「爆弾」犯人と刑事の心理戦と迫力ある爆破シーン

映画祭と全く関係ない作品を。話題性もありヒットの情報もあるのに劇場は意外な静けさ。そしてそれに反するようにスリリングな映画でした。

「爆弾」(2025年)

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泥酔した勢いで酒屋の自販機と店員に暴行した罪で警察に連行された「スズキタゴサク」と名乗る中年男。刑事相手に「自分の霊感によると」都内で爆発が起きると言い、その言葉通りになると更に爆発は続けて起こるとスズキは予告。のらくらと尋問を交わすスズキと対峙する刑事たちが彼の発言に翻弄される間にも、都内のあちこちに仕掛けられた爆弾は次々と爆発していく。

同名小説の実写化。取調室の緊迫感と爆発シーンのリアルさ、そして「スズキ」という男の不気味さが相まって最後まで息の抜けない感覚に。

スズキに共犯者はいるのか?動機は何なのか?そもそも連続爆破の目的は何なのか?張り巡らされた伏線が徐々に回収されていく過程は見ごたえがあります。

しかしその動機や目的がいま一つ曖昧な印象。その分「犯人」とされる「スズキ」の非人間的な冷酷さが浮き彫りにされる、という作品の狙い自体が透けてみえてくるようで若干鼻白む思いも。

でもその訳のわからない男を演じた佐藤二郎はやはり予告編で想像した通りの凄み。逆に予想以上に良かったのが頭脳派刑事役の山田裕貴やその上司の渡辺篤郎、そしてスズキに「取り込まれてしまう」心の弱さを見せる寛一郎など、正直映画そのものというよりも、役者陣の「演技合戦」の醍醐味を味わえた、という印象です。

もしかしたらこれは原作を読むべきかも、と手を出してみました。Audibleです。

「爆弾」 呉勝浩 著

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「法定占拠 爆弾2」 呉勝浩 著

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勢いに任せて続編まで一気に(笑)。テンポよく読めて、あぁこれは文字(或いは耳読でも)爆破シーンを想像しながら読み進めていく方が面白いのかも、と思えました。「スズキ」の訳のわからなさは相変わらずでしたが。その一方で周囲の登場人物の実に人間臭い描写が際立ち、犯罪小説らしい心理戦の場面も含めて、原作の方がより楽しめたかな…

もし映画で今一つスッキリしない場合は原作を、そして原作読むなら是非続編も、とおススメしたいです。

 

 

 

 

「アイム・スティル・ヒア」平穏な家族の日常を奪う権力の怖さ

実話に基づいた映画。独裁政権での強硬な拷問の犠牲となった元議員とその家族を描いた政治ドラマ。劇場で鑑賞しました。

「アイム・スティル・ヒア」(2025年)

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1970年代のブラジル、リオデジャネイロ軍事独裁政権を批判していた過去を持つ元議員のルーベンスはある日政府に連行されそのまま行方不明に。妻のエウニセは5人の子供たちと夫の帰りを待つがやがて彼女も拘束され、政権批判する人物の告白を強要される。釈放後エウニセは夫の失踪の真実とそれにまつわる政府の横暴を追求すべく戦う日々を送る。

軍事政権下のブラジルで実際に起きた話を基にした作品。息の詰まる攻防が描かれるのかと思いきや、映画前半はほぼルーベンス・エウニセ夫妻と子供たちの微笑ましく暖かなシーンが続きます。多くの友人を持ち、メイドを雇い、大きな自宅でパーティーを開き、週末には海辺で賑やかに過ごす彼ら。5人の子供たちは快活ながら若者らしく親に「ほどほどの」反抗も見せ、実に豊かで幸せな日常そのものです。

それだけに妻と子供をこよなく愛する男性を奪った政治の大きな力の非道さと恐ろしさを否応なく実感することに。

一家の大黒柱を失いながらも気丈に権力に立ち向かうエウニセの姿は、単に「母は強し」の言葉では表せない程に強烈な印象。真っ暗な独房に何日も拘束され尋問を受け続ける場面などひりひりと痛々しくもあります。

それでも夫の汚名を拭うまで戦った彼女。妻としての愛情や不屈の精神力は無論なのだけれど、そもそも独裁政権下穏やかで裕福な暮らしができていた彼女たち一家は国民の中でもほんの一部のエリート層。情報を共有しあえる横のつながりも大きなサポートだったはず。同じような拘束や拷問に散っていった人々は更に貧しく不運な環境にあったであろう事を考えれば、表面化されない悲劇は無数にあったと言えるでしょう。

本作があくまで一つの家族の視点で語られている事で、かえって彼らにかけられた見えない圧力の怖さを感じ、一家を通して貧富や階層の差にまで思いを馳せることができるという真に「社会派の」ドラマだったと思います。

人間の酷さや醜さを飲み込むようなリオの海の美しさも印象的でした。

年に一度の国分寺御開帳へ

夏の間あまりの暑さにお休みしていたご開帳巡りを再び始めています。秋になるといろいろイベントが増えて時間的にも金銭的にもキツくなる為、涙をのんで取捨選択しながらになるという事で先ずは関東近郊から。過日は毎年10月10日に薬師堂御開帳されている武蔵国分寺へ。それにしても10月なのにこの日も暑かった…

