝があります。

その溝を埋める「翻訳」ができるかどうかが、売れる広告と売れない広告を分けるのです。

興味を持たせた「後」に、初めて「自社の話」が許される

ここまでの話を踏まえ、多くの新人が犯している致命的なミスを指摘します。

最初から自社商品の説明をしてしまうこと。

これは、初対面の相手にいきなり自分語りを始めるようなものです。相手は逃げます。

正しい順序は、恋愛と同じです。

 

【顧客の心を開く3ステップ】

Step 1:フック(100%相手の話)
相手の課題や興味に関連する言葉で足を止めさせる。ここでは自社の話は一切しない。

Step 2:ブリッジ(課題と解決策の接続)
その課題の解決策として、商品カテゴリの必要性を説く。まだ「自社」は出さない。

Step 3:ボディ(ここで初めて自社の話)
「なぜ自社商品ならそれが実現できるのか」というスペックや想いを語る。

鉄則は明確です。

相手が「聞く耳」を持つ前に、自分の話をしてはいけない。

フックで注意を引き、ブリッジで「この話は自分に関係ある」と思わせる。

初めて「じゃあ、どの商品がいいの?」という質問が生まれる。

その質問に答える形で、自社商品を紹介する。

この順序を守れば、「売り込み」ではなく「提案」として受け取ってもらえます。

顧客の心を開く3ステップ|フック・ブリッジ・ボディの順序で売り込みを提案に変える

愛があるなら、相手のために言葉を変えろ

自社商品を愛することは素晴らしいことです。

しかし、愛しているからこそ、そのままの言葉で伝えてはいけないのです。

専門用語、社内だけで通じるロジック、技術者が興奮するスペック——これらは「愛の押し売り」に過ぎません。

「1ミリも興味がない」相手を振り向かせるためには、相手の文脈まで降りていき、知恵を絞り、言葉を磨く必要があります。

 

【本記事のまとめ】

1. 絶望的なスタートラインに立て
お客様はあなたの会社に「1ミリも興味がない」。この残酷な事実を認めることが、すべての始まり。

2. 「We」ではなく「Me」で語れ
顧客が聞きたいのは「私にとって何が良いのか」だけ。自社の話は後回し。

3. フックで反射を引き出せ
Pain(恐怖)とGain(利益)、または認知的不協和(違和感)で、脳のフィルターを突破する。

4. 特徴を便益に「翻訳」せよ
スペックではなく、顧客の人生がどう変わるかを語る。

5. 順序を守れ
フック → ブリッジ → ボディ。相手が聞く耳を持つ前に、自分の話をしてはいけない。

その泥臭い努力こそが、本当の「顧客志向(カスタマーセントリック)」です。

愛があるなら、相手のために言葉を変えてください。

フックと翻訳に関するFAQ

Q. なぜ一生懸命作った広告が読まれないのですか?

A. 現代人は1日に数千件もの広告に晒されており、脳は自分に関係ない情報を無意識に遮断しています。「一生懸命作った」かどうかは、顧客にとって判断基準になりません。顧客の関心は「自分にとって何が得か」の一点だけです。

Q. 商品の良さをそのまま伝えてはダメなのですか?

A. 商品の特徴(Fact)をそのまま伝えても、顧客には「だから何?」で終わります。マーケターの仕事は、その特徴が顧客の人生をどう良くするか(Benefit)に「翻訳」すること。「100gの軽さ」ではなく「カバンに入れていることを忘れる」と伝えることで、初めて価値が伝わります。

*1 広告接触回数については、米国のマーケティング専門家J. Walker Smithが2000年代に「1日5,000件」と推計して以降、「数千〜1万件」という数字が業界で広く引用されています。ただし、実際の科学的調査では数百件程度という結果もあり、定義や測定方法によって大きく異なります。いずれにせよ、現代人が膨大な情報に晒されていることは間違いありません。

▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season2

配属されてしばらく経ち、実務で壁にぶつかり始めた方へ。より実践的なテーマを掘り下げます。

Season1(全14回)はこちら|マーケティングの基礎概念からWeb広告の実務知識まで

【プロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

スタディーハッカー 代表取締役社長
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
X→@oka_kgs / Instagram→@oka_ken2010 / 著書(amazon)

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