★★★★
産婦人科医ゴローと彼に懐いていた少女さりなが転生する。2人は人気アイドル・アイの双子の子供として生まれ変わることになった。ゴローはアクア、さりなはルビーとして生きるが、2人が4歳のとき、アイがファンに刺殺される。その後、高校生になったアクアは母親の復讐のため芸能界に接近する。
全16巻。
本作で描かれる嘘は、芸能界の虚構や身を守るための方便という表面的な意味にとどまらない。もっと深いところでは、大切な人を守るために選ばれる嘘があり、その嘘こそが登場人物の人生を静かにねじ曲げていく。物語の核心には、愛を知らない者たちが抱え込んだ痛みが横たわっている。
アイはファンの前で偶像として振る舞うために嘘をついてきたが、それは職業上の建前だけではなかった。彼女は実の母親に捨てられ、施設で育ち、無条件の愛に触れた経験がほとんどない。誰かが優しさを見せても、それをそのまま受け取る術を知らなかった。だからこそ、「嘘はとびきりの愛」という言葉には、愛を理解できなかった少女が辿り着いた精一杯の答えと解釈できる。彼女にとって嘘はやさしさであり、愛だと信じようとした最後の拠り所だった。
カミキヒカルもまた、本当の愛を知らないまま成長した。彼は11歳のときに大人の女性から望まない関係を強いられており、この経験が彼の人間関係の感覚を深く傷つけている。その後の人生でも健全な愛情を与えてくれる大人に出会えず、愛とは執着や支配の延長線にあるものとしてしか理解できなくなっていった。それでもアイに惹かれたのは、互いの欠けた部分が奇妙に噛み合ったからであり、不完全で歪んだ関係でありながら、そこには確かな結びつきがあった。
アイはカミキの子を身ごもりながら、彼を突き放す嘘を選んだ。本当は彼のことが好きでずっと一緒にいたかったのに、その気持ちを表には出さなかった。彼女が距離をとり、冷たく振る舞ったのは、カミキを守るためだったのだ。このままでは彼の将来に響くと考えたからこそ、敢えて関係を断ち切った。この嘘は彼女の優しさであり、同時に彼女の孤独が生んだ残酷な選択でもあった。
アクアの嘘もまた、守るために始まったものだ。彼は転生によって再び人生を得たが、新しい人生を楽しむためではなく、使命のために生まれ直している。彼の最大の使命は復讐だが、同時に医者としてさりなを救えなかった後悔と、ルビーだけはこの世界の地獄から守りたいという強い願いが、彼の行動のすべてを方向づけている。真意を悟られぬよう冷静なふりをし、誰にも寄りかからずに生きる彼の姿は、大切な人を守るためにつく嘘そのものだった。
アクアには最初から、この世界で安らかに生きる未来がほとんど残されていなかった。彼にとって人生は使命の延長であり、その使命が終わった先には静かな終わりしかない。終盤でカミキと無理心中したのは、救いのない行動のように見えて、実はアクアが歩んできた道の自然な帰結なのだ。彼が命を賭けてルビーを守ったのは、医者だった頃に守れなかったさりなへの罪滅ぼしでもある。彼は最初の人生で果たせなかったことを、ようやくこの世界で成し遂げたのだ。
本作の嘘は、誰かを守りたいという切実な願いが形を変えたものだ。愛を知らないまま育った者が、それでも誰かを愛そうとする。けれどもその愛は不器用で、健全な形をとることができない。それでも彼らは、自分なりの方法で愛を表現しようとした。中にはカミキのように壊れてしまった者もいたが、ほとんどは他人を守るために嘘をついた。やがてその嘘が重なり合い、誰も望まなかった悲劇を招く。アクアやアイが積み重ねた嘘は、それぞれの傷と優しさの総和であり、その連鎖が物語を不可逆な方向へと押し出していった。本作が描いたのは、嘘という形でしか愛を伝えられなかった者たちの悲劇である。
