2022年放送の第1期から約3年、いよいよ放送が開始された第2期。今回は初回(原作第44~47話のエピソード)ついて、主に印象的な作画や演出、原作との違いに着目しながらレビューしていく。
その着せ替え人形は恋をする #13 『五条新菜 15歳 思春期』
脚本:冨田頼子
絵コンテ・演出:篠原啓輔
作画監督:石田一将、山崎淳
『こちら月夜野♡カンパニー』パート
キャラクターデザイン・原画:五十嵐海
絵コンテ:山本ゆうすけ
制作スタッフ
まずは本話数のメインスタッフについて。
スタッフの流動が激しいアニメ制作だが、第1期から参加していたスタッフが数多く続投している。絵コンテ・演出は篠原啓輔監督、作画監督はキャラクターデザインの石田一将氏に加えて、近年では『劇場版 ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』(2024)でキャラクターデザインを務めた山崎淳氏*1が担当。
原画は8人中5人が第1期に参加したアニメーターである。
その着せ替え人形は恋をする 第13話
— 山崎淳 ひまおう (@himaholic3) 2025年7月5日
主に後半の作監をやらせて頂きました…!
宜しくお願いします!!!#着せ恋 #着せ恋アニメ pic.twitter.com/9QfG87Msdw
シーン別 印象的な作画・演出
アバン

まず、何の前触れもなく始まったのは、劇中アニメ『こちら月夜野♡カンパニー』の映像。約2分間に渡って流れる。
本パートは絵コンテが本作では副監督であり『ぼっち・ざ・ろっく!』第2期で監督を務める山本ゆうすけ氏、キャラクターデザインと原画を『サイバーパンク:エッジランナーズ2』で監督を務める五十嵐海氏が担当とまさに話題性抜群な組み合わせ。
原画は五十嵐氏の一人原画であり、キャラクターデザイン兼任、かつ作画監督と第二原画なしにより五十嵐氏の絵柄が前面に出ている。Xで上げられている自作のイラストやアニメーションと見比べると分かりやすいだろう。コミカルでタメツメを利かせたキャラの動きや手書き感のある文字が楽しい。劇画調な画もインパクトがある。
初回(本作では第2期だが)の冒頭において、通常の本編とは異なる絵柄の作画によって強烈な印象を残す掴みの采配。昨今はSNSで可視化された一部視聴者の意見から大胆に絵柄を変えづらい空気だが、本話数では劇中劇であるため、比較的自然に取り入れやすい。
■過去の類似例 作品と原画担当アニメーター名*2
・『龍ヶ嬢七々々の埋蔵金』(2014)#01 宮沢康紀
・『Occultic;Nine -オカルティック・ナイン-』(2016)#01 森久司
・『怪獣8号』(2024)#01 田辺修
こちら月夜野カンパニー、絵コンテしました!
— なら (@nara_kappa) 2025年7月5日
最高に豪華なアニメだったな~#着せ恋アニメ pic.twitter.com/SMhblfC3fu
着せ恋13話何かやっていました。 pic.twitter.com/j245PjXLVi
— 塩 (@kaiikarashi) 2025年7月6日
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— TVアニメ『その着せ替え人形は恋をする』 (@kisekoi_anime) 2025年7月10日
こちら月夜野♡カンパニー
サイト更新🌙
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キャラクターデザインの五十嵐 海より#こちカン 最新ビジュアルが到着🔫
✧CAST
十六夜ありさ #島袋美由利
天城くれは #髙橋ミナミ
御神楽こまり #花守ゆみり
ほか
▼サイトhttps://t.co/zq4bTAyVIL#こちら月夜野カンパニー#着せ恋アニメ pic.twitter.com/XoL53EjbeP

因みに『こちら月夜野♡カンパニー』は、#07のおうちデート回において海夢の部屋内にグッズとして登場している。特にタペストリーの版権イラストは、#13で同じポーズをする海夢が登場するので覚えておこう。
Aパート

