見出し画像

生成AIを駆使して、毎日1本のYouTubeショート動画を「1人」で制作する方法/生成AIのビジネスはやらない/先進企業の生成AI戦略 - Blog 2025/12/4

毎日「1人で」作る

動画生成AIの技術が進歩し、個人でも見た目だけなら「そこそこ高品質」な映像コンテンツを作れるようになりました。
問題は、その恩恵を誰もが受けられるようになったことで、クオリティそのものが差別化要因ではなくなってしまったことです。

70点の映像が無尽蔵に流れ続ける環境の中で、クリエイターが直面している困難は、「作れるかどうか」ではなく「見つけてもらえるか」「見続けてもらえるか」という、視聴者との関係性の部分に移行しています。

「ひかりの天然無双」では、「見た目のクオリティ」で戦うことを早々に降りてしまい、「時間軸」「世界観」「人間性」で勝負する、という構造の組み替えに移行しています。

毎日1分30秒程度のショート動画を一人で作り続け、同時に、週に1本3分前後の本格的なドラマストーリーを作る。

  • 制作期間:1日

  • 映像コンテンツの時間:1分30秒程度

  • 日々のトレーニング:X(@commonstyle)で実践中
    Xに投稿している動画も(動画編集アプリは使用せず)簡易なビデオ編集機能でカジュアルに作っている。「作りながら考える」トレーニングになっている。

そのために、ショートは完全な60点主義で「作りながら考え」、編集も簡易機能で済ませる。逆に、週一のドラマストーリーでは画像生成や動画生成、After EffectsのVFXを総動員して、より濃い表現に踏み込む。
こうしたリズムで「毎日」と「毎週」の二つの時間軸を提示している点に、この戦略の真の狙いがあります。

動画編集アプリすら不要

ショートの動画編集は簡易なもので十分。
「ひかりの天然無双」ショート動画は、スクリーンキャプチャアプリ「ScreenFlow」で簡易編集しています。
ScreenFlowは、macOS専用のアプリでスクリーンキャプチャするためのツールであり、動画編集アプリではありません。
使い慣れているので、利用しているだけでAdobe Expressの簡易ビデオ編集機能などでもよいのです。

動画編集アプリはいらない、ScreenFlow(スクリーンキャプチャ)で簡易な編集

60点主義

決して妥協ではありません。
90点を狙おうとすると、制作時間は増え、試行回数が稼げず、改善サイクルも遅くなります。
「一本ごとの完成度」よりも、「一年間で何本のアウトプットを積み上げられるか」という学習の総量を優先する戦略です。
自分が作った大量のコンテンツを材料に、表現や構成の筋肉を鍛えていく。その前提があるからこそ、「毎日ショート」と「週一ドラマ」というリズムが、ただの作業ノルマではなく、自己進化の装置になっています。

4コマ漫画を描くように、サクッと作るYouTubeショート動画

エピソード1

  • 再生時間:1分25秒

エピソード2

  • 再生時間:1分33秒

  • エピソード1を雛形にして、素材を共有しながら制作

全てはNano Bananaのおかげ

毎日制作が可能になったのは「Nano Banana」が様々なプラットフォームで利用できるようになったからです。
特に、Photoshopで使えるようになったことが最も大きい。Nano Bananaの弱点もPhotoshopの既存機能で補うことができます。

「ひかりの天然無双」制作で使用している生成AI

画像生成:

  • Nano Banana Pro
    ※Adobe FireflyやPhotoshop、Freepik、Leonardo AIなど、様々なアプリ、プラットホームでNano Banana Proを使っている(各々、独自のUIを持っており、用途が異なる)

動画生成:

  • Google Veo 3.1

  • KLING v2.1/v2.5 Turbo(すでに最新のマルチモーダルモデル「O1」に移行)

音声の生成:

  • 人物の声:ElevenLabs /効果音の生成:ElevenLabs

  • 音楽の生成:Suno AI

リップシンク:

  • DomoAI、DzineAI(使用頻度は低い)


ショート動画:今後はスマホだけで制作する

これは「制作の効率化」ではなく、自分のクリエイティブを「スマホだけで成立するフォーマット」に合わせて再設計する行為です。
スマホ完結を前提にすれば、カット数やテロップの量、操作ステップ、制作時間の上限など、制作の物理法則そのものが変わります。
現在はまだ実現していませんが、習慣化を達成した後、パソコンからスマホに移行する予定です。

