
タイトルでは気付かなかった!“9月5日“は1972年ミュンヘンオリンピックにおいてテロ事件が起こった月日。
ミュンヘンオリンピックで起きたパレスチナ武装組織によるイスラエル選手団の人質テロ事件の顛末を、事件を生中継したテレビクルーたちの視点から映画化したサスペンスドラマです。第97回 アカデミー賞 脚本賞にノミネートされた作品です。
事件の存在は覚えていますが、どういう事件でその結末など覚えていない。テロ事件報道に大きな影響を与えた作品だろうと観ることにしました。
事件内容を知らなかったのが好かった!テレビクルーの一員になった気分ではらはらしながら楽しめました。デレクターや編集長の人間関係を見せるドラマになっていて、これも面白い!
全く不明状況の中でどう報道するかと番組を決めていくプロセスに魅入った。報道の目的は何か?真実をリアルに伝えるだけでいいか?と疑問に抱き、その結果を知った時、報道の難しさを知りました。
ジャーナリズムのあり方や、情報を伝えるメディアの責任について深く考えさせられる作品でした。
大部はTV調整室で番組を組み立てていくプロセスが描かれますが、これがリアルで引き込まれました。
監督:ティム・フェールバウム、脚本:モリッツ・ビンダー ティム・フェールバウム アレックス・デビッド、撮影:マルクス・フェルデナー、編集:ハンスエルク・バイスブリッヒ、音楽:ロレンツ・ダンゲル。
出演者:ピーター・サースガード、ジョン・マガロ、ベン・チャップリン、レオニー・ベネシュ、ジネディーヌ・スアレム、ジョージナ・リッチ、コーリイ・ジョンソン、マーカス・ラザフォード、ダニエル・アデオスン、ベンジャミン・ウォーカー
物語は、
1972年9月5日。ミュンヘンオリンピックの選手村で、パレスチナ武装組織「黒い九月」がイスラエル選手団を人質に立てこもる事件が発生した。そのテレビ中継を担ったのは、ニュース番組とは無縁であるスポーツ番組の放送クルーたちだった。エスカレートするテロリストの要求、錯綜する情報、機能しない現地警察。全世界が固唾を飲んで事件の行方を見守るなか、テロリストが定めた交渉期限は刻一刻と近づき、中継チームは極限状況で選択を迫られる。(映画COMより)
あらすじ&感想:
04:00時、ABCスポーツは水泳大会の決勝を放送して4日の競技日程を終了。明日優勝したスピッツのインタヴューを予告していた。
15分前に出勤したBグループデレクターのジェフ(ジョン・マガロ)は運営責任者のマーヴィン(ベン・チャップリン)から「番組終了までに来るのがルールだ」と注意された。マーヴィンがジェフを編集長のルーン(ピーター・サースガード)に紹介した。ルーンはふたりにユダヤ人であるスピッツ紹介に強制収容所を絡ませるうまい説明を考えるよう求めた。ルーンは4日の放送予定を確認し“10:00時まで休む“と宿舎に帰って行った。

マーヴィンは強制収容所を尋ねたイスラエル重量挙げ選手のインタヴューとドイツ報道機関代表ハンスの「単なるスポーツ大会じゃない、新しいドイツが世界を迎い入れ過去から脱出する機会だ」のコメントを見て仮眠に入った。ジェフは前放送分のフィルムを調べて始めた。
〇ジェフに選手からの異変問い合わせがあって、事態が動き出した!
ジェフにケネス・ムーア選手から「銃声のような音を聞いた、何があった?」と問い合わせ電話を受けた。ジェフがドイツ女性の秘書マリアンヌ・ケブベルト(レオニー・ベネシュ)に聞くと「発射音らしき音を聞いた」と言った。

ジェフはマリアンヌにドイツ情報部に電話させ“通報により確認中”を確認した。ジェブはマリアンヌに無線機を持たせバイエルン放送(BR)に向かわせた。彼女から「橋の上で警察車両を見た」や「ラシオ局の人がイスラエル宿舎からの銃声を聞いた」という報告から事件発生を確認したとしてマーヴィンを起こした。マーヴィンは「クルー集合!」を掛けた。
このあたりの演出がスムースで劇中に放り込まれる。
BRが「選手村で事件発生があった。複数の通報があった。警察による事実確認はまだです」と放送した。
〇マーヴィンは緊急対応体制の立ち上げ!
クルーの全員は集まらなかった!レポーターのピーター(コーリイ・ジョンソン)が真っ先に駆け付け「PLOか“黒い9月”だ」と判断し、イスラエル宿舎を確認して飛び出した。マーヴィンがベンをピーターのカメラマンとして追わせた。ジェフが寝ているルーンを起こし、BR放送を聞かせ「イスラエル選手団への襲撃です」と納得させて、呼び出に成功した(本人納得に時間がかかった)。次いで休暇中のアナウンサーのジム・マッケイを呼び出した。
ルーンがスタジオに駆けつけ「1~2名のイスラエル選手が死亡。ゲリラが人質を取った」の情報を確認して、衛星放送枠を交渉し1200から1500までを確保した。
徐々に体制が出来上がっていく。ジェフは“映像が要る”とスタジオカメラを野外に出してベイダーに選手宿舎を狙わせた。これはすばらしい処置だった。
「何かあれば一番知っているのはお前だ」とマーヴィンがジェフに「お前に任せる」と言った。
BRからマリアンヌが戻って来てた。「IOCは大会続行、イスラエル人2名が襲撃中に脱走したが、負傷したコーチが死亡。犯人たちはパレステニア人200名以上の解放を要求している。断れば一時間に一人づつ殺すと言っている」と報告した。
NY本部から“報道班が引き継ぐ”と言って来た。ルーンは無視した。
BRから「人質は10人。5人が選手、5人がコーチ」と分かった。人名がマリアンヌが選手名簿から見つけ出し、TVで流せるようで拡大映像を造った。逃亡兵士がワインバーグであることも確認できた。ベイダーから「カメラの位置確保できた」と報告がきた。シェニーが外に出て確認した。
ピーターから「宿舎ベランダに犯人が顔を出した」と報告が入った。
ジェブがピーターのカメラマン・ベンが撮ったフィルム回収のためギャリー(ダニエル・アデオスン)を伝令として送ることにした。ベンの撮ったフィルムを現像、そこに小銃を持った覆面の犯人が写っていた。
BRで警察本部の会見が放送された。
これまでに得ているもの以外の情報はなかった。記者団から“武装した警官が選手村にいなかったのか?”という質問が出た。マリアンヌが「戦時中のドイツ軍を思い出させたくなかった」と翻訳したことで、クルーから「イメージ回復が安全より大切か?」とドイツ批判が出た。
ルーンがスポーツ班で生実況することをNY本部に伝えた。
「報道班には渡さない!我々はミュンヘンの現場付近にいる。スポーツ班が放送する」と本部に報告した。

“犯人を何と呼ぶか?”
ピーターが「交渉が始った。政治家と犯人のリーダーが話している。イスラエルのメイヤ首相と国会が犯人の要求に応じることはない。もうオリンピックじゃない!」と送って来た。ジェフはこの意見に感謝し、“犯人を何と呼んだらいいか”尋ねた。「武装ゲリラ」と答えた。マリアンヌが「テロリスト」と主張した。ルーンが「表現には慎重を期したい。スポーツ班には荷が重い!」とピーターに任せた。そして「100m先で命の危険に瀕している人々のことを伝えるのが我々の仕事だ。カメラを適切に配置し、起きる出来事をリアルタイムで伝える。分析はあとで報道班がやればいい」とチームに発破を掛けