『すべてがFになる』森博嗣
「先生……答だけではなくて、解説が必要なんですよ」
本格ミステリーの新次元へようこそ
新本格ミステリーというと、一般的には綾辻行人以後の作家の作品の総称である。だが、彼らが書いているミステリーは純然たる本格ミステリーで、わざわざ「新」をつける必要はない。むしろ、ある種のテーマに沿って書かれているもの、独特の世界観の中で描かれているものこそ新本格ミステリーと呼ばれるにふさわしいのではないか。そこで、個人的には西尾維新の戯言シリーズや西澤保彦のSF風ミステリー、北山猛邦の諸作品などが新本格ミステリーに当たると考えている。
森博嗣は、無論、この新本格ミステリーに分類される作家である。だが、彼のミステリーは純然たる本格ミステリーである。ただ、従来のミステリーと異なるのは、探偵像と推理スタイルである。主人公の犀川創平は、自ら進んで事件を解決しようとすることはない。自分の興味の赴くままに謎解きを行っているだけだ。しかも、彼は重要な手がかりを入手しながらほったらかしにしている場合も多い。
本書が万人受けするかと訊かれると、難しいと答えざるを得ない。「理系ミステリ」と呼ばれるように、専門用語が多数使われているほか、研究家肌の妙な人間がたくさん出てくるからである。おそらく、本書に登場する奇妙な人種たちに感情移入できない人がほとんどだろうが、ジャンルは問わず、研究者とはそういうものだ。自分の研究以外に興味を示そうとはしないのである(大学の研究室に出入りしているとよくわかる)。僕は文系だが歴史学、その中でも考古学に進んだので、一部理系に被るところがあるのだが、どの先生も本書に出てくる科学者たちと似たようなタイプなので、驚くべきことではない。
本書の事実上の主人公といえる真賀田四季博士は、文字通り天才であるが、彼女ほど天才らしい天才は、今まで描かれてこなかったといえるのではないだろうか(先行して西尾維新の『クビキリサイクル』を読んだが、戯画化されているせいか、どのキャラクターも天才らしく感じなかった。ちなみに、こちらのほうが本書より後の作である)。彼女は特異な性格だが、このような科学者は実際にいそうである。専門家の描写だけにせよ、これだけリアルな人物造形ができるのは、作者が理系出身で、なおかつ現役の研究者(当時)だからだろう。
犀川とヒロイン・西之園萌絵の対比の構図もおもしろい。つまるところ、犀川=新しいタイプの探偵、西之園=従来型の探偵といったところだろうか。