今回(2025年9月)の札響定期は、首席客演指揮者・下野竜也さんによる「調和~ベートーヴェン×アダムズ」。札響と何度も共演を重ねてきたアンヌ・ケフェレックさんをソリストとしてお迎えするベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番」、札響初演となるジョン・アダムズ「ハルモニーレーレ」が取り上げられました。注目の公演に、道外から聴きにきた熱心なお客さんもいたようです。なお本番に先駆けて、定期会員&パトロネージュ会員対象の練習見学会(2025/09/05 金)も行われました(※私は都合がつかず不参加)。
札響公式youtubeの企画「札響プレイヤーズトーク」。今回(2025年9月)は、ヴィオラ奏者の櫨本朱音さん、クラリネット奏者の原田侑來さん、そしてこの9月に正式入団された首席フルート奏者のクリス・ウォンさんがご出演です!抱腹絶倒のトーク、必聴ですよ♪若いって素晴らしい!
youtu.be
また、指揮の下野竜也さんによる定期公演へ向けたトーク動画、ソリストのアンヌ・ケフェレックさんのメッセージ動画も事前公開されました。
札幌交響楽団 第671回定期演奏会(日曜昼公演)
2025年09月07日(日)13:00~ 札幌コンサートホールKitara 大ホール
【指揮】
下野 竜也<札響首席客演指揮者>
【ピアノ】
アンヌ・ケフェレック
【曲目】
(ロビーコンサート)モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 第2番 変ロ長調 KV424 より第2楽章 Andante cantabile、サン=サーンス:白鳥
(出演:ヴァイオリン/鶴野 紘之、ヴィオラ/青木 晃一)
ベートーヴェン:序曲「コリオラン」
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番
(ソリストアンコール)ヘンデル(ケンプ編):メヌエット ト短調 HWV 434 No.4
ジョン・アダムズ:ハルモニーレーレ(和声学)
ジョン・アダムズ「ハルモニーレーレ(和声学)」は、音楽に「耳を傾ける」というより「体感する」、スリリングで圧倒的な体験でした!指揮の下野竜也さんと札響のおかげで、私はまた新たなステージへレベルアップできた気がします。札響の定期演奏会で取り上げられなければ、私はおそらく生涯知ることはなかった世界。あくまで素人の趣味ですから、何が何でも「学びに繋げよう」なんて窮屈な事は考えていませんが、未知なる世界を少しでも知ることは素直に「面白い」と思います。この先、自分がどうなるかはわかりません。しかし、少なくとも未知なる世界へ踏み出す事を面白がれるうちは、チャレンジしていきたいです。信頼する札響についていけば、きっと大丈夫。札響の皆様、これからもどうぞよろしくお願いします!
一方、前半のベートーヴェンは、堂々たる演奏を大船に乗った気持ちで楽しめました。王道って素晴らしい!ちなみに公演前は、前半の王道と後半の現代音楽は関係なさそう?と思っていた私。いざ実演に触れると、今回のベートーヴェンの協奏曲は、特に第3楽章がとてもリズミカルで、「リズム」という点において後半のアダムズと共通している!との気づきを得ました。またアンヌ・ケフェレックさんのピアノは、札響との過去の共演(私が拝聴した過去2回はいずれもモーツァルト)で聴かせてくださった明るさ美しさ可憐さに加え、今回はベートーヴェンらしいパワフルな一面が感じられたのが新鮮!知っているつもりの作曲家や演奏家だって、聴く度に新たな発見がある。その意味では、私たち聴き手はいつだって未知なる世界へのチャレンジをしているに違いありません!
