企業のSNS運用で「インフルエンサーの真似」が絶対に失敗する構造的理由

アイキャッチ画像:スタディーハッカー代表 岡健作「『共感』ではなく、『構造』で勝て。個人とは違う、法人SNSの勝ち筋。」

「フォロワー数万人のインフルエンサーの投稿を参考にしているのに、自社のアカウントは全く伸びない」

企業のSNS担当者から、このような悩みをよく聞きます。成功している個人アカウントを真似する。トレンドのフォーマットを取り入れる。しかし、期待した成果にはつながらない――。多くの企業が陥る典型的な罠です。

私は株式会社スタディーハッカーの代表取締役であると同時に、SNSとオウンドメディアの編集長として、直接運用に携わっています。当社のInstagramアカウント(studyhacker_media)はフォロワー約27万人、月間PV700万の規模で運用し、ブログ型メディアのstudyhacker.netと合わせて、さまざまな認知施策を展開しています。Webセミナーでは最大1,000人の参加者を集めるなど、SNSを起点としたビジネス成果の創出に取り組んできました。

その経験から断言できるのは、個人インフルエンサーの成功法則を法人アカウントが真似しても、決してうまくいかないということです。

なぜ、個人の成功法則を企業が真似するとうまくいかないのか。それは、「個人アカウント」と「法人アカウント」では、運用における構造的な前提が根本的に異なるからです。

この記事では、両者の構造的な違いを解き明かし、企業が「インフルエンサーの模倣」から脱却して成果を出すための方向性を提示します。

企業SNSの運用課題:個人アカウントにあって、法人アカウントにないもの

まず理解すべきは、個人アカウントが持つ強力な武器の存在です。成功している個人インフルエンサーは、企業には模倣できない独自の資産を活用しています。

それが、「人格」「生活文脈」「高速意思決定」の3つです。

 

個人アカウントの強力な武器

  • ①人格(キャラクター)
    「その人だから好き」という強力な接着剤。声、顔、独自の価値観が共感を生む源泉となる。
  • ②生活文脈(ストーリー)
    日常の風景、悩み、喜びそのものがコンテンツになる。ドキュメンタリーとしての強さ。
  • ③高速意思決定
    思いついたら即投稿。トレンドへの反応速度が圧倒的に速く、修正も個人の判断で自由に行える。

これらは、組織である企業が構造的に持ち得ないものです。企業が特定の「人格」を演じようとすれば違和感が生まれ、「生活文脈」を模倣しようとすればわざとらしくなり、「高速な意思決定」は稟議制度などの壁に阻まれます。

この前提の違いを無視して、表面的な投稿スタイルだけを真似ても、機能しないのは当然なのです。

法人アカウント運用の強み:個人にはない「資産とデータ」

では、企業には武器がないのか。そうではありません。企業には個人が持ち得ない、強力かつ独自の資源があります。

法人のSNS運用は、これらの資源を最大限に活用する設計でなければなりません。

 

法人アカウントが持つ独自の資源

  • ①ブランド資産
    確立された社会的信頼、認知度、長年の実績という、強力な初期資源を持っている。
  • ②実務データ(金脈)
    顧客からの問い合わせ、クレーム、購買データなど、ニーズの塊である膨大なデータを保有している。
  • ③目的の複線化
    認知拡大だけでなく、商品理解、採用、セミナー集客、既存顧客フォローなど、多様なビジネス目的を同時に追求できる。
  • +α 広告予算
    必要に応じて広告を活用し、SNS運用を加速できる。ただし、予算が大きければ良いわけではなく、投下タイミングやクリエイティブの質が重要。使い方次第では逆効果になることもある。

企業のSNSは、個人のような「共感」一本槍ではなく、「信頼と情報」を軸にした複層的な設計が可能です。この強みを活かさず、個人の土俵で戦おうとするのは得策ではありません。

図解:個人アカウントの武器(人格・文脈)と法人アカウントの武器(ブランド・データ)の比較

KGI/KPI設定のミス:個人と法人ではSNS運用の"目的"が違う

保有する資源が違うだけでなく、目指すべきゴールも根本的に異なります。

多くの企業が陥る最大の誤解は、「インフルエンサーのようにフォロワーを増やすことが目的だ」と錯覚してしまうことです。

フォロワー数はKPIのごく一部に過ぎない

個人アカウントにとって、フォロワー数は影響力の指標そのものであり、収益に直結する最重要KPIになり得ます。しかし、企業にとってフォロワー数は手段の一つに過ぎません。

 

目的の構造的な違い

【個人インフルエンサーの目的】

  • 認知獲得
  • 共感・好意の醸成
  • フォロワー数の最大化(=影響力の最大化)

【法人アカウントの目的】

  • 商品・サービスの正しい理解
  • 具体的な行動導線(購買、資料請求、採用応募)への誘導
  • 純粋想起率(カテゴリーが想起された時に自社ブランドが思い浮かぶ確率)の向上

企業が目指すべきは、フォロワー数そのものではなく、事業成果につながる質の高いエンゲージメントと行動変容です。目的が違えば、投稿内容もKPIも、根本から変わるべきなのです。

図解:個人と法人の目的の違い。フォロワー数獲得と行動変容のKPI構造

なぜ"個人インフルエンサーの真似"がズレるのか

ここまでの議論を踏まえると、なぜ企業の「インフルエンサー模倣」がうまくいかないのか、その理由が構造的に見えてきます。

同じInstagramというアプリを使っていても、個人アカウントと法人アカウントは、生物学的に全く異なる種であると言えます。ライオンの狩りの仕方を、象が真似しようとしているようなものです。

