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時を越えるルームメイト ― 毎晩話している僕と彼女は、同じ部屋にいる……ただし、二年の隔たりがあった

初めまして、むいむいむいと申します。

数ある作品の中から本作を見つけていただき、誠にありがとうございます。

まず初めに、私の日本語について一点お詫びさせてください。至らぬ点や不自然な表現があるかと思いますが、精一杯、この物語の「温度感」を伝えられるよう心を込めて執筆いたしました。読みづらい箇所があるかもしれませんが、温かい目で見守っていただけると幸いです。

「もし、画面の向こうにいる彼女が、自分と同じ部屋にいるとしたら?」

本作は、古びたアパートの六畳一間で繰り広げられる、少し不思議なSFラブコメです。チャットを通して繋がる二人が、時間の壁、そして現実の壁にどう向き合っていくのか。

ただの甘い恋物語では終わらない、二人の「現在」が交差する瞬間を、ぜひ最後まで見届けてください。

もし少しでも「気になる」と思っていただけたら、ページを捲っていただけると嬉しいです。

闇に溶けた部屋で、ノートパソコンが短く鳴った。

その音だけで、安物の布団に沈みかけていた意識が一気に引き戻される。

六畳一間。

この部屋で光を放っているのは、開きっぱなしのチャット画面だけだった。

まぶたをこすり、半分眠ったままの指で、いつものようにキーボードを叩く。

『レン:まだ起きてる? 明日、模試あるんじゃなかった?』

送信。

ほとんど間を置かずに、返事が跳ね返ってくる。

しかも、不機嫌そうに頬を膨らませた猫のスタンプ付きで。

『マイ:そっちがうるさいんでしょ!

こんな時間にインスタント麺作るとか非常識! 人が寝ようとしてるのに!』

……は?

思わず眉をひそめ、小さな座卓の上を見る。

そこには、すでに空になったカップ麺。

「いや、食べたの一時間前だし……しかも静かに」

独り言を呟いてから、反論を打ち込む。

『レン:勘違いだって。ここ一時間、ほとんど動いてないし。

それにさ、俺たち別の街に住んでるよね? どうやって音聞くんだよ。

エスパー? それとも札幌のお嬢様は超聴覚?』

そう。

俺――レンと、彼女――マイは、ただのチャット友達だ。

この古いアパートに備え付けられていた、正体不明のチャットソフト。

それを通じて知り合って、もう三ヶ月になる。

俺は東京。

彼女は札幌。

そう名乗り合っていた。

……なのに。

彼女は、俺の生活リズムを妙に正確に言い当ててくる。

まるで、同じ部屋にいるみたいに。

『マイ:想像力の勝利よ。

それより、エアコン。あれ絶対うるさい。北海道まで響いてきそう。早く直しなさい、バカ』

俺は苦笑しながら、壁に取り付けられた年代物のエアコンを見る。

――沈黙。

当然だ。三日前から、完全に壊れている。

「ほんと、適当なこと言うよな……」

でも、不思議と腹は立たなかった。

少しだけ甘くて、少しだけ騒がしい。

恋愛未満、冗談多め。

上京してきた田舎者の俺と、受験に追われる彼女。

毎晩こうして言葉を交わす時間は、いつの間にか生活の一部になっていた。

通話も、ビデオもない。

このソフトでできるのは、文字だけ。

まるで、時代遅れの九〇年代みたいだ。

『レン:エアコンはそのうちな。

そうだ、明日神社行くんだけど、お守りいる? 郵送するけど』

『マイ:いらない。無駄遣い。

……あっ、もう最悪。昨日買ったプリンが冷蔵庫から消えたんだけど! 絶対ネズミ!』

プリン?

昨日、冷蔵庫を開けたとき、

覚えのないプリンが一つ、ぽつんと置いてあった。

空腹に負けて、何も考えずに食べてしまったけど。

「……偶然、だよな?」

そう思った瞬間、指先がわずかに震える。

『レン:えっと……

カスタード味で、N社のやつ?』

『マイ:そう!! なんで知ってるの!? 透視能力!?』

違う。

ただ、あの甘さが、まだ舌に残っているだけだ。

その瞬間、頭の奥で何かが弾けた。

幽霊でも、ストーカーでもない。

もっと曖昧で、もっと厄介な感覚。

――「知っている」気がする。

俺は、確かめずにはいられなかった。

黒の油性ペンを掴み、部屋の隅へ向かう。

大家から「絶対に傷つけるな」と念を押されている、古い木の柱。

そこに、小さく書く。

――

「これが見えたら、星を描いて返して。 レン」

――

席に戻る。

心臓の音が、やけにうるさい。

『レン:マイ。部屋の右奥の柱、見て』

一分。

二分。

返事はない。

……やっぱり、考えすぎ――

そう思いかけた、その瞬間。

木目の上に、淡い赤色が、じわりと滲み出した。

書かれた、というより――

浮かび上がった。

歪な、星の形。

同時に、チャットが弾ける。

『マイ:ちょっと!!

