公的医療保険と通信建設業界、それぞれの「第三者加害」の語の定義・用法
概要
一般の人が「第三者加害」という語を目にする可能性がある場面は、もっぱら公的医療保険の手続きに関わる場面です。「第三者加害」の語自体の一般的な定義も、「公的医療保険分野における定義を一般的な定義とする」として差し支えないでしょう。
一方で、通信建設業界においては、「第三者加害」の語に独自の定義が存在します。しかも、通信建設業界における「第三者加害」の語の独自定義は、公的医療保険分野における定義を基準とすると誤解を招く内容です。
この記事では、「第三者加害」の語について、「公的医療保険の分野における定義」と「通信建設業界における定義」をそれぞれ説明します。
公的医療保険の分野における「第三者加害」
公的医療保険の分野において、「第三者加害」の語は「第三者による加害行為」という意味で用いられます。主に「本来加害者が補償すべき治療費等を、公的医療保険が立て替えて支払う」という文脈で用いられる語です。具体的な用例は例えば以下です。
「第三者行為災害」とは、労災保険の給付の原因である事故(災害)が第三者の行為などによって生じたものであって、労災保険の受給権者である被災労働者又は遺族に対して、第三者が損害賠償の義務を有しているものをいいます(交通事故等いわゆる加害者がいる場合)。
↑第三者行為災害【労災補償課】 - 厚生労働省 神奈川労働局 一部かっこ書きを省略。
第三者加害行為災害とは、公務遂行中又は通勤の途上において第三者による加害行為によって身体に損害を加えられた場合で民法等に基づく損害賠償請求権が生ずるものをいいます。その典型的な災害例は、交通事故、殴打事故などです。第三者加害行為災害の場合には、被災職員は基金へ補償請求ができると同時に、第三者にも損害賠償の請求ができます。
↑第三者加害行為の災害について - 地方公務員災害補償基金千葉県支部
交通事故や喧嘩など、第三者の行為による負傷で、健康保険で治療を受けたときには「第三者行為による傷病届」のご提出をお願いします。
自動車事故等の第三者行為によりケガをしたときの治療費は、本来、加害者が負担するのが原則です。しかし、業務上や通勤災害によるものでなければ、健康保険を使って治療を受けることができますが、この場合、加害者が支払うべき治療費を健康保険が立て替えて支払うこととなります。
↑事故にあったとき(第三者行為による傷病届等について) - 全国健康保険協会
いずれにせよ、公的医療保険の分野における「第三者加害」の語の用法は、「加害行為の行為主体は第三者」というのがポイントです。
通信建設業界における「第三者加害」
一方、通信建設業界における「第三者加害」の語は、「工事従事者による、第三者に対する加害行為」という意味で用いられます。公的医療保険の分野における「第三者加害」とは、主体と客体が入れ替わっています。「主体客体関係が真逆」というのは、明らかに誤解を招く違いです。
具体的な用例は例えば以下です。
2018年度は人身事故では「転落・転倒」、「重機・電動工具」に起因する事故および「第三者加害」事故、また作業ミスによる通信設備関連事故についてはケーブル切断や抜去対象の「マーキング」に絞って、 重点化した事故防止に取り組みます。
↑社会|CSR活動|サステナビリティ|会社情報 - エクシオグループ
今年1年、全員が人身・設備・交通・セキュリティ事故、第三者加害を絶対発生させないという信念をもって業務にあたってください。
↑2020年 小畑社長年頭あいさつ - 株式会社アストエンジ ミライト・ワンの子会社。主にNTT東西発注の工事に係る業務のアウトソーシングを業務目的とする。
R3.12.21 和歌山県 第三者加害 車道上でMH新設の為試験掘りを実施していたところ、掘削箇所へ通行人(目の不自由な方)が誤って立ち入り、掘削構内(深さ1.5m)へ転落
↑Safety News 「きらめき」 2022年4月号(PDF) - 東北情報インフラユニオン
「安全の鉄則」における記述
通信建設業界共通の安全作業ルールである「安全の鉄則」でも、「第三者加害」の語は、通信建設業界独自の定義に基づいて用いられています。関係する記述は以下です。
- 鉄則第二十一条…「第三者加害防止」の鉄則(道路上作業)
- 鉄則第二十一条…「第三者加害防止」の鉄則(道路上建柱作業)
- 鉄則第二十一条…「第三者加害防止」の鉄則(構内開口部作業)
- 鉄則第二十一条…「第三者加害防止」の鉄則(天井作業)
