海外文学読書録

書評と感想

深作欣二『仁義の墓場』(1975/日)

★★★★

終戦直後の新宿。河田組の石川力夫(渡哲也)が、兄弟分の今井幸三郎(梅宮辰夫)、杉浦誠(郷鍈治)と三国人の愚連隊を襲撃する。双方とも警察に摘発されるが、警察は石川たちを贔屓し、彼らだけを釈放する。その後、石川は後先考えない暴力的な振る舞いをして河田組に迷惑をかける。石川は遂に親分の河田徹(ハナ肇)を刺してしまった。

原作は藤田五郎の同名小説【Amazon】。

石川力夫は実在の人物で、三十歳で亡くなっている。本作はセミドキュメンタリーっぽい演出が目を引く。冒頭でモンタージュと共に関係者へのインタビューが流れるが、これはおそらくフェイクだろう。むしろ、フェイクであってほしい。もし本当にインタビューしていたのだったら興醒めしてしまう。こういう映画は胡乱なほうが面白いので。また、時々ナレーションが入ったり、画面がセピア色になったりする。前者はドキュメンタリーっぽい雰囲気を強化しているし、後者はカラー映像の合間に挿入されることでアクセントになっている。熟練の監督による手慣れた映画という趣だった。

石川の人物像がどうにも定まらない。やくざ社会のルールを知らずにやくざをしているアウトサイダーのように見える。暴力的な衝動に身を任せているため、規律を重視するやくざ組織に馴染まない。河田組は石川の後始末をして多大な損害を被った。のみならず、石川は自分のところの組長を刃物で刺している。やくざ社会は上下関係が厳しく、組長は親も同然だ。そんな親に手を上げるのだから狂っている。冒頭のインタビューによると、子供時代の石川は勉強ができておまけに切れ者だったという。故郷の人たちは、石川の頭の良さを主張していた。しかし、本作を見る限り賢さの片鱗もない。最初から最後まで自分が損するような行動を取り、破滅への道を突き進んでいる。本当に頭が良かったら、こんな道には進まなかっただろう。石川の行動にはこれっぽっちも合理性がない。それゆえに、見ているほうとしては彼の人物像を捉えきれないのである。

特に大阪で薬物に手を出してからは、石川の不合理な行動が加速していく。十年間の所払いを食らったのにわずか一年で舞い戻っているし、戻ったら戻ったでお世話になった兄弟分を射殺している。仁義が重んじられるやくざ社会で、石川はそれに反することを公然と行っていた。極めつけは石川が河田組を訪れるシーンで、彼は女(多岐川裕美)の遺骨を食べながら組長に金と土地を無心している。これには組長も面食らうばかり。「キチガイ野郎!」と罵られるのも納得の狂態だった。

石川と小崎(田中邦衛)が木造家屋の二階に立て籠もるシーン。警察とやくざが現場に駆けつけ、一丸となって石を投げつけている。警察は住宅街だから発砲できないし、やくざは目の前に警察がいるから発砲できない。だから石を投げているのだ。この投石がなかなか効果的で、石川も小崎も音を上げて外に飛び出している。このシーンは、警察とやくざが共闘しているところが両者の有り様を皮肉っていて可笑しい。戦後しばらくの間、警察とやくざはもたれ合っていた。実録やくざ映画は、その不都合な事実を容赦なく突きつけてくる。

終盤で三下のやくざが石川を襲撃する。このシーンでは、スローモーションによるこってりした演出が味わえる。また、石川が飛び降り自殺するシーンでもスローモーションが使われており、地面に激突した瞬間の迫力を遺憾なく表現している。熟練の監督による手慣れた演出を堪能した。