なんで私の部屋にいるの!? 変態!? 通報するから!!』

指がキーボードの上で絡まりそうになるほど、必死に打ち込む。

警察に通報される前に、なんとか伝えなければ――。

『レン:落ち着いて! まだ電話するな! 聞いてくれ…マイ、バスルームの横に掛かってるカレンダー、今日の日付は?』

『マイ:なに言ってんのよ! 2022年1月14日に決まってるでしょ!』

喉をごくりと鳴らす。

視線は、自分の部屋の同じ位置に掛かるカレンダーに釘付けになった。

富士山の写真――だが、右下の年号は2024年を指している。

『レン:マイ…よく聞いてくれ。俺の頭がおかしいと思わないでほしい』

深呼吸。

息を整える。

『レン:ここは…東京。今日の日付は2024年1月14日だ』

チャット画面は、五分ほどの沈黙に包まれる。

手に触れられそうなほどの緊張感。

そして、新しいメッセージが跳ね返った。

『マイ:まさか…レンって未来人!?

B級SF小説じゃあるまいし』

俺は証明するため、テレビのニュースを見せるよう指示した。

そして、“明日の朝”の彼女の時間で起きる大ニュース――俺にとっては二年前に起きた、山手線が新宿駅で運転停止になった奇怪な事件――を伝える。

翌朝、彼女の時間がやってきた。

俺は眠気をこらえながら待つ。

マイからのメッセージは、予告通りに動揺と恐怖に満ちていた。

その瞬間、疑心暗鬼の壁は崩れ、ただ不思議な絆だけが二人を繋ぐ。

――結論が出た。

このアパートは“時間のバグポイント”。

あの不思議なチャットソフトは、媒介。

部屋こそが接続点。

俺は現在の入居者。

彼女――二年前の入居者。

それ以来、俺たちの関係は変わった。

深く、奇妙なほどに、ルームメイト以上のものへ。

同じ部屋で暮らす――だが、時間軸は異なる。

日常は、笑いに満ちた小さな温かさで溢れている。

『マイ:レン! 玄関マットの下に500円玉隠したの。見つかる?』

埃まみれのマットをめくると、

黒ずんだ500円玉が時を経てそこにあった。

『レン:あった……状態は酷いけど、ありがと。今夜のおやつ代が増えた』

ある日はこんなことも。

『レン:マイ、通路に漫画を置くなよ。今さっきつまづきかけたぞ』

『マイ:え? なんでつまづくの? それ、2022年のやつでしょ』

『レン:さあ…突然足が引っかかった。

この部屋の力かもな。片付けろよ』

『マイ:もー、うるさいな、じじいみたい』

俺たちは笑う。

日々の些細な出来事を、言葉を交わして楽しむ。

俺は未来のトレンドを話す――歴史に影響を及ぼす大事件は避けながら。

彼女は受験勉強の不満をこぼす。

俺の心は、静かな四角い部屋で、少しずつ満ちていった。

――触れることのできない彼女への恋。

柱に残るペンの跡。

チャット通知の音。

それらすべてが、俺の鼓動を形作る。

だが、ひとつの現実が頭をかすめる。

もしマイが二年前、この部屋にいたのなら――

2024年の今、彼女はどこにいるのか?

なぜ、探そうと思わなかったのか?

あるいは――

“現在のマイ”は、なぜこの部屋に戻らないのか?

