2026年01月21日

冬眠しまーす

大寒波がやってきた。
外は猛吹雪。視界はすべて白の世界。草木も凍り付いている。見ているだけで震えちゃう。
「今日はわたし、冬眠しまーす」
どこにも行かずに、暖房の部屋で毛布にくるまっているの。
電話も出ないし、インターフォンも無視するわ。だって冬眠だもん。
ポットとお茶とコーヒーとお菓子、リモコン、ティッシュ、ごみ箱。
手の届くところに全てそろえて、さあ、冬ごもり。

ところがしばらくして、ドアを叩く音がした。
ドンドンドンってしつこく叩く。無視していたら、今度は窓ガラスを叩き始めた。
「何なのよ、もう」
上着を羽織って窓を開けたら、クマがいた。
「きゃあ」
「こんにちは。ご心配なく。ちょっとお邪魔します」
「えっ、何なの?」
クマが部屋に入ってきた。
「寒いから窓閉めましょう。何しろ大寒波ですから」
「言われなくても閉めるわよ。それで、クマが何の用?」
「はい、実はですね、あなたが冬眠すると宣言なさったので、冬眠届を出していただきたいのです」
「冬眠届?」
「はい、私たち動物や爬虫類は、みんな届を出してから冬眠しています。人間だけ例外というわけにもいきませんからね」
クマが書類を出してきた。
「ちょっと待って。冬眠とは言ったけど、本当に冬眠するわけじゃないのよ。今日だけ家にこもるって話よ。だって大寒波ですもの」
「えー、1日だけ冬眠なんてシステムあったかな」
クマが、ぶつぶつ言いながら、鞄からカードを出した。
『ただいま冬眠中』と書いてあるカードだ。
「なにこれ?」
「とりあえず冬眠するときは、このカードを玄関ドアに貼ってください」
「えー、玄関に出るのも寒くて嫌なんだけど」
「人間はわがままですね。とにかく、必ず貼ってくださいよ。これは応急処置ですからね。まったくいい迷惑ですよ。せっかく寝てたのに呼び出されて」
「わかった、わかった。貼ればいいのね」
「はい、お願いします。では私も、ねぐらに帰ります」
クマは「おお寒い」と身を縮めて帰って行った。

何だったの、あれ? まあいいわ。この大寒波で、世界がおかしくなっているのよ。
さあ、昼寝しよう。
あっ、その前に「冬眠中」カードを貼らなきゃ。また来られたら困るわ。
わたしは、玄関ドアに『ただいま冬眠中』のカードを貼って寝た。

目覚めたら、朝だった。ちょっと寝すぎたかな。
まあいいか。今日も仕事休みだし、また冬眠しようかな。
だけど、冬眠にしては暖かすぎない? 大寒波、おわった?
雪が解けている。花が咲いてる。鳥が鳴いている。ん? ホーホケキョ?
なんかおかしい。とりあえずテレビをつけた。
「おはようございます。今日は3月15日です。冬眠中の動物も目覚めてきそうなポカポカ陽気ですね」
さ、3月? 昨日まで1月だったよね。ポカポカ陽気? 大寒波だったよね。
やだ、わたし、本当に冬眠してたっぽい。
会社にわたしの席ってまだあるかな。
まあ、いっか。とりあえず、何か食べよう。

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posted by りんさん at 15:52| Comment(2) | コメディー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年01月16日

おまもり

受験生のワタル君は、お正月返上で勉強しています。
優秀な進学校を目指しています。
「ワタル、おばあちゃんがお守りを買ってきてくれたわよ。出雲大社のお守りだって」
「ありがとう」
ワタル君はもらったお守りを、湯島天神のお守りと一緒に引き出しに入れました。
「違う神社のお守りだけど、神様、ケンカしないかな?」
ワタル君、ご心配なく。神様は、ケンカなどしませんよ。

「どうも、出雲大社から参りました。よろしくお願いします」
「やあ、どうも、どうも。島根の出雲大社さん。遠くからご苦労さんです。私は東京の湯島天神から来ました」
「初めまして。それで、私は何をすればいいんです? まさか夢枕でテスト問題を教えるわけにもいかないでしょう」
「だめですよ。我々は、ただ見守るんです。彼が平常心で受験に臨めるように。そして災いが起こらないように」
「なるほど。ワタル君のために、祈るのですね」

そして、いよいよ受験の日。
ワタル君は、受験票をしっかり鞄に入れて家を出ました。
「あっ、ワタル。お守り忘れてる」
お母さんが追ってきて、お守りをワタル君に渡しました。
「いけない。忘れるところだった」
ワタル君はふたつのお守りをポケットに入れて、バスに乗り込みました。
順調、順調。お守りたちが祈っているおかげで、バスは遅れることなく高校に着きました。
しかし、ワタル君がポケットからICカードを取り出すときに、出雲大社のお守りが落ちてしまいました。ワタル君は気づかずにバスを降りました。

「ああ、出雲大社さん!ワタル君、出雲大社さんが落ちましたー」
湯島天神が叫んでも、もちろんワタル君は気づきません。受験会場にまっしぐら。
「仕方ない。出雲大社さんの分も祈りましょう」
湯島天神は、ポケットの中で懸命に、ワタル君と出雲大社の無事を祈りました。
そして受験は滞りなく終わり、ワタル君は、見事合格しました。

