
ジェフ・ベゾス氏がAmazonでパワーポイントを禁止した話、聞いたことありますよね?
会議資料は「6ページの文章」だけ。図表なし、箇条書きなし。すべて物語のような文章で表現する――。
「さすがベゾス! 革新的だ!」と称賛する記事をよく見かけますが、正直なところ、こんな疑問を抱きませんか?
「いや、日本でそれやったら無理ゲーじゃない?」
今日は「Amazonの資料がすごい」という話ではありません。じつは、ベゾス氏のパワポ禁止が成功したのには、私たちが見落としている決定的な理由があったのです。
そしてその理由を知ると、なぜ日本企業がまねできないのか、どうすれば私たちにも実現可能なのかが見えてきます。
Amazonの会議、本当に文章だけ?
まず、Amazonの会議が実際にどんなものか確認してみましょう。
Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏は、会議で使う資料にパワーポイントの使用を禁止。社内の会議資料は以下に限定されました。*1
1ページ:日常的な会議向けの資料
6ページ:年次予算などの大型案件等
さらにベゾス氏は、図やグラフ、箇条書きも廃し、すべて文章で表現するよう求めたといいます。*1
理由は明確です。「書き手はテーマについて深く理解しなければならない」から。*2
また、図や箇条書きは読み手により解釈がブレますが、行間を読む必要がない文章なら共通認識をもちやすいからです。*1
確かに理にかなっています。でも……。

日本でやったら、こうなりそう
想像してみてください。明日から日本の会社で「パワポ禁止、6ページの文章だけ」を導入したら、おそらく「結局何が言いたいの?」と言われるでしょう。
さらに「もっと図でわかりやすく説明して」と要求され、6ページの文章を読まずに「要点を3行でまとめて」と言われる可能性が高いです。書く方も「文章だけで伝える自信がない」と感じるはずです。
なぜこんなことになるのでしょうか?
じつは、その答えは「文章教育」の違いにありました。
アメリカと日本、文章教育の決定的な違い
アメリカでは早い段階から、論理的に文章を組み立てるための「パラグラフライティング」が教育の柱に据えられています。
| 項目 | アメリカ | 日本 |
|---|---|---|
| 文章の目的 | 相手を論理的に説得する | 感情や体験を表現する |
| 基本構造 | 主張→根拠→結論 | 起承転結 |
| 主な課題 | エッセイ、ディベート | 読書感想文、作文 |
| 訓練量 | 中高で数百本のエッセイ | 年数回の感想文・作文 |
| 卒業時のスキル | 構造化された論理的文章 | 感情豊かな表現力 |
アメリカの文章教育
アメリカでは小学校の段階から「パラグラフライティング」という論理的文章構成が徹底的に教え込まれます。トピックセンテンス(主張)、支持文(根拠)、結論文(まとめ)という基本構造を体系的に学習し、中学・高校では数百本のエッセイを書くことが求められます。
さらにディベートの授業では相手を説得するための文章構成を実践的に習得するため、高校卒業時には誰でも構造化された文章を書けるようになります。
日本の文章教育
一方、日本の文章教育は読書感想文が中心となっており、「感動しました」「面白かったです」といった感情表現に重点が置かれています。起承転結という構成は習いますが、これは論理的文章構成とは性質が異なります。
論理的に相手を説得する文章の書き方は体系的に教わることがほとんどなく、「察してもらう」文化の影響もあってか、大人になっても「筋の通った文章」を書くのが苦手な人が多いという現実があります。

だからAmazonでは可能だった
この違いを理解すると、Amazonのパワポ禁止がなぜ成功したかが見えてきます。
共通基盤としての文章力
Amazonの社員は全員が論理的文章を「当たり前に」書ける素地を持っています。同時に読み手も構造化された文章の理解に慣れているため、パワーポイントがなくても文章だけで複雑な内容を正確に伝達することが可能です。
つまり、Amazonの「革新的手法」は、じつはアメリカの文章教育という強固な土台があってこそ成り立っていたのです。
Amazon流が生み出す具体的メリット
では、なぜAmazonはわざわざパワーポイントを禁止してまで文章にこだわったのでしょうか。じつはこの方式には、パワーポイントでは得られない大きなメリットがあります。
まず、会議の準備時間が劇的に短縮されます。パワーポイントではデザインやレイアウトに時間を取られてしまいますが、文章なら内容に集中できます。
また、解釈のブレがほとんど生まれません。図表や箇条書きは見る人によって解釈が変わる可能性があります。しかし、きちんと書かれた文章は誰が読んでも同じ理解に到達できます。*1
さらに、会議に参加していない人でも正確に内容を把握でき *1、1週間後に読み返しても内容が鮮明にわかるのです。リモートワークが増えた現在、この「時間と場所を選ばない情報共有」は極めて重要な価値と言えるでしょう。
加えて、資料作成スキルの個人差が結果に影響しにくいという利点もあります。パワーポイントでは「デザインセンス」や「図解スキル」の差が資料の品質を左右する危険性がありますが、文章なら論理構成さえしっかりしていれば誰でも質の高い資料を作成できます。
Amazon流文章資料 3つのメリット
1. 効率性
デザインに時間を取られず、内容に集中できる
2. 一貫性
解釈のブレがなく、誰が読んでも同じ理解に到達
3. 継続性
時間と場所を選ばず、後から読み返しても内容が鮮明
日本企業が真似できない本当の理由
逆に、なぜ日本企業がベゾス式をまねできないかも明確になります。上司も部下も論理的文章を書く十分な訓練を受けておらず、長い文章を読むこと自体が苦痛に感じられることが多いのです。
構造化された文章に慣れていないため、どうしても「結局何が言いたいの?」という反応になってしまいます。
じつは、日本のビジネスシーンでパワーポイントが重宝されるのは、文章力不足を補完するツールとして機能しているからかもしれません。
文章で説明できないから図解に頼り、論理構成が弱いから視覚的な工夫でごまかし、読み手も「文字ばかりだと読む気がしない」と感じてしまうのです。