開演前のロビーコンサート。今回は、ヴァイオリン奏者・鶴野紘之さんとヴィオラ奏者・青木晃一さんによる演奏です。はじめは、モーツァルト「ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 第2番 変ロ長調 KV424」 より第2楽章 Andante cantabile 。ヴィオラが作る優しいベースに乗って、柔らかく美しく歌うヴァイオリンは、幸せいっぱいな感じ!細かく音符を連ねて音階上昇したり、幸せなトリルが時折登場したりといった丁寧な仕事ぶりに惹かれました。ほんの一瞬ヴィオラが沈黙した時のヴァイオリンは、カデンツァ風の存在感!続いて、サン=サーンス「白鳥」。チェロ&ピアノによる演奏で有名なこの作品を、ヴァイオリン&ヴィオラによる演奏で。ヴィオラが作るベースは、バッハの無伴奏チェロ組曲第1番プレリュードを連想させるもので、似た音型を繰り返しながら少しずつ変化して「波」を演出。その上を繊細に美麗に歌うヴァイオリンの美しさ!チェロの大白鳥とはまた異なる個性で、とても魅力的でした。曲の終わりの方で、ヴィオラが沈黙しヴァイオリン独奏になったシーンの儚さ、締めくくりの消え入る音の繊細な美しさ。とても良いものを聴かせて頂きました。ありがとうございます!
前半。1曲目はベートーヴェンの序曲「コリオラン」。弦はコントラバス7の14型、各管楽器は2管ずつ(金管はホルンとトランペット)、そしてティンパニの編成でした。はじめの重厚な弦に震える!骨太男前な音楽に最初から気分が上がりました。ベートーヴェンはこうでなくっちゃ!穏やかなシーンでは柔らかな木管が存在感あって、弦がトレモロで次第に盛り上がりの波を作るのがドラマチック。強奏のジャン ジャン!のキレ味と間合いの良さ、強弱の変化、ぐっと迫り来るうねり!キビキビした進行と要所要所をビシッと締める、シモーノさんらしさも感じました。盛り上がりの頂点でのティンパニ連打、何度も力強く踏み出すシーンでのコントラバスのぐおんと来る重低音が個人的ツボでした。そしてラスト、チェロパートが静かにメロディを奏で、弦の静かなピッチカートを数回で締めくくり。この引き締まった空気!重厚で強奏の印象が強かった音楽が意外な形(と私は思いました)で終わって、しかしそれがカッコイイ!ベートーヴェンらしさとシモーノさんらしさ全開のオープニングでした。
ソリストのアンヌ・ケフェレックさんをお迎えして、2曲目はベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番」。オケの編成は、弦はコントラバス3の10型に。管はフルート1の他は2管ずつ(金管はホルンとトランペット)、そしてティンパニでした。第1楽章 はじめのピアノのタタタタ……という音の連打は、先ほどの序曲とは個性が異なる優しい響き!しかししっかりベートーヴェンらしさを感じたのは、「運命の動機」と似ているから?そっと重なった弦は、優しく穏やかな波を起こして、美しい響きと丁寧な仕事ぶりがイイ!木管たちが加わると、「運命が動き出した」と私は感じました。オケのターンは、時折少し陰りが垣間見えるものの、基本的に幸せな感じで、心穏やかに聴くことができました。最初の運命の動機のようなリズムをベースにしながら、次第に盛り上がっていく流れも、フレーズを各パートでリレーしていくのも、安定の仕事ぶり。ピアノがタタタタ……と登場、音階上昇がきらびやか!オケと会話するピアノの、小粋にステップ踏んでいるような優しく愛らしい響きに癒やされました。時折入る低音のパワフルさや、ダイナミックな音階上下はベートーヴェンらしさだなとも。ピアノがよどみない流れの中でニュアンスを変化させ、明るい音楽が哀しげになって、そんなピアノの感情をオケが受け継いで……プロのお仕事にこんな事を言うのは失礼と承知の上で、ピアノもオケもとても上手いなと、聴くだけの私は感心していました。華やかに盛り上がったオケを引き継いでパーンと登場したピアノのインパクト!ケフェレックさんのピアノで、こんなパンチのある音を聴いたのは少し意外でした。そしてカデンツァへ。