2025年7月16日、日本生命保険は一部の報道を受けて同社からの銀行出向者が行内情報の持ち出しを行っていたと公表しました。金融庁は今回の事案について、日本生命保険に対して報告徴求命令を発出しています。ここでは関連する情報をまとめます。
社外秘資料を撮影しLINEで管理職へ送信か
- 日本生命保険が出向させていた従業員の出向先は三菱UFJ銀行であると報じられている(同社は固有名を公表せず、「特定の銀行」と記載)。三菱UFJ銀行は保険商品の提案力向上を目的に、保険会社から約200人規模の人員を受け入れており、出向者は保険商品の販売や人材育成を担当していた。*1
- 出向者が持ち出したのは、銀行窓口での保険販売に関する業績評価基準(2024年度の行員業績評価体系)、銀行の保険販売戦略、他生命保険会社の商品改定状況などに関する内部資料であり、2024年3月から4月にかけて行われた。
- 出向者は銀行側の上席者に確認を取らず、社外秘扱いと認識した資料を持ち出していたとされる。三菱UFJ銀行は、生保各社と守秘義務を明記した契約書を交わしており、出向者個人とも機密保持の誓約書を締結していた。*2 *3 また、行為が銀行側に伝わらないよう、無断撮影した画像には「逆流厳禁」と表示し、表紙には「内部資料もあるので逆流厳禁でお願いします」と明記してやり取りを行っていた。*4
- 出向者は資料を写真撮影し、LINEで管理職に送付していたとみられる。さらに、内部資料を掲載した社内向け資料を部内に共有しており、送信先には担当役員も含まれていたが、コンプライアンス部門への連絡は行われなかった。*5 *6 三菱UFJ銀行側は詳細を調査中としつつ、私用スマートフォンなどを利用して行内セキュリティを回避した可能性があるとみている。*7 また、資料を受領した金融法人担当部門の管理職は、日本生命グループやニッセイ・ウェルス生命保険など、メガバンク営業の関係者約270人に共有していた。*8 *9
- 同社は持ち出しの目的について、自社保険商品の販売推進および銀行業績評価体系変更による影響伝達であったと説明している。
金融庁が報告徴求命令
- 日本生命保険は金融庁へ事案を報告し、金融庁は同社に対し保険業法第128条第1項に基づく報告徴求命令を発出、事実関係や原因、内部管理体制について2025年8月18日までに報告するよう求めた。*10
- 生命保険協会会長は今回の事案を受け、「必要があれば協会として適切な対応を講じる」と述べた。2024年8月には東京海上日動火災保険からの出向者による顧客情報漏洩事案があり、生保各社で調査を実施していたが、今回のようなケースは想定していなかった(個人情報・企業情報の漏洩調査を優先していた)と説明した。「調査に漏れがないか、状況を見て必要があれば再調査を行う」としている。*11 *12
調査開始直後に情報削除か
- 日本生命保険は今回の事案について、外部からの問い合わせ(朝日新聞からの取材とみられる)を受けて把握した。*13 2024年9月には出向経験者を対象とする情報漏洩調査が行われたが、当時の調査は個人情報に関するものであり、本件は把握できなかったという。*14 また、2024年8月および11月に金融庁が生命保険各社に要求した調査に対し、日本生命保険は該当事案なしと報告していた。*15 *16 *17
- 事案に関する問い合わせを受けて、本件に関する情報が保存されていた金融法人部門のフォルダーが削除された可能性があると報じられた。*18 この削除について、同社は調査中であるため個別事案への回答は控えるとしつつ、仮に削除があっても復元可能であり、調査への影響はないとの見通しを示している。*19
- 同社は外部弁護士の協力を得て、社員約60名体制で調査にあたっている。出向者の行為が不正競争防止法(営業秘密の侵害)に抵触するかについて、同社社長は社外弁護士と確認を進める方針を示した。*20
三菱UFJ銀行は既に出向受け入れを取りやめ
- 三菱UFJ銀行は、保険会社からの出向者を2026年3月末までにゼロにする計画を明らかにした。既に新規の受け入れは停止しており、出向廃止は大手銀行として初めてとされる。日本生命保険からの出向者による本件については詳細を確認中であり、モニタリング体制の強化など必要な措置を講じるとしている。
- 出向者の扱いについては、出向元の保険会社に戻すか、同行へ転籍させる方針と三菱UFJ銀行頭取は説明する。*21
- 出向受け入れ廃止の決定は本件が直接の理由ではなく、金融庁が2025年5月に公表した「『保険会社向けの総合的な監督指針』の一部改正(案)の公表について」を踏まえたものである。案文中には「保険代理店等に対する不適切な出向の防止」が含まれており、これを受けて廃止を決定した。*22
金融庁への調査結果を公開
- 金融庁からの報告徴求命令を受けた調査報告を行ったとして、その内容について公表した。同社からの金融機関への出向者による不正行為は2019年5月以降、銀行を含め7つの代理店において確認され合計604件が確認された。
- 同社は一連の行為が不正競争防止法における営業秘密保護の趣旨に照らして不適切であったとするも、情報取得に同社関係者からの明確な指示は認められなかったとしている。また同社は出向者が出向先からの同社に対する評価を向上させる想いが根底にあったことを確認したと説明する。
出向者は、当社への情報提供によって、全国で銀行の各支店を担当している当社職員が、「銀行が目指している方針」および「銀行で保険募集を担う行員に求められていることや行員の知識や提案スキル」等を理解したうえで、各支店に対し、より一層寄り添った販売支援・サポートを行うことができるようになると認識していました。
