自分で書くのも何ですが、マニアックな映画が好きです。
そのため誰もが見てそうな話題作を全く見てなかったりします。
そんな僕でも1970年代は、結構当時の話題作を劇場で観てるんですよ。
それは、その頃一人で映画館に行けなかったから。
映画は親に連れて行ってもらうしかなかったからです。
親は映画好きでしたが、僕のように偏った映画好きではなく、正統な映画好き。
だから見る映画も話題作が中心でした。
70年代と言えばパニック映画真っ盛り。
「ポセイドン・アドベンチャー」(1972)、「大地震」(1974)、「タワーリング・インフェルノ」(1974)なんかがありました。
で、そのうち「ちょっとでも人が大騒ぎ」する映画はパニック映画扱いとなり、「?、これはパニック映画ではないのでは?」というのもありました。
「オルカ」(1977)は子供と嫁さんを殺されたシャチが人間に復讐する話なんですが、日本では「海洋パニック大作」として宣伝されてました。
とのかく、そんなパニック映画として宣伝された一本が今回レビューする「カサンドラ・クロス」(1976)。
当時のポスターに書かれた謳い文句が・・・
華麗な人間ドラマを乗せて走る豪華大陸横断特急!
一転!地獄の炎を噴きあげて、巨大なパニックへ叩き込む
そこが・・・カサンドラ大鉄橋だ!
まぁ、嘘は書いてませんが、これ、ほとんどクライマックスシーンだけを切り取ってます。
そんな宣伝をされていた映画ですが、サスペンス映画としては良く出来ていた記憶があります。
これも全編ちゃんと見るのは劇場公開以来かも?
そんなパニック映画サスペンス映画をレビューします。
(あらすじ)
スイスのWHO(国際保健機構)に3人のテロリストが潜入。しかし警備員の反撃に遭い、一人が死亡。残る二人は米国の研究室に押し入った際に、棚にあった瓶が割れ、液体を被ってしまう。そのうち一人は確保されるが、もう一人は逃亡し、大陸横断鉄道に潜り込む。やがて逮捕された一人は謎の肺炎となり重体となり、やがて死亡。被った液体は米国が違法にWHOの研究室で開発した細菌だった。WHOに派遣された米国軍大佐は、犯人の遺留品から列車に乗った可能性が高いと突き止める。しかし既に列車は出発。列車には高名な神経外科医である主人公や彼の別れた妻、謎の神父、ナチス時代の収容所の生き残りのユダヤ人の老人等が乗っていた・・・
米国映画っぽいけど、西ドイツ、イタリア、イギリス、フランス、アメリカの合作です。
スタッフはイタリア人がメイン。これは製作がイタリアの名プロデューサー、カルロ・ポンティだからかもしれません。
監督はギリシャ人のジョルジュ・P・コスマトス。
この人、「ランボー/怒りの脱出」(1985)も監督している娯楽職人系の人。
この映画でも派手さはないけど、手堅く、飽きさせない演出力が光ります。
主演はこの手の娯楽作で頼れる男を演じたら、ショーン・コネリーと並んでピカ一のリチャード・ハリス。
沈着冷静な行動の中にも、熱いものを感じさせる男は「ジャガーノート」(1974)で演じた主人公ファロン中佐にも似てます。
そしてヒロインである主人公の別れた妻はソフィア・ローレンが演じてます。
彼女はイタリアの大女優で、「ひまわり」(1970)のような文芸作から、この映画のような娯楽作まで幅広く活躍していた人。
ちょっと顔が派手目で、濃い感じのグラマラスな女性で、子供の頃は「綺麗なんだろうけど、僕の趣味じゃないな~」って思ってたんです。
でも今回改めて観てみると「綺麗だし、可愛らしい」ことに気が付きました。
前にも書きましたが、何十年も経って僕が「濃いめの女性もアリ(好き)!」と、成長した(?)からかも。
ちなみにこの映画の製作者であるカルロ・ポンティは、彼女の夫ですが、気が強いけど、主人公を支える役をとっても自然に演じていて、縁故出演でなく、まさに最適なキャスティングでした。
この二人以外にも、往年の名女優エヴァ・ガードナー、大物俳優(でもB級娯楽作にも出てるけど)バート・ランカスター、重鎮名脇役俳優アーネスト・ボーグナイン、後に「地獄の黙示録」(1979)に主演するマーティン・シーン、元アメフトの名選手で、パニック映画の常連O・J・シンプソン、有名なアクターズスタジオの主催者リー・ストラスバーグ、他にもアルダ・ヴァリ、ジョン・フィリップ・ロー、レイモンド・ラブロック、イングリッド・チューリンなど、超豪華俳優たちが出演してます。
70年代パニック映画の特徴は、グランドホテル形式(いろいろなドラマが1つの場所やイベントで同時進行する形式)だということ。はしりは「大空港」(1970)と言われてます。そうなると出演者も多く、各人間ドラマに有名俳優を配役するのが流行り、パニック映画のポスターはスターの顔写真がたくさん並ぶのが通例となりました。
(↓ 「タワーリング・インフェルノ」のポスター。スターの写真がズラリ)