 

△ 境内の外にあるこちらの御門。明治時代に移築されたものだそうですが、境内にある建築物共々立派で趣がありました。

「一般公開」であっても撮影不可が多い中、こちらは有難いことに許可されていたので撮らせていただく事に。

仏具も素晴らしく…

かなり古く色褪せてはいるものの天井も絵が施されていました。

当日御朱印は配布なし、と看板にあり確認もせずに一旦駅まで向かったものの、休憩中に開いたXで「御朱印いただきました!」との投稿を見て再度引き返したのですが、既に「書置き」の御朱印は全て配布済みとのこと。あぁ残念…

多くの方が参拝されていた薬師堂。二度目に行った時は小学生くらいの子供たちもいて静かにご説明を聞いていました。

最寄り駅まで帰ってきてあまりの暑さに一人休憩。国分寺、意外に遠かったなぁ…

 

「ミスター・グットバーを探して」素敵だったダイアン・キートンを偲んで

あぁ又大好きな俳優さんが逝ってしまった…

ダイアン・キートンと言えば有名な出演作がありすぎて「これ」と一つ選ぶのが難しいくらい。個人的に好きすぎて何回観たかわからない「ゴットファーザー」シリーズも捨てがたいし、これまたクセの強さが特徴だった初期のウッディ・アレンとの共演作でも素敵だったし、晩年さらさらのグレーヘアで見せたコミカルな演技も良かったし…なので記憶に一番古い彼女の出演作をチョイスすることにしてみると、初めて「ちゃんと」観たのは確かこれだったような。まだ中学生かそこらだったと思うのだけれどどこで観たんだろう、劇場じゃなかったのは(内容からして)確かなのだけれど。「グットバイじゃなくてグットバーだよ」と友達と言い合いしていたのを思い出しました。

「ミスター・グットバーを探して」

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テレサダイアン・キートン)は、聾唖学校の教師として勤める一方で、満たされない心を埋めるように夜になると酒場に通う日々。やがて酒場でトニーという若者(リチャード・ギア)の誘いで麻薬も覚えるようになる。酒場通いを続ける中リチャードという真面目な青年と出会い、トニーと何とか分かれる事ができ、生活が一変できるかのように思われるのだが…

酒とドラッグと性に溺れる若者…当時のアメリカを象徴する存在だったのでしょうか。家庭環境の影響で抱えた心の闇を払拭できずに、教師としての昼間の自分を打ち消すように夜の盛り場に入り浸る主人公。

それでもそんな生活に終止符を打とうとする矢先に悲劇的なラストをむかえます。

全く救いのない場面で終わるのだけれど、彼女の顔が苦痛で歪むというよりも何故かどことなく解き放たれたように見えました。

それは、子供の頃に患った病気からくる「健全なもの」へのコンプレックス、厳格な父親による抑圧、二重生活を送ることによって生じるアンバランスなどが複雑に絡み合って自身に住み着いた屈折した感情からの解放だったのかもしれません。

聾唖学校で子供たちを相手にする真摯な姿も、夜な夜な男を連れ帰る自暴自棄な姿もどちらも「本当の」彼女ではあったのでしょう。そしてそれぞれの顔を演じ分けて見せてくれたダイアン・キートン、スタイリッシュで大人の魅力を感じる素敵な女優さんでした。

当時はわからずスルーしてましたが、ブレイク前のリチャード・ギアやトム・べレンジャーも出演していて、共演者を見る楽しみもありますね。

書いているといろいろ思い出したので、また他の出演作もレビューしたいなと思います。

 

 

映画祭が始まります!

映画のお祭りがまた今年も始まりますね。

楽しみにしていた「東京国際映画祭」。去年は「十一人の賊軍」や「敵」などの日本映画に加え、久々の香港映画の参加など事前情報もあって期待していた作品があれこれあって選ぶのが難しかった記憶が。それに比べると何となく今回は作品数も少ないみたいで若干さみしい感じがするのですが、気のせい?

それでも今年はアジア映画を中心に恐らく日本ではなかなか鑑賞できないような作品が多くありやはりそこは映画祭らしい嬉しいところ。早速ご無沙汰している金城武チャン・ツィイーの出演作をそれぞれ観ることができるようで今から楽しみです(座席はうーんと後ろですけれども…)。

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東京国際映画祭

この他、今のところスケジュール解禁になっているのは中国映画週間。こちら昨年に比べると本数減りましたね… 香港映画祭、去年の香港映画の盛り上がりの続きを見せてくれるのか気になるところですが。

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香港国際映画祭

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東京フィルメックス

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中国映画週間

去年はじめての映画祭で浮かれすぎて腰痛めた苦い経験があるので、今年は大人しく粛々と回っていきたいと思います。

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10月から12月、映画祭もあいまって特に日比谷や日本橋、恵比寿など映画館がある街はイルミネーションが映えて素敵なんですよね。映画館から出ても映画の続きにいるようで。普段は喧噪と雑踏そのものでも束の間夢を見させてくれているようで、ちょっとだけ東京が好きになる時期でもあります。