はじめは思いっきり重厚骨太ダイナミックに、しかしそこから繊細な演奏に切り替わり、そのはじめの1音から魅了されました。これは素敵!ピアノはひとりで繊細さからダイナミックさまで、リズミカルに美しく奏でて、ケフェレックさんらしさもベートーヴェンらしさも感じられました。オケがそっと合流して、タタタタン!を繰り返しながら、ピアノと一緒に華やかで明るいラスト。清々しい!第2楽章 オケは弦のみ(!)。ピアノとの室内楽のように密な対話と、色合いの変化がとても魅力的でした。弦楽器とピアノが交互に演奏するスタイルで、はじめの弦ユニゾンは先ほどの序曲「コリオラン」を連想する厳格さ重厚さ!続いたピアノは、悲しみをこらえて静かに語っているよう。ケフェレックさんの繊細なタッチが印象的でした。会話を繰り返すうちに弦は静まっていき、ピアノの繊細な美しさが一層際立ったように感じられました。第3楽章 前の楽章から一変して、明るく華やかに!元気の良いリズム感、躍動感あふれる音楽が気持ちよく、聴いていて気持ちが晴れやかになりました。ささやくような弦楽合奏に続いたピアノはきらびやかで幸せな感じ!影となって寄り添うチェロトップ(!)の大らかでのびやかな音色の良さ!独奏にチェロトップ(時々はヴィオラパートも?)が寄り添うシーンが多かったのが個人的うれしいポイントでした。華やかに盛り上がったオケは、パパパン♪という金管の祝福が印象的。とにかくこの楽章は「パパパン♪」のリズムが命だなと個人的には感じました。壮大なオケに続いたピアノは、美しさに加えダイナミックさもあって、堂々たる風格に私は同じベートーヴェンの「皇帝」を連想。ピアノもオケもベートーヴェンらしい生命力があふれている!基本パワフル骨太な流れの中で、一瞬登場した木管アンサンブルの心地よさはオアシスでした。終盤に登場したカデンツァは、低音の効いた重厚さから軽やかな流れの美しさまで、聴き所しかない!そっと合流したオケと一緒に、ぱっと華やかになりうんと加速して駆け抜けたラストが清々しい!ケフェレックさんの美しいピアノと、生命力&リズムの権化なベートーヴェンの幸せなマリアージュを楽しめました。
アンヌ・ケフェレックさんが口頭にて曲目を告げられ、ソリストアンコールの演奏が始まりました。ヘンデル(ケンプ編)「メヌエット ト短調 HWV 434 No.4」。最初の1音から世界が一変。深い悲しみが感じられる音楽に胸打たれました。訥々と語るようなメロディに、重い低音、切ないトリル。先ほど聴いたベートーヴェンが外に向かうエネルギーなら、アンコールのメヌエットはじっくり内面を見つめる精神。とても心に響く音楽でした。アンヌ・ケフェレックさん、生命力あふれる協奏曲から精神性の高いピアノ独奏まで、素晴らしい演奏を聴かせてくださり感謝です。今後も時々は札響との共演を、ぜひお願いいたします。
後半は、ジョン・アダムズ「ハルモニーレーレ(和声学)」。今回が札響初演です。弦はコントラバス7の14型。管楽器と打楽器は多種多彩の大編成で、目立つところではチューバ2、ハープ2、鍵盤楽器にピアノとチェレスタ、様々な打楽器の中にはマリンバ、シロフォン、ヴィヴラフォンがいました。こちらの演奏、私個人としては「聴いた」というより「体感」。またプログラムノートには様々な引用が書かれていましたが、私は気付けなかったです。モチーフの永遠の繰り返しに気が遠くなりそうで、早い段階から指揮に注目する事によって溺れないように努めました。その指揮がすごかったです……。拍子や速度が目まぐるしく変化していくにもかかわらず、全部繋がっていたと私は感じました。この指揮にしっかりついていき、凄まじい演奏を成し遂げたオケに大拍手!どのようにレポートすべきか悩みますが、ここでは印象深かった点をピックアップして書き記す形にします。しかし、そのポイントポイントはおそらく本質ではなく、一連の流れとしてこの音楽を「体感」する価値からは遠くかけ離れたものである事をご留意くださいませ。第1楽章 いきなり大音量でけたたましい音の連打!あまりの強烈さに、私は最初「今回は無理かもしれない」と率直に感じた事を告白します。ただ第一印象のおかげで、これは「美しさ」や「癒やし」を求める音楽ではないと把握し、ついて行けるところまで行こうと覚悟を決めました。