私は何かと食レポをする。我が味覚は、心底、庶民の平均値のそれだという自負がある。しかし好みによる感想のブレというものは生じるし、何か自覚できない要因で良し悪しが判断できなくなる可能性は常に存在する。

ゆえに私は、各分野で高評価を得ているものをとりあえず食べて、その味を信頼できる “いいもの” の指標として記憶しておくようにしている。つまり、定期的にちゃんと良いものを食って、味覚の精度の維持に努めているわけだ。

今回紹介するのは、私が和菓子関連で指標の1つにしているもの。毎年冬にだけ販売される、虎屋の「虎屋饅頭」だ。これは、本当に丁寧で贅沢な仕上がりの饅頭。

・虎屋饅頭

虎屋饅頭は、極めて普通のビジュアルと構成の酒饅頭だ。価格は1個432円とリーズナブル。毎年冬にだけ登場する。今年は11月1日から販売が始まった。


普通にその辺の虎屋や、出店している百貨店のブースなどで買えると思われる。詳しくは公式HPをチェック。

さて、私には毎年、虎屋饅頭が解禁されると、必ず訪れる場所がある。それが、赤坂店。その辺の店舗の虎屋饅頭は常温で売られているのだが、酒饅頭ゆえ、真の美味さを味わうには、温めねばならない


・赤坂店

私はそれが面倒&最高のクオリティで味わいたいため、パーフェクトな状態でイートインできる赤坂の虎屋菓寮を利用する。あと赤坂店の虎屋饅頭が、通常よりちょっと大きいのも理由の一つ。

今回は赤坂店でイートインする様子と共に、この饅頭の素晴らしさを伝えよう。通常のテイクアウトだと432円だが、赤坂店でイートインすると、ドリンク付きで1672円。


ドリンクは色々選べる。私のお勧めは、抹茶か煎茶。


まあ安くはない。私は、場所代や技術料も込みの値段みたいなものだと思っている。なんせここは赤坂御用地の前。イートインスペースから見えるのは、御用地外周の木々だ。この向こうは秋篠宮邸や三笠宮邸。技術料については、まあ、すぐにわかる。


・一瞬の輝き

オーダーからしばし。これが、私を毎年このためだけに赤坂まで赴かせる虎屋饅頭だ。今日は暑かったので、ドリンクは抹茶グラッセにした。


ビジュアルは極めて普通の饅頭。当サイトはよくグルメを扱う。そのわりに、この饅頭を1度も扱っていないことに私が気付いたのは先日のこと。編集部にネタ出しする際に、どんな見た目かわかるURLなどは提示しなかった


こんな普通のビジュアルだと知れたら、その真価など無関係に却下されてもおかしくないと考えたからだ。WEBメディアは、見た目にわかりやすいインパクトがある物を扱いたがるものなので。


話を饅頭に戻そう。こいつは、出てきてから速攻で食べるべき。寿命が短いのだ。熱くなく、冷たくもなく、パーフェクトな温度で提供される

生地表面はむっちりと張っている。しかし硬いということはない。試しに黒文字で押してみよう。わずかな抵抗の後、容易く表面が破れる。生地の持つわずかな粘着性から、正しい湿度を有することが伝わる。


この蒸し加減が、自分でやるとなかなか上手くいかないのだ。巧みな加減もまた、他所で食べる酒饅頭と虎屋菓寮で出てくる酒饅頭の差であると感じる。

餡はこんな感じ。みっちり詰まっている。この餡は一見するとそれなりの質感を持ってそうだが、舌に乗せればたちまち崩れ去り、極めて細かい粒子の集合体であるという実感が得られるタイプのもの


さて、蒸し加減、温度、餡子、どの要素もパーフェクトだが、こいつの何が最も素晴らしいかというと、とにかく酒の香りだ。ふわぁっと、恐ろしく上品な酒の香りが漂う

甘く、瑞々しく、日差しが気持ちのいい春先の草原の風とか、なんかそういうのをイメージさせるような方向性のものだ。この香り、「清い」の一言が最もふさわしいと私は常々思う。

この香りのピークは一瞬だ。本当にすぐに香り、先述の隙のない餡と共にほぐれて消えていく。集中して味わわねばならない

饅頭としても1個400円台は中々のものなのに、一瞬かよと。しかしそれが美しいと思う。もっとピークが長かったら、それはそれで嬉しいが、しかし何か重要な要素が陰る気がする

とにかく繊細なバランスの上に仕上がっている、素晴らしい酒饅頭なのだ。こいつの食体験のピークは1秒とかそんなものだろう。しかしその1秒の体験が、毎年こいつを食べねばならぬと思わせるに十分な輝きを放つ。

あらためて言語化すると、恐ろしく贅沢な饅頭だ。今年も素晴らしい仕上がり。この酒種はどんなものを使っているのだろう。毎年気になるが、饅頭の美味さで好奇心はうやむやになっている。

参考リンク:虎屋
執筆:江川資具
Photo:RocketNews24.

▼抹茶も、良いのですよ。よく点てられ、空気を含んでいる。嫌な苦みは一切なく、これもまた、良い抹茶ドリンクの指標になり得るものだと思う。

好みで白蜜を自分で入れる仕様。入れなくとも、きめ細かい泡が自然な甘みを感じさせてはくれるが、そこは好みで。

▼焼きたての残月も美味い。赤坂店限定。

▼季節の食事というのもあって、うどんとか食べられる。十八番の甘味ほど他と比較して図抜けているということはないと感じるが、それでもいいものを出していると思う。