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イデア論の、一歩手前 ――『メノン』紹介 #私の岩波文庫

 はじめまして。こちらの素敵な企画をお見かけしましたので、参加させていただきます。

 わたしが推薦したいのは、プラトンの対話篇『メノン』です。 
この本のおもて表紙に書いてあるように、たしかに、このプラトンの対話篇のテーマは「徳は教えられうるか」です。
 しかしこの本のおもしろいところは、そこじゃないのです。

 プラトンといえばイデア論(実在論)というのが定番どころですが、じゃあ古代の哲学者が言ったことなんだから信じるべきだ、正しいに決まっている!と思えるか。
 「このわたしたちが接している現実の世界を越えて、真に存在するものが集う世界がある」
 これがイデア論、実在論と言われる考え方ですが、こんなこと信じますか? ふつう信じませんよね? (信じてたらごめんなさい)。
 現代に生きるわたしたちには直感的には理解しがたいこのような主張を、なぜプラトンは言うことになったのか。古代ギリシアの人だから? 古代ギリシアの人みんながこんな考え方をとっていたわけではありません。
 「プラトンといえばイデア論でしょ」それはそうなのですが、それだけ知っててもなんの役にも立ちません。重要なのは、なぜ、そんな主張に至ったのか、です。プロセスを追わなければ意味がない、というか、納得できません。
 イデア論に至るプロセスで鍵、キー概念になってくるのは、「想起」という概念です。
 すなわち、プラトンはこういうことを言いたいのです。
 「知識を持つということは、それを想起する(思い出す)ことにほかならない」
 ぱっと聞いて納得できますか? たぶん、「え? そうか?」って思うかもしれません。しかしこれを、プラトンはこの『メノン』という対話篇で示しているのです。
 ソクラテスが、対話相手のメノンの召使い――あまり良い教育を受けていない――を対話で導く場面は、とくにおもしろいところです。そこでこの「想起」概念がわかりやすく示されているのです。プラトンが何をモデルに知識論を考えていたか、よくわかります。

 プラトンの対話篇はいろいろあって、本当はわたしは『ラケス』『国家』がお気に入りなのですが、イデア論にいたるその一歩手前の、「想起」という概念をいちばんわかりやすく示しているのがこの『メノン』という作品だと思います。というわけで、これを選びました。
 
 だれかにものを教える仕事をしている人に、この本をおすすめしたいと思います。

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