想定されている事故の内容は「道路上高所作業での機工具やケーブル等の落下により第三者が負傷する」「道路上掘削作業での掘削口転落、転倒により第三者が負傷する」といったものです。いずれも「工事従事者の行為により第三者が負傷する」というケースです。
代替表現「公衆災害」
一般的な建設業界には、「第三者加害」の通信建設業界独自の定義に対応する別の語が存在します。「公衆災害」という語がそれです。「公衆災害」の定義は、国土交通省が策定する建設工事公衆災害防止対策要綱にて以下の通りなされています。
当該工事の関係者以外の第三者の生命、身体及び財産に関する危害並びに迷惑
↑建設工事公衆災害防止対策要綱(土木工事編)(PDF) - 国土交通省
国土交通省が定めた要綱で定義された語であるゆえ、建設業界全体で通用すると考えて差し支えありません。
個人的感想
私自身は、当記事執筆時点では通信建設業界で働いており、業務上は「第三者加害の語について、通信建設業界の独自用法を用いなければならない」立場です。しかしながら、個人的には「『第三者加害』という語の使用は、業務上でも極力避ける」という方向性で業務に臨みたいと考えています。「より一般的な用法に対して、主体客体関係が入れ替わっており、業界外の人に誤解を招くことが明らかであると考える」「通信建設業界の独自用法の『第三者加害』には、建設業界一般で通用する代替表現が存在する」というのがその理由です。
通信建設では、掘削・床掘の語に独自用法が用いられている
一般土木工事・一般建築工事における掘削と床掘の違い
公共工事や民間建築工事といった、一般的な土木工事・建築工事1における土工には、掘削と床掘2の2種類が存在します。
掘削は、「現状の地盤面から施工の基準となる地盤面まで土砂等を掘り下げる作業」を指し、「埋戻しを伴わない」というのが前提とされます。一方の床掘は、「構造物等の築造・撤去を目的として、現状の地盤面または施工の基準となる地盤面から土砂を掘り下げる作業」を指し、「埋戻しを伴う」というのが前提とされます。「掘削は埋戻しを伴わない」「埋戻しを伴う土工は床掘である」というのが大きなポイントです。
通信建設における、土工を指す語の独自用法
通信建設、すなわち「電気通信事業の用に供する電気通信設備を対象とする建設工事」において、土工を指す語は独自の用法が採用されています。具体的には、「埋戻しを伴う土工に対して掘削の語を用いる」「床掘の語は用いない」というのが通信建設における独自用法です。
「埋戻しを伴う土工」とは、典型的には「電柱の新設・撤去」が該当します。「電柱新設時に下穴を掘る」「電柱撤去時に地面を原状に復帰する」といった作業は、埋戻しを伴う作業です。一般的な土木工事・建築工事であれば、疑問の余地なく「床掘」の語が用いられます。しかしながら、通信建設においては、電柱の新設・撤去に伴う土工は「掘削」と称されます。
一方、「埋戻しを伴う土工に対して掘削の語を用いる」ことから、通信建設において「床掘」の語は用法がありません。ゆえに、通信建設において「床掘」の語は用いられません。
一般的な土木工事・建築工事において、「掘削」の語と「埋戻し」の語は対応する関係にありません。「埋戻し」に対応する語は「床掘」です。しかしながら、通信建設においては、「掘削」の語に「埋戻し」の語が対応しているのです。
この独自用法は通信建設全体の話なのか?
掘削・床掘の独自用法は、通信建設全体で使われている可能性が高いです。「通信建設工事の発注者である電気通信事業者の間で、掘削・床掘の独自用法を用いることについて共通認識が存在する」というのがその理由です。
「電気通信事業者の間の共通認識」というのは、具体的には「電気通信主任技術者試験の出題内容」を指します。電気通信主任技術者は、電気通信事業の根拠法である電気通信事業法において、電気通信事業者に必置とされる技術者です。電気通信主任技術者試験は、同じく電気通信事業法を根拠法とする、電気通信主任技術者として配置される者の資質を問う国家試験です。ゆえに、電気通信主任技術者試験の出題内容は、電気通信事業者の間の共通認識であると考えて間違いありません。
令和4年度第2回電気通信主任技術者試験、科目「線路設備及び設備管理」、問5-(2)の解答群には以下の記述が存在します。
③ 管路設備に近接して掘削が行われる場合の影響範囲は…
④ とう道設備に近接して掘削が行われる場合…
「既存の地下構造物に近接する箇所で、埋戻しを伴わない土工が行われる」というのは、既存の地下構造物への影響が大きすぎるため現実的ではありません。したがって、当該記述における「掘削」の語は、一般的な土木工事・建築工事における床掘を指すと考えるのが妥当です。
電力関係の工事でも同様の用法が用いられている?
電力関係の工事においても、「埋戻しを伴う土工に対して掘削の語を用いる」という独自用法が用いられている可能性があります。
↑関西電力送配電のWebサイトには、「道路での掘削工事」と題されたページが存在します。当該Webページの記述は、「地中埋設電線路に接近する道路において土工を行う際の注意事項」を内容としています。こちらの「掘削」も、上述「電気通信主任技術者試験における記述」と同様、一般的な土木工事・建築工事であれば「床掘」の語が用いられる内容です。
架空線路建設…つり線・SSケーブル架渉
架空電気通信線路において、つり線は、非自己支持形ケーブルの張力を受け持つために用いられる構造部品です。一方、SSケーブル(自己支持形ケーブル)の張力は、SSケーブルの構造の一部である支持線が受け持ちます。
架空電気通信線路建設において、「つり線架渉」は、「電柱・支線新設」の次の手順となります。さらに次の手順は「リング・ハンガ類新設」及び「ケーブル架渉」となります。支持線と一体成型されたケーブルであるSSケーブルの架渉も、つり線架渉と概ね同様の手順により行われます。
各種留意事項
安全上の留意事項
つり線・SSケーブルの架渉は、労働安全衛生法でも危険有害業務とされている業務を多分に含む作業です。労働者が同作業に従事する場合、当該作業従事者は、労働安全衛生法上の一定の資格を取得している必要があります。
想定される危険性
つり線・SSケーブルの架渉において想定される危険性としては、以下のようなものが挙げられます。
- 屋外作業に起因する危険性
- 道路上作業に起因する危険性
- 高所作業に起因する危険性
- 重量物取扱いに起因する危険性
- (機械力を用いる場合)機械力を用いることに起因する危険性
- 刃物を用いることに起因する危険性
- 車両を用いることに起因する危険性
- 張力作業に起因する危険性
- 道路横断作業に起因する危険性
- (つり線架渉作業の場合)鋼撚り線に起因する危険性
必要となる資格
つり線・SSケーブルの架渉において必要となる資格は、以下のようなものが挙げられます。
- 柱上作業に必要となる資格一般
- 高所作業車(10m未満)特別教育修了、または上位資格
- フルハーネス型墜落制止器具特別教育修了
- (ドラムの持ち上げに機械力を用いる場合)玉掛け特別教育修了、または上位資格
- (延線に機械力を用いる場合)巻上げ機特別教育修了
その他の留意事項
つり線・SSケーブルの架渉は、複数人の協力によらなければ成り立たない作業です。当記事これ以降の記述で作業手順を追っていく中で、「これは1人でできる種類の作業ではない」という記述は多数存在します。
つり線・SSケーブルの架渉に限らず、通信建設業界で「外線工事」と総称されるカテゴリの工事は、一般に1人で完成させることができる種類の工事ではありません。1人で完成させることができない種類の工事では、「一人親方」という労務提供の形態は本質的に成り立ちません。外線工事カテゴリで一人親方が存在する場合、偽装請負1を疑ってかかったほうがいいと思われます。
つり線・SSケーブル架渉の手順
「つり線設置区間の各電柱に対し、必要な装柱設備は取り付けられていること」を前提とします。「つり線・SSケーブル架渉に必要な装柱設備」としては、以下を挙げることができます。
- 両端の電柱における電柱バンド
- 中間の電柱における吊架金物2
つり線・SSケーブルの架渉の基本的な手順は以下のとおりです。
- メッセンジャーワイヤードラムをジャッキに設置する
- 各柱に設置した電柱バンドに巻付けグリップを設置する
- つり線を設置する電柱間に、金車を掛けるための仮ロープを渡す
- 仮ロープに金車を掛け、金車内に引き綱を通す
- つり線本体を架渉する
- つり線本体の架渉に使用した金車・仮ロープを撤去する
メッセンジャーワイヤードラムのジャッキへの設置
本記事における「ジャッキ」は、「ケーブルドラム用ジャッキ」や「ドラムジャッキ」と称される器具を指します。
つり線ドラムにジャッキを設置する手順は以下のとおりです。
メッセンジャーワイヤーは鋼撚り線であり、メッセンジャーワイヤードラムは人力で扱うには相当に大きな重量があります。事故なく取り扱うには、相応に強靭な筋力と細心の注意が必要となります。
各柱に設置したバンドへの巻付けグリップの設置
つり線両端となる電柱に設置された電柱バンドに、つり線を固定するための巻付けグリップを設置します。巻付けグリップは、取り付ける鋼撚り線の太さに対応したものを設置する必要があります。
電柱間への仮ロープの渡し
