昨日、私たちは『正義』を語った。今日、私たちが目撃するのは『帳簿』である。
1. 介入の背景と「内なる敵」:揺らぐMAGAの結束
今回の電撃的な介入の表向きの理由は「麻薬撲滅」と「民主主義の回復」です。しかし、米国内の反応はかつてないほど複雑です。 意外なことに、トランプ大統領の熱烈な支持層である**「MAGA(Make America Great Again)」派**の間で不満が噴出しています。彼らにとってのトランプ氏は「外国の紛争に深入りせず、米国民の命と税金を国内のために使う」リーダーでした。 それが、議会承認も経ないまま南米での軍事作戦に踏み切ったことで、「結局はブッシュ時代のネオコン(他国への武力介入派)と同じではないか」という失望が広がっています。中間選挙を控えたトランプ氏にとって、この支持層の離反は最大の誤算となる可能性を秘めています。
2. 「二重基準」の嵐と、イギリスの狡猾な思惑
国際社会の反応もまた、建前と本音が入り乱れています。中露が「主権侵害」と猛反発するのは想定内ですが、西側諸国の温度差が興味深いところです。 日本や仏独などは「民主主義の回復」を歓迎しつつ、軍事介入のプロセスには触れない「安全主義」を貫いています。
しかし、イギリスだけは一歩踏み込んだ支持を見せています。 そこには「紳士の国」のえげつない利害があります。イギリスはベネズエラ中央銀行が預けている約3,000億円相当の金塊を事実上差し押さえており、さらに旧領ガイアナの石油権益を守るためにも、マドゥロ排除は「棚ぼた」の勝利なのです。
3. 「理想家」のパージと「実務派」の変心
トランプ氏の統治者選びも冷徹です。ノーベル平和賞受賞者のマリア・コリナ・マチャド氏は自由と法を説く「理想家」ですが、強引に資源を管理したいトランプ氏にとって、彼女は「使い勝手の悪い監視役」でしかありません。 代わりに浮上したのが、マドゥロ氏の右腕だったデシー・ロドリゲス副大統領です。バリバリの反米派だった彼女がアメリカの意向を呑む理由は「組織の延命」です。マドゥロを「殉教者」として差し出す代わりに、自分たちが握る軍や官僚の利権を温存する──。トランプ氏も、ゼロから国を作るより、既存の権力構造を抱き込む方が「安上がりで効率的」だと判断したのです。
4. 「石油」という名の鎖とメジャーの復讐
ベネズエラが誇る世界最大の埋蔵量は、ドロドロの「超重質油」です。これをガソリンに変えられる高度な精製プラントは、アメリカのメキシコ湾岸に集中しています。 かつてチャベスによって追い出されたエクソンモービルや、1兆円超の賠償金を狙うコノコフィリップスにとって、今回の介入は「究極の取り立て」です。ベネズエラは石油を掘れば掘るほど、アメリカにあるプラントという「人質」に依存せざるを得ません。この「技術と設備という鎖」がある限り、ベネズエラに真の独立はなく、米資本の支配から逃れる術はないのです。
【おまけ】裁判の行方とパナマの教訓
日本時間1月6日午前3時に開かれる初公判。結末は1989年の**パナマ侵攻(ノリエガ将軍)**が示唆しています。当時、麻薬密売容疑で拘束されたノリエガも主権を主張しましたが、米裁判所は「米政府が承認していない政権に主権免除はない」と一蹴しました。 トランプ氏が狙うのは即日結罰ではなく、11月の中間選挙に向け、「檻の中の独裁者」と「下落するガソリン価格」という成果を、時間をかけて有権者に見せつける政治ショーの継続です。
