海外文学読書録

書評と感想

プレストン・スタージェス『レディ・イヴ』(1941/米)

レディ・イヴ(字幕版)

レディ・イヴ(字幕版)

  • B.スタンウィック
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★★★

女詐欺師のジーン・ハリントン(バーバラ・スタンウィック)が、御曹司のチャールズ・パイク(ヘンリー・フォンダ)に接近する。チャールズはヘビ好きの変人だった。やがて2人は恋に落ちるも、ジーンの正体がバレて破局する。その後、ジーンは金持ちのレディ・イヴに成りすましてチャールズに復讐するのだった。

バーバラ・スタンウィックの美脚が印象的だった。ヘイズ・コードの時代はあからさまな濡れ場が描けなかったから、それに代替するようなシーンを用意するわけだが、本作の場合はスタンウィックの美脚である。特にヘンリー・フォンダがスタンウィックに靴を履かせるシーンは下手な濡れ場よりもエロティックだ。おそらく『言の葉の庭』は本作からインスピレーションを受けたのだろう(新海誠は足を採寸するシーンをセックスの代替として描いている)。件のシーンはセックスよりも遥かに性的でドキドキした。

コメディの基本は反復にある、とはよく言われることで、ご多分に漏れず本作もその手法が使われている。たとえば、2人が出会うシーンではジーンがチャールズを足で引っ掛けて転ばせているが、これは再会のシーンで反復されている。実はこの間に2人はひねくれた接触をしているが、新たに出会い直すために出会いのシーンを反復しているのだ。すなわち、この反復は再出発の象徴である。また、本作ではチャールズがやたら転んでいる。しかも、ただ転んでいるのではなく、転んだ理由はすべてジーン絡みである。レディ・イヴがあまりにジーンにそっくりだったため、動揺して2度も転んでいるのだ。そもそもジーンとの出会いが「転ばされたこと」にあるのを考えると、チャールズにとって転ぶことはジーンとの出会いに結びつく。レディ・イヴを前にして転んだことも出会い直しの一種なのだ。本作は奥手の男性が経験豊富な女性に転ばされる映画と言っていい。転ぶことをここまで象徴的に用いたところが面白かった。

ジーンの「復讐」はやたらと大掛かりで手が込んでいるが、これはチャールズに対する愛憎の大きさを物語っているのだろう。愛憎が大きいからこそ手間を惜しまず、傍から見て無謀な計画に着手している。しかも、この「復讐」はただの復讐ではない。復讐しつつ復縁を狙っているのだ。「復讐」と称したのは協力者を得るためで、最終的な目標は元の鞘に収まることである。詐欺師らしい実に回りくどいやり口だが、この計画を成功させることでジーンのチャールズに対する優位を鮮やかに示している。結局のところ、チャールズはジーンの手のひらの上で転がされたのだ。ここまで女性優位の関係を打ち出したのは意外で、うるさ型のフェミニストも文句がないだろうと思われる。

ジーンとレディ・イヴは瓜二つでチャールズも一度は同一人物だと疑っていたが、それでも上手く丸め込まれてしまうのが可笑しい。彼の人生経験の少なさが浮き彫りになっている。また、レディ・イヴが次々と男の名前を出すことでチャールズが離れていくところは、当時の倫理観が垣間見えて興味深かった。当時としてはあれがビッチなのだろう。チャールズの潔癖さもまた人生経験が少ないことを物語っている。