動画編集は、Adobe Premiere iPhone版を使います。


毎週「1人で」作る

「ひかりの天然無双」の通常の動画コンテンツは、最先端の生成AIを仮説検証を兼ねた実験です。

ハイ・ローミックス戦略

ショート動画とは異なり、常に最新のAIモデル、最新の機能を採用し、仮説検証しながら制作しています。動画編集プロセスも、After Effecstを使ったVFX作業が中心です。

  • 制作期間:7日間(1週間)

  • 映像コンテンツの時間:3〜5分程度

  • 常に最先端の生成AI技術を導入して、新しい制作方法やテクニックを生み出すことが目的

ショート動画の作り方とは大きく異なり、ここでは最新の生成AI技術、最先端のツールを駆使して、高度な制作方法が実践されています。

ノード型ワークフロー構築環境で制作

Adobe MAX 2025の基調講演で紹介されたAdobeのノード型ワークフロー構築環境である「Project Graph」の概要。


隔月「1人で」作る

連続ドラマ「COLORS」は、2か月間で30分のドラマを制作する試み。
すでにライフワークになっている。
「ひかりの天然無双」は「COLORS」のための基礎トレーニングのようなもので、得られたノウハウは全て「COLORS」制作で活かされる仕組みになっている。

COLORSの制作は日々、高度化・複雑化している
COLORSの取り組みは2年経つ(書籍「生成AIで映画を作ってみた」技術評論社で解説)


アンチ・スケーラビリティ

この戦略には、スケールしないことを武器にするという側面もあります。
企業や大規模プロダクションが目指すのは標準化とマニュアル化であり、誰がやっても同レベルの品質維持(平準化)、同じフローで回せるようにすることです。

それに対して、「ひかりの天然無双」は一人の視点が前面に出る「属人的なコンテンツ制作」です。反スケーラビリティこそが、個人クリエイターの固有値になっているのです。

この全体像をさらに一段抽象度を上げて捉えると、それはまさに「映像版・漫画家モデル」の本格的な実験です。

漫画家は、毎週あるいは毎月、限られたページ数の中でキャラクターを動かし、世界を広げ、読者の生活の時間軸に自分の作品を刻み込んでいきます。

読者は単に一話一話を消費しているのではなく、「あのキャラが気になる」「次はどんな展開になるのか」と、半ば無意識のうちに自分の生活リズムと連載のリズムを同期させていきます。
一話ごとの作画クオリティや演出の巧みさも重要ですが、それ以上に「この世界の続きに付き合いたい」と思わせる連続性と、作家の視点そのものが信頼されるかどうかが、本当の評価軸になっています。

このモデルを一人で回すという前提が、実験としてのラディカルさをさらに強めます。

分業された制作ラインや大規模チームであれば、「連載」を成立させることは難しくありません。
ところが、企画・演出・生成・編集・投稿まですべて自分の手の届くところで完結させるとなると、それは職能の問題というより、生活と創作を丸ごと連載モードに切り替える行為に近づきます。
どこまで負荷を下げ、どこから先を60点に留め、どの部分だけは譲らずに作り込むのか。制作フローそのものを、長期連載に耐えうる様式にチューニングしていく必要が出てきます。

これらのプロセスのすべてが、生成AI時代における「映像作家」という職業の輪郭を描き直していく実験であり、同時に「漫画家のように生きる」という在り方を、ゼロからやり直す試みでもあります。


生成AIのビジネスはやらない

絶好のタイミング

「絶好のタイミング」とは、新しいパラダイムの可能性が開き、まだ誰も正解を知らない、その「短い期間」のことを指しています。

今は技術が急速に進化中で、誰にも正解が分からず、試行錯誤が許され、先行者が圧倒的に有利なフェーズです。
しかし、来年はベストプラクティスが確立され、テンプレート化が進み、後発組が参入しやすくなって先行者優位が薄れていきます。

今、最も優先すべきリソースは「時間」です。

実験時間の喪失は週20時間として年間1,040時間に達します。
さらにモチベーションの低下による創造性の枯渇、最新ツールへの習熟機会の損失、この1年で作れたはずのコンテンツ資産の未形成、支援者との関係性構築の機会損失などがあります。

最も重要なのは、この選択が後から取り返せないことです。

好奇心、探索欲、習熟の喜びといった内発的動機は創造性と革新の源泉であり、長期的な持続可能性をもたらします。
一方で報酬、承認、義務といった外発的動機はルーチンワークには有効ですが、創造性を阻害する可能性があります。受注仕事は外発的動機を強制的に注入し、「やりたいこと」を「やるべきこと」に変えてしまいます。

戦略の本質は「何をやるか」ではなく「何をやらないか」。

探索とは新しい可能性を探ることであり、活用とは既知のものを最適化することです。
パラダイムシフト期には、旧パラダイムの活用である受注仕事は短期的利益をもたらしますが、新パラダイムの探索は長期的利益をもたらします。
そして、両方を同時にはできません。認知資源が分散し、どちらも中途半端になってしまいます。

「今は受注で稼ぎながら、少しずつ探索もする」という移行期戦略が失敗する理由は明確です。受注仕事が主になると、探索は「余った時間」でやることになり、二つのモード間の切り替えコストは想像以上に高く、安定収入があるとリスクを取る動機が減ってしまいます。
移行期戦略は、実質的に「何もしない」と同義になってしまうのです。

一般的には、受注仕事を断ることがリスクで、稼げる仕事を受けることが安全だと認識されています。しかし、パラダイムシフト期において真のリスクは探索の時間を失うことであり、真の安全は将来のポジションを確立することです。

受注仕事を止めるために、2年ほどの準備期間が必要でした。
2年間の時間(17,544時間)を使って、現在の戦略をなんとか可能にしています。かなり大変でした。

参考:


先進的な企業の生成AI戦略

大企業の内部では、「革新的なことをやろう」という掛け声は上がっても、それを本当に実行に移そうとすると、途端に免疫システムが働きます。

既存事業とのカニバリ、ブランド毀損のリスク、法務やコンプライアンスのチェック、社内政治、稟議、決裁プロセス。
どれも組織を守るためには必要なのですが、その延長線上では「既存ビジネスを少し効率化するAI活用」までが限界で、枠組みを根本から変えてしまうような試行錯誤はどうしても後回しになります。

「前例がない」「責任の所在が曖昧」「失敗したときの説明がつかない」という理由で、本当にラディカルな試みほど組織の中で煙たがられる。
結果として、社内での生成AI活用は「無難な領域」にとどまりがちになります。

こっそり別会社を設立「お金は出すが口は出さない」

生成AIを重視している先進的な企業は、「グループとは切り離された小さな会社をこっそり作る」というやり方が顕著です。
この小会社は、最初から「既存フローの延長線上にいない」ことが前提になっています。既存部門のKPIとも切り離され、売上目標も極端に高くは設定されず、むしろ「どこまで既存のやり方を壊せるか」が評価基準になっています。

生成AIのような技術は、「触る」レベルでは本質がまったく見えません。
頻繁にモデルがアップデートされ、UIが変わり、新しいAPIや競合サービスが出てくる。その波に直接さらされながら、自分たちの手を動かし続けてはじめて、「どんな仕事の仕方ならこの技術と共存できるのか」「どの部分は完全にAIに任せてよいのか」「どこに人間の判断を残さないと破綻するのか」という感覚が身体化されていきます。

大企業のルールの中では、その「身体で覚える時間」がほとんど取れません。だからこそ、そうした学習を引き受ける“外部の脳”として、小さな会社を用意するわけです。

この戦略の優れている点は、リスクの切り分けが非常にクリアなところにあります。
もし、外部の小会社が失敗しても、それは「小さなスタートアップがうまくいかなかった」という程度の出来事に留められます。
本体のブランドが傷つくこともなければ、株主やメディアに対して大きな説明責任を負う必要もない。
一方、うまくいけば「実績のあるチーム」として堂々と本体に招き入れ、そのまま社内のAI推進部門や新規事業の中核に据えることができる。
その時点で、彼らはすでに何十、何百という実験を経た「生きたノウハウ」を持っているため、教科書的なDX部門とは質的に違う力を組織にもたらすことができます。

音楽業界での成功例:

「お金は出すが、口は出さない」が大前提の戦略です。

結局のところ、この見えないスピンアウト戦略は、大企業が「自分たちだけでは、生成AI時代の速度についていけない」という自覚を持ったときに取り得る、もっとも現実的な解のひとつです。


現状については、先月の報告会で詳しく解説しています。


更新日:2025年12月4日(木)/公開日:2025年12月4日(木)

いいなと思ったら応援しよう!