「ゲーテはすべてを言った」名言探しの長い旅の行きつく先

ドイツ文学を専攻していたにもかかわらず一冊もゲーテを読破したことが無い事を恥じて…という訳ではないのですが、学生時代なら手に取らなかったであろうタイトルを「敢えて」チョイスしてみました。芥川賞受賞作をAudibleで。

ゲーテはすべてを言った」 鈴木結生 著

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高名なゲーテ研究の第一人者である博把統一は、家族を伴って出かけたレストランのティーバックのタグにゲーテのものらしき名言を見つける。長年研究している自分も記憶にないそれは、果たして本当にゲーテの言葉なのか?ゲーテ研究の第一人者である自身の面目にかけて出典を探る統一にとって、それは単なる調べ事ではなく学者として言葉そして文学への姿勢を問われる工程でもあった。

タイトルにある「ゲーテはすべてを言った」というのは、ドイツ人がよく(ソースが不確かな事など)何かを引用する時「ゲーテ曰く」と話しだすこと(つまりゲーテは何でも言ってるのだから)と偉大なる文豪を引き合いに出す言い回しから来ています。

たまたま目にした名言は本当にゲーテの言葉なのか?膨大な原書を読み漁り最終的には恥をしのんで知人にも聞いて回る主人公。その一方で彼の娘は世界の名言収集を趣味としていたり、同僚に盗作疑惑がかけられたりと、果たして言葉の源泉をめぐる旅は、「誰かが言った」というのは事実か捏造か?そしてそれを引用するのは盗用なのか、そもそもオリジナリティとは何なのか?と思わぬ方向へと進んでいくのです。

特にこの学問におけるオリジナリティが問われる場面は、本作の根幹を成すところでもあるかなと思われ、とても興味深く感じました。

引退間近の大学教授と彼をとりまく人々の問題意識とその考え方が、これまた多くの名言や原語引用で表され、こういった分野に興味のない人からするともしかしたら単に「スノッブ」な世界に映った可能性も。

確かに原典探しに翻弄される研究者をアカデミズムへの批判や皮肉にしかとらえない見方もあるかもしれません。しかし個人的には本作にはそういうアカデミックなものへのリスペクトが一貫し、加えて著者の(恐らく)相当な読書量や知識量に裏打ちされていると思われることからも、学問そしてそれを探求する人たちへの著者のリスペクトが感じられました。そういう意味でも面白く読める本だと思います(ん…ゲーテに一切興味のない人にはハードルは高いかも、ですが)。

今回耳で聞いた名言の数々、改めて文字で追ってみたくなりましたね。

 

「スタントマン 武替道」香港アクションへのオマージュとリスペクト

テレンス・ラウとフィリップ・ンの共演。公開を待っていてやっと観ることができました。

「スタントマン 武替道」(2025年)

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1980年代売れっ子のアクション監督だったサム(トン・ワイ)は危険なアクションシーンを強行した為スタントマンを半身不随にしてしまい映画業界を引退、整骨院を営み静かに生活していたが、かつての仲間からアクション映画の監督を依頼され引き受けることに。しかし昔とは違いコンプライアンスが厳しい現場ではサムの昔ながらのやり方にはスター俳優のワイ(フィリップ・ン)を始めスタッフは反発、ギクシャクした雰囲気の中若手スタントマンのロン(テレンス・ラウ)はサムをフォローし何とか撮影をすすめようとするのだが…

この二人の共演と言えばこれですよね。

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1980年代の香港映画と言えば、ジャッキー・チェンサモ・ハンなどアクション映画が全盛だった頃。本作はそんな時代の作品へのオマージュが込められているのがわかります。リアルさを追求した派手な爆発や闘争シーンの数々。劇中でも触れられていましたがコンプラなんて当時は殆ど無かった時代で、スタントマンたちの大変さは容易に想像できます。

そんな時代を引きずったままのやり方で現場での衝突を生むサム。熱い思いがあるのにそれが空回りしてしまうのは、結婚を控えた娘との関係も同じ事。中年男の不器用さを若いスタントマンのロンが何かと補おうとする「人情的」なところも定番の安心さですね。

家族との話などのトラブルがいろいろあっても、最後はめでたしで安心して終わるのが香港アクション映画のいいところ。

確かに今の時代にこんな無茶はできないね…という事はあるでしょうが、「古き良き時代を懐かしむ」だけでは終わらせたくない、そんな気概も感じられたのも嬉しく思います。

ところで余談ですがパンフレットのテレンス・ラウのインタビューページだけ写真がやけにカッコ良すぎて、もうあからさまに日本人ファン向けですね。嬉しいですけども(笑)。

それにしても同じスタントマンの映画という事でどうしても比べてしまったこちらの映画。ハリウッドの財力のおかげで迫力とはっちゃけ方が半端なかったので。勿論どちらもそれぞれのテイストで良かったと思いました。

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