1. 12月8日に考える、山本五十六とリーダーの責務
12月8日、この日は太平洋戦争の戦端が開かれた、真珠湾攻撃が実行された日です。この作戦を立案・指揮したのが、連合艦隊司令長官、山本五十六でした。
彼は開戦には最後まで反対の立場を取りながらも、一度決まれば勝利のために全力を尽くした複雑な人物です。しかし、彼の名が今日なお語り継がれるのは、戦争ではなく、彼の残した人材育成と指導の哲学ゆえです。
彼の最も有名な言葉は、リーダーシップの全行程を三段階で示しています。
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第一段階(動かす):「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」
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第二段階(育てる): 「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。」
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第三段階(実らせる): 「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」
2. 山本五十六流リーダーシップ:「育成」と「成熟」の哲学
この三段階の名言は、指導者が部下に対して果たすべき役割を、「動かす」から「育てる」、そして**「信頼する」**へと進化させていくプロセスとして捉えられます。
📘 第一段階:動かす(ティーチング・行動への動機づけ)
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「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」
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これは、まずリーダーが手本を示し、指導者としての**「汗をかく責任」**を果たし、行動への初期的な動機づけを行うステップです。
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🌳 第二段階:育てる(コーチング・自律的な成長)
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「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。」
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この段階は、部下を自律したプロフェッショナルへ育てるためのステップです。指導者が一方的に教えるのではなく、**「傾聴」と「承認」によって部下の内発的な能力を引き出します。特に、権限を与えて「任せてやる」**ことは、責任感と自己決定能力を育む上で欠かせません。
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✅ 第三段階:実らせる(信頼・成果の最大化)
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「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」
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これは、育成の最終段階であり、リーダーの役割は**「管理」から「信頼」**へと完全に移行します。結果を焦らず、感謝の念を持って見守ることで、部下は不安なく挑戦し、最大の成果(実)を結ぶことができます。
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3. 😥 理想のリーダーシップと現代社会のギャップ
この山本五十六的な指導スタイルは理想的ですが、現代の多くの組織では、「リーダー」と「マネジャー」の役割の乖離から、実現が難しくなっています。
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現実のマネジャーの姿: 現代の上級マネジャーは、実務(プレイング)から離れ、「マネジメント」(資源配分、戦略、リスク管理)に特化しています。彼らは往々にして現場の実務知識がないため、部下の「上位互換」ではありません。
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「傾聴と承認」の軽視: 本来、第二段階で重要な**「話し合い、耳を傾け、承認する」というプロセスが、多忙や時間不足を理由に省略されがちです。その結果、部下は育成されている実感を得られず、マネジャーは上層部の意向を伝える「伝令」や「監視者」**として機能してしまうことがあります。
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不公平感の増幅: 実務で重労働を担う現場層と、実務にタッチせず高報酬を得るマネジメント層との間で、**「地位と報酬に対する責任の所在」**が曖昧になり、組織の公平感が失われてしまいます。
4. 🧠 対極にある指導論:マネジャー特化型の提唱(ドラッカー)
山本五十六の指導者像と対極に位置するのが、現代経営学の父、ピーター・ドラッカーが提唱した、**マネジャー特化型(実務分離型)**のリーダー論です。
ドラッカーは、マネジャーの役割は、現場の作業をすることではなく、**「組織に固有の使命を果たす」**ためにリソースを最適化することだとしました。
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マネジャーの主業務は「意思決定」: ドラッカーやサイモンといった学者は、マネジャーの役割を戦略策定、目標設定、そして意思決定に集約すべきだと主張します。
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現場への権限委譲の正当化: 現場の実務は、知識を持った専門家である部下に任せるべきであり、マネジャーはそのために**「環境を整え、障害を取り除く」ことに専念すべきである、という考え方です。 この理論は、山本五十六の「任せてやらねば」に通じますが、「やってみせ」の必要性**を実務指導の観点からは原則として排除します。
5. 💡 まとめ:理想的なリーダーの姿とは
山本五十六の「動かす」「育てる」「実らせる」という三段階の指導哲学は、現代のリーダーシップが目指すべき**「信頼に基づく育成プロセス」**の完璧なモデルです。現代のリーダーに必要なのは、この哲学を、ドラッカーが説く戦略的なマネジメントの土台の上で実現することです。
🌟 理想的なリーダーの三つの責務
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「やってみせ」の核心:リスクとコストの共同負担
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リーダーが実務上の知識で勝るかどうかに関わらず、「リスクとコストを共に負う姿勢」を見せることが、山本五十六の教えの真髄です。困難な意思決定のリスクや、業務達成に必要な時間的・精神的なコストを部下に丸投げせず、自らも責任と労力を負うことで、組織にフェアネス(公平性)と信頼が生まれます。
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育成と信頼の戦略的実行
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**「話し合い、耳を傾け、承認する」というプロセスを、忙しい業務の中でも省略せず、意図的に時間とリソースを投資すること。そして、目標達成のために部下に積極的に権限を委譲し、「任せてやる」**環境を整備する。
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ノブレス・オブリージュの具現化
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地位の高い者が負うべき義務として、**「やっている、姿を感謝で見守って、信頼する」**という姿勢を貫くこと。自分の保身や個人的な利益(部下に深夜残業・休日出勤をさせて、自身は定時退社など以ての外)のために部下を犠牲にせず、結果の責任を潔く負うことこそが、現代のトップ層に最も求められる倫理観です。
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