まさかのけろりら氏一人原画OPを終えてからのAパート。
PVでも使用されていた学校の屋上扉前の新菜と海夢の会話シーン。原画担当は恐らくクレジット順であることから、本パートは吉川知希氏と思われる。吉川氏は第1期にも参加しているが、知名度を高めたのは『ぼっち・ざ・ろっく!』(2022)#05における自販機前での虹夏「まだぼっちちゃんには秘密だよ!」のシーンだろう。リアル寄りで立体的な芝居作画が巧い。それでいて、皺の描き込みがあっさりしており、視聴上のノイズになるようなクドさがない。
バニーキャラの詳細なイメージ映像は原作にはないため、キャラクター像は篠原氏か吉川氏の趣味だろう。バニースーツの色以外にもリボンorネクタイやタイツの違いでバラエティ豊か。皆バニーが大好きです。
海夢「新しいものが出ても結局いいものはなくならない!絶対残り続けるよね!」
その後、本作及び吉川氏の作画では珍しいリップシンクからの背動にも注目。海夢の台詞が新菜に響く様子を強調して見せている。リップシンクは海夢の特徴的な▽口でも自然。なお、カメラが新菜に寄っていくときに髪が揺れているが、状況的に風は吹いていないため誇張表現である。

続いて、新菜宅や手芸用品店のシークエンス。
この辺りの原画の大半はけろりら氏と思われる。特にカメラが引くと特徴的な鼻周りや表情、皺が顕著に表れる。省略加減が絶妙で、最低限の情報量でも可愛いは成立する。
本作は第1期では全体的にリアル寄りな動きでかっちりとした画面作りの印象だったが、この辺りで第2期における映像の方向性が見えてきたかもしれない(まだ初回なので今後は分からないが)。
海夢が新菜からのメッセージを確認するシーンは、原作では電車内ではなく海夢宅。画的にはカロリーの高い舞台に変わっている。この変更理由は直前での乃羽がポッキー(のようなお菓子)を折る音→電車の走行音の繋ぎで時間軸が変わるメリハリをつけるためであろう。また、移動中になったことで前髪を気にする芝居がしっくりくる。
車窓の景色はさらっと背動、かつわざわざ木々まで映して単調さがない。加えて光や影の表現も細やかで、通過する架線柱や木々によって光量や影の形が変化するリアルな描写。『ぼっち・ざ・ろっく!』においても電車内のシーンがあるが、明らかに表現が違うため比較すると面白い。
あと、X上の感想では作画ファンでなくともけろりら氏パートと予想している人が何人もいる辺り、アニメーターの中でもポピュラーな存在になったことが窺える。
因みにアニメではカットされたが、原作では手芸用品店の店員の「バニーガール姿で文化祭でバンド演奏するアニメがあって~」という台詞がある。言うまでもなく『涼宮ハルヒの憂鬱』のことである。

再び新菜宅に戻ってからは安野将人氏パート。第1期こそ参加していなかったものの、近年のCloverWorks作品に参加することが多く、キャラクターデザインも手掛けているアニメーター。直近では、星街すいせい『綺麗事』MV(2025)でキャラクターデザインと作画監督を担当。
このシーンでは夕方かつ部屋の照明を点けていないため、エモいライティングに。逆光、オススメです。
夕日で照らされている部分にキャラの上半身とバニースーツが収まるレイアウト、海夢がはしゃぐ芝居に連動する影にも注目。
Bパート

完成したバニースーツを着て早速スタジオで撮影するシーン。
第1期#02と#08での原画、『ぼっち・ざ・ろっく!』第2期ではキャラクターデザインに抜擢された小田景門氏のパート、他。
ロングショットでの顔の省略が潔い。服装で十分どのキャラか分かるため、顔の描き込みは必要ない。
また、動きはリアル寄りだが基本3コマ打ちであることで軽やかに見える。海夢の回転も後詰めのタイミングで一時停止のタメが作られるのが気持ちいい。

