映画『教皇選挙』エドワード・ベルガー監督インタビュー 世界中のカトリック信者はこの映画をどう受け止めたのか?
次期教皇を選出する“コンクラーベ”を描く『教皇選挙』。カトリック教会内で秘密裏に行われる政治劇という性質から映画通向けの作品になるかと思いきや、神の御技か公開18日間にして早くも興収3億円の大ヒット。上質な映画がこうして口コミで話題を呼び、大躍進しているのは喜ばしいかぎり。
ありがたいことに私も本作にはいろいろと関わらせてもらっているのですが、そのひとつが公式サイトに寄稿した「キーワード徹底解説」と称した解説文。それを執筆するにあたり、補完と裏取りのためエドワード・ベルガー監督に短時間のオンライン取材も実施しています。
あくまで解説のための取材なので記事化する予定はありませんでしたが、このままにしておくのは勿体無いので大ヒット記念として公開することにします。目的が目的のためまとまりはないインタビューですが、幾分かの補助線にはなるかと思うのでぜひ観賞後のヒントとしてお役立てください。
以下、インタビュー ※結末に触れています。未鑑賞の方はご注意ください

——本作を監督するにあたりさまざまなリサーチをされたと思います。そのなかで新たに発見した、あるいは驚いたことはありましたか?
秘密のベールに包まれた世界なので、当然知らないことばかりで発見は多かったですね。たとえば漁師の指輪の破壊方法や、前教皇の部屋が封じられる模様、選挙のプロセスまで、そのすべてが驚きに満ちていました。ただそれが本当に正確なのかは分かりかねますが。
——本作に影響を与えた映画があれば教えてください。
1970年代の陰謀スリラーからはとてもインスピレーションを得ました。とりわけ参考にしたのはアラン・J・パクラ監督の『大統領の陰謀』や『パララックス・ビュー』といった作品ですね。なぜならそれらの映画はとても精緻で正確、かつ建設的でチェスゲームのような構造をしているから。建築物の撮り方も大胆で美しく、光と影の捉え方も見事。あらためて素晴らしい監督だと思います。

——秘密のベールに包まれたコンクラーベを再現するにあたり、独自解釈で補った部分や、意図して映画的アレンジをした部分はありますか?
たくさんありますよ。たとえばシスティーナ礼拝堂での枢機卿の席順ですが、ローレンスの場所は正しくありません。首席枢機卿であれば、本来投票を行うテーブルのすぐ近くに座るはずです。ですが検討したうえで、我々はローレンスを皆の中心に座らせることにしたのです。あの位置であればシスティーナ礼拝堂全体を見渡すことができ、すべての枢機卿に視線を送ることができると考え、意図的に配置しました。また枢機卿が着ている衣装もかなり手を加えています。大いなる儀式には豪華な赤色が必要と考え、朱色に近い本物よりも赤く厚手のものを制作して重厚感を演出しました。
撮影時には宗教アドバイザーのサポートもありましたが、その人物に「枢機卿はどのようにして壺に投票用紙を入れるの?」と聞いても「わからない」と答えるんです。専門家でも謎の部分はあるので、そこに関してはこうするんじゃないかと想像しながら進めていきました。なので描かれているものすべてが正しいという訳ではないですが、できるだけ正確にすることを目指しつつ、必要に応じてドラマ的に意味ある調整をしています。

——インターセックスであるベニテスが新教皇となる展開は、これまで否定され覆い隠されてきたマイノリティの存在を肯定するものであり、家父長制社会のカトリック教会の希望的な変化を感じさせますよね。このラストについて、既に公開されている国々のカトリック信者からはどういう反応があったのか気になります。
世界中にいるカトリック信者の多くは、その宗派に関わらずこの映画を好意的に受け止めてくれていると感じています。そもそもカトリック教会を攻撃するような作品ではないので、激しく糾弾されることや分断が起こることはほとんどありませんでした。我々はそれが家父長制的な構造である事実を指摘したうえで、幾分かの女性性がそこにヒビを入れ、変化をもたらそうとする様子を描いているのです。
ただアメリカには原理主義的な聖職者もいて、彼らは「この映画はDEI(多様性、公平性、包括性)すぎる」などとツイートしていましたね。バチカン市国からは今のところ反応はありませんが、おそらくもう少しフィクションと距離を置いているのではないかと思います。きっと彼らは金曜の夜に観る映画のひとつとして本作を楽しみ、映画を映画として受け取っているだけでしょう。
映画のなかで描かれているように、彼らはベイプやタバコを吸ったり、iPhoneをいじったりする普通の人なんです。だからきっと映画も普通の観客と同じ気持ちで観ているんじゃないかなと思います。制作中にもいろんな枢機卿と話をするなかで、「君の映画を観るからね」なんて言われたりしましたしね。

——冒頭でベリーニが前教皇とのチェスの思い出を振り返りながら、「教皇はいつも8手先まで読む」と語っていましたね。その後の展開を踏まえると、前教皇は自らの死後に行われる教皇選挙で望ましい新教皇が生まれるようにシナリオを作っていたように思えるのですが、いかがでしょうか?
その通りです。あの台詞を放ったベリーニは無邪気にチェスの思い出を振り返っていただけですが、教皇はすべてを読んでいました。ローレンスがコンクラーベで果たす役割も前教皇は理解しており、すべてうまくやってくれると考えローレンスをあの立場に配置し、ベニテスに枢機卿の地位を与えたのです。なぜなら次の教皇に相応しいのはベニテスだと考えていたから。そして前教皇はすべてを仕組んでいきました。彼はトレンブレの汚職の証拠を見つけられるように隠し、アデイエミを失墜させるために過去関係のあったシスターを呼び寄せた。ローレンスはそこから真実を紐解いていきますが、それはすべて8手先を読む教皇によってお膳立てされたものだったのです。
——日本ではまだ原作が発売されていないためその違いが確認できていないのですが、映画版ではどのような脚色がなされているのでしょうか?
ご存知の通り「脚色」とは多くの場合、焦点を絞る作業のことを指します。なので我々も今回、多くの要素を削ぎ落とし焦点を絞ることに注力しました。映画では小説の冒頭部分も結末部分もカットしています。原作だとラストでローレンスがアパートに帰宅していく情景まで描かれているんです。ですが映画の結末として残したのは、ローレンスが聖マルタの家の窓から外を見つめる場面までです。なぜなら我々はそこから出ていく3人、未来へと向かっていく3人の女性たちに焦点を絞りたかったから。そのように原作にあるものから取捨選択していったので、描かれているものは基本的に原作通りなんです。

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