「前例のない挑戦」…技術革新へ日米の生態系連携、GSC構想が動き出す
リスク評価、共有重要に
停滞していたグローバル・スタートアップ・キャンパス(GSC)構想が動き出す。米マサチューセッツ工科大学(MIT)などを誘致して日本のイノベーションエコシステム(協業の生態系)と海外のエコシステムをつなぐ重要施策だ。構想を推進する運営法人の設立が遅れる中で、研究開発や人材交流などを先行的に進めることになった。課題は研究者のデューディリジェンス(DD)だ。身辺調査結果を国内外で共有していく必要がある。(小寺貴之)
「世界最高水準のイノベーション・エコシステムのハブを構築する前例のない挑戦」と城内実内閣府特命担当相はGSC構想を表現する。GSC構想では大学の基礎研究の成果がベンチャー投資などを経て社会実装される過程を加速する。そのために米国と日本のエコシステムをつないで世界から投資を集める。海外のベンチャーキャピタル(VC)などと渡り合うためにベンチャーディレクター(VD)を配置して研究開発と並行して事業化を進める。技術開発と人材獲得、国際連携投資を一体的に進める挑戦になる。
内閣府は研究開発と事業化支援、人材育成のフェローシップ事業の公募を始めた。予算は3年間で最大271億円。前例のない挑戦になるため推進役のVDには国内外で実績のある人材を招く。研究成果の事業化経験やグローバル市場でのビジネスの経験を求める。
VDは各研究者の進捗をマネジメントしながら、産業界から投資や顧客などを集める。従来の日本の研究開発プロジェクトにはなかったポストのため日本には人材が乏しい。海外の経験者に期待がかかる。そこで内閣府は米MITやスタンフォード大学のVC組織や研究機関などと水面下で交渉している。
課題は研究者へのDDだ。日米2カ国で経済安全保障などに関わる研究テーマに取り組むため身辺調査は欠かせない。一方で日本が推薦した研究者が相手国に断られた際の扱いが焦点になる。公募要領には海外VCや研究機関などの外部機関は「国内研究機関におけるDDを支援いただく」と記述された。支援の範囲にはとどまるが、国内機関は外部機関の判断を尊重する必要がある。内閣府担当官は「あくまで国内研究機関の責任で人を採用することになる」と説明する。現実には両国で判断が割れる研究者をプロジェクトに参画させることは難しい。実質的に拒否権のように機能する可能性はある。DDの結果を相手国から説明してもらえないケースもある。
これは国際連携全般に生じる問題だ。ただGSC構想は、従来の国際共同開発プロジェクトよりも多様な事業者が関わり、人材流動性も高い。そもそもイノベーションエコシステムとは、さまざま事業者が広く関わる中で生まれてくるひらめきを拾い上げる活動の総体だ。多様で流動的なエコシステムでも機能するDD連携が求められている。