日々これ好日

山や自然、音楽が好き。そんな私は色々な事が起きる日々の中で、好き日を過ごす事を考えています。

山にまつわる随想

山の話 海

整備された階段の道だった。僕たち三人はそこを登っていく。登山道のようでいて、そうでもない。その道は時に部分舗装もされたり、合目ごとに茶店があったりするのだった。 どこかに似ていたな、と今思えば、それは故郷の金毘羅山の参道だった。階段が延々と…

山の話 尾根に居た彼

重たいザックを担ぎ、いささかフラフラしながら降りていった。踏んだ山頂から赤や橙の斜面が広がり、その奥にきれいな三角形の山が毅然として独り立っていた。あ、富士。それだけだ。むしろ周りの色合いが目を浮き足立てる。反対側には遠く日本海に流れ出る…

山の話 悔恨

あの頃は本当に毎月山に登った。何がそこまで楽しかったのか。もちろん今も好きで、頻度は落ちたけれど、心は常に山に在る。 還暦の前に癌になった。虹の上の世界はどんなものだろう、川が流れて花が咲き乱れる?それは空想の世界であって、実際の病室は諦め…

他山の石 - クマの国から

世の中の話題は、いったいどこから湧いてくるのだろう。季節の話、政治、スポーツ――特に大谷選手の活躍は、日本中を明るくしてくれる。報じる側にとっても格好の題材だろう。 だが、世の中を賑わせているのはそればかりではない。芸能人の性加害や被害、米騒…

アキレウスの戦車

あれ、サツキは二本植えたはずだ。一本はどうしたのかなぁ。 高原に冷たい空気が落ちてきた。まるで投網のような寒気団だった。漁師は網を投げて、しばらくしてから裾を引っ張る。カサゴにスズキがたくさん入っている。船に上げると網が小さく跳ねまわり、陽…

山の風

吹き下ろしと言うほどもないが、山の風がやってきた。高いところでゴオッと鳴っている。 窓から見る庭のブナの木は大きく揺れ、すっかり黄色くなった葉が忙しく踊る。しかし急におとなしくもなる。山の風は気まぐれのようだ。 これまで味わった風で一番強か…

しんがり

しんがりとひらがなを入れる。すると殿様の「殿」が変換候補として出てくる。語源を調べてみると、お尻の由来だと分かった。お尻は臀部と言う。滅多に使わぬ言葉だが、まあいい。その臀部の臀を殿に置き換えたものと知った。あて字なのだ。退却する軍隊の最…

甲斐からの山・中央アルプス経ヶ岳

● 経ヶ岳 2296メートル 長野県南箕輪村・辰野町 日本の屋根は三つ。飛騨・木曽・赤石…そう習った。小学生の社会の授業だったか。高校の頃に使っていた地図帳を開いてみた。もう装幀もばらばらで辛うじて本の形を残している。3000メートルを級の山々が連綿と…

山の飯

山で食べるご飯。山小屋に泊まれば食事付きを頼める。しかしテント山行や避難小屋を使う前提だと食事は自炊となる。そんな自炊の山の食事は「山メシ」と呼ばれている。 オフロードバイクでのキャンプツーリングからアウトドアの世界に入った自分は最初からミ…

ヤマドリ

え、もしかして?なんで飛ばないの?そう思った。慎重に近づいてみる。するとトトトトト・・・と駆け足で林の中に飛び込んでしまった。 ネットで調べてみるとこう書かれている。「鳥綱キジ目キジ科ヤマドリ属に分類される鳥類。日本の固有種。名前は有名だが…

甲斐からの山・ギネスブックの鳳凰山

・鳳凰三山・薬師岳2780メートル 山梨県南アルプス市・韮崎市 疲れ果てていた。ザックも重いけれどもう歩きたくはない。しかし歩かなければ到着しないのだから仕方ない。あと一時間頑張って下れば駐車場に着くはずだけれど、あたかも回転する球体の上をただ…

山の店

「新人歓迎フェア」、そう店頭に書かれていた。それはたぶん大学の山岳部かワンゲル部の、いやもしかしたら高校の山岳部もあるかもしれないが、そこの新入部員のことを指すのだろうな、そう思いながら店に入った。壁に沢山のザックが掛かっていてそれをどけ…

甲斐からの山・霧訪山

・霧訪山 長野県塩尻市1306m 自分が住む海抜九百メートルの高原台地は時として霧に包まれる。それは駆け足で空間を蹂躙するような大きな塊でやってくることもあれば、いつの間にか忍び足で風景に浸潤していることもある。こいつらの正体は何だ?と捕まえよう…

じっくりと登る

あちちち、慌てて人差し指を水に浸した。コーヒーメーカーの底には耐熱ガラスのコーヒーサーバーを載せるようになっているが、そこが本当に熱いのか探ろうとふと触ってしまった。右手の人差し指だった。あまり何も気にしなくて触ってしまう。何だろうこの無…

甲斐からの山・茅ケ岳

・茅ケ岳 1704メートル 山梨県北杜市・韮崎市 残念だっただろうな、この山もさぞやインデックスに付け加え立っただろうに。小さな石碑を前にしてそう思った。しかし実際は大木のようにそこで倒れてしまい直ぐにいびきをかいたと言われているから苦しむことも…