そのうち、「スターの写真がいっぱいある映画が凄い」ってことで、「この人、誰?」みたいなマニアックな俳優写真が出ていたり、有名なスターでも「どこに出てたっけ?」みたいなカメオ出演だけ、という詐欺まがいも横行しました。
でも、この映画はちゃんとどの出演者にも、しっかり見せ場があります。
いろいろとパニック映画を見てきましたが、バランスの良さ、ちゃんと有名俳優を「使い切る」構成は、かなり完成度が高いです。
その中でも偽神父を演じるO・J・シンプソンは良かったです。
神父なのに食事の前のお祈りはしないし、名前と違うイニシャルのハンカチを持っていたりと、明らかに胡散臭い感じ。
同じコンパートメントの女の子に疑いの目で見られていて、観客も「こいつ、逃亡中の犯罪者なんじゃないか?」って思わせて、実は麻薬の密輸をしているマーティン・シーンを追って列車に乗り込んだ麻薬捜査官だった、という爽快な展開。
そしてラストは自分に疑いの目を向けてた女の子を庇って、銃で撃たれるんです。
彼はいつも存在感のある脇役を演じていたので、1994年に妻を殺害した疑いで起訴されたことをきっかけに「転落人生」になり、俳優が出来なくなったのは残念でした。
他にもユダヤ人でナチスの収容所の生き残りを演じたリー・ストラスバーグも良かったですね。
最初の見た時も、彼の「(列車が向かわさせられてる)町にあった収容所では、妻と娘が死んだ。もうあの町にはもう戻りたくない」といって自分が犠牲になるシーンが一番印象的でした。

密閉された列車の中では4つぐらいの人間ドラマが進行し、それとは別にジュネーブのWHO指令室では、バート・ランカスター演じるアメリカ軍大佐とイングリッド・チューリン演じるWHOの女性医師が、細菌対策で対立するドラマが描かれます。
どのドラマも手を抜かず、きっちりと描かれおり、クライマックスの列車奪還に向かって繋がっていきます。
まさにグランドホテル形式のお手本のような展開です。
アメリカ軍は細菌の撲滅方法が分かったにも関わらず、列車を「抹消」するために、ボロボロになったカサンドラ鉄橋を渡らせようとします。
それを悟った主人公たち乗客は、軍から走り続ける列車を奪還し、カサンドラ鉄橋に辿り着く前に停めようとします。
しかし、機関室までたどり着けず、列車はカサンドラ鉄橋にどんどん近づいていきます。
そしてラスト。
主人公は苦渋の決断をします。
「後ろの車両の人だけでも救おう。上手くいけば前の列車は軽くなるから鉄橋を渡り切れるかもしれない」
リー・ストラスバーグの老ユダヤ人の犠牲のお陰で、客車の途中から切り離された列車。後ろの車両はカサンドラ鉄橋ギリギリで止まりますが、前の車両は結局、カサンドラ鉄橋が崩落して数十メートル下の川に転落。乗客や乗り込んでいた軍人は全員死亡します。
パニック映画では、重要な人物が死んだり、多くの犠牲が出る終わり方は良くあります。
しかしここまで主人公が他者の犠牲を「やむを得ない」と意図的に見殺しにするのは、とっても珍しいんじゃないでしょうか。
でも、非現実的な「みんな助かる」展開より、リアルで、ず~んときます。
更にこの作戦を指揮したバート・ランカスターは「目的は細菌の撲滅ではなく、細菌の情報の抹消」だったと語ります。
それに抗う姿勢を見せる女医イングリッド・チューリンに「あなたは優秀な医者だ。私はあなたにこのまま医者を続けてもらいたいと思っている」と、暗に「今回の件をバラしたら抹消する」ことを仄めかします。
そんなバート・ランカスターも、実は今後は米軍の監視下に置かれることが分かってThe End。
実際には主人公たちが生き残ってるので、隠ぺい失敗になるかしれませんが、それでも乗客の半分は死んだワケですし、目先はアメリカ軍の思惑通りだったと考えればハッピーエンドじゃなくて、バッドエンドかもしれません。
その点も含めて、最後まで目が離せない129分、緊張感溢れる列車の旅でした。
見終わった後は、素直に「面白い映画を見た~」って気持ちにさせてくれます。
今でも万人受けする映画だって言い切れます。
こんなに面白いし、公開当時は話題になった映画なのに、今では埋もれてしまっているというのは残念でなりません・・・
最後に音楽は大御所ジェリー・ゴールドスミス。
多くの名曲を書いていて、日本のバラエティ番組や情報番組に彼の曲がよく使われてました。
有名なのは「カプリコン・1」(1978)でしょうか。
昭和生まれの人ならどこかで耳にしたことがあるハズです。
そして、「カサンドラ・クロス」の曲も知ってる人は多いかも。
残念ながら配信にもなく、サントラも廃盤のようです。
僕はレコードでサントラを持っているのですが、是非CDで復刻して欲しいものです。
最後に新品Blu-rayはお手頃な値段で入手可能なようです。
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