こうした認識のもと、出向者には、銀行の本店・支店への一貫した質の高い対応を通じて、 当社に対する出向先からの評価を向上させたいとの想いが根底にあったことを確認しています。また、銀行が期待する販売支援・サポートの充実を行うことで、行員の当社商品への理解が深まることなどを通じた銀行の窓販業績の拡大、ひいては当社窓販業績の拡大、そして出向者自身の定性的な評価にも繋がるとの期待があったことを確認しています。
- 今回の事案が発生した原因については、出向者と銀行本部窓口担当者ともに自らの定性評価のため、不適切な手段であると認識しながら容易に取得できる出向者からの情報に頼ってしまったためとしており、さらには事業部門のコンプライアンス管理機能やその管理部門においてリスク想定に欠き、教育や指導、早期検知が行えなかったことをあげている。
- 同社は今回の調査に際して、関係者へのヒアリングや質問票、メール等のフォレンジック、資料共有サーバーの確認などを行ったとしているが、報道にあった情報削除行為に関しては今回の公表内容には含まれていなかった。
関連タイムライン
| 日時 | 出来事 |
|---|---|
| 2024年3月 | 出向者が内部資料を出向先に確認を取らず、日本生命保険金融法人部門営業担当者へ送付。 |
| 2024年4月 | 出向者が内部資料を元に社内向け資料を作成し、日本生命保険金融法人部門内にメールで共有。 |
| 2025年7月10日 | 日本生命保険に対して外部から問い合わせが寄せられる。 |
| 2025年7月11日 | 日本生命保険の社内サーバーから関係情報が削除された可能性。 |
| 2025年7月14日 | 日本生命保険が今回の事案について把握し社内調査を開始。 |
| 2025年7月15日 | 一部報道機関が日本生命保険からの出向者が出向先資料の持ち出し行為を行っていたと報道。 |
| 同日 | 日本生命保険が金融庁へ事案を報告。 |
| 2025年7月16日 | 日本生命保険が銀行への出向者による内部情報漏洩を公表し、社長が記者懇談会で謝罪。 |
| 2025年7月17日 | 三菱UFJ銀行頭取が保険会社からの出向受け入れを取りやめる計画について発言。 |
| 2025年7月18日 | 金融庁が保険業法に基づき日本生命保険に対して報告徴求命令。 |
| 2025年7月25日 | 日本生命保険が社内に専任調査チームを設置。 |
| 2025年9月12日 | 日本生命保険が金融庁へ調査結果を報告。 |
関連公表
- 2025年7月16日 [PDF] 当社に関する一部報道について
- 2025年7月18日 [PDF] 金融庁による報告徴求命令の受領について
- 2025年9月12日 [PDF] 当社出向者による不適切な手段での情報取得事案に係る金融庁への報告について
更新履歴
- 2025年8月14日 AM 新規作成
- 2025年9月13日 AM 情報追記(金融庁への報告関連)
*1:保険会社からの出向受け入れ廃止へ 三菱UFJ銀が大手初、26年3月末までに,産経新聞,2025年7月17日
*2:銀行の「社外秘」資料持ち出し 日生社員、三菱UFJ出向,東京新聞,2025年7月15日
*3:三菱UFJ銀、生保からの出向者をゼロに 頭取が表明、今年度中に,朝日新聞,2025年7月17日
*4:日本生命社員、三菱UFJ銀出向中に内部情報を流出…受け取った管理職が「逆流厳禁」として共有,読売新聞,2025年7月15日
*5:日本生命の朝日社長が謝罪「再発防止につとめる」 出向先の銀行内部情報持ち出し問題で,産経新聞,2025年7月16日
*6:生保業界全体に波及の恐れも 日生社員の出向先での営業情報不正持ち出しで懸念拡大か,産経新聞,2025年7月15日
*7:三菱UFJ銀行、生保・損保からの出向取りやめ検討 26年3月までに,日本経済新聞,2025年7月17日
*8:日本生命の出向社員、三菱UFJ銀行の情報持ち出し 営業部門に共有,日本経済新聞,2025年7月15日
*9:日本生命社員、出向先の銀行情報を不正持ち出し 「逆流厳禁」で共有,朝日新聞,2025年7月15日
*10:情報流出の原因 日生に報告命令…金融庁,読売新聞,2025年7月19日
*11:日生に報告徴求命令 金融庁、出向者持ち出しで,東京新聞,2025年7月19日
*12:日本生命に報告命令 出向先資料持ち出し 金融庁,毎日新聞,2025年7月20日
*13:日本生命の営業部門が証拠隠滅か 無断持ち出し情報、調査直後に削除,朝日新聞,2025年8月8日
*14:日本生命社長が謝罪 「逆流厳禁」で三菱UFJ銀の内部情報持ち出し,朝日新聞,2025年7月16日
*15:資料持ち出し、日生社長謝罪 三菱UFJ銀出向者,毎日新聞,2025年7月17日
*16:日本生命出向者の情報持ち出し、生保協会長「適切な対応検討」,日本経済新聞,2025年7月18日
*17:情報流出 日生社長が謝罪 隠蔽は否定,読売新聞,2025年7月17日
*18:日本生命、調査開始後に持ち出し情報削除か 出向者による漏洩問題で,日本経済新聞,2025年8月9日
*19:日本生命出向者の内部資料持ち出し問題、社内調査開始直後に情報削除 証拠隠滅の疑い,産経新聞,2025年8月9日
*20:日本生命、朝日社長が謝罪 三菱UFJ出向者の情報漏洩で,日本経済新聞,2025年7月16日
*21:保険会社からの出向受け入れ廃止 三菱UFJ銀,毎日新聞,2025年7月18日
*22:三菱UFJ銀行、全保険会社からの出向受け入れ廃止へ…日本生命からの社員が内部情報流出,読売新聞,2025年7月17日