「マイ…」

雨が激しく降る夜、俺は打ち込む。

『レン:明後日が入試だよね? 自信ある?』

『マイ:五分五分かな…はぁ、落ちたら北海道に戻るって父さんに言われた。

東京でデザイナーになる夢も、諦めるかも』

その一言で、はっとする。

もし落ちたら――

彼女は部屋を出て、北海道に戻る。

つまり、俺の時代のマイは、

今は平凡な会社員になっているかもしれない。

好奇心――いや、衝動に駆られ、俺は時間の法則を冒す決断をする。

翌朝、授業をサボって、美術大学へ向かう。

彼女の夢の大学だ。

図書館の掲示板で、2022年度入学者名簿を指で辿る。

『マイ…マイ…マイ・ツキシマ』

指が止まる。

――ない。

彼女の名前はそこにない。

補欠名簿も、探す。

ない。

背筋が寒くなる――

図書館の冷房のせいではない、現実が、そこにあった。

マイは不合格。

パズルのピースが、はまる。

二年前、彼女は不合格となり、部屋を出て北海道へ戻った。

夢を断ち切られた――

だから、俺は二年間、彼女の消息も成功の痕跡も知らなかったのだ。

震える手で、部屋に戻り、コンピューターを開く。

今、彼女の時間は――入試前夜。

不安と恐怖、そして励ましを求めている。

未来の恐怖を知る俺に気づかずに。

『マイ:レン…眠れないよ。明日だね。怖い、できなかったらどうしよう』

画面を見つめる。

胸が締め付けられる。

――俺は未来を知っている。

泣くことも。

荷物をまとめ、部屋を出ることも。

『こんな結末、放っておけない』

入試の答えを教える? 無理だ。

今年の問題は、突然変更されていた――詳細は覚えていない。

行かせない? もっと悪くなる。

あ、思い出した――

小さなニュースを。

2022年、主要道路でトラック横転事故発生。

西側会場へ向かう交通はマヒ。

多くの受験生が、試験に間に合わなかった。

目が見開く。

急いで聞く。

『レン:マイ! 明日、どうやって試験会場に行くの!?』

『マイ:バス502番で大学前まで行くよ。便利だし。なんで?』

――そのバス!

ほぼ三時間もトンネルで立ち往生するやつだ。

不合格の原因は――能力じゃない。

会場に間に合わなかったのだ。

胸が高鳴る。

これだ、チャンスだ。

――過去を変えるチャンス。

彼女の人生を変えるチャンス。

だが、もしやれば、未来は変わるのか?

合格すれば、東京で学べる。

俺と彼女は、現実世界で会えるかもしれない――文字だけでなく。

手をキーボードに置き、人生を変える一行を打つ。

『レン:マイ、聞いて。502番のバスには絶対乗るな』

『マイ:え? なんで? 鉄道だと遠くまで歩くけど』

『レン:信じて! 明日、大事故で渋滞する。間に合わない!』

『マイ:……本当? 冗談じゃないよね? 大事な話だよ、レン』

『レン:嘘はついたことあるか? 君の人生――夢がかかってるんだ。

歩くのが大変でも、電車にしろ。間に合う、約束する』

長い沈黙。

画面を凝視する。

汗が髪を伝う。

――時間干渉の副作用は?

チャットは消える?

記憶は変わる?

くそ、関係ない!

夢を叶えるなら、泣かせないなら、それでいい。

『マイ:…わかった。未来の君を信じる、レンくん』

『マイ:ありがとう。合格したら、プリン返す! 十倍の利息付きで!』

涙ながらに微笑む。

「待ってるよ…マイ」

パソコンを閉じ、布団に沈む。

天井を見つめ、空白に思いを巡らす。

明日、俺の時間に何が起こる?

世界はどう変わる?

合格と同時に、俺たちは他人になるのか?

期待と不安で眠れず。

やがて、2024年の朝日が差し込む。

――りんりんりん!

玄関のチャイム。

飛び上がる。

普段は誰も来ない朝。

郵便? 管理人?

重い扉に手をかける。

心臓は予知するかのように打つ。

ゆっくり、回し――開ける。

扉を開けた先に待っていたのは、奇跡のようなハッピーエンドではなかった。

涙ながらに抱きついてくる制服姿の少女などいない。そこに立っていたのは、一人の落ち着いた雰囲気の女性だった。オフィスカジュアルに身を包み、少し疲れたような、けれど芯の強そうな瞳。彼女は俺の顔を見ると、不思議そうに首をかしげた。

「あの……すみません。突然お邪魔して」

彼女の声は、俺の想像よりも少しだけ低くて、柔らかかった。「二年前、この部屋に住んでいた者なのですが……大事なスケッチブックを忘れてしまった気がして。もしよろしければ、確認させていただけませんか?」