つり線両端となる電柱の間・つり線を架渉する地上高に、金車を掛けるための仮ロープを渡します。
仮ロープを渡す際、仮ロープは各電柱に結びつけます。結びつけの固さは以下が目安です。
- 架渉作業中に仮ロープが取れない程度に固く結びつける
- 架渉作業後に仮ロープを撤去できる程度に結びつけは緩くする
金車・引き綱の設置
使用する道具は「操作棒」及び「金車」となります。
www.fujii-denko.co.jp ↑NTT発注の通信建設工事において、操作棒及び架渉用金車は、藤井電工製品を用いるのが常です。
www.yasuda-s.jp ↑4号金車を含む製品情報です。
操作棒は、ベルブロックをつり線等に引っ掛けるのと同じ操作棒を用います。金車を仮ロープ等に引っ掛ける技能も、ベルブロックをつり線等に引っ掛ける際に用いる技能と同じです。
つり線・SSケーブル架渉に用いる金車は、主に「架渉用金車(藤井電工 OA-40またはOA-60)」と「4号金車」の2種類となります。
架渉用金車は、ホイールが1つついた金車です。架渉区間の一般的な中間地点に用います。特に「藤井電工 OA-40またはOA-60」という品番の架渉用金車は、操作棒で通線部の開け閉めができる構造になっており、NTT東西発注工事における金車の設置・撤去は地上から操作棒を用いて行うのが常となっています。
4号金車は、ホイールが4つついた金車です。つり線やケーブルの繰出し点・牽引点・屈曲点等、架渉時に大きな力がかかる特定の地点に用います。
金車・引き綱の設置の全体の手順は以下の通りです。
- あらかじめ地上で金車に引き綱を通しておく
- 金車を操作棒で仮ロープの高さまで持ち上げ、仮ロープに引っ掛ける
- 操作棒を金車から外し、地上に降ろす
- 必要な数の金車を設置し終わるまで以上の手順を繰り返す
なお、4号金車のみは、人が高所に昇って引き綱を通し、仮ロープに固定します。4号金車は、操作棒でつり線等に引っ掛けることができる構造になっていないためです。
つり線本体の架渉
つり線本体の架渉は概ね以下の手順で行います。
- 引き綱の端にメッセンジャーワイヤーを接続する
- 引き綱を牽引し、メッセンジャーワイヤー(つり線本体)を延線する
- つり線本体を仮固定する
- つり線本体に所定の張力をかけ、本設用に固定する
- 架渉作業に使用した金車・仮ロープを撤去する
引き綱の端へのメッセンジャーワイヤーの接続
引き綱とメッセンジャーワイヤーの接続には、巻付けグリップやシャックル等を用います。メッセンジャーワイヤーが延線中によれたり絡んだりしないようにするために、引き綱とメッセンジャーワイヤーの接続点のは「より戻し」を設置します。
引き綱の牽引、延線
牽引点で引き綱を牽引し、ドラムに巻いてあるメッセンジャーワイヤーを電柱間に延線していきます。これがつり線本体となります。メッセンジャーワイヤーのドラムからの繰り出しを、労働者が機械力を用いて行う場合、繰り出し作業にあたる作業者は「巻上げ機運転特別教育を修了していること」が必要条件となります。
延線中に道路横断が発生する場合、道路横断箇所では必ず所定の地上高を確保しなければなりません。十分な地上高を確保しないのは、「延線作業中に引き綱やつり線本体が地上の人や物を引っ掛ける」といった第三者加害事故を発生させる事態につながります。
つり線本体の仮固定
延線作業が牽引箇所まで達したら、次は各中間柱において、吊架金物へつり線本体を仮に固定する作業を行います。この時点では、固定部の締め付けの強さは「吊架金物からつり線本体が脱落せず、かつ、吊架金物上でつり線本体が前後に動くだけのあそびがあるように」とします。この段階でつり線本体が吊架金物にきつく固定されていると、端末柱におけるつり線の張力の調整に支障をきたします。
つり線本体の本設用の固定
つり線本体を電柱に本設固定する手順は以下の通りです。
- 牽引側の電柱にて、つり線を巻付けグリップに固定する
- 繰出し側の電柱にて、つり線を固定・切断する
- 中間柱にて、吊架金物につり線を本設固定する
繰出し側の電柱においてつり線を固定・裁断する手順は以下の通りです。
- 張線器(シメラー)を用いて、つり線を電柱に仮固定する
- 張線器でつり線にかかる張力を調整する
- つり線にかかる張力を決定したら、つり線を巻付けグリップに固定する
- 巻付けグリップのドラム側でつり線を裁断する
金車・仮ロープの撤去
つり線本体の架渉に用いた金車及び仮ロープは、架渉作業が完了したら当然撤去して持ち帰らなければなりません。金車・仮ロープの撤去作業には、「人が高所に昇って行う必要がある作業」と「地上から操作棒を用いて行うことができる作業」の両方があります。
