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by hinaseno
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言い出しかねて(中編)


大橋歩さんが発行・編集人となっていた『アルネ』、いい雑誌でしたね。その『アルネ』に村上さんが何度か登場してるんですが(大橋さんと親しかったんですね)、その最初が『アルネ』3号(2003年4月15日発行)に載った村上春樹のエッセイ「言い出しかねて」でした。これはのちに『村上春樹 雑文集』に掲載されるんですが、やはり大橋さんのイラストの入ったこっちの方がはるかにいいです。何度手に取って読み返しただろう。

言い出しかねて(中編)_a0285828_10255071.jpeg


このイラストの主はもちろんビリー・ホリデイ。

こんな話が出てきます。


このあいだふと思いついてうちのレコード棚をひっくり返してみたら、おおよそ40種類くらいのこの曲(「言い出しかねて」)の演奏がみつかった。とんでもない数だ。僕が思い出せなかった演奏も、ほかにまだたくさんあるだろう。1937年に大ヒットしたバニー・ベリガン楽団のものに始まって、レスター・ヤング、コールマン・ホーキンズ、チャーリー・パーカー、そして死ぬ少し前に録音されたスタン・ゲッツの世にも美しいライヴ演奏まで、いろんな見事な演奏が残っている。そのうちの「これは」と思う演奏を80分ミニディスクにまとめて録音して(暇なんだ)、車の中で運転しながら聴くともなく聴いていたら、そのうちにすごく飛行機に乗りたくなってきた。どこでもいいから、遠くの国にいきたくなってきた。

 でもたとえ百も二百も、世の中に『言い出しかねて」の優れた演奏が存在したとしても、僕が好きな「言い出しかねて」は、昔からたったひとつに決まっている。唯一無二、「言い出しかねて」ならこれしかない、という極めつけの演奏がある。ビリー・ホリデイがカウント・ベイシー楽団とともに吹き込んだ1937年11月3日の演奏だ。


ここから話は少しややこしくなってきます。


しかしこれは正規の録音ではない。当時カウント・ベイシーとビリー・ホリデイはレコード会社との契約の関係で共演録音はできなかったので(これはジャズの歴史にとって大きな悲劇だった)、プロデューサーのジョン・ハモンドが、ラジオで中継されたものを「私的に」録音した。それが後年LPになって発売された。だから正規の録音に比べて、音は今ひとつなのだけれど、演奏の方は見事というしかない。…


そしてこんな話も。


彼女は1938年6月にもベイシー楽団のピックアップ・メンバーをバックに、『言い出しかねて』をスタジオ録音している。現在発売されているビリー・ホリデイの「言い出しかねて」は、だいたいこちらの方だ。しかし先にも述べたように、御大の米シーだけが契約の関係で外れて、違うピアニストがピアノの前に座っている。…


先に言っておくとビリー・ホリデイが「言い出しかねて」をスタジオ録音したのは昨日書いたように1938年9月15日なので6月というのは誤り(『雑文集』でも訂正されていませんでした)。

それはさておきこのエッセイを読んで1937年11月3日に録音された「言い出しかねて」を聴きたくならない村上ファンはいません。


ところで僕が初めてビリー・ホリデイの「言い出しかねて」が入ったCDを手に入れたのはこれでした。

言い出しかねて(中編)_a0285828_13540324.jpeg


1997年の暮れに出た和田誠・村上春樹による『ポートレイト・イン・ジャズ』の流れを受けて翌年に出たCD。このラストに、なぜかビリー・ホリデイの「言い出しかねて」が入っていたんですね。

なぜか、というのはビリー・ホリデイの「言い出しかねて」は『ポートレイト・イン・ジャズ』では取り上げられていない曲だったから。ちなみに村上さんが『ポートレイト・イン・ジャズ』で取り上げていたビリー・ホリデイの曲は「When You’re Smiling(君ほほえめば)」。

言い出しかねて(中編)_a0285828_13540661.jpeg


これはCDの1曲目に収録されています。でも、「言い出しかねて」のことはどこにも書かれていないのに収録。なぜだろうと。

で、5年後の『アルネ』を読んで村上さんがビリー・ホリデイの「言い出しかねて」を好きだったことがわかるわけですが、ところがこのCDに収録されていたのが1937年11月3日に録音されたものなのか1938年9月15日に録音されたものなのかわからない。


ちなみに僕は「When You’re Smiling(君ほほえめば)」という曲をすごく好きになってビリー・ホリデイに惹かれるようになり、まずはそれが収録されたアルバムを探し始めます。ほんとは村上さんが『ポートレイト・イン・ジャズ』で紹介していた『The Golden Years』というLP3枚組のアルバムを手に入れたくて、暇があれば神戸の中古レコード屋さんをあちこち廻って探したけど見つからず、結局姫路のタワーレコードで見つけた『レディ・デイの肖像』と題された2枚組のCDを購入。これ、ホントによく聴いたな。たいていは車の中で。一番良かったのはやっぱり「When You’re Smiling」で、これが流れてくると大きな声で歌っていたものでした。今でも「When You’re Smiling」を聴くと1998年から1999年ごろの日々を思い出します。


ところが数年後に『アルネ』のエッセイを読んで、「言い出しかねて」を聴いてみようと思ったらなんと1938年録音の方も収録されていない。

こうなるとますます聴きたくなってしまって、それを探す日々が始まります。今だったら何の苦労もなく見つけられるのにね。

そしてある日、やはり神戸のCDショップだったと思いますが、この10枚組のCDを見つけます。

言い出しかねて(中編)_a0285828_13541273.jpeg


クリスマス前の寒い日の夕方。値段がかなり高く、しばらくどうしようか悩んだけど、買うことにしました。自分へのクリスマス・プレゼントとして。でもこれは一生の宝物となりました。


by hinaseno | 2023-12-04 13:56 | 音楽と文学 | Comments(0)