
ビジネスシーンでもAIの活用が急速に広まるなか、その便利さの裏で「考えなくなるリスク」を指摘するのは、世界最大級のグローバルコンサルティングファーム・デロイト トーマツ内で社員の人材開発にも携わる望月安迪さんです。誰もがあらゆる情報に容易にアクセスできるからこそ必要なのは「自分の頭で考える力」だと語る望月さんが、自身も活用する思考のフレームワークを紹介してくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【プロフィール】
望月安迪(もちづき・あんでぃ)
1989年生まれ。合同会社デロイト トーマツ コンサルティング部門 テクノロジー・メディア・通信(TMT)ユニット兼モニターデロイト ディレクター。神戸大学非常勤講師(新規事業開発)。飛び級で大阪大学大学院経済学研究科経営学・金融工学専攻修了、経営学修士(MBA)。2013年にデロイト トーマツ コンサルティング合同会社(現・合同会社デロイト トーマツ)に入社。長期ビジョン構想、事業戦略策定、新規事業開発、企業再生、M&Aの他、欧州・アジアにおけるグローバル戦略展開、グループ組織再編にも従事。ファーム内で数%の人材に限られる最高評価(Exceptional)を4年連続で獲得、複数回の年次スキップを経てディレクター職に昇格。デロイト トーマツ グループを対象とした「ロジカルシンキング」研修講師を担当し、外部企業向けにも研修プログラムを提供。新卒・中途入社社員の採用や人材開発にも携わっている。著書に『目的ドリブンの思考法』『シン・ロジカルシンキング』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。Xアカウント(@andymochizuki)でコンサル式仕事術なども配信中。
AIの台頭により「考えない人」が増加
近年のビジネスシーンを見て私が強く感じるのは、「自分の頭で考えなくなっている人」が増えているということです。その要因として真っ先に挙げられるのは、やはりAIの急速な普及でしょう。AIが便利なのは間違いありませんし、ビジネスパーソンとしてその活用法を身につけることも重要なわけですが、その利便性に頼り切ってしまうと思考力は確実に低下していきます。
たとえばSNSを見ていても、他人への投稿に対してAIの回答をそのまま引用して返したような意見が散見されます。文章としては整っているので、一見「自分の考えです」と堂々と主張しているように見えますが、自分の頭のなかで思考プロセスがまわっているわけではありません。マサチューセッツ工科大学(MIT)の最新の研究でも、自分の考えを介さずにChatGPTを使った場合、その人の脳の神経活動は47%低下し、83.3%の人が数分前に書いた文章をひとつも思い出すことができなかったと言います。AIに頼る日常のなか、「自らの頭で考えない」という負の習慣が身についていくことは想像に難くありません。
ビジネスパーソンにとって「考えないこと」は、提案力の低下や判断の精度不足を招き、大きなデメリットとなります。それこそ課題が複雑で難解であるほど、AIが提示する一見正しい一般論では対応しきれなくなります。そこではいわば本物の思考力が問われますから、自分の頭で考え続ける姿勢こそが、これからのキャリアの明暗をわけるのではないでしょうか。
ただし、考えることが重要だからといって、ただ悶々と迷って悩んで考えていればいい答えにたどり着けるわけではありません。そこで、私自身も使っている、思考の基本モデルといえるフレームワークを紹介します。それは、以下の4つのステップからなります。
②ストック(知識・経験の活用)
③プロセス(情報の加工)
④アウトプット(成果の表現・伝達)
料理にたとえるとわかりやすいかもしれません。料理をするときは、食材集め、下準備、調理、盛りつけといった各手順をこなしていきますが、思考もこれと同じなのです。

使えるものはなんでも使う、「巨人の肩に乗る」という意識
料理をするにも考えるにも、材料がなければなにもできません。そこでまずは、「①インプット(情報収集)」を行ないます。インプットに限らずこのフレームワーク全体を通じたポイントは、「そのステップに集中する」ということです。情報を収集しながら分析や結論出しを行おうとすると、脳のリソースが分散されてしまい、必要な情報を集め切れないといったことになりかねません。
続いてのステップが「②ストック(知識・経験の活用)」で、料理でいえば下準備にあたります。料理の材料を集めたら、過去の経験やすでに頭にあるレシピなどの知識から、仕上げたいメニューに必要な下準備を行なっていきます。
考えるときも同様に、「これまでに似た案件がなかったか?」「そのなかで今回も利用できそうな打ち手はなかったか?」「このテーマならAさんが詳しそうだから話を聞いてみよう」というように、人も含めたストックを参照しながら、本格的に思考するための準備を進めるのです。
これは、いわゆる「巨人の肩に乗る」という考え方でもあります。ある課題の解決策をゼロからひとりで考えられたら、それはそれで立派なことといえます。でも、同じ、あるいは似た課題を過去に解決した知見が組織内のストックとしてあるのなら、それを活用したほうがはるかに効率的です。
そして、「巨人の肩」を知ったうえで、「さらにいい解決策はないか?」と考えることにこそ、脳のリソースを割くべきではないでしょうか。使えるものはなんでも使う、そんなマインドも、よりよい思考のためには忘れてはなりません。

インプット、ストックをおろそかにしない
続いてのステップが、料理なら実際の調理過程にあたる「③プロセス(情報の加工)」で、思考の核心部分です。インプットとストックで集めた材料を使い、それらを分析したり比較したり組み合わせたりして、そこから「こうではないか?」という仮説を抽出します。
最後に、料理の盛りつけにあたる「④アウトプット(成果の表現・伝達)」に進みます。プロセスで練り上げた思考を、「相手に伝わるかたちに整えること」に脳のリソースを注ぎます。「いまは盛りつけをして料理を完成させる時間だ」ととらえ、資料作成、プレゼンテーション構成、言葉選びなど、プロセスまでの段階で考えた内容をどう見せるか、伝えるかということに特化して考え、仕上げていくのです。
このフレームワークのなかで、とくに「自分は頭がいい」と自信を持っているような人に意識してほしいのは、「①インプット(情報収集)」や「②ストック(知識・経験の活用)」のステップを丁寧に進めなければならないということです。私のまわりにも少なくありませんが、一般的に優秀といわれ頭を使うことに自信がある人の場合、いきなり「③プロセス(情報の加工)」に進もうとしてしまいがちなのです。
本人としてはこれまでの蓄積で十分な情報や知識をもっているつもりかもしれませんが、それこそ、つくりたい料理に絶対に欠かせない材料を見落としているようなことも珍しくありません。すると、いくらプロセスのステップでしっかり考えても、最終的なアウトプットのクオリティーは大きく低下してしまいます。
インプット、ストックをおろそかにせず、この4ステップのフレームワークを活用していきましょう。やみくもに考えていたときと比べると、各ステップに集中することで思考は驚くほどクリアになるはずです。

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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