はじめの「ダンダンダンダダダダーン♪」のようなモチーフが大きくなったり小さくなったり、また速くなったり少し緩やかになったりと、ひたすら繰り返される演奏。その音を聴いていると、トランス状態になりそうに。コワくなった私は、早い段階で指揮の動きを追いかける事にして、「音」そのものを意識しすぎないようにしました。密やかになるシーンでの弦の緻密さ、木管の息の長さ(一体いつ息継ぎを!?)、鍵盤打楽器陣の細やかさ、ガツンと盛り上がるシーンでの金管のパンチ力(低音金管群の底力!)やフルート&ピッコロの強烈な高音に打楽器陣の激しさ!孤高のホルンを皮切りに、チェロパートから始まった弦のメロディは、確かに解説の通り「ロマン派風」かも?しかしオケ全体でひたすら繰り返されるミニマルミュージック的な音の波があったため、ずっとせき立てられている感じがして、ロマンティックな気持ちにはなれなかったです(苦笑)。ピッコロの超高音、コンマス独奏に、行き着くところまで来た?と感じました。短い音型を高速で繰り返しながら、大太鼓や低音金管群がぐわっと盛り上がりの波を作ったかと思うとまた沈み、終わりの見えない流れ。しかしラストはビシッと締めくくり。容赦なし。第2楽章 テンポ感は「ゆったり」でも、普通に来るはずもなく……。しかしはじめの方の弦と管によるほの暗い音楽は、前の楽章のようなせき立てる感じはなく、じっくり浸る事ができました。トランペット独奏の存在感!静かな感じから、だんだんと盛り上がっていき、何度目かの盛り上がりの波での大太鼓とティンパニの連打がド迫力!しかし真に驚いたのはその直後でした。ヴァイオリンが全力でキーン(擬音が上手くなくてごめんなさい)とするインパクトある音を発したのが衝撃的!札響の弦の透明感ある美しさからは想像付かない、強烈な音。ここまでよく思い切りましたね、すっごい……。再び沈みゆき、孤高のホルン独奏、低音金管群の重低音が印象深かったです。静かに静かに終わるラストの引力!第3楽章 キラキラと光を思わせるベースに、弦がゆったりと歌う。この広がりと美しさに、私は指揮の下野さんが動画で仰っていた「万華鏡」を初めてイメージ。ここだけは素直に美しさを味わえました。しかし次第にベースのミニマルミュージック的な音の波が存在感を増していき、速度も速くなっていき、せき立てられる感じに。細かく音を刻む弦も管も、打楽器陣に鍵盤楽器やハープも、驚きの集中力で1音1音をキメていくのがすごい!指揮が合図する度に、ぐわんと強力な波が起きるのを目撃しました。クライマックスの盛り上がりが凄まじかったです。そして引っ張らず余韻を残さず、ビシッと潔い締めくくり。すごかった……。この作品と今回の演奏を正しくは理解出来ずとも、私は圧倒的な体験をしました。難曲を見事に成し遂げたオケの皆様、ついて行った私達聴き手も、全員優勝!
カーテンコール。指揮の下野竜也さんは、はじめに8名の打楽器奏者の皆様を讃えました。次にホルントップとホルンセクション。以降は、ハープ2、ピアノとチェレスタ、フルートトップとフルートセクション。各管楽器も順に讃え、弦は低音から高音パートを順に(結果、全員!)。スコアを高く掲げ、弦の各2トップと握手(コントラバスは奥まで歩いて行って握手)も。そして2025年9月末にて退団する、ライブラリアンの中村さんへ花束贈呈がありました。指揮の下野さんが片膝を立ててしゃがむ姿勢で、花束を手渡し。プロポーズみたい(!?)。中村さん、長年にわたり札響を支えてくださり、SNSでも盛り立ててくださり、ありがとうございます!これからのご多幸とご活躍をお祈りいたします。そして札響と札響ファンのことも末永く見守っていてくださいませ。
前回の札響定期はこちら。「札幌交響楽団 第670回定期演奏会」(日曜昼公演は2025/06/29)。グランディ・リヒャルトコレクション第1弾の「ドン・キホーテ」は、独奏チェロに魅せられた“英雄の生涯”。ラヴェルの色彩と立体感、何より「ゾーンに入った」面白さ!今のエリアスさんと札響だからこその滋味を味わえ、これからも札響を信じてついていこうと気持ちを新たにしました。
最後までおつきあい頂きありがとうございました。