地味だが無視できない痛みが足元にある。足の爪の端が妙に尖って伸びていて歩くたびに皮膚に食い込んでいる。激痛というほどではない。歩行困難になるわけでもない。けれど一歩踏み出すたびに「チクリ」と警告されるような不愉快なノイズが走り続ける。
一方で手元を見ればこちらは真逆の惨状。気合を入れて切りすぎたのか深爪の状態になっている。指先の肉が剥き出しになったような心許なさ。何かに触れるたびに過敏な反応をしてしまう違和感。足は伸びすぎ手は切りすぎ。自分の体の末端管理すらまともにできていない自分に軽く絶望。
さらに追い打ちをかけるような発見があった。入浴中ふと背中に手が触れた時、ザラリとした感触があった。鏡で確認してみるとそこには見知らぬ「ぶつぶつ」が発生していた。少し前までは自信があるくらい綺麗な背中だったはずなのに。
なぜだ。 恐怖が背筋を走る。これは単なる肌荒れなのか、それとも代謝が落ちて老廃物が排出できなくなった「老化」のサインなのか。一度疑い出すと鏡の中の自分が急に他人行儀に見えてくる。
そういえば最近顔のシミも増えた気がする。目の下のクマも寝不足のせいだけじゃないような皮膚の色素沈着のような重たさを感じる。自分ではまだ若いつもりでいたけれど身体は正直に年相応、いやそれ以上のスピードで坂道を転がり落ちているのではないか。
「老化」。その言葉が脳内を支配しかけた瞬間、思考を強制終了させた。これ以上深く考えてはいけない。シミやクマや背中のブツブツと向き合うには今のメンタルはあまりに脆弱すぎる。それらは見なかったことにする。それが精神衛生上最も正しい処置。
今はこの足の爪の痛みだけを問題にしよう。これなら爪切りでパチンと切れば解決する物理的な問題だ。制御不能な老化現象に怯えるより制御可能な爪の長さを調整することに全力を注ぐ。そうやって自分を騙しながら深爪の指先で不器用に足の爪を切る。