トヨタ・日産・スバル…EVは国内自動車市場で〝跳躍〟の時を迎えられるか
2026年の国内自動車市場は電気自動車(EV)が活気づきそうだ。トヨタ自動車などの国内勢をはじめ、中国・比亜迪(BYD)などが新型車を相次ぎ投入。長い航続距離や手頃な価格帯などが特徴で各社の販売戦略が熱を帯びる。カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に向けEVの普及が期待されてきたが、車種の少なさや性能、コスト、利便性などが課題だった。新たな選択肢として“跳躍”の時を迎えることができるのか―。(編集委員・村上毅)
車種拡充、販売戦略熱帯びる
「アーリーアダプター(早期導入者)の需要が一巡し、良いタイミング。営業や設計・開発陣も含めて良さをしっかりとアピールしたい」。スズキの鈴木俊宏社長はこう力を込める。スズキは同社初のEV「eビターラ」を16日に国内市場で発売する。人気のスポーツ多目的車(SUV)タイプで、既に欧州で発売済み。新開発の専用プラットフォーム(車台)を採用し、価格が安価なリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池を搭載。1充電走行距離は最長520キロメートル(WLTCモード)、消費税込みの価格は399万3000円からと手頃な価格に抑えた。「当社の力が試されている。地に足を付けて売っていく」(鈴木社長)構えだ。
航続距離・手頃な価格で勝負
日産自動車の新型「リーフ」の納車も月内にいよいよ始まる。25年10月に受注を開始した第3世代はクロスオーバーSUVに全面刷新。「これまでに得た知見を全て注ぎ込んだ集大成」(イバン・エスピノーサ日産社長)で、同社の経営再建の行方も左右する。航続距離は最大702キロメートル、消費税込みの価格は518万8700円からと航続距離を延伸しながら旧型車と同等以下の価格に抑えた。より安価な新グレード「B5」も26年2月ごろに発表予定だ。
トヨタとSUBARU(スバル)は共同開発したSUVタイプの新型車を市場に投入する。日常に加え、アウトドアでの活用も想定し、走行性能と荷室の広さが特徴だ。トヨタは北米仕様の新EV「bZウッドランド」の日本向けモデル「bZ4Xツーリング」を春ごろに発売する予定。bZウッドランドは航続距離は約260マイル(約418キロメートル)を確保する。マイナス10度Cの冷間時でも約30分で急速充電ができる「バッテリープレコンディショニング」を搭載する。
スバルの「トレイルシーカー」も春ごろに発表を予定する。高出力モーターによる加速と道を選ばない走破性が強み。「電気の力で楽しさを拡張する新たなアウトドア体験を提案する」(大崎篤スバル社長)とする。
またラグジュアリークラスでは、ソニー・ホンダモビリティ(東京都港区)の動向に注目だ。高級セダン「AFEELA 1(アフィーラ・ワン)」を年内に日本で納車開始を予定する。先行する米カリフォルニア州での販売価格は8万9900ドル(約1400万円)から。独自の先進運転支援システム(ADAS)により運転負荷軽減と安心・安全な移動体験を提供するほか、対話型パーソナルエージェントの搭載やエンターテインメントを楽しめる最適化した室内空間がユニークな点だ。「モビリティーの知能化により人との関係を進化させ、移動体験に革新をもたらす」(水野泰秀ソニー・ホンダ会長兼最高経営責任者〈CEO〉)と位置付ける。
「軽・小型」中国新興台風の目に
熾烈(しれつ)な競争となりそうなのが軽自動車・小型車で、中でも話題の中心にあるのがBYDだ。夏に国内市場で投入予定の軽EV「RACCO(ラッコ)」は同社初の日本専用に設計したモデル。日本で人気の全高が高いスーパーハイト系ワゴンで、左右両側にスライドドアを採用した。価格は非公表だがLFP電池を採用した独自の「ブレードバッテリー」を活用するなど、これまで培ったノウハウを応用し、より競争力のある価格帯を打ち出す方針だ。
BYDの日本法人であるBYDオートジャパン(横浜市神奈川区)の東福寺厚樹社長は「100台を超える試作車を作り、衝突試験などを実施している」と明かし、発売に向けて準備を進める。
一方、ホンダは小型EV「Super―ONE(スーパー・ワン)」を年内に発売する予定だ。軽「Nシリーズ」で培ったプラットフォームを活用。専用開発の「BOOSTモード」により出力を拡大して高揚感あふれる走行体験を提供する。スズキは「お客さまの毎日に寄り添うEV」をコンセプトとする軽EV「ビジョンeスカイ」の26年度内の量産化を目指している。
充電インフラ整備促進 不安解消、購買動機に
車種が限られ、航続距離・充電環境に不安があることなどから日本でEVの存在感は乏しい。日本自動車販売協会連合会(自販連)と全国軽自動車協会連合会(全軽自協)がまとめた24年の国内EV販売台数は前年比32・5%減の5万9736台で新車販売に占めるEV比率は同0・6ポイント減の1・6%だった。
コンサルティング会社のKPMGジャパン(東京都千代田区)が25年8月に国内自動車保有者を対象に実施した調査でも、「次に車を購入する際にEVの購入を検討する」とした割合は3%にとどまり、前回23年11月調査と比べて10ポイント減少した。「充電インフラ」「購入価格」「乗りたいと思える車がない」「航続距離」などの課題が主な理由で、車種が増える中で顧客の購買動機につなげられるかどうかがカギとなる。
政府は35年までに新車販売で電動車100%を目標に掲げ、電動車の普及と充電インフラ整備を両輪として進める。23年10月に策定した「充電インフラ整備促進に向けた指針」では30年までに充電口数30万口の設置が目標だ。25年3月末時点では約6万8000口(急速充電器約1万2000口、普通充電器約5万6000口)で、24年3月末から約2万8000口増加している。
急速充電器では高速道路などでの設置が進み、主流だった50キロワット未満から90キロ―150キロワットの高出力化で充電時間の短縮が期待される。普通充電器は商業施設や宿泊施設などで導入され、今後、合意形成が必要な集合住宅などでの整備が必要となりそうだ。
世界のEV市場は補助金の削減や政策の見直しなどで逆風が吹いている。米国ではトランプ政権が前政権で掲げた30年までのEV比率5割の目標を撤回し、25年10月にはEV購入補助を終了した。欧州では35年に内燃機関(ICE)車販売を禁止するとしていた従来方針を事実上撤回した。中国新興EVメーカーの台頭や既存の自動車産業の保護、エネルギー情勢の悪化などが絡み、EVを取り巻く環境も変化のさなかにある。
中長期的にはEVシフトが進展するとの見方がある中で、地域のエネルギー事情やクルマの使われ方に応じて多様な技術の選択肢を準備する「マルチパスウェイ(全方位戦略)」がCNの現実解だ。
EVは二酸化炭素(CO2)を排出せず、従来のガソリン車と比べ燃料費を削減できるなどコスト効果が期待できる。企業の社会的責任(CSR)やサステナビリティー(持続可能性)の観点からもメリットは少なくない。ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)などとともにEVを重要な選択肢にする取り組みは欠かせない。
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