物語の記憶

懐かしの少年漫画の感想記事や二次小説を随時アップしていきます。「金田一少年の事件簿」と「プレイボール」「キャプテン」(ちばあきお)をメインに取り上げます。

【夏の甲子園準々決勝】沖縄尚学2-1東洋大姫路 ~東洋大姫路・木下鷹大の”魂の熱投”と、沖尚ナインの”揺らぎ”のない強さ~(高校野球2025)

 

 

<はじめに>

 

 春の選抜大会一回戦。昨夏4強の青森山田を相手に見せた、五回表二死無走者から一挙五点を奪った攻撃、末吉良丞君の3点を返されながらしのぎ切った粘り強い投球。

 続く二回戦。後に大会を制すことになる横浜相手に、最大5点差を付けられながら1点差に迫った反発力。

 この時点で、私は今年の沖縄尚学というチームに、まだ粗削りながらも計り知れないポテンシャルを感じていた。

 

 あれから五ヶ月弱――

 

 金足農業、鳴門、仙台育英東洋大姫路……名だたる強豪を次々に激戦の末破り、ついに同校初の夏4強に進出したこのチームに、私は今や“畏怖の念”さえ覚えている。

 これが本当に高校生のチームか、と……

 

1.準々決勝も好プレーでスタート。快勝ムードも漂った序盤戦だったが……

 

 準々決勝の開始前、私は三回戦・仙台育英戦の記録を見返して、ある事実に戦慄させられた。僅か失策1――しかもその一つは末吉の牽制悪送球によるものだから、内外野守備の失策は0ということ。

 

 対する仙台育英は失策3。一つ目はライト前ヒットをライトが後逸、二つ目はダブルプレーを狙ったショートの一塁への悪送球。いずれも直接得点につながった。

 

 もちろん仙台育英の選手は責められない。

 見ている側でさえ胃がキリキリ痛むような緊迫した試合。最後の打者が感極まって泣き出してしまうような“神経戦”だったのだ。強豪・仙台育英の選手といえども、まだ高校生。揺らいでしまうのは仕方ない。

 

 ところが、沖尚はまったく”揺らぎ”がなかった。

 揺らぐどころか、絶体絶命と思えた十回裏一死満塁でのファーストライナーゲッツー、十一回裏のセカンドゴロダブルプレー仙台育英の選手でさえ揺らいだ“神経戦”で、沖尚ナインはピンチにこそ最大限の集中力を発揮して見せたのである。

 

 

 迎えた東洋大姫路との準決勝。沖尚ナインはまたも、揺るぎのないプレーで試合をスタートさせた。

 

 初回のチャンスこそ逸したものの、その裏東洋大姫路の先頭打者・渡辺拓雲君の「抜ければ長打」という一塁線へのライナーを、ファースト新垣瑞稀君が好捕。さらに一死一塁となった後、三番高畑知季君のセンターへ抜けそうな痛烈な当たりを、ショート真喜志拓斗君が飛びついて捕球、そのまま六-四-三のダブルプレー

 エース末吉君が先発を回避し、今大会優勝候補の一角・東洋大姫路と相対す厳しい状況にあっても、沖尚ナインは揺らぐ気配すら見せなかった。

 

 そして二回表、幸先よく2点を先制。それも満塁後にリリーフ登板した東洋大姫路のエース・木下鷹大からタイムリーと犠牲フライという正攻法でもぎ取った得点。先発の新垣有紘君も鳴門戦以上の好投を見せ始めており、この時点では快勝の予感もあった。

 

2.東洋大姫路のエース・木下君“魂の力投”、傾き始める流れ……

 

 だが――春の近畿王者・東洋大姫路も、徐々にその底力を発揮し出す。

 

 三回表。沖尚は二死ながら一・二塁と追加点のチャンス。ここで七番宮城泰成君の放ったレフト後方への飛球を、東洋大姫路のレフト白鳥翔哉真君がダイビングキャッチ。少しの落胆の直後……三回裏、先頭打者の桑原大礼君がレフトポール際へ追撃のソロホームラン。

 

 さらに四回表。沖尚は一死一・三塁とまたも追加点のチャンスを作るも、二番真喜志君のセーフティスクイズがファースト正面を突き、ホームタッチアウト。結局無得点に終わる……この時点で、快勝ムードは完全に消し飛んだ。

 

 そうこうするうちに、東洋大姫路のエース木下君が、尻上がりに調子を上げていく。

 沖尚打線は木下君のストレートに的を絞り、積極的にスイングしていくも、段々力負けするようになる。すると登板直後にはバラついていた変化球の精度も高まり、次第に各打者のスイングがあっさり空を切る場面が目立ってくる。

 

 木下君はそれまでの三戦の力投により、かなり疲労もあったはずだが、「もう1点もやらない」と言わんばかりの”魂の熱投”。彼ほどの投手にここまで気持ちのこもった投球をされては、そうそう打てるものではない。さらに野手陣の再三の好プレーも飛び出し、なんと五回から九回までパーフェクトに抑えられてしまう。

 