人が高所に昇って行う必要がある作業は以下です。
- 繰出し点・牽引点・屈曲点等における4号金車に対する作業
- 架渉したつり線本体を4号金車から外す作業
- 4号金車を仮ロープから外し、持ち帰る作業
- 中間柱における仮ロープの結び目の除去
- 結び目を除去するついでに、仮ロープを地上に降ろす作業を行う
地上から操作棒を用いて行うことができる作業は以下です。
- 架渉したつり線本体を架渉用金車から外す作業
- 架渉用金車を仮ロープから外し、地上に降ろす作業
SSケーブル特有のトピック
SSケーブルの架渉も、基本的には当記事ここまでに記述したつり線の架渉手順と同様の手順によって行います。しかしながら、SSケーブルの架渉には、つり線の架渉にはない特有の手順・注意事項が存在します。
首部切裂
SSケーブルの支持線部を電柱等に固定する際は、固定に用いる支持線部をケーブル部と分離する必要があります。SSケーブルにおいて、支持線部とケーブル部を分離する工程を「首部切裂」といいます。
ラインガード
SSケーブルの支持線部を中間柱に固定する場合は、支持線部の被覆を除去せず、支持線部にラインガードを取り付け、ラインガードの上から吊架金物3で固定します。
SSケーブルのつり線部の端末柱への固定
SSケーブルの支持線部を端末柱に固定する際には、単独のつり線を端末柱に固定する場合と同様、「巻付けグリップを用い、張力を調整して固定する」という作業を行います。
SSケーブルの支持線部のうち、巻付けグリップを取り付ける部分は、巻付けグリップを取り付けるにあたり被覆を除去する必要があります。一方で、支持線部の切断位置から一定の長さの範囲については、被覆を残す必要があります。
スパイラルスリーブ
www.denkensha.co.jp ↑電研社の製品説明です。スパイラルスリーブの生産メーカーは他にも数社あります。
SSケーブルにおいて、架渉作業のために支持線部と分離されたケーブル部に対しては、スパイラルスリーブによる防護を行います。電柱・つり線・金物等とケーブル被覆は、直接接触しないようにする必要があるためです。
通信建設線路系工事特有の危険性、「張力の内側」とは何か
通信建設のうち線路系の作業現場においては、特有の危険性として「張力の内側」という概念に頻繁に言及されます。一方で、「張力の内側」という概念への言及がなされるのは、ほぼ通信建設、それも線路系の作業現場に限られます。「張力の内側」は、一般には知られていない種類の危険性ではありますが、死亡や重度後遺障害といった重大な現場災害につながる危険性です。
「張力の内側」とは
「張力の内側」とは、通信建設のうち線路系の作業現場に特有の、重大な労働災害の原因となる危険性の一種です。
「張力の内側」という危険性が発生するのは、「三段梯子を吊り線やSSケーブル1に掛け、当該吊り線またはSSケーブルに分線金物で固定された引込線を撤去する」という工程です。架空電気通信線路における吊り線やSSケーブルは、電柱間を渡して高所に架けられているものであるため、「引込線の撤去」は必然的に高所作業2となります。
具体的には、以下のようなプロセスによって「張力の内側」という危険性が発生します。
- 引込線が固定された吊り線やSSケーブルには、引込線の方向に向かって張力が常時かかっている
- 近くに引込線が固定されている吊り線・SSケーブルに、引込線が伸びている側から三段梯子を掛けると、吊り線・SSケーブルに対し、既にかかっている張力と同じ方向の力がかかる
↓分線金物の例 e431.jp
場所としての「張力の内側」は、「近くに引込線が固定されている吊り線・SSケーブルにおける、引込線が伸びている側」を指します。「引込線撤去作業の際には、張力の内側に三段梯子を掛けて作業してはならない」というような使い方がされます。
「張力の内側」は、通信建設のうち線路系の作業現場においては非常に一般的な概念です。情報通信エンジニアリング協会「安全の鉄則」においても、「鉄則第九条…『梯子作業』の鉄則(張力に関わる作業) 」にて言及がなされています。
「張力の内側」の危険性
「張力の内側」に三段梯子を掛けて引込線を切断する3と、三段梯子が掛かっている吊り線・SSケーブルに対し、引込線があったのと逆の方向に、瞬間的に大きな力がかかります。力がかかる方向が一瞬で大きく変化するため、梯子上で作業をしている人はほぼ間違いなく墜落・転落となります。災害類型が「墜落・転落」であるゆえ、死亡や重度後遺障害といった重大な現場災害につながる危険性は非常に高いです。
