AIで「面白い」を最大化する 吉本興業・FANYが描くクリエイター(芸人)×AIから生まれるエンタメの未来

2026年1月8日〜10日にかけて、東京ビッグサイトでXR・メタバース、AI、Web3及びコンテンツに関連する展示商談会「TOKYO DIGICONX」が開催された。その最終日に行われたトークセッション「『ネタ』を『世界IP』へ。吉本興業グループFANYが描く、AIとクリエイター(芸人)の共存と拡張」では、吉本興業グループでデジタルプラットフォーム事業を手がけるFANY代表取締役社長の梁弘一氏と、モデレーターとして日経BP総合研究所所長の河合保博氏が登壇。吉本興業のコンテンツバリューチェーン、エンタメビジネスの変革、AI活用の現在地、AI生成アニメへの参入、そして今後の展望という5つのトピックが語られた。
冒頭、河合氏がテクノロジーとの掛け算を意識し始めた時期について尋ねると、梁氏は「新しいテクノロジーが出てきたら、どんどん乗っかっていくのが基本姿勢」と答えた。
梁氏は2014年頃、ソフトバンクのPepperの中身の監修に携わった経験を持つ。
「当時は、今の生成AIみたいなLLM(大規模言語モデル)があったらいいなと思っていた。でもこれは技術的にイノベーションを3つぐらい超えないと実現しない世界だと考えていた。それが2022年のChatGPTの登場で実現して、テンションがすごく上がった」(梁氏)
コロナ禍で日本でも大きな注目を集めたメタバースも期待感はあったが、結局広く浸透するには至らなかった。一方、AIについては「あらゆる産業に浸透していく」と確信しているという。梁氏は「AIを無視する会社と、どんどん取り入れる会社とでは圧倒的な差がついていく」と語り、エンタメ業界も例外ではないと強調した。実際、2025年12月にはディズニーとOpenAIの提携など、海外では大手エンタメ企業のAI活用が進んでいる。
セッションでは、FANYが取り組むAI活用の具体像が紹介された。梁氏は、テクノロジーによってエンタメのスケーラビリティを実現する「3つの拡張」として、「身体・時間の拡張」(デジタルツイン)、「言語・文化の拡張」(ハイコンテキスト翻訳)、「形態・メディアの拡張」(AI IP生成)を挙げた。
従来のエンタメビジネスは「座席数×チケット単価×公演数」という物理的な制約の中にあった。芸人は体が一つしかなく、移動時間やスケジュールの限界がある。しかしデジタルツインを活用すれば、一人の芸人が同時に複数の場所で活動し、ファン一人ひとりとパーソナライズされた接点を持つことが可能になる。
具体的な取り組みとして、ロンドンブーツ1号2号の田村淳氏のYouTube配信が紹介された。AIの淳氏がスーパーチャット(投げ銭)をした視聴者の質問に自動で答えるという仕組みだ。田村氏は「自分のアバターが勝手に稼いでくれたらいい」という柔軟な考え方で、開発にも積極的に参画しているという。一方で、自分の知らないところでデジタルツインが面白くない発言をすればブランド毀損になると懸念する芸人もおり、反応は分かれている。
言語・文化の拡張では、独自のお笑い翻訳システム「CHAD 2」(Cross-cultural Humor Augmented Dialogue Tool)が紹介された。お笑いのロジックや関西弁などを学習させた翻訳システムで、通常の機械翻訳では訳せないニュアンスを再現する。たとえば「バイトの子が飛んじゃって」というセリフは、通常のAI翻訳では「fly out」と直訳されるが、CHAD 2では「He ran away」と文脈を理解した訳になる。「やっぱそうっすね」も「Yes, that's right」ではなく「I knew it」とネイティブに伝わる表現に変換される。
また、形態・メディアの拡張としては、ジェラードンのコントをアニメ化した映像が披露された。実写のコントの動きをAIがトレースし、アニメスタイルに変換するもので、芸人が頭の中で描いている世界観を映像として具現化できる。制作コストも従来のアニメ制作の10分の1程度に抑えられるという。
セッションの終盤、梁氏はAI活用における自身の持論を語った。
「AIテクノロジーは、面白いことを考える、もしくは考えたいクリエイターの才能を具体化するためにある。我々は生身の芸人を扱う会社なので、芸人の仕事を奪うことはしたくない」(梁氏)
これから吉本が運営する芸人・タレント養成所「NSC」に入る若い世代は「当然のようにAIを使ってネタを作ってくる」と梁氏は予測する。AIはアイデアを大量に提案可能で、講師の脳内を学習させればネタのレビューも可能になる。しかし、M-1グランプリのような緊張感のある舞台で大爆笑を誘うのは、あくまで人間のパフォーマンス力だと梁氏は強調する。
さらに梁氏は、「面白い」の可能性を社会課題の解決にも広げたいと語った。メンタルヘルスに不調を抱えている人を元気にする、教育のチューターとして子どもたちの学習を助けるなど、芸人のコミュニケーション能力をAIで再現できれば、エンタメの枠を超えた貢献ができるのではないかという。
現時点では「AIの芸人は血が通っていない」という声もあり、市場のニーズやユーザーの感情が追いついてくるのを待っている部分もあると梁氏は語る。しかし、ユースケースを限定すれば活用できる場面は確実にあるとして、技術の進歩と並行して芸人やファンへの啓蒙を進めていく姿勢を示した。
吉本興業といえば、テレビで活躍する芸人や劇場に通うコアなファンに支えられたお笑い業界のトップ企業というイメージが強い。しかし本セッションでは、テクノロジーを自社の強みと掛け合わせ、新たなビジネスチャンスやエンタメの可能性に果敢に挑む姿が浮かび上がった。
とりわけ印象的だったのは、「面白いを、もっと社会のために役立てる」という梁氏の言葉だ。エンタメやテクノロジーは単に「楽しいもの」として消費されるだけでは不十分であり、社会に貢献してこそ本質的な価値を持つ。そうした気概がFANY、ひいては吉本興業としてのAI戦略の根底に流れているように感じられた。





























