【syncityという縁側から#03】デザインと対話する | 答えではなく、問いを共に持つということ
syncity代表のヤナギタジョーです。
デザインは、ひとりでつくるものではありません。
誰かの違和感に耳を澄まし、まだ言葉にならない想いを共に考える。
その「対話」からしか、本質的なものは立ち上がらないと僕は思っています。
syncityが大切にしているのは、「何をつくるか」より「どう問いかけるか」。
今回は、僕たちが“対話からしか始めない”理由と、そこに込めた哲学について綴りました。
対話からしか始められない
「とりあえず、デザイン案ください」
「まず、ビジュアルだけでも」
「参考サイトをもとに、似たような方向性で」
僕がいちばん苦手な言葉たちだ。
デザインって、そんなに“早押しクイズ”みたいなものじゃない。
少なくとも僕にとっては、“会話”がないままに進める仕事は、デザインではない。
syncityを始めたとき、最初に決めたルールがある。
「プロジェクトは“対話”から始めること」だ。
それは、一方的なヒアリングでも、ヒントをもらうことでもない。
まずは“一緒に考える”こと。
お互いに問いを出し合うこと。
言葉になっていないことに、耳を澄ますこと。
「言葉になる前の声」を拾う
世の中の多くのデザインって、クライアントの“言葉”を前提にしている。
「うちの強みはこれです」
「このターゲットに届けたいです」
「先月の数字がこうだったので」
たしかにそれも必要なんだけれど、僕はいつも「でも、それって“本音”ですか?」と思ってしまう。
クライアント自身が、自分でもまだ気づいていない“違和感”とか“モヤモヤ”こそが、そのブランドの核になることが多い。
だから、最初に話すときは、全然デザインの話をしない。むしろ、「最近、何に怒ってますか?」とか、「何かモヤモヤしていることありますか?」とか、そんな質問ばかりしている。
“言葉になる前の声”を、ちゃんと拾いたいんだ。
デザインは「答え」じゃない
これは僕の職能的なクセかもしれないけれど、
印刷会社時代も、コンサルティング会社時代も、どこかで「デザイン=ソリューション」と言われてきた。
でも、僕はあまりそう思っていない。
デザインは「答え」じゃなく、「問いをつくるもの」だと思う。
完成されたアウトプットよりも、「なんでこの色にしたんですか?」って相手が聞いてくるような、“余地”のあるデザインの方が、関係が深くなる。
つまり、対話を“誘発する”デザインが、本当に価値あるデザインだ。
クライアントとの対話の中から生まれた実感
HIGHVISIONの代表であり編集者の武井さんは、こう語ってくれた。
「自分はファッション関連の世界に長くいて『ファッションこそあらゆる面で最先端』だと思っていたのですが、syncity代表のヤナギタさんから『ファッション系のサイトデザインは、他業種に比べて遅れている』という指摘を受け、改めて見回すとその言葉の通りだと思いました。」
この一言には、僕自身も深くうなずいた。
僕らはプロとしての目線と、生活者としての視点の両方で対話を重ねる。
ときには、耳の痛いことも、正直に伝える。それが、「本当の対話」だと思っている。
僕の話すデザイン、僕に話しかけてくるデザイン
ちょっと変な話なんだけれど、僕はデザインしてるときによく“そのデザインと話す”。
「これ、本当に必要か?」とか、
「この空白、ちゃんと意味があるか?」とか。
逆に、デザインから問いかけられることもある。
「それ、お前のエゴじゃない?」とか、「ほんとは、逃げたよね?」とか。
つまり、自分が作ったものと“対話”しながら進めている。
これって、恥ずかしい話だけれど、
多分今までの人生で「人とうまく話せなかった分」、モノと話すクセがついたんだと思う。
でもその分、デザインに対しては、ものすごく誠実でいたいと思っている。
輪郭が浮かび上がる瞬間
YL Projectsの代表でありクリエイティブディレクターの玉田さんの言葉が象徴的だった。
「今回のプロジェクトでは、syncityさんにキービジュアルの制作からワイヤーフレーム、レイアウトなど全般を担当していただきました。我々の方で『こうしたい』と考えていたアイデアを全体的にブラッシュアップしてくれましたし、対応の早さ、スピード感のあるお仕事にとにかく安心しました。」
言葉やイメージが“形になった”ときより、その過程で「浮かび上がってくる感覚」がある。
それは、誰かの“言葉にならない声”と、僕らの感受性が交差したときに生まれる。
対話からしか生まれない、デザインがある
monopoのプランナー・コピーライターの稲熊さんの言葉が、僕にはとても沁みた。
「オリエンを受けてsyncityさんに提案資料を作成いただいた段階で驚いたのは、アウトプットの完成度はもちろん、そのデザインを提案する上でのロジック面がしっかりしていたことです。どちらかというと“感覚的なディレクター”という印象でしたが、ここまでクオリティの高い提案資料は見たことがなかったので、社内の人間にも大きな刺激になりました。」
たしかに僕は、よく「感覚でやっている人」に見えるらしい。
だけど、その感覚を研ぎ澄ますために、何度も問い直して、何度も話し合って、言語とビジュアルのあいだを行ったり来たりしている。
そうやってようやく、伝えたい“在り方”が、かたちになって見えてくる。
誠実であるということ
僕は、正直コミュニケーションが上手なタイプじゃない。
口下手だし、いろいろ悩んで、自分に対して不器用なところもある。
でも、そんな自分だからこそ、“対話”の価値を信じられるのかもしれない。
ちゃんと向き合って、ちゃんと耳を傾けて、ちゃんと「わからない」と言うこと。
その積み重ねが、ブランドを育てていく。
その“声なき声”を、形にする
僕たちは、たったひとつの“正解”をつくりたいんじゃない。
クライアントと共に、“問い”を見つけたい。
それは、「こう見せたい」という希望でもなく、「こう見られている」という不安でもない。
もっと深いところにある、「本当はこう在りたい」という願い。
その“声なき声”を、そっと聞き取って、形にしていくこと。
それが、僕にとっての「デザイン」だ。

ヤナギタジョー | Joe Yanagita
syncity CEO
学生時代に不登校を経験し、孤独な時間の中でデザインに出会う。田舎の印刷会社からキャリアをはじめ、グラフィックデザイン、Web、ブランディング、ビジネスデザインへと越境。専門や肩書きにとらわれず、「名前のない問い」と向き合い続けてきた。現在は、境界を越えるデザインスタジオ「syncity」 の代表として、思想・視点・文化の異なるもの同士が交わり、新たな価値と関係性が生まれる“創造の場”をつくっている。
