庄野千寿子さんの『誕生日のアップルパイ』を読了。とてもいい本で、庄野家の秘密を知ることができました。千寿子さんが僕と同じ丑年であったことも(牛の絵、たまらないですね)。
で、この流れで庄野潤三の『夕べの雲』を読みたくなって、久しぶりに講談社文芸文庫の『夕べの雲』を取り出してぱらぱらと。巻末には千寿子さんや夏子さんが映った家族の写真や庄野潤三と小沼丹がいっしょに写った写真もあってにっこり。さらに解説を書いていたのが阪田寛夫。気づかなかった。
僕が庄野潤三のことを知ったのは村上春樹の『若い読者のための短編小説案内』(文藝春秋 1997年)でした。これがきっかけで私小説的なものを少しずつ読むようになったんですね。この本の庄野潤三の章で紹介されていた「静物」と「プールサイド小景」をまず読み(新潮文庫)、それから講談社文芸文庫の『夕べの雲』を買って読みました。『夕べの雲』の後付を見るとこちらも発行は1997年。村上さんの本を読んですぐに買ったことがわかります。ただ正直いえば当時気に入ったのは「プールサイド小景」だけだったかな。
ところで島田の解説でもふれられていますが千寿子さんは岡山に縁があるんですね。本文中にも「つるの玉子」という岡山の銘菓が話が出てきます。小沼丹も岡山に縁があるのでひょっとしたらお二人、岡山話で盛り上がったりしたこともあったかもしれません。
本には小沼丹の名前(「小沼さん」ですが)がいっぱい出てくるんですが、本の最後の方に注目すべき話が。それは平成8年3月5日に夏子さんに出した手紙の中。
フラワーセンターに、前は可愛い木曽馬がいて小沼さんが「やあ」と声をかけると、トコトコ柵のところまでよって来たこと思い出しました。
もう十年も前のことだよなあと、吃驚りしています。
実は小沼丹は前年の平成7年10月に脳梗塞で倒れ、この平成8年1月には東京都清瀬市にあるベトレヘムの園病院に転院していて11月8日に肺炎で亡くなっているんですね。調べたらベトレヘムの園病院というのはカトリック系の病院のようで、終末期の患者を対象としたターミナルケアをやっているよう(たぶん)。小沼丹が『馬画帖』に掲載された馬の絵を大学ノートに描いたのは平成7年11月15日から平成8年2月3日までのことですが、千寿子さんは小沼の家族から彼が馬の絵ばかりを描き続けていることを聞いていたんでしょうか。
いずれにしても牧師だった父親との関係、その父がいた岡山での小沼丹の暮らし、作家仲間ではそれほど親しい関係を持っていない中で、クリスチャンでもある庄野潤三と阪田寛夫とは最後まで親しい間柄であったこと、そして病床で自らの死と向き合っているときに描いた馬の絵。いろんな謎があって資料も結構集めたんですが、結局中断。
これらを調べ始めたときに見つけたのが小沼丹研究の第一人者である(小津の映画研究でも有名)中村明の「随感 ゆりかごの小沼丹」という論文(『早稲田日本語研究』2006年3月号)。これ、ネットに上がっていて、たぶん今でもダウンロードできるはず。そこには小沼丹の父のこと、岡山での日々のことなどが興味深く記されています。
その中で最も注目したのはこの一文でした。
もともと画家志望だった父は厳格な反面、優しい目をした馬の絵を描いて子供たちに見せたともいう。
死の床にあった小沼丹は子供の頃に父親に書いてもらっていた優しい目をした馬の絵を書くことで、亡くなるまで断絶状態にあった父親との関係の恢復をしていたような気がします。馬の中に父親を見ていたのかもしれません。
いずれにしてももう一度しっかりと『馬画帖』を観たいのですが、当時私家版として配られたものを手に入れるのは不可能でしょう。庄野さんの山の上の家に行くのも大変だし。ということでぜひこれを機会に夏葉社で復刻してほしいですね。島田さん、お願いします。
いつも、興味深く拝見しております
本は人生のおやつですという屋号の本屋さんをご存じですか 大阪のど真ん中堂島のビル内にあったのですが、朝来市に移転されました インスタでフォローをしてるのですが、新入荷が「誕生日のアップルパイ」と「昔日の客」です そして「夏葉社日記」一年間、夏葉社で働いた秋峰善という方の本です いつも不思議とこちらのブログとシンクロしていて…おひさまゆうびん舎さんとシンクロしているのでしょうか ほんおやの店主さんは井伏鱒二の大ファンとのことでした
いつも読んでくださっているようでありがとうございます。
本は人生のおやつです、という本屋さん、名前はどこかで見たことありますが(たぶん知り合いの誰かが行ったのではないかと)、僕はまだ行ったことはありません。
写真で場所と店の様子を見ましたが、すばらしいですね。
一目で行ってみたくなりました。
夏葉社の本とも似合いそうです。
姫路にいればちょっと足を伸ばしたくなるようなところですが、
今住んでいるところからはちょっと行くのが大変そう。神戸すら行けなくなってしまったので。
でも行きたいなあ。
店主さんが井伏鱒二の大ファンというのもいいですね。僕も井伏さん大好きです。
数年前井伏の全集を買ったものの、第一巻すら読めてないんですが。
本は人生のおやつですさんの情報、またください。

