Inside2025.06.27

女子柔道選手の月経を巡る課題――Yahoo!ニュース オリジナル 特集はなぜ提起したのか

性教育が進んできている現在でも、語られづらいテーマである月経。特にスポーツ界では男性指導者が多く、月経への理解が広がりにくい実情がある中、2024年5月にYahoo!ニュース オリジナル 特集(以下 Yahoo!ニュース特集)で「女子柔道と月経」の問題を取り上げ、多くの反響がありました。その後2025年3月には、全日本柔道連盟(以下、全柔連)が「月経による出血が柔道衣に付着していることが目視できた場合の対応方針について」を公表しました。記事はいかにして生まれたのか、制作担当者と全柔連に聞きました。(取材・文:Yahoo!ニュース)

大迫明伸:全日本柔道連盟 審判委員長
佐藤温夏:スポーツジャーナリスト ライター
安田はつね:Yahoo!ニュース特集 企画担当
塚原沙耶:Yahoo!ニュース特集 編集担当
※敬称略


Yahoo!ニュース特集で、「女子柔道と月経」を取り上げる

――「経血漏れで試合敗退の事例も――現場から変える、女子柔道界の月経問題 #性のギモン」(以下特集記事)は、どのようにして生まれたのでしょうか。

安田:Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」のテーマのひとつに「#性のギモン」があります。性教育を中心に、性に関する疑問や悩みを考える幅広いトピックを扱っています。今回はスポーツジャーナリストの佐藤温夏さんから、女性柔道家が月経でさまざまな課題を抱えている現状と、その解決に向けて奮闘している方を取材したいという企画を提案いただきました。

塚原:驚いたのは、試合中に経血漏れが続くとルール上敗退になってしまう可能性があったことです。選手はつらかっただろうなと思います。月経の問題は、女性指導者が少ない世界では語られづらい面があります。柔道以外のスポーツでも共通する部分はあると思うので、課題を明らかにし、広く提起できればという思いで始めました。


Yahoo!ニュース特集で「女子柔道と月経」を取り上げた

タブー視から議論へ、変わりつつある女子柔道界

――これまでスポーツの現場では、月経はどのような扱いだったのでしょうか。

佐藤:1990年代後半から女子柔道の取材を始めましたが、「経血漏れかな?」と思う場面は何度かありました。月経について取材を試みたこともありますが、関係者も当事者も口が重かったり、回答が精神論に寄りすぎたりして進まず……。オープンに語る風潮はなく、むしろタブー視されていました。解決すべき課題として認識されていなかったこともあり、私も月経の課題を「ないもの」として見て見ぬ振りをしていたひとりでした。

塚原:特集記事では、啓発活動や対策用品の開発といった変わりつつある女子柔道界を紹介しています。柔道に詳しいわけではない幅広いユーザーに向けて背景や現状のルールを解説しつつ、具体的な月経にまつわる課題と対策を盛り込みました。そこから指導者・関係者や企業による解決に向けた取り組みと考えを語っていただきました。

安田:私は空手をやっていましたが、月経中の試合は道着や生理用品が気になってパフォーマンスが絶対落ちるんです。動きに制約があり、もしトラブルが起きても顧問と仲間にも言いづらい。競技者にはこういった困りごとがあり、声を上げることで柔道界だけでなく、スポーツ界に理解が広がってほしいという思いを込めました。


図解にした9つの「生理のときの困りごと」

――反響も大きかったと聞いています。

塚原:PV(ページビュー)やSNSの反響は大きく、記事へのコメントも1300件を超えました。女性の悩みや体験談はもちろん、男性からの「知らなかった」「勉強になった」という意見、娘がいる父親の声もありました。よい形で議論が活性化したと感じています。

佐藤:特集記事では全柔連審判委員会の大迫明伸審判委員長からお話を伺い、「問題意識は関係者間で共有されており、何らかの対策を講じる必要性は感じている」とコメントいただきました。その後、大迫審判委員長が中心となり、医科学委員会と連携して月経の取扱方針の新設に向けて動き始めたそうで、検討の資料としてこの特集記事が共有されたと聞いています。


写真:アフロ

全柔連が経血漏れの対応方針を公表

全柔連は2025年3月13日、「月経による出血が柔道衣に付着していることが目視できた場合の対応方針について」の通知文を公表し、経血漏れ時の意思確認や、柔道衣の交換ルールなど、国内大会での対応方針を示しました。大迫審判委員長に改めて伺いました。

――どのような経緯で今回の方針が公表されたのでしょうか。

大迫:取材を受ける数カ月前より「大会で経血漏れが発生したがどう対処すべきか」との質問が、地区役員の先生から複数ありました。確認すると対応がバラバラで、少なくとも試合時は対応の統一が必要と判断して全柔連審判委員会へルール化を諮りました。

――方針公表後に試合運営に変化はありましたか。

大迫:知る限りは試合時の問題報告は届いていません。ただ、時間の短い試合よりも、2~3時間ある普段の稽古時の方が大きな問題です。柔道界の指導者は圧倒的に男性が多く、この課題への認識や知識がほとんどありません。

――全柔連として、女子選手のために今後どのような考えをお持ちですか。

大迫:お恥ずかしい話ですが私自身、女子選手を指導したことがなかったため、地区役員の先生から実際の試合時であった話を聞いて初めてこの問題に気づきました。多くの指導者にこの課題を認識し、積極的に解決に挑むきっかけにしてほしいので、審判委員会だけではなく、指導者養成、医科学、女子柔道振興といった各委員会と合同でプロジェクトを組んで取り組みたいと思います。理解と対策が進むことで、女子柔道選手がのびのびと競技に集中できるようになればよいと思います。


「公益財団法人全日本柔道連盟」の公式ウェブサイトより

――全柔連から公表された方針をどう見ていますか?

佐藤:女性の尊厳とプライバシーを守り人権にも配慮した、国内のみならず世界的に見てもたいへん珍しく、画期的な方針だと思います。これまでルールや試合現場でもないことにされてきた月経による出血が、全柔連の公式文書に突如登場したわけですから。また柔道と同様に、選手の出血が試合結果に影響を与える格闘技などの他競技にとってよい影響をもたらすかもしれません。

安田:止血措置でも「試合成立を優先し、柔道衣の交換は何度でも認める」という一文がありました。他の内容も具体的で現場目線だし、とても柔軟になっていると思います。

佐藤:柔道家の皆さんはこの方針を自慢するくらいの心もちで、ぜひ「うちの競技(柔道)にはこういうルールがある」とあちこちで語ってほしい。この方針があるおかげでいかに安心して、心地よく試合に臨むことができるか。もし不十分な点があるなら、声を上げてほしいです。それは女子柔道の環境の充実につながるはずです。

Yahoo!ニュース特集10周年のこれから


――今回の特集記事が果たした役割をどう評価しますか?

塚原:取材時に大迫審判委員長も「対策を講じる必要性は感じている」と語られていましたが、昨年の5月に特集記事を公開し、約10カ月後に方針が公表されました。もしかしたら、いいタイミングで少し背中を押せたのかもしれません。月経の話を取り上げるのは女性向けの媒体が多いかと思います。今回、女性向け媒体やスポーツ専門媒体ではなく、読者層の広いYahoo!ニュースで扱い、さまざまな方に読んでもらえたのはよかったのではないかと考えています。

安田:月経は話しづらいテーマですが、それでも選手や関係者に語ってもらえたことで課題もリアルになりました。そんな話を聞ける信頼関係を地道に築き続けたライターさんの力も大きいですね。

塚原:議論が盛り上がったこともよかったです。この記事だけでなくYahoo!ニュース「#性のギモン」の記事コメントには、人には語りづらい意見が長文で綴られることが多く、新しい課題の発見や次の企画の種にもなったりもしています。

――Yahoo!ニュースは「課題解決と行動につながるニュースを伝える」をミッションに掲げています。Yahoo!ニュース特集は今後どう進んでいきますか。

塚原:課題の発見を大事にしたいですね。さまざまな問題意識や視点を持っている方々と一緒に考えながら作っていく。世の中でまだあまり伝えられていない、語られづらい社会課題を見つけ、丁寧に掘り下げて伝え、コメントで議論を活性化して解決に近づける、という役割にしっかり取り組んでいきたいです。

安田:世の中で埋もれている、目立たない声を拾えるよう、きちんと耳を澄ます。届けたいのに届けられない声や情報も発信していくことで、誰かを助けられるきっかけになればと思います。ただ、ほんの一言でものすごく傷つく人もいれば勇気づけられる人もいて、受け取り方はいろいろあると思うので責任は重大です。

塚原:Yahoo!ニュース特集は今年で10周年を迎えます。同じテーマを繰り返し取り上げる中で見つけられる課題もあるので、続けることが力になります。課題を分かりやすく整理して伝える地道な作業ですが、今回のような変化につながる成果があるとすごく励みになりますね。

<関連リンク>
「誰にも言わなかったけど、わたしも」ユーザーの声が集まる Yahoo!ニュースが届ける「#性のギモン」

お問い合わせ先

このブログに関するお問い合わせについてはこちらへお願いいたします。