↓NTTテクノクロス「VR安全意識向上サービス:引込線撤去作業」 www.youtube.com
「張力の内側」はなぜ一般に知られていないか
「張力の内側」が問題になるような張力は、「空中に張り巡らされた線路から家屋に向かって引込線を伸ばす」という工程によって発生します。そもそも「空中に張り巡らされた線路から家屋に向かって引込線を伸ばす」という工程自体が、有線電気通信設備工事、あるいは電力設備工事に固有の工程です。「張力の内側」が一般に知られていないのも当然と言えるでしょう。引用符付きの「"張力の内側"」でGoogle検索すると、(2023年11月23日時点で)検索結果が約2件しか出てきません。
「張力の内側」に起因する現場災害をなくすために
「張力の内側」に起因する現場災害をなくすための対策は、「撤去する引込線を吊り線やSSケーブルから外す工程は、引込線に起因する張力が吊り線・SSケーブルにかかっていない状態にしてから行う」ということに尽きます。具体的には、以下のような事柄を対策として挙げることができます。
- 引込線を撤去する際は、家屋側から順に固定を解除する
- 吊り線・SSケーブルから引込線を外す場合は、可能な限り高所作業車を使用する
- 吊り線・SSケーブルから引込線を外すために三段梯子を使用する際は、引込線が伸びている側と反対の側から三段梯子を掛ける
- 吊り線・SSケーブルから引込線を外す際には、引込線に張力がかかっていないことを確認してから外す
- 万が一の際の最後の防衛線として、昇降用転落防止器具を正しく使用する
日本でこそ実現できる、新たな職業社会のあり方
導入
日経ビジネス電子版の記事「RPAの進化で変わる価値観とキャリア設計」において、海老原嗣生氏は、「RPAの活用により実現しうる職業社会のあり方」について、以下のように記述しています。
1つの仕事に習熟するのに時間がかかる社会だと、なかなか他の職には移れません。その分今までは、熟練に対し敬意が払われ、それに釣り合う対価も用意されていました。こうした現在ある常識的な価値観が、RPAによって崩れていくのです。誰でも好きな仕事に簡単に就け、いやなら辞めてしまう、という真新しいキャリア観が広まるでしょう。
私としては、「非ホワイトカラー業務の多くが短期間で習得可能」「誰でも好きな仕事に簡単に就け、いやなら辞めてしまう」といった職業社会のあり方は、先進国の中では日本でこそ容易に実現できるものであると考えています。なぜなら、クラフトギルドの伝統が存在する欧米諸先進国に対し、日本にはクラフトギルドの伝統が欠如しているからです。
クラフトギルドとその性質
クラフトギルドは、中世から近世のヨーロッパで発達した職人組合の一形態を指します。クラフトギルドの大きな特徴として、「職種自治を強く志向する性質」「職種間の移動障壁を高く保とうとする性質」が挙げられます。
「職種自治」というのは、具体的には「職業活動の規則や基準を策定し、品質の保持や商業活動の監督を職人組合の責任で行うことにより、当該職種の利益を守る」という営みを指します。こうした営みにより、職人組合に属する職人の技術水準や職業尊厳が保たれ、外部の競争者による不正競争が排除されてきました。
一方で、クラフトギルドは、「内部者の利益を守り、競争を制限するために、新規の参入を制限・排除する」という志向も強く有していました。「新規参入の制限・排除」を行うための具体的な施策としては、「ギルド入会費の請求」「熟練度の証明の要求」が挙げられます。「新規参入の制限・排除」というのは、「職種間の移動障壁を高く保つための営み」とも言えます。
日本におけるクラフトギルドの伝統の欠如と、その帰結としての日本の職業社会の性質
二村一夫氏は、日本の職業社会の歴史的性質として「クラフト・ユニオニズムの伝統が存在しなかった、あるいはきわめて微弱であった」と言及しています。クラフトギルドの伝統が欠如していることによる職業社会のの帰結としては、「労働者の職種間移動が柔軟に行われること」「労働者組織が企業別に形成されること」「労働者が技術革新と専門化を積極的に受け入れること」が挙げられます。
クラフトギルドの伝統がある社会では、職種ごとに専門的な知識や技術が守られるため、職種をまたいだ労働者の移動に高い障壁が存在するケースが少なくありません。一方で、日本の職業社会においては、職種をまたいだ労働者の移動に対する抵抗は一般に少なく、職種をまたいだ労働者の移動が障壁なく行われています。
クラフトギルドの伝統がある社会では、一般に労働者の組織化は職種別に行われます。一方で、日本の職業社会においては、「企業別労働組合」に代表されるように、労働者の組織化が企業別に行われるのが一般的です。後述する「労働者が技術革新と専門化を積極的に受け入れること」という性質は、「労働者の組織化が企業別に行われ、企業が競争力を失うシナリオを労働者も恐れること」も成因の一つです。
クラフトギルドの伝統がある社会では、労働者組織は一般に「一つの技術や職種を維持・保護すること」を強く志向し、技術革新と専門化に対しては一般に抵抗勢力となります。一方で、日本においては、労働者組織が技術革新と専門化に対する抵抗勢力とはならず、むしろ技術革新と専門化を積極的に推し進める勢力となります。「企業が競争力を失うシナリオを労働者も恐れる」というのが主な理由です。
日本でこそ実現できる、新たな職業社会のあり方
海老原嗣生氏が日経ビジネス電子版の記事「RPAの進化で変わる価値観とキャリア設計」で示した「非ホワイトカラー業務の多くが短期間で習得可能」「誰でも好きな仕事に簡単に就け、いやなら辞めてしまう」といった職業社会のあり方は、「あらゆる職業が非熟練職化し、職種間の移動障壁が存在しない職業社会」と言えます。
クラフトギルドの性質は、「あらゆる職業が非熟練職化し、職種間の移動障壁が存在しない職業社会」とは相容れないものです。クラフトギルドの伝統を持つ社会においては、クラフトギルドの流れをくむ勢力が、「あらゆる職業が非熟練職化し、職種間の移動障壁が存在しない職業社会」の出現を阻止するために頑強な抵抗を行う勢力となることは避けられません。
一方で、日本の職業社会にはクラフトギルドの伝統が欠如しており、「あらゆる職業が非熟練職化し、職種間の移動障壁が存在しない職業社会」の実現に対する抵抗勢力は存在しないと言えます。ゆえに、海老原嗣生氏が日経ビジネス電子版の記事「RPAの進化で変わる価値観とキャリア設計」で示した職業社会のあり方は、日本でこそ実現可能な職業社会のあり方と言えるわけなのです。
これぞ、lifetime sportsだ。ダーツは何歳でも楽しめる
ダーツが生きがいとなっている98歳女性
twitter.com98歳女性、ダーツが生きがい 津波で自宅流され「今この瞬間を大切に」 https://t.co/o4gW79ehBP
— 河北新報オンライン (@kahoku_shimpo) 2023年3月7日
2023年3月8日付け、河北新報ONLINE上に掲載された記事です。
6年前というと、この記事に登場する女性がダーツを始めたのは92歳前後ということになります。
また、女性が参加している交流会は、他の参加メンバーも多くが80歳代とあります。
「80歳代、90歳代でも、プレイする側としてダーツを楽しむことができる」「90歳代でダーツを始めた人が実際に居る」…この記事一つでも、ダーツが年齢問わず楽しめるスポーツであることはよくわかります。
ダーツの対象年齢は、4歳から100歳以上まで
ダーツの大きな魅力の一つは、「何歳でもプレーする側として楽しむことができる」というものです。
上述エスダーツマガジンの記事は、小学生向けのダーツ体験会に関する記事です。
対象年齢下限の4歳というのは、「およそ20グラムくらいの物体を投げる」という身体運動が可能になる一般的な年齢です。「およそ20グラムくらいの物体を投げて、的に命中させることができる」という条件を満たすことができる身体能力があれば、ダーツはその時点で始めることができます1。
対象年齢上限のほうはどうでしょうか。「およそ20グラムくらいの物体を、2.5メートル弱離れた、高さ1.7mほどの場所にある的に向かって投げて、的に命中させることができる」…以上の要件を満たす身体能力さえあるならば、年齢関係なく、いつまでもプレーする側としてダーツを楽しむことができます。加齢とともに急激に衰えていく筋力・瞬発力・持久力は、ダーツをプレーする上では決定的となる身体能力ではありません。それよりもダーツに求められるのは、毎投同じ動作を繰り返すことができる身体動作の精度、精神的重圧に関係なく同じ動作を繰り返すことができるメンタルの強さ、どのようなルーティンをすれば毎投同じ動作を繰り返せるかについての自己理解…そういった能力のほうです。100歳以上でもダーツをプレーする側として楽しむことは可能なのです。冒頭で取り上げた「ダーツが生きがいとなっている98歳女性」という記事は、その象徴的なトピックと言えると思います。
私自身もダーツやってます
