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2020.01.07
AAAタイトルに触れるということは、単にゲームを遊ぶというだけではなく、ビデオゲームの進歩自体を体感することでもあった。
AAAタイトルの限界。このビジネスは、いつまでも続けられるのか?
長いあいだ、ビデオゲームは永遠に進歩と拡大を続けるものだと思っていた。
80年代から今までのビデオゲームに触れている人ならば、そう考えるのも不思議じゃないだろう。しかし2025年のビデオゲームで話題になった『Clair Obscur: Expedition 33』(以下、Expedition 33)に触れ「東京ゲームショウ2025(以下、TGS2025)」、そして「日本ゲーム大賞2025」の結果を見ていると、その考えに終わりが来つつあるのを感じる。
ビデオゲームは驚異的な早さで進歩を見せつけてきた。産業的にも文化的にも。数年ごとに処理能力が向上したハードが登場し、表現できる限界を更新し続けた。いま振り返れば、その進歩はまるで植物が高速で種から花を咲かせるタイムラプス動画のようでもあった。
莫大な予算とスタッフによって開発されるゲームは “AAAタイトル”と呼ばれている。それは産業と技術と文化の進歩と拡大を示すものでもある。
しかし、今年の「TGS2025」で僕が気になったのはAAAタイトルじゃなかった。大手出版社や他業種の企業がインディーゲームに参入した事例だ。日本ゲーム大賞などで集英社や講談社のゲームが賞に選ばれることが目立った。
これを「個人クリエイターの力が生きる、インディーゲームの時代が来た」と見るべきなんだろうか? そうは思わない。自分が感じたのは……あえて名づけるとすれば“ポストAAAタイトルの時代”だった。ビデオゲームの進歩と拡大の時代が限界を迎えたあと、産業の比重は大作でもなく、小規模なタイトルでもない、中間領域にかかる時代が来たのかもしれない。
目次
- AAAタイトルの限界。このビジネスは、いつまでも続けられるのか?
- AAAタイトルを取り巻く、ゲーム産業の膠着状態
- ポストAAAタイトルの時代を象徴する『Expedition 33』
- 日本ゲーム大賞を受賞したタイトルに観る、ポストAAAの兆候
- 集英社、講談社──大手出版社たちが生み出す、 “ポストAAAタイトル”
- 出版社以外の異業種からの参入が目立った「東京ゲームショウ2025」
- ビデオゲーム産業で何かが終わり、ジャンルが再編されていく過程を示す時代
「東京ゲームショウ2025」筆者撮影
ポストAAAタイトルの時代について語る前に、まずAAAタイトルの時代を振り返ったほうがいいだろう。
AAAタイトルに触れるということは、単にゲームを遊ぶというだけではなく、ビデオゲームの進歩自体を体感することでもあった。
そもそもAAAタイトルという名称は、債券の信用リスクを表す言葉がビデオゲームの大作に流用されてきたと言われている。債券におけるAAAとは、財務上の期待に応える能力が最も高く、安全な債券に割り当てられるものを指す。
この言葉がゲームに使われるということは、つまりビジネスとして多額の予算をかけても、手堅く回収が見込めるタイトルということだ。戦争を題材とするFPS「コールオブデューティ」シリーズや、都市を舞台とするオープンワールド「グランド・セフト・オート」シリーズなどなどが、ゲームの進歩と拡大をけん引してきた。同時に、ビジネスとして投資の回収が期待できるゲームでもあるため、AAAタイトルと呼ばれてきた。
進歩の目安としてグラフィックはわかりやすいかもしれない。かつて荒々しいドットで描かれた2Dキャラから、肌の毛穴すらわかるフォトリアルな3Dの人物に進歩するまでわずか数十年。驚異的なグラフィックとサウンドで彩られることで、ゲームの体験は拡大しつづけていくものだと信じていた。
だがビデオゲームの進歩と拡大に伴い、AAAタイトルにかけられる予算は膨れ上がってゆく。
自分がそれを最初に生々しく感じたのは学生のとき、1999年のことだ。セガが自社最後の家庭用ゲーム機、ドリームキャストにてリリースした『シェンムー 第一章 横須賀』(以下、シェンムー)に制作費70億円をかけられていたことをいまだに覚えている。
『シェンムー』には当時、その内容に衝撃を受けた。リアルタイム3DCGで日本の日常風景が現実と見まがうかのように精微に描かれていた。さらに日常動作の数々をゲーム内で実現できた。それまでのゲームで出来なかったリアリズムを、これからのゲームは当たり前にやるようになるのだろうか? ゲームの内容には賛否が分かれていた。しかし莫大な予算で次世代のビジョンをつくり出す大きな流れを感じたのは確かだ。
しかしある時期から、ゲームでグラフィックの進歩で目立ったものを感じにくくなる。そのあたりからビデオゲームの純粋な進歩について少し思うところが出てくる。
もちろん、ハイエンドなリアルタイム3DCGグラフィックを60fpsで描画し続けられるまでに、現状のPCのグラフィックボードやCPUなどのパーツ、そして家庭用ゲーム機のスペックは上がり続けてはいる。依然として進歩と拡大を体感する機会は続いているように思える。
だんだんと、ある疑問が浮かび上がるようになった。いまのAAAタイトルとはビデオゲームにとって “予算をかけて、手堅く回収が見込めるタイトル”なのだろうか?
