★★★
大型貨物船の船医・小室(石原裕次郎)が船を降りる。彼は小さな医院を開業する予定だった。小室は東京に帰る前に伊豆に寄り、散弾銃で狩猟をする。ところが、そこで殺人事件に巻き込まれてしまう。被害者の娘・圭子(芦川いづみ)と息子・雅夫(川地民夫)と顔を合わせ、さらには親友・手納(二谷英明)の消息を知る。手納の内縁の妻・悠子(南田洋子)とは浅からぬ縁があり……。
原作は菊村到の同名小説。
医者にしてハンターという小室の造形が目を引く。というのも、彼は人の命を救い、動物の命を奪う、そのような分裂を抱えているのだ。しかし、本作においてそこが焦点になることはない。小室にとって重要なのは、自然との調和である。彼は心の底で孤独を抱きしめており、山や海といった野生に還ることで平穏を得ている。そのせいか、悠子と再会しても落ち着いていた。
かつて悠子は小室に惚れていたが、親友の手納が悠子に懸想していたため、小室は身を引いて船に乗った。はっきりとは説明されないが、そのような過去が窺えるのである。再会後、悠子は思いの丈を小室にぶつける。ところが、小室はやんわりと拒否している。こういった態度は、自然と調和しているが故だろう。孤独を愛する性分が、英雄的なダンディズムを生んでいる。
犯罪に手を染めた手納は死を偽装しており、世間から身を隠している。小室も当初は手納が死んでいたと思い込んでいた。しかし、いつまでも隠し通せるわけもない。小室と手納の再会は劇的で、小室と悠子が部屋で話している最中、突然カーテンが開いて手納が出てくるのである。その際、手納の姿は闇に紛れてよく見えなかった。こういった演出はフィルム・ノワールを思わせるところがあり、本作が殺人ミステリという建付けであることを強く意識させる。
刑事(大坂志郎)が捜査情報を逐一小室に報告してくるところも、ミステリにありがちである。リアリズムよりも語りの経済性を重視しているのだろう。現実では一般人に捜査情報を漏らしたりしないわけで、牧歌的な雰囲気が印象に残る。
川地民夫演じる雅夫が、小室の弟分みたいにくっついているところがいい。彼もまた射撃を嗜むが、腕はあまりよくないようである。小室と雅夫は散弾銃を入れたケースを肩に掛け、一緒に旅している。その様子が微笑ましかった。この時、石原裕次郎は25歳、川地民夫は21歳。4歳差しかないのに驚く(ちなみに、芦川いづみは24歳)。
新潟の油田施設。悪党が新聞に火をつけて油田に放り込んだら、盛大な炎が吹き上げた。このシーンはなかなか壮観である。また、ガスバーナーでダイナマイト貯蔵庫の錠前を焼き切るシーンがある。当時のガスバーナーは作りが雑だったようで、現代のものよりも炎が拡散されている。ガスバーナーを持って移動するシーンでは、役者に燃え移らないかハラハラした。
ダイナマイトの爆発から群衆が逃げ惑うシーン。思ったよりもエキストラが多くて迫力があった。5~60人はいたのではないか。彼らは直前まで呑気に宴会をしていた。人の数が多いと、画面から圧を感じて得した気分になる。
惜しむらくは、芦川いづみの出番が少ないところだ。本作のヒロイン格は南田洋子で、芦川は後方に追いやられている。
