親魏倭王のお部屋

noteで活動中の元学芸員・親魏倭王の雑記帳。広報も兼ねています。

読書記録:そして五人がいなくなる

『そして五人がいなくなる』はやみねかおる

「あの人が伯爵?」

大人も子供も楽しめる最上の推理小説

僕にとって、はやみねかおるの作品は、手に入れたくても手に入れられないものだった。物心ついたときは学研や集英社の歴史漫画ばかり読んでいて、いわゆるジュヴナイルはほとんど読んでいない。はやみねというミステリー作家の存在を知ったのは中学生になってからで、いまさら講談社青い鳥文庫に手を出すわけにはいかない……と思いあきらめていた。すると、思いがけず講談社文庫から再刊されたのである。これによって知らぬうちに子供を卒業してしまった大人読者もはやみねミステリーに親しめるようになったのだ。

本書は小学生を中心に爆発的な人気を博した夢水清志郎シリーズの第1作にあたる。視点人物は三つ子の三姉妹(中学生)で、彼女たちが進行役兼ワトソン役兼守り役となる。探偵の夢水清志郎は元大学教授(専攻は論理学)で、本と家賃を溜めこみ過ぎて追い出され、三姉妹の家の隣にある荒れた洋館に引っ越してきた。基本的に生活力ゼロで、だらだらと暮らしており、よく三姉妹に尻をひっぱたかれている愛すべき怪人物である。本書には第1部として長めのプロローグが付されているが、この部分だけで独立したミステリーとなっているのがおもしろい。本格ミステリーマニア・はやみねの面目躍如である。

夏休み、伯爵と名乗る怪人がマジックショーの舞台上で一人の少女を消して見せた。伯爵はさらに4人の人間を消して見せると宣言、本当に彼自身を含む5人の人間が消えてしまった。三姉妹によって担ぎ出された夢水は「謎は解けた」と宣言するが、そのまま沈黙してしまう。彼が口にする“夏休み”は何を意味しているのか? ――元々ジュヴナイルであるせいか、はやみねは一貫して殺人事件を扱っていない。ジュヴナイルであれば当然だが、僕は常々、殺人事件だけがミステリーの“謎”ではないと思っている。魅力的な謎であれば、別に殺人事件で無くても長編ミステリー1冊に仕立て上げられるような気がしてならないのである。ちなみにはやみねの本格ミステリー観は「名探偵が出て来ること、とても不思議な謎が出て来ること、本格の二文字が付いていること、ハッピーエンドで終わること」だが、最後のハッピーエンドはミステリーにおいては非常に難しい。犯罪を扱うことが多いミステリーは、えてして後味の悪い終わり方をするからである。彼が殺人事件をことさら排除するのは、ハッピーエンドを成立させるためであろう。

本書を読み終えて、僕が本当に読みたかったのは本書のような作品だ、と思い至った。