 沖尚は七回からエース末吉君が登板し、逃げ切りを図るも、試合の流れは明らかに東洋大姫路に傾き始めていた。

 

 

3.何が起きても”揺らぎ”を見せない沖尚ナイン

 

 しかし――二度の追加点のチャンスを逃し、流れが悪くなりかけてもなお、沖尚ナインは揺らぐことなく「普通に」プレーし続けていた。

 

 ホームランを喫した三回裏には、なおも一死一・二塁のピンチを迎えるも、飛び出した二塁ランナーをキャッチャー宜野座恵夢君が見逃さず、素早く牽制球を投じタッチアウト。また四回裏。先頭の四番白鳥君に対し、沖尚バッテリーはそれまで使わずにいたフォークを投じ空振りを奪う。宜野座君の頭脳的なリード、それに応える新垣有紘君の力投が、東洋大姫路に反撃の糸口を与えない。

 

 けっして“揺らぎ”は悪いことじゃない。

 これは高校野球。高校生なのだから揺らいで当然だし、「揺らぎ」があるからこそ、流れを手にした時に“勢い”も出てくる。

 言うなれば“揺らぎ”こそ、高校野球の醍醐味とも言える。

 

 あの仙台育英でさえ“揺らぎ”があった。だからこそエモーショナルな素晴らしい試合になった。この日の第三試合、王者・横浜さえも“揺らぎ”を見せ、最後は相手の勢いに飲み込まれてしまった。東洋大姫路も序盤に“揺らぎ”を見せたが、それを取り返そうとする思いが、木下君の神がかり的とも言える投球を生み出した。

 

 ところが、沖尚ナインはチラリとも“揺らぎ”を見せない。流れが悪くなりそうな場面でも、あくまで冷静にプレーし続けた。いとも簡単に……いや、傍から見れば簡単そうに、淡々とアウトを積み重ねていく。

 

 選抜大会で横浜に惜敗した後、沖尚の比嘉公也監督は度々「一点の重み」という言葉を発していた。エース末吉君は「ピッチャーが点を取られたら負けないという思いがある」と話していた。キャプテンの真喜志君は「守備が崩れたらダメ」と発言していた。

 

 似たようなことは、どのチームも口にする。しかし、それを“実行し続ける”ことの、なんと難しいことか。それも夏の甲子園という大舞台、強敵と一点を争う緊迫した状況の中で……

 やはり並のチームではない――回が進むにつれ、私はますます実感を深めた。

 

 迎えた九回裏。木下君の力投が、ついに東洋大姫路に絶好機をもたらす。

 一死一塁の場面で、五番高田瑠心君の打球はセカンド正面のゴロ。ダブルプレーで試合終了……と思いきや、ファーストミットからボールがこぼれ一塁セーフ。

 続く六番見村美成君がライト前ヒットで一・三塁。さらに七番桑原君が四球を選び、とうとう満塁に。この時、甲子園球場は第三試合の余波もあってか、異様なムードに包まれる。明らかに東洋大姫路の逆転サヨナラを期待する空気感一色になっていた。

 

 それでも……この逆境において、沖尚ナインは冷静だった。

 

 東洋大姫路の代打攻勢をものともせず、二球目を打たせショートゴロ。最後もショート真喜志君が“普通に”打球をさばき一塁送球、とうとう三つ目のアウトをもぎ取る。

 試合終了。沖尚が2-1というロースコアとは思えないほど濃密な死闘を制し、同校にとって初となる夏4強進出を決めた。

 終わってみれば、沖尚はこの日も無失策。とうとう最後まで“揺らぎ”を見せることなく、淡々と勝利を手にしたのである。

 

<終わりに>

 二回戦の後、私は「このチームは優勝する力がある」と書いた。だから4強進出という結果自体に驚きはない。前述のように、春の時点からそれだけのポテンシャルを感じさせるチームだったのだ。

 

 だが、これだけ点が取れず思うようにペースを握れない厳しい試合の連続で、それでも勝ち切っていくという展開は想像していなかった。

 

 沖縄県勢としては15年ぶりとなる夏4強。ただ、過去の県勢の勝ち上がり方とは様子が異なる。08年浦添商業のような溢れる闘志を原動力とした爆発力ではなく、10年興南のような攻守において精密機械を思わせるハイレベルな安定感でもない。

 言うなれば――「氷のような静謐さ」とでも表現し得るような“揺らぎ”のなさが、今年の沖尚の特長である。

 

 過去数年の甲子園優勝校の戦いぶりを振り返ってみても、これだけ“揺らぎ”のないチームは記憶にない。

 もちろん勝負は時の運。沖尚の“揺らぎ”のなさを決壊させるチームが今後出てくるかもしれない。準決勝で戦う山梨学院は、まさにそれができる破壊力を持つチームだ。

 

 だが……ここまで来たら、もはや何が起きてもおかしくない。絶対王者と思われた横浜が敗れ去ったことで、この大会から“予定調和の物語”は崩れ去った。

 どんな結果になろうと、最後まで今年の夏の物語を見届けようと思う。

【リンク】

vk.sportsbull.jp