実は、私自身も昨年夏くらいからダーツをプレイしています。この記事を投稿した時点では、週に数日、主にインターネットカフェでダーツをプレーしています。
ダーツに限らず、「生涯スポーツと言うに値するスポーツ」に興味があります。「一般的な競技スポーツより参加の敷居が低い」「筋力・瞬発力・持久力が決定的な要素とならない」といった要素を持ったスポーツですね。具体的な種目としては、ビリヤードやボウリングなどといったところでしょうか。現在のところプレーまでしているのはダーツのみですが、そのようなスポーツがもっと広がればいいなぁとは思っています。
いや、それにしても「92歳前後でダーツを始め、今も元気にダーツをプレーする98歳女性」というのは、人生の到達点の姿として理想の形の一つと言っていいのではないでしょうか。その年齢まで、世の中の様々な事柄に興味関心を失わず、いつまでも若々しく生きていたいものです。
現代建設業と親方請負制
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上記文献「請負労働の法政策(濱口桂一郎、電機連合NAVI 2007年3月号 原稿)」の内容から、自分がまとめたり考えたりしたことを起こしてみた記事です。
親方請負制とは
親方請負制というのは明治期の工場労働において一般的であった労働形態です。より具体的には以下のようなスキームで構成されていました。
- 親方職工が工場主から仕事をまとめて請け負う
- 親方職工が工場主から受けた仕事を、部下の職工や徒弟に作業させる
- 親方職工の部下の職工と徒弟の賃金は親方職工を通じて配分される
親方職工制は、「制度上は請負だが、同時に親方職工もまた工場主に雇われた職工であった」いうのが大きな特徴です。現代の労働法制・職業安定法制においては、「請負契約であるから雇用契約ではない」という二分法が暗黙の前提となっていますが、親方職工制というのは、そのような二分法が全く通用しない世界だったのは明らかです。
現代建設業と親方請負制
現代の建設業における重層下請構造は、実態として明治以来の親方請負制と大きくは変わらないものであると思います。末端の事業者、とりわけ「一人親方と称されるような個人事業主」や「零細規模の事業主」の提供しているものは、実質的には単純労働とほぼ変わらないものです1 そのような前近代的な構造を残す労務提供の実態は、戦後に整備された法制度、とりわけ職業安定法制とは相いれないものです。
以下は、適正な業務請負の定義について定めた、職業安定法施行規則第4条第2項第1号~第4号の規定です。
- 作業の完成について事業主としての財政上及び法律上の全ての責任を負うものであること。
- 作業に従事する労働者を、指揮監督するものであること。
- 作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定された全ての義務を負うものであること。
- 自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く。)若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
建設業の現状と法制度は全くかけ離れたものとなっていることが、法制度、特に職業安定法制から見て建設業がアンタッチャブルな存在とされる2に至った原因ではないかと思います。
- 全建総連加盟組合のような「建設一人親方・零細事業主を主として構成される労働組合」は、「一人親方と称されるような個人事業主や零細事業主が労働者として処遇されること、労働法が完全に適用されること」を求めています。「事業主サイドに属する者が、自らが労働者として処遇されることを求める」というのは、アジャイル開発のような「本来の意味での業務請負」が成り立っている世界から見れば信じられない話です。↩
- 建設業と労働者派遣法の関係について、「現実に重層的な下請関係の下に業務処理が行われている中で、 建設労働者の雇用の改善等に関する法律により、労働者を雇用する者と指揮命令する者が一致する請負という形態となるよう雇用関係の明確化、雇用管理の近代化等の雇用改善を図るための措置が講じられており、労働者派遣事業という新たな労働力需給調整システムを導入することは、建設労働者の雇用改善を図る上で、かえって悪影響を及ぼすこととなり適当ではない」(高梨昌「詳解労働者派遣(日本労働協会 1985年)」)と、「前近代性を色濃く残す重層下請構造が存在する、まさにそれを理由として、労働者派遣法の適用対象外とされた」と解釈できる趣旨の記述が、1985年時点で存在しています。↩