
「この試験に落ちたらおしまいだ」「絶対に合格しなくては」——そう、自分を追い込むほど、勉強がはかどらない……。このような経験はありませんか?
もしかすると、あなたの勉強がはかどらないのは「脳にプレッシャーをかけている」ことが原因かもしれません。
今回は、頑張って勉強しているのに成果を出せずに悩んでいる方に向け、できるだけプレッシャーをかけずに勉強する方法をご紹介します。
脳にはプレッシャーをかけないほうがいい
強いプレッシャーを感じているときよりも、リラックスした状態のときのほうがよく学べる――多くの人は、この感覚をすでに体験済みかもしれません。
専門家は、「プレッシャーが脳のリソースを奪っている」といいます。*1
公立諏訪東京理科大学教授で脳科学者の篠原菊紀氏は、不安が記憶力と深く関係することについて言及し、以下シカゴ大学の実験を紹介。*1
大学生20人に数学のテストを2回受けてもらい、1回めは普通に、2回めは「成績がよければ賞金、悪ければ連帯責任」とプレッシャーをかけたところ、2回めの成績が12%も下がってしまった。
この結果の理由は、プレッシャーが「限りある脳のワーキングメモリ※」の容量をたくさん使ってしまい、考える力が低下したためだと考えられています(※必要な記憶や情報を一時的に覚えておく脳の機能)。*1
また、ワーキングメモリ研究が専門の京都大学名誉教授・苧阪直行氏は、情報の保持や処理がワーキングメモリの容量を超えると、物忘れやミスなどが生じてしまうと説明。*2
それなら、考える力を存分に発揮して勉強するには、脳に「余計な情報」を与えないことが重要になってくるはずです。

プレッシャーをかけずに勉強する方法とは?
とは言え、プレッシャーをゼロにするのはほぼ不可能……。
プレッシャーを感じると、たださえ限定的な脳のワーキングメモリーが「不安や焦り」といった「余計な情報」に奪われてしまいます。
いったいどうすればよいのでしょう?
――そこで役に立つのが、心理学の分野で注目されている「コーピング・イマジナリー」という手法。あらかじめ「うまくいかなかった状況」を想定すると同時に、それらの対処をどうするか考えておく方法です *3。
不安な状況を前もって想像し、対策を練ることで、「余計な情報」を整理し、脳の外によけておくイメージですね。
つまり、事前に対策を立てておくことで、脳が過度に不安を感じてしまう状態を防ぎ、より冷静に課題へ取り組めるようにするのです。
特にネガティブ思考の傾向がある人や、プレッシャーに弱いと感じている人に効果的だといわれています *3。

コーピング・イマジナリーの例
ふたつ例を挙げましょう。
かなり自信がない料理に挑戦するとします。その際にコーピング・イマジナリーを取り入れた場合、以下のように起こりうるミスを想定し、対処法まで事前に考えてしまいます。
- 不安:いろいろ段取りしながら卵を割ると失敗しそう
⇒対策:違う容器に割り入れてから鍋に入れよう。 - 不安:火加減がうまくいかなそう
⇒対策:蒸気の出具合をしっかり確認するようにしよう。
こうすることで、「不安」という感情をともなった情報はシンプルな「対策」に変わります。
また、たとえば先のシカゴ大学の実験のように、「テストの出来が悪ければ、連帯責任ですよ!」などとプレッシャーをかけられたとしましょう。そうした場合には、まず、最悪の状況を考え、その対処法をイメージしてみます。
- 不安:自分のせいで、みなが連帯責任を負うことになる。
⇒対策:そうなったら、まずはすぐに謝罪。そして「いまできることは何か?」に意識を向けよう。 - 不安:連帯責任を負わされた人々が、私に対して腹を立てる。
⇒対策:本当に全員が自分を責めているのかどうか、事実と想像を分けて考えてみよう。
そもそも失敗するかどうかはまだわからないのですから、それについて考えても本来意味がありません。そこで、失敗したときはこうする、と事前に決めてしまうことで「不安」を切り離しておくのです。

コーピング・イマジナリーを活用した勉強法
では実際に、コーピング・イマジナリーを活用した、プレッシャーをかけない勉強法をシミュレーションしてみましょう。
前提として、資格試験の学習者が、周囲からの期待や、自分自身の「合格しなければ」という気持ちで、かなりのプレッシャーを感じている状態だとします。
最悪なケースを予想する
- 試験時間内に問題を解ききれない
- 難しい問題ばかりで焦ってしまい、冷静に解答できない
- 試験当日に体調が悪くなり、集中できない
最悪なケースが生じる原因・問題点を書き出す
- 問題を解くスピードが遅い
- 時間配分を意識せずに解いてしまう
- プレッシャーにより、焦ってミスが増える
- 直前に無理な詰め込み勉強をして、睡眠不足になる
問題点の解決策を書き出す
- 目標時間を設定し、時間を計りながら問題を解くようにする
- 過去問演習を通じて、時間配分の感覚をつかむ
- 試験前に深呼吸やマインドフルネスを取り入れて、リラックスできる習慣をつける
- 試験前日はしっかり睡眠をとり、無理な勉強はしない
このように、「不安」という感情を具体的な「解決策」に置き換えていくことで、プレッシャーを抱えることなく勉強を進めることができるはず。
みなさんもぜひ、コーピング・イマジナリーを活用して、事前にプレッシャーを軽減したうえで、勉強に取り組んでみてください。
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大事な試験だからといって、自分を追い込んでばかりでは、うまくいくものもうまくいきません。そうした状況を招く前に、最悪の状況とあえて向き合い、対処法を練って、安心を手に入れておきましょう。
*1: 東洋経済オンライン|脳科学者が推奨!成績をアップする「簡単工夫」
*2: J-Stage|前頭前野とワーキングメモリ
*3: STUDY HACKER|勉強できないのはネガティブな性格だから……はウソ。悲観的でもうまくいく勉強計画法があった!
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。