日本の現実を踏まえた改善策
ここまで読んで、「結局、小学校からの教育の差なら、もうどうしようもないでしょ……」と思いませんでしたか?
確かに、アメリカと日本の文章教育の差は根深い問題です。でも安心してください。Amazon流を完璧に真似する必要はありませんし、いきなりベゾス級の文章力を身につける必要もありません。
大切なのは、「文章で伝える」ことの価値を理解した上で、いまの自分たちにできる範囲から少しずつ始めることです。幸い、あなたのまわりの同僚も、きっと同じような悩みを抱えているはず。みんなで一緒に改善していけば、組織全体のコミュニケーションが確実に向上します。
ステップ1:まず「1ページ要約」から
「文章力なんて、いまさら身につかない」と思うかもしれませんが、大丈夫です。いきなり6ページの文章は無理でも、1ページなら何とかなりそうじゃありませんか?
具体的には、従来のパワーポイント資料に加えて、1ページの文章サマリーを作成してみましょう。このとき重要なのは、箇条書きに逃げずに文章で要点をまとめることです。「完璧な文章を書こう」と思わずに、「とりあえず文章で説明してみよう」くらいの気持ちで十分です。
文章の構成は「結論→理由→具体例」の順番で書きます。まず最初に提案や結論を明確に述べ、次になぜその結論に至ったのかの理由を説明し、最後に具体的な事例や数字で裏付けを示すのです。
たとえば新システム導入の提案なら、
「新システムAの導入を提案します(結論)。現在の業務効率が30%向上するためです(理由)。B社の導入事例では月間処理時間が50時間短縮されました(具体例)」
という流れになります。最初はこの程度のシンプルな構成で構いません。
ステップ2:論理的文章の基本を覚える
| 構成要素 | 役割 | 例 |
|---|---|---|
| 結論 | 最初に主張を明確に | 新システム導入を提案します |
| 理由 | なぜその結論なのか | 現状の3つの課題を解決できるため |
| 具体例 | 理由を裏づける事実 | A社の導入事例では効率が30%向上 |
ステップ3:チーム全体のスキル底上げ
「自分ひとりで文章力を上げるのは大変」と感じるなら、それは正常な反応です。実際、ひとりだけ頑張っても、まわりが変わらなければ意味がありません。
だからこそ、チーム全体での取り組みが重要なのです。文章作成の勉強会を開催して論理的文章の書き方を組織で学習し、相互レビューの仕組みをつくって「この文章、筋が通ってる?」をチェックし合いましょう。
ひとりで悩むより、みんなで「うまく伝わらないね」「こう書いた方がわかりやすいかも」と相談し合う方が、ずっと楽に改善できます。
そして徐々に文章の比重を増やし、パワーポイントのテキスト量を段階的に増加させていくのです。完璧を求めず、「昨日より少しだけ文章で説明できた」という小さな進歩を積み重ねることが大切です。
<参考図書>
『考える技術・書く技術』は、まさにAmazonのような論理的文章構成の基本が学べる名著です。ピラミッド構造で論点を整理する手法は、ベゾス式の文章資料作りにも通じるものがあります。

目指すべきは「文章だけで伝わる」組織
「結局、Amazonみたいになるのは無理なんでしょ?」と思うかもしれません。確かに、ベゾス式を完璧にまねることはできないかもしれません。でも、それで十分なのです。
大切なのは、パワーポイントに頼らずとも「文章で正確に意図が伝わる場面」を少しずつ増やしていくことです。そうなれば会議の準備時間が短縮され、資料作成の工数が削減されます。さらに意思決定のスピードが向上し、リモートワークでも正確な情報共有が可能になるでしょう。
そして何より、「資料作りが上手い人」ではなく「考えが深い人」が正当に評価される組織に少しずつ変わっていくはずです。完璧でなくても、その方向に向かって進むだけで、職場のコミュニケーションは確実に改善されます。
***
Amazonのパワポ禁止は「革新的手法」ではなく「文章教育の賜物」でした。その背景を理解したうえで、私たちも文章で伝える力を少しずつ磨いてみませんか。完璧を目指す必要はありません。まずは1ページの要約から、気楽に始めてみましょう。
*1: 日経クロストレンド|Amazonの会議はパワポ禁止 「事前に資料は配らない」理由
*2: Business Insider Japan|6ページの長文メモ、ベゾスも認めるアマゾンの「奇妙な会議ルール」
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。運営は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を手がける株式会社スタディーハッカー。