興味深い話がある。MMORPGの元祖『ウルティマオンライン』などに関わったゲームクリエイターのベテラン、ラファ・コスターは、2017年に自らのブログにてAAAタイトルが過去数十年で指数関数的に開発費が膨れ上がったことを指摘している(外部リンク)。
ラファによれば、マーケティング費用抜きの開発費について各時代でこのように変わったという。1995年の段階では約200万ドル(日本円で約1.9億円)だった。ところが2000年には400万ドル(約4.4億円)と倍になり、さらに2005年には1200万ドル(約13.2億円)まで上昇。それどころか2010年には4000万ドル(約36億円)という数値となる。開発費の上昇は止まらない。2015年には凄まじい金額が飛び交う。なんと1億2000万ドル(約144億円)以上にまで上昇した。
現在はどうか? 恐ろしい数値が推測された。2023年にPS5でリリースされたアクションゲーム『Marvel's Spider-Man 2』は、なんとマーケティング費など込みで約3億ドル(約420億円)という莫大な金額になったと言われている。
ここまでの開発費を回収できるのか……? 『Marvel's Spider-Man 2』は今日のAAAタイトルを取りまくひとつのサンプルとなる事件に遭遇する。
本作のデベロッパーのインソムニアックゲームズが大規模なハッキング被害に遭ったことで、社内情報がリークされてしまった。そこで様々な内部資料が流出した中で、開発費にまつわる内情がメディアに注目されてしまう。
インソムニアックゲームズのリークを報じたフォーブスは、流出した情報と公式に発表された販売本数から推察される売り上げからゲーム市場の先行きを不安視した(外部リンク)。
「発売から2か月が経過したにも関わらず、まだ開発費の回収をしきれていないのではないか? ゲームは長く売れ続けるから、いずれ黒字化するのだろうが、この状況がいつまで続くのか」そうフォーブスは現状のAAAタイトルのビジネスが限界に来ていることを示唆した。AAAタイトルのリリースで投資を回収し、利益が確定するまでのスパンが長引き始めていると考えていた。
ここまでAAAと呼ばれるタイトルの予算が膨れ上がってしまうと、手堅いビジネスと言えるのだろうか?
当の関係者やクリエイターからもこのままの開発が持続できるかどうか疑問を呈する意見が出始めた。今から5年前の2020年の段階でも、元PlayStation Worldwide Studiosのショーン・レイデン氏が「AAAタイトルは持続不可能」だと語っている(外部リンク)。年を追うごとに開発費や開発期間が膨大になっていくモデルに対し、「次の世代では、これらの数字を2倍にして成長できると考えるのは無理だと思います」と述べた。
日本では2025年6月に「ITmedia」が桜井政博氏に取材した際、「ゲーム市場の今後」についてを質問した。桜井氏は以下のように答えた。
正直なところ、一寸先は闇ですね。現在のような大規模なゲームを作ろうとすると、手間がかかりすぎて持続可能ではない状況に来ていると思います。このままではいけないとは感じていますが、現時点で有効な打開策として思いつくのは生成AIくらいです。生成AIを活用することで作業効率を上げるなど、スキームを変えていかなければならない段階に来ていると感じます、『スマブラ』『カービィ』生みの親に聞く ヒット作を生み出し続けるマネジメント(2/2 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン
だが英語圏のゲームメディア「GameSpot」では、桜井氏による「生成AIで状況を打開」という考えを疑問視する記事をまとめている(外部リンク)。
GameSpotは任天堂アメリカの社長であるダグ・バウザー氏による「AIがゲームの未来において重要な役割を果たすと考えているが、優れたゲームをつくるには人間的の着手が常に必要」などの指摘を引用した。ゲーム産業の関係者は、必ずしも生成AIが産業の限界を打開できると考えているわけではなかった。
結局のところ、これまでの産業のかたちを変えなくてはならないと多くの人が思っていても、代案は見つかっていない。ポストAAAタイトル時代の大きな背景には、この膠着状態がある。
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