最終シークエンスである渋谷ハロウィンでのカラオケ。
主に第1期にも参加していた助川裕彦氏のパート。梅原翔太Pラインではお馴染みの動画工房からCloverWorksへ活動の拠点を移したアニメーターの一人。
これまではコメディだった物語がクラスメイトが発した台詞を機に一転、シリアスに。
ここでは新菜の背景が黒で描かれる。原作ではクラスメイトの台詞の際にクラスメイトの背景込みで黒に変化するため、イメージBGという表現である。対して、アニメでは着ぐるみ内の物理的な暗闇を表現していたところから、さらにイメージBGへと繋げている。
音響面では、始めは着ぐるみ内のこもった音だが次第にクリアに。閉塞感のある暗闇に差し込む光。周囲との心の境界が取り払われていく。
また、カメラワークの速度も併せて変化する。同じ寄りでもコメディシーンでは速いが、シリアスシーンではじわじわと遅く動く。心の動きでカメラの動きは変わる。
他にも短い尺のカットを差し込むことで映像に抑揚がついていた。
あと、制作側のことを考えると、このシークエンスでは流れる楽曲や尺を考慮してキャラの台詞を当てはめていくのが大変である。
それはそれとして友達の友達といるときは何だが気まずい。
カラオケで乃羽が歌っていたシーンについては後ほど。
#着せ恋アニメ 13話(2期の1話)、レイアウト80カットほど、我儘を言って乃羽が出ているほぼ全てのカットを担当させていただきました。感謝します。 pic.twitter.com/oVDLeDCWB3
— あべこべ (@abekobeo) 2025年7月5日
テンポ向上・情報量の詰め込み方法
本話数はEDをカットしてOPにクレジットを載せる通常より本編の尺が長い特殊な形式。それでいて本編が終わるのが体感で早かったという感想も見られる。
ここでは、どのような要因が作用しているのか考えていく。
まず、小学校の校長先生のスピーチを想像すると分かりやすいが、話や目に映る光景が単調だと体感時間が遅い。
話(=物語と会話)に関しては、『こちら月夜野♡カンパニー』視聴→バニースーツ制作失敗→改良の試み→バニースーツ制作完了→撮影→渋谷ハロウィンとイベントが多い。また、会話シーンでの台詞の間が狭めで詰め込まれている(シーンにもよるが、第1期と比較すると分かりやすい)。
光景(=舞台)に関しても、劇中劇→学校→電車→新菜宅→手芸用品店→新菜宅→スタジオ→渋谷とコロコロ変わる。
つまり、単純に劇中のイベントと舞台が多く、会話の間が狭いため、体感時間を早める要因となっている。
本話数のカット数にも着目してみる。(自分の数え間違えでなければ)約280カットとアニメ1話当たり約300カットのいち指標をむしろ下回っている。意外にもカメラの切り替えが多い訳ではない。
だが、カット数を増やさなくともいちカット当たりの情報量は足せる。それを後述していく。全てに触れると長くなるため、特に目を引いたものを抜粋。
イメージ映像・BG
キャラが思い浮かべたイメージを可視化したり、感情を引き立てる映像。背景がただの舞台ではなく主体的な情報になる。
基本的にイメージ映像・BGの存在自体は原作由来だが、アニメでは映像媒体向きにアレンジが施されている。その引き出しの多さに驚かされる。アイデアの源泉がどこかは分からないが、映像表現の自由度が高い『ぼっち・ざ・ろっく!』を経たことが大きいように思える。少なくとも自由な表現が許容できる制作環境なのは間違いないだろう。
本編でどのようにイメージ映像・BGを映していくのか、さらにある程度分類しながら触れていく。
切り替え方

キャラの背景が丸々切り替わる訳でなく一部分。脳裏に浮かんだ表現と受け取れる。切り替え方も凝っていて飽きさせない。
また、イメージBGはカット頭からカット尻までの全てではなく、途中から差し込まれる形。原作ではコマが分かれていても、アニメでは1カットにしている。この方法により、前後のカットとの繋ぎがシームレスになる働き。
プロジェクター風

キャラの背後に影が映る。当然ながら劇中で投影機器もなく、イメージ映像・BGを映す時点でリアリティも何もないため、シンプルに画的な面白さや奥行きを追求した表現。
アナログチック

画用紙に描いて切り抜いたような質感の表現。デフォルメされた絵柄、カラフルな輪郭線、手書きの文字も相まってそう感じさせる。
近いところで『ぼっち・ざ・ろっく!』でアナログ素材のペープサートが使われていたが、こちらは作画で表現。
台詞被せ
こちらは音響面。何故かイメージ映像の海夢と現実の海夢のセリフが被る。『ぼっち・ざ・ろっく!』#05(絵コンテ・演出:川上雄介)の後藤を彷彿とさせる面白演出。
画面分割