「人格コンテンツ」の無理と「日常投稿」のノイズ化

具体的に何がズレるのか。最大の要因は「人格」と「文脈」の不在です。

個人が発信する「感情的な投稿」や「日常の切り取り」は、その人のキャラクターという文脈があるからこそ価値を持ちます。しかし、顔の見えない企業アカウントが唐突に感情的な発信をしたり、社員のランチの様子を投稿したりしても、受け手にとっては文脈が理解できず、単なる「ノイズ」として処理されてしまいます。

いわゆる「中の人」戦略によって成功した事例も見られますが、いまでは下火です。あれは、SNS登場時に企業アカウントがあえてアンオフィシャルな発言をすることで、物珍しさから当初は受けることもあっただけ。運用者のセンスも問われますし、そもそももはや珍しくもありません。「寒い」と感じられる可能性すらあります。

 

模倣がズレる構造的な理由

  • 人格の不在:「誰が言っているか」が不明瞭なため、感情的な投稿が響かない。
  • 文脈の欠如:日常投稿は、企業アカウントにおいては「関係のないノイズ」になりやすい。
  • 認知負荷の増大:企業の強みと個人のスタイルが混在すると、ユーザーは何のアカウントか理解できず、離脱する。

個人のスタイルを安易に模倣することは、企業のブランドイメージを毀損し、ユーザーの認知負荷を高める結果にしかなりません。

法人アカウントが取るべき方向性

では、企業はどのようにSNSに向き合うべきなのか。答えはシンプルです。個人の真似をやめ、企業の強みを軸にした運用へと舵を切ることです。

企業アカウントは、個人のような「感情の共有の場」ではなく、「会社の思考と価値のショーケース」であるべきです。

 

法人アカウントの指針

  • ストーリーではなく「構造」で勝つ
    一過性の共感ではなく、論理的な役立ちや情報の体系化で信頼を獲得する。
  • FAQと顧客データを最大の武器にする
    顧客が本当に知りたいこと、困っていることを解決するコンテンツを投下し続ける。
  • 「伝わり方」を最適化する
    フォロワー数よりも、自社の価値が正しく伝わり、目的とする行動が起きているかを重視する。

ブランドの信頼性、蓄積された知見、そして顧客への深い理解。これら企業の資産を、SNSという媒体に合わせて翻訳し、届けること。それが、法人アカウントが取るべき王道です。

図解:法人アカウントがとるべき戦略。構造とデータを活用し、思考のショーケースにする

構造的な理解が、正しい戦略の第一歩

個人アカウントと法人アカウントは、似て非なるものです。この構造的な違いを理解せずして、小手先のテクニックに走っても成果は出ません。

まずは「個人の真似」という呪縛から解き放たれ、自社が持つ本来の強みに目を向けること。それが、企業SNSを成功させるためのスタートラインです。

企業のSNS運用に関するFAQ

Q. 企業のSNSアカウントが伸びない最大の原因は何ですか?

A. 「人格」や「日常」といった、個人インフルエンサー特有の成功要素をそのまま模倣してしまっていることが最大の原因です。企業と個人では構造が異なります。

Q. 企業アカウントが追うべきKPIはフォロワー数ですか?

A. フォロワー数は指標の一部に過ぎません。より重要なのは、事業成果(購買、採用、ブランド認知)につながる「質の高いエンゲージメント」と「行動変容」です。

▼ 岡 健作のマーケティング論考

私はこれまでも、マーケティングの原理原則を体系化して発信してきました。そうした「基礎理論」があるからこそ、今の企業のSNS運用における「ボタンの掛け違い」が明確に見えるのです。
まずは基礎から見直したいという方は、以下の連載もぜひご覧ください。

では、具体的にどのようにして企業の強みをSNSコンテンツに落とし込み、日々の運用を回していけばよいのか。成果を出すためには、正しい「構造」に加え、それを支える「ワークフロー」と「リソース配分」が不可欠です。

次回の記事では、この「企業が本当に再現すべきSNS運用の具体的な設計図」について、詳しく解説していきます。

【プロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

スタディーハッカー 代表取締役社長
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
X→@oka_kgs / Instagram→@oka_ken2010 / 著書(amazon)

会社案内・運営事業

  • 株式会社スタディーハッカー

    「STUDY SMART」をコンセプトに、学びをもっと合理的でクールなものにできるよう活動する教育ベンチャー。当サイトをはじめ、英語のパーソナルトレーニング「ENGLISH COMPANY」や、英語の自習型コーチングサービス「STRAIL」を運営。
    >>株式会社スタディーハッカー公式サイト

  • ENGLISH COMPANY

    就活や仕事で英語が必要な方に「わずか90日」という短期間で大幅な英語力アップを提供するサービス。プロのパーソナルトレーナーがマンツーマンで徹底サポートすることで「TOEIC900点突破」「TOEIC400点アップ」などの成果が続出。
    >>ENGLISH COMPANY公式サイト

  • STRAIL

    ENGLISH COMPANYで培ったメソッドを生かして提供している自習型英語学習コンサルティングサービス。専門家による週1回のコンサルティングにより、英語学習の効果と生産性を最大化する。
    >>STRAIL公式サイト