マガジンのカバー画像

レンズを通して

11
写真を撮ることは、記憶を探ることでもある。シャッターを押すとき何を見つめていたのか、なぜその場面に心が動いたのか。カメラという道具を通じて、時間や記憶、表現することの意味を考える…
運営しているクリエイター

記事一覧

その競争には加わらない

その競争には加わらない

先日、他県への取材の仕事があった。同行したのはデザイナー。ぼくの任務は取材対象者にインタビューをして、さらに働いている現場の写真を撮ること。まあ、ごく一般的な取材の仕事だ。

最初にインタビューを終えたあと、「では仕事している様子を撮りましょう」と場所を移動した。

撮影で使っているカメラは、富士フィルムのX-H1だ。2018年発売と今となっては古いミラーレスカメラだが、画素数が十分にあり仕事には

もっとみる
「フィルムで撮る」は、ぼくにとってブランディングだった

「フィルムで撮る」は、ぼくにとってブランディングだった

「なぜぼくは、フィルムで写真を撮っているのだろう」そう自分に問いかけることがある。特にここ2~3年はそれを考えることが増えた。

フィルムで写真を撮り始めたのは2018年だったが、そのころと現在とではその理由は変わってきている。

フィルムカメラを使うきっかけは、伯父の遺品に出会ったからだった。伯父は地元ではそれなりに名の通った写真家らしく、人生のほぼすべてを写真に捧げていたような人である。

もっとみる
みんなが撮る写真

みんなが撮る写真

2018年に北海道へ行った際、大袈裟にいえば自分の写真観や表現することを問い直すきっかけの出来事があった。

レンタカーを借りて、4泊5日の旅。最終日には雲海を撮りに行こうとトマムへ車を走らせた。前日の夜に近くの駐車場で車中泊したが、あいにく少し寝坊してしまいロープウェイ乗り場へ行ったのは早朝の6時ごろ。すでにそこには、長蛇の列ができていた。

もちろんほとんどの人のお目当ては雲海だ。カメラを手に

もっとみる
写真は簡単。だから難しい

写真は簡単。だから難しい

ある日、友人から一通のメールが届いた。そこには「写真の魅力は?」と質問が書かれていた。

画家をしている友人は、同じ表現として絵画と写真との違いに関心があるらしい。そのため写真を撮っているぼくへ、たまにこういうメールをしてくる。ただこの質問には、すぐ答えられなかった。

写真の魅力とは?そんなことを、あまり考えたことがなかった。パソコンの画面に向かって返信を書こうとするが、「写真の何がおもしろいの

もっとみる
トリミングはやめた

トリミングはやめた

いつも現像とスキャンをお願いしているラボから、できあがった写真が送られてきた。中判フィルム2本分、枚数は24枚。1本は今年の春くらいに撮り終えて、そのまま冷凍庫に入れておいたもの。もう1本は、今年の5月から7月にかけて撮ったものだ。

昔はフィルムを写真屋さんへ出すと、ネガと一緒に紙焼きをもらったものだ。今はネットにアップする需要があるので、スキャンしたデータをメールで送ってくれる。

フィルムで

もっとみる
SNSをやめたら、ぼくは桜を撮らなくなった

SNSをやめたら、ぼくは桜を撮らなくなった

今年の春に、ぼくは一枚も桜の写真を撮らなかった。

撮ろうという気がまったく起こらなかった。街中の桜が一斉に咲いて、「いつぐらいが見ごろだろう?」とワクワクはしていた。満開で天気の良かった日には、桜を綺麗に見られる場所へドライブに出かけたりもした。

しかしその際に、カメラは持っていかなかった。というよりも、「カメラを持っていく」「桜を写真に撮る」という発想が浮かばなかった。「ああ、そうか。SNS

もっとみる
家の近所で、写真を撮れない

家の近所で、写真を撮れない

今年になってはじめた習慣のひとつに、川沿いの散歩がある。

ウォーキングと書けば何やら勇ましいが、はじめたのは本当にただの散歩だ。でもそのただの散歩が、自分に変化をもたらせた。

そもそも散歩をはじめたきっかけは、単純に運動不足解消のためである。家にこもる時間が増えたため、意識的に外へ出かけるようになったのが今年の春のこと。

ある地点まで行ったら橋を渡り、対岸沿いを同じように歩いて自分の家へ戻っ

もっとみる
何の思い出もない、あの海

何の思い出もない、あの海

2020年の夏。取りつかれたように、同じ場所で写真を撮っていた。

6月から8月にかけて、何度も同じ海へ通っていた。自宅から車で、片道1時間ほど。2日連続して行く日もあれば、2週間に一度の日もあった。平均すれば、一週間に一度は足を運んでいたと思う。

その海に通うようになったきっかけは、やはりコロナだ(今年は何をやるにもコロナの影がじっと横たわっている)。住んでいる地域の緊急事態宣言は5月中頃に解

もっとみる
世界へ投げた小石のゆくえ

世界へ投げた小石のゆくえ

自分の投げた小石が、誰かの心に届くことがある。これから書く話は、写真展開催中に起こったできごとだ。

2020年7月18日から7月22日の5日間、初めての写真展を開催した。場所は地元の金沢市である。

展示内容は、2019年7月に北欧で撮った写真を20点にまとめたもの。展示名を『NORDIC LIGHT』とし、開催5ヶ月前の2020年2月からnoteやTwitterで告知を開始した。

開催までの

もっとみる
ばかみたいに面倒で、とても大切なカメラ

ばかみたいに面倒で、とても大切なカメラ

フィルムカメラで写真を撮るなんて、思ってもいなかった。

写真家だった伯父が、2016年10月に他界した。翌2017年8月、空き家となった伯父の家へ引っ越すことにした。理由は単純に、その家が金沢の中心部にあって利便性が良かったから。それと持ち主が母親になり、「空き家になるくらいなら」と家賃の支払いを免除してもらえたからである。

引っ越したはいいが、その家は移り住んですぐ快適に住めるわけではなかっ

もっとみる
写真展をする資格

写真展をする資格

2020年7月に写真展をすることにした。友人と話していて、急にそう決めた。

「写真展をやりたい」その思いを漠然と持ってはいた。伯父の遺品であるハッセルブラッドに出会い、それを持ってヨーロッパを一人で旅してきた。そこで撮りためた写真を一つの形として出すのは、ぼくのやるべきことのようにも感じていた。

しかしぼくにとって写真展は、まだまだ先のおとぎ話のようなものに思えていた。その理由は二つある。ひと

もっとみる