オイルランタン

これまでいったい幾つの山小屋のお世話になったのだろう。泊りの縦走はテントだ、というこだわりがあったせいか自分は山小屋に泊まったことは数えるほどだった。山頂や名もなき鞍部で時には沢沿いで、そして小屋のテント場でテントを張るか、あるいはうす暗…

甲斐からの山 町田八王子市境尾根・草戸山

・草戸山 東京都町田市・八王子市 364メートル 2025年4月26日 仲間との山登りで久しぶりに八王子に出かけた。もう引退された会社員時代の上司と、自分達と同じ会社の女性社員との、計四名。上司とは言えいまや上下もない。もちろん人生の先輩として敬意を払…

青い軽登山靴

何故だろうかしっかりと箱に入れて置いてあった。横浜からこの高原への引っ越しの際に多くのものを捨てたが、これは残してあった。箱を開けると青い靴がでてきた。サイズは22.5。それは小さなナイロンの軽登山靴だった。 もう三十五年も昔だろうか。当時…

甲斐駒とBWV542

車の中はオーディオ・ルーム。流石に純正スピーカーは社外品に交換した。足元の安いフルレンジスピーカーに加えダッシュボードにはゆで卵を半分程度にカットした大きさのツィーターを両面テープで貼っている。これ一つでハイハットは冴えるしピアノやチェン…

分水嶺

病院に行く。ガンのフォローアップは毎月だったが今は3ヶ月おきとなった。採血して腫瘍マーカーを調べる。年に1回はMRIを受ける。癌細胞よどうか再発しないでくれ、そう願いながら検査台に乗る。 病院の待合室には多くの人がいる。高血圧なのか高脂血症なの…

甲斐からの山・根子岳山スキー

・根子岳 2128m 長野県上田市・須坂市 山スキーとはスキーの裏にシールと呼ばれる滑り止めシートを貼り踵の上がるスキー締め具を用いてスキーを履いたまま山頂まで登り、そこでシールを剥がして滑降するという、登山の一形態だ。いろいろと近年物騒な話題を…

甲斐からの山・雪だより 八島湿原

車の中は自分にとって大切なオーディオルームだ。クラシックからソウル、ロック、フュージョン、ポップス、自分の好きな音楽はSDカードに入るだけフォルダ別に入れて再生する。たいしてよいカーステレオではないので音はチープだが、馴染の曲が限りなく流…

減っていく林

自宅から友人の家まで、緩い登り坂はアカマツと広葉樹の森を抜けて行く。時間にして五分。海抜千メートルを越える辺り一帯はアカマツの森となる。そこで自分は何度も鹿の親子を見た。鹿に注意という意味の、鹿を模した可愛らしい看板もこの通りには幾つもあ…

蘇る五感

友人の所属する地元の吹奏楽団の定期演奏会だった。第14回演奏会だという。昨年より指揮者が変わった。傍目に聞いても若い気鋭の指揮者の下で音楽に一段と輝きを増したように聞こえた。 異なるアマチュア吹奏楽団には会社員時代の先輩が所属している。クラシ…

あれは富士山ではない

皆さん、前に見えるのは富士山ですよ。そうバスガイドさんは言うのだった。 高校の修学旅行だった。広島市の高校が皆そうなのかは分からぬがそれは初日に京都で乗り換えて富山へ。立山黒部アルペンルートを経て二日目には箱根、そんな中部山岳地帯から関東の…

甲斐からの山・十文字小屋と甲武信岳 

登山は通常山頂を目指すものだ。暗い谷から登り始めて斜面を高まいて尾根に登りつくこともあれば、最初から明瞭な尾根筋を捉えてそれを登ることもあるだろう。どんな山にも必ず一つは厳しい箇所が出てくる。鎖、三点確保、技術的に緊張を強いられる場所もあ…

山の絵画

山が好きな方にはそれぞれの自ら愛読される山の書籍、作者があるだろう。自分の場合は「日本百名山」の著者である深田久弥氏がまず来る。彼が残した短編集は濃密だ。僕は多くの日本語を彼の本から学んだ。そしてイラストレーターである沢野ひとし氏。彼の「…

ハイキング手袋

山歩きで手袋は必須だろう。自分はルート上の岩場や急な下り坂に手がかり足がかりがあればそれらをよく握り手を突くほうだ。何も掴まずにひょいひょい歩くことは出来ない。加齢とともにまずは恐怖心が先に来るのだから。前回の山歩きで手袋を持参せずに手に…

阿吽の焚き火

ついたついたもう少しこれを動かして上のこのぶっとい奴に移れば良いね煙いけど、はたこう。団扇で すると新聞紙をこよりにしたものから火は焚き付けの乾いた小枝に燃え移る。その上の枝木に燃えつくまでは気が抜けない。燃え尽きそうになるとエスビットのカ…

立てた親指

仕事を終えてスーパーに夕餉の買い物に立ち寄った。そこは国道沿いの道の駅に併設されている。勤務先から近く、仕事帰りに立ち寄ると丁度割引シールが総菜に貼られるので重宝している。目を皿のようにして割引品を幾つも籠に入れていた。今日もそんな世帯じ…