画面分割により複数の場面を一つの画面内に映す。単純に同じ尺でも分割した分だけ情報量が増える。また、カットを割らないことで、前後のカットの繋ぎが自然になる。
ある時には、分割した画面が他の画面に作用させる見せ方もあり面白い。
因みに海夢が衝撃を受けている理由が、実は落胆ではなくアニメさながらにバニースーツが脱げているからなのが後の描写から分かるアニメオリジナルのギャグ。
海夢がしゃがみながらこちらを向いているのは版権イラスト(前述の海夢の部屋に飾ってあるタペストリーに元ネタあり)の再現。
渋谷ハロウィンの様子は、中央の2人組女子が原作では立ち姿で台詞があったが、アニメでは配信でダンスしている現代らしい描写に。右端はアニメオリジナルで、『鬼滅の刃』とハリーポッターのネットミームを掛け合わせたものだろう。
カラオケの選曲

カラオケで乃羽が歌っていた楽曲は原作通りで下記の通り。原作者福田晋一先生の音楽遍歴が窺えるロックンロールな選曲。歌詞も見比べると共通項が見えてくるだろう。
・THE PINBALLS『片目のウィリー』
・神聖かまってちゃん『ロックンロールは鳴り止まないっ』
・GOING STEADY『銀河鉄道の夜』
共感性重視なラブソングじゃなく青くさく感情剥き出しなロックなのが良きです。『ロックンロールは鳴り止まないっ』と共に物語と画面のテンションが高まっていく流れに原作既読でも思わず引き込まれる。からの予想外なオチ。乃羽、良いキャラをしている。
ここで、脇道に逸れるがせっかくなので上記の各バンドにも触れよう。
各種サブスクでも聴けるので、興味が湧いたら他の楽曲も是非。
THE PINBALLS
youtu.be
2006年結成の4人組バンド。しゃがれ声のボーカルとロックンロールやガレージロックのサウンド、独特な言葉選びの歌詞が特徴。
アニメタイアップでは、『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』EDの『劇場支配人のテーマ』、『池袋ウエストゲートパーク』OPの『ニードルノット』などがある。
2021年より活動休止中だが、ボーカルの古川貴之氏は現在MARSBERG SUBWAY SYSTEMというバンドで活動中。
個人的に好きなバンドでCDも買っていたが、一度もライブで観る機会がなかったのが心残り。楽曲は『アダムの肋骨』や『アンテナ』『ブロードウェイ』が好き。
神聖かまってちゃん
www.youtube.com
2008年結成の4人組バンド。現在では主流のネット発アーティストの先駆け的な存在で、パフォーマンス含めて一度聴けば忘れないであろうインパクトの持ち主。
アニメタイアップでは、『電波女と青春男』OPの『Os-宇宙人』、『進撃の巨人 The Final Season』OPの『僕の戦争』など。
『ロックンロールは鳴り止まないっ』はガールズバンドクライ#13のサブタイトルにも使用された。
GOING STEADY
open.spotify.com ※音量注意
現銀杏BOYZの峯田和伸氏が率いる4人組バンド。1996年結成の後、2003年解散。
2000年代前半にブームを起こした青春パンクとして名前が挙がるバンド。
『銀河鉄道の夜』は楽曲名からも分かる通り、宮沢賢治氏の『銀河鉄道の夜』からも着想を得ている。後に銀杏BOYZでのセルフカバー版も制作された。
因みに銀杏BOYZは、アニメ『Sonny Boy』OPの『少年少女』を手掛けた他、漫画『ふつうの軽音部』では『あいどんわなだい』『援助交際』『夢で逢えたら』『エンジェルベイビー』と計4曲も使用されている。
最後に
平たく言えば第1期から各段にクオリティアップした印象の第2期初回。
個人的には好きなアニメーターの参加、バニーガール、邦楽ロックの見事な3拍子で刺されてしまった。アニメ化が楽しみなエピソードだったが、100億万点です。
また、前述の通り、第1期のかっちりとした画面作りのイメージを良い意味で裏切ってくれた。
本作の原作は惜しまれながら今年2025年に完結してしまったが、アニメがどうアレンジしていくのか今後にも期待。
今回はこんなところで、それではまた。
■参考までに過去に書いた#08のレビュー
©福田晋一/SQUARE ENIX・アニメ「着せ恋」製作委員会
*1:山本健氏の投稿より『劇場版 ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』の制作後直ぐに本作に携わったとのこと(https://x.com/ponpokopi128/status/1940758955577442434)
*2:いずれのアニメーターも参加はその回限りである