ワタル君は、晴れて合格したけれど、おばあちゃんにもらった出雲大社のお守りを失くしてしまったことを、ひどく気に病んでいました。
「せっかくもらったお守りなのに。罰が当たるかな」
ワタル君、大丈夫。神様は、罰など当てませんよ。
「出雲大社さん、どこかできっとワタル君を見守っているよ」
湯島天神は、ため息交じりのワタル君に、そっとささやきました。

そして4月、いよいよ入学式。
ワタル君はパリッとした新しい制服でバスに乗り込みました。
すると、同じ制服の可愛らしい女の子が話しかけてきました。
「あの、このお守り、あなたのでしょう。受験の日、落としたよね」
「あっ」
出雲大社のお守りでした。もう見つからないと思っていたので、ワタル君はたちまち笑顔になりました。
「私も受験生だったの。すぐに降りて追いかけたけど見失っちゃって。でもよかった。ふたりとも、合格してたのね」
「ありがとう。本当にありがとう」
ふたりは並んで座り、自己紹介をしました。なんだか、恋の予感です。
「でも、めっちゃ笑えるんだけど」
「えっ、何が?」
「だって、どうして、縁結びのお守りなの?」
「え、縁結び?」

ああ、出雲大社といえば縁結び。
おばあちゃん、間違って買ったのか、それともこの展開を予想して買ったのか。
どちらにしても神様は、ワタル君をちゃんと見守っているのです。

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posted by りんさん at 14:19| Comment(12) | コメディー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2026年01月11日

年神様と疫病神

お正月は、松飾りとお神酒で年神様をお迎えした。
家族そろっての、厳かなお正月。
先祖代々続けてきた風習を、私も夫とともに守ってきた。
神様のおかげか、私たち家族は、とても穏やかな一年を送ることができた。
10年前、嫁が来るまでは。

「お義母さん、おせち作りすぎ。私たち、お正月は東京の実家に行くって言いましたよね」
「ああ、そうだったわね。じゃあ、お重に詰めて少し持っていく?」
「いりません。母が高級料亭のおせちを取り寄せているので」
夫が亡くなり、息子家族と同居することになったのは10年前。
家をリフォームして、神棚を処分した。
残したいと懇願したけれど、息子夫婦や孫にまで説得されて泣く泣く処分した。
きちんとお祓いをしたけれど、お正月になると今でも心が痛む。

息子家族は、大晦日から嫁の実家に行った。
ひとりの大晦日、ひとりのお正月。食べきれないほどのおせち。
嫁が来てから、いいことなんかひとつもない。体調もいまいち。
やっぱり罰が当たったのかしら。
それとも、嫁が疫病神を連れてきたのか。そうだ、そうに違いない。
ああ、また昔のように、年神様をお迎えしたい。
穏やかで厳かなお正月を迎えたい。

そんなことを考えていたら、玄関のドアがバタンと開いた。
まさか、年神様?
「ただいま」
入ってきたのは息子家族。
「あら、帰ってくるのは明日じゃなかったの?」
「聞いてくださいよ、お義母さん」
嫁がいつになく不機嫌な顔をしている。
「去年結婚した弟の嫁が、すごくデカい顔で家を牛耳ってるんです。私たちをまるで邪魔者扱い。私の家ですよ。父も母も弟も、嫁の言いなり。ムカつくったらありゃしない」
「まあ、それで帰ってきたのね」
「おばあちゃん、おなかすいた」
「あら、高級料亭のおせちを食べたんじゃないの?」
「それがですね、お義母さん、弟の嫁が節約とか言ってスーパーの安いおせちを買ってきたんですよ。しかも量も少なくてしょぼい。お義母さん、おせち、いただきます。あとビールも」
食べきれないほどのおせちが、みるみる減っていく。
厳かとは程遠いけど、久しぶりに賑やかなお正月。
「おいしい。あーあ、実家なんか行かなきゃよかった。家の空気が淀んでたわ。お義母さん、あの嫁、ぜったい疫病神ですよ。ああ、なんかこっちまで運気が下がりそう。お祓いした方がいいかしら」
嫁の愚痴は止まらない。
疫病神が、疫病神の悪口言ってる。

「あの、お祓いより、いい方法があるわよ」
「何ですか?」
「神棚を置くの。松飾りとお神酒で年神様をお迎えすると、平穏な一年が送れるのよ」
「えー、神棚ですかぁ?」
「疫病神を追い出したかったら、毎日手を合わせることね」
「よし、置きましょう、神棚」
酔った勢いか、嫁が神棚を置くと言った。嫁が言えば、おとなしい息子も孫も逆らわない。

そんなわけで、我が家に再び神棚が戻った。
松飾りにお神酒で、年神様を迎える。
おかげで我が家は平穏無事……というわけでもない。
「お義母さん、おせち作りすぎ。また太っちゃうじゃないですか」
「食べなきゃいいでしょう」
「だっておいしいんだもん」

***
明けましておめでとうございます。
とはいえ、もう1月も半ば。のんびりしすぎました^^
今年もよろしくお願いします。


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posted by りんさん at 20:38| Comment(8) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする