★★★
中国系移民のエヴリン(ミシェル・ヨー)は夫のウェイモンド(キー・ホイ・クァン)とコインランドリーを経営していた。夫婦の間には娘のジョイ(ステファニー・スー)がいる。エヴリンのコインランドリーは国税庁の監査対象となっており、その処理のため職員と面会することになった。面会の最中、マルチバースから来たウェイモンドから指令を受ける。エヴリンには宇宙の崩壊を防ぐというミッションが課せられるが……。
宇宙の崩壊を防ぐことと家族の絆を取り戻すことが重なっているところは、日本のセカイ系を彷彿とさせる。というのも、ほとんど家族の問題なのだ。宇宙の崩壊を目論むジョブ・トゥパキはアルファバースのジョイだし、ジョイをそのような「悪」に仕立てたのはアルファバースのエヴリンである。そして、アルファバースのウェイモンドは宇宙の崩壊を防ぐため、マルチバースのエヴリンに協力を求めていた。彼は何度も試行錯誤しては失敗し、遂にこの世界線に辿り着いたのである。エヴリンたちはそれぞれの宇宙でそれぞれ違った人生を歩んでいる。ヴァースジャンプを駆使して並行世界に飛び、そこの自分から能力を借りて戦うのが基本線だ。宇宙を救うという壮大なミッションが狭い人間関係に集約されている。これぞセカイ系という構えだった。
映像がだいぶ冒険していて、クリストファー・ノーランばりに混沌としている。ヴァースジャンプによって実存が分裂する描写は、二つの世界に同時に自分がいるという感覚を上手く表現していたし、VFXを駆使したカンフーアクションも、『仮面ライダー』を高級にしたようなもので見応えがある。何より特徴的なのはシュールなギャグを盛り込んでいるところだ。ヴァースジャンプをするには敵も味方も「奇妙なこと」をする必要がある。それも中途半端に奇妙では駄目で、ある程度振り切ってないとエネルギーが貯まらない。そのせいで変人博覧会みたいになっている。みながみな大真面目に間抜けなことをしている様子はとてもシュールだ。こういった設定も混沌とした映像に拍車をかけている。
とはいえ、個人的にこのような混沌とした映像はあまり好きではない。『マトリックス』も『TENET テネット』もやってることはすごいと思うが、全体的にゴチャゴチャしているところが苦手だ。そもそも僕はサイバーパンクと相性が悪く、たとえば『ニューロマンサー』【Amazon】を読むのにえらく苦労した覚えがある。本作も表現としてはサイバーパンクに近い。ゴチャゴチャした映像は好みが分かれるだろう。小説にせよ映画にせよ、サイバーパンクみたいなものはどうにも受け付けないのだった。
一番の見所は終盤の戦いで、エヴリンが能力を駆使して敵と和解していく。敵と言ってもみんなエヴリンの関係者であり、アルファバースの存在が敵になっているだけである。こういうのは狭い人間関係だからこそできる技だ。特に国税庁の監察官(ジェイミー・リー・カーティス)との和解はハートフルで素晴らしい。こちらのバースでは底意地が悪く仲が険悪だっただけに、彼女の違った一面が見れたところが良かった。
