
「どうしてこんな簡単なミスに気づけなかったんだろう……。あの数字見てたはずなのに」
「ここに書いてあるのに見落としていた……。何度も確認したはずだけど、なぜ」
このような経験、あなたにもありませんか?
じつはこれ、単なる「注意不足」ではありません。脳が情報を遮断してしまう「ある現象」が関係しているのです。その現象の名前は「スコトーマ (Scotoma)」。じつは、誰にでも毎日起きている心理現象で、思考力・判断力・人間関係・成長の機会に影響があるものなのです。
この記事では、「スコトーマとは何か」「なぜそれが起こるのか」そして「どうすれば外せるのか」について、紐解いていきます。ぜひ最後までご一読してください。
スコトーマとは? 脳が「見えなくする」フィルター
「スコトーマ」とは、もともと眼科用語でジャンクナショナル・スコトーマ、「視野の一部が欠ける状態」を指します。*1
「ストコーマ」は認知心理学の文脈でも使われ、プロジェクトマネジメント専門家の内海氏と艸薙氏の論文によると「物理的に目にしていること」と「明確に認識していること」は異なっているとし、「見えているはずなのに見えていない現象」を「ストコーマ(心理的盲点)が存在する」と呼ぶことにすると述べています。*2
つまり、「見えているのに見えない」という現象は、人間の脳の認知機能の特徴なのです。
たとえば、
・新しい靴を買った途端、街で同じ靴を履く人が目に入る
・子どもが生まれた瞬間、急にベビーカーの多さに気づく
こうした“突然の気づき”こそ、「スコトーマが外れた瞬間」なのです。
ビジネスでよくある「スコトーマ」の例
スコトーマは、仕事の現場でも日常的に発生しています。3つのケースを見てみましょう。
◇ ケース1:「自分の強み」が見えていない
周囲から「説明がわかりやすいね」とよくいわれているのに「いや、私は人にうまく説明するのが苦手なんですよ……」と自分では説明が下手だと認識している。じつはこのような自己評価と他者評価のズレもスコトーマによって起きている可能性があります。
◇ケース2:「成果がでない理由」が見えていない
「頑張って働いているのに、なぜか成果がでない……」と悩む人が、自分の非効率な習慣や思考パターンに気づいていないことがあります。たとえば、メールチェックに何時間も使っていて、主要な仕事に時間を使えていないために生産性が低下している、という自覚がない。これもスコトーマの一例です。
◇ケース3:「他人の感情」に気づけない
会議で部下が明らかに消極的な態度をとっているのに、それに気づかず「アイデアがないのか」と決めつけてしまう場合があります。じつは環境や心理的な安全性に問題があるのに、それが見えていない、といったマネジメント上の見落としも、スコトーマの結果です。
では、なぜ「見えているのに見えていない」状態になってしまうのでしょうか。

なぜスコトーマが起きるのか?
スコトーマが生じる根本的な理由は「脳の処理リソースの有限性」です。私たちの生きる現代社会は常に多くの情報にさらされていますが、そのすべてを同じように処理することは脳の機能から不可能です。結果として、意識に上がるのはごく一部の情報なのです。
事実、「限られた認知能力とその効率的な配分に関わる神経基盤」という論文で、効率的な情報処理と選択的注意を可能にする神経基盤について、大脳皮質の機能分化と神経ネットワークの動的な調節の重要性を指摘しています。*3
つまり、私たちの脳は上手にその能力を使えるように、神経のネットワークをダイナミックに調節しているということなのです。
そして、この情報選択に欠かせない鍵を握るのが「RAS」です。脳には「RAS(Reticular Activating System)=網様体賦活系(もうようたいふかつけい)」という「情報フィルター」のようなシステムがあり、 自分が「重要」と認識している情報だけを脳に届ける仕組みになっています。
逆にいえば、自分が重要だと思っていないことは、存在していても意識に上がってこない、というわけです。このフィルターによって、スコトーマが生まれるのです。
スコトーマを外す3つの方法
スコトーマを完全に外すことは脳の構造上、不可能です。しかし、意識的な行動によって「気づきやすい脳の状態」に近づけることはできます。
実践しやすく効果のある以下の3つをご紹介しましょう。
①目的・ゴールを言語化する
「今月は会議で建設的な発言を5回以上する」など、具体的な行動目標を設定します。すると、脳は関連情報を拾いやすくなります。
これはゴールが明確になることで、RASのフィルターが変化し、それまで意識に上がってこなかったヒントやチャンスが見えるようになる、ということです。
②フィードバックを受け入れる
同僚に「昨日のプレゼンの感想を聞かせてもらえる?」と聞いてみるだけでも、自分では気づかなかった改善点を知るきっかけになるでしょう。
他者の視点は、自分のスコトーマを突き破るとても効果的な外部刺激です。
③視点を変える問いかけを習慣化する
「もし自分が部下だったらどう感じるか?」「他業界ならどう考えるか?」といった、自分とは立場や境遇など別角度の視点をもつことで、認識の幅が広がります。
これは批判的思考やデザイン思考でも重視されている手法で、思い込みの枠外に出ることで、脳の盲点が少しずつクリアになっていくのです。

「見えない壁」に気づくための問いかけ
いますぐにできる「見えない壁」に気づくための問いかけをご紹介します。
- 最近、周りの人の意見を聞いて「なるほど、そういう見方もあったか!」と感じたことはありますか? それはどんな状況でしたか?
- 何度も確認したはずなのに、あとからミスに気づいた経験はありますか?そのとき、何を見落としていたと思いますか?
- 「自分はこういう人間だ」と決めつけて、あまり意識してこなかった自分の強みや可能性はありますか?
これらの問いかけは、あなたが普段は意識していない盲点に光を当てるきっかけになるはずです。ぜひ少し時間をとって、考えてみてください。
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スコトーマは誰もが陥る脳の盲点です。しかし、それを理解すれば見えなかったものに気がつき成長していけるはず。ぜひ、本記事でご紹介した「スコトーマを外す意識的な行動」を試してみてください。
*1 自由が丘 清澤眼科|ジャンクショナル・スコトーマ(接合部暗点、連合暗点)とは
*2 内海正樹、艸薙匠|プロジェクトマネジメントのストコーマ, プロジェクトマネジメント学会誌 18 (1), 37-39, 2016 プロジェクトマネジメントのスコトーマ(<特集>人とチームのマネジメント)
*3 松島藻乃|限られた認知能力とその効率的な配分に関わる神経基盤, 2015 日本神経回路学会誌 Vol.22, No.1(2015), 3-15 ja
橋本麻理香
大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。