心臓が、痛いほど脈打つ。

『彼女は、俺を覚えていない』

当然だ。彼女にとっての「レン」は、あの日、入試に間に合わせてくれた不思議なチャットの中の住人。合格という現実に必死だった彼女にとって、それは受験期のストレスが見せた白昼夢か、あるいは名もなき恩人として、記憶の隅に追いやられた存在なのだろう。

「……マイ、さん。ですよね?」

俺がそう呟くと、彼女の瞳が大きく見開かれた。「えっ? どうして私の名前を……?」

俺は答えず、ただ彼女を部屋に招き入れた。

あの柱。あの日、二人で印をつけたはずの場所。

だが、過去が変わった今の世界には、赤いペンの星印なんてどこにもない。歴史が書き換えられたとき、あの「証拠」も消えてしまったのだ。俺たちが繋がっていたことを知っているのは、この世界で俺一人だけ。

マイは部屋の隅へ歩み寄り、古い柱のそば、床板の隙間に指をかけた。そこから、一冊の薄いノートを取り出す。

「あった……よかった。これ、私の夢の原点なんです」

彼女はそれを愛おしそうに抱きしめ、俺に向き直った。「ありがとうございます。今は近くの事務所で、デザイナーの卵をやってるんです。あの日、バスに乗らずに電車を選んで本当に正しかった」

彼女は、お礼を言って立ち去ろうとする。

たった、これだけ。

毎晩語り明かした時間も、分け合ったプリンの味も、画面越しに育んだ恋心も。時間を書き換えた代償は、彼女との「絆」の消失だった。

「待ってください!」

俺の声に、彼女が足を止める。

「マイさん……502番のバスには、もう乗らないんですか?」

その瞬間、空気が凍りついた。

彼女の手が震え、抱えていたスケッチブックが床に落ちる。

「……あなた、今、なんて……?」

彼女は俺を凝視した。その瞳の中に、驚きと、困惑と、そして遠い記憶の残骸が混ざり合う。

「あの時、チャットで教えてくれた……未来の、レンくん?」

俺は苦く笑った。

「今はただの、後輩の住人ですよ。……それと、カスタードプリンの利息を返しに来るのを、ずっと待っていた男です」

マイの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

沈黙が流れる。でも、それはチャット画面の沈黙とは違う、生身の人間同士の、もどかしくて残酷な距離感。

彼女はもう、俺が知っている「受験生のマイ」じゃない。二年の月日を生き、社会の荒波に揉まれた、大人の女性だ。

「私……なんて言えばいいか、わからない。信じられない……」

「何も言わなくていいんです」俺は自分に言い聞かせるように言った。「夢を叶えて、今ここにいる。それだけで十分です」

マイは涙を拭い、少しだけ微笑んだ。それは俺の知らない、でもどこか面影のある、優しい笑顔。

彼女はカバンからペンを取り出し、スケッチブックの端をちぎって、何かを書き込んだ。

「あの日、画面の向こうにいたあなたに、まだ何も返せていないから」

彼女から手渡されたのは、電話番号とラインのID。

「二年前のことは、正直、夢だったんじゃないかって思ってた。でも……」

彼女は一歩、踏み出した。「今のあなたと、もう一度知り合いたい。二年のズレがない、今の時間で。……いいかな?」

俺は、彼女から受け取った紙きれを強く握りしめた。

俺が恋した少女はもういない。でも、目の前にいるこの女性と、新しい物語を始めることはできる。

彼女を送り出し、ドアを閉める。

パソコンを開くと、あのソフトは二度と起動しなかった。

俺は最後の一行を、届くはずのない闇へ打ち込む。

『レン:合格おめでとう。プリンの利息は、今度直接会ったときに。』

シャットダウン。

青い光が消え、部屋に本当の静寂が訪れる。

俺たちの「非現実」は終わった。

そして、不器用で、面倒で、でも確かな「現実」が、ここから始まる。


一End一

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

むいむいむいです。

二人の「再会」の物語、いかがでしたでしょうか。

画面越しに繋がっていた時間が消えてしまい、全くの他人として出会い直す。それは一見悲しいことかもしれませんが、二人が同じ時間軸で、手を取り合える未来を選んだ結果でもあります。甘いだけではない、現実の厳しさと希望を込めて執筆しました。

日本語の表現で至らぬ点も多々あったかと思いますが、最後までお付き合いいただいた読者の皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。

もし、この物語が少しでも心に残りましたら、ブックマークや 評価(★★★★★)をいただけると、執筆の大きな励みになります!

また別の物語でお会いできることを願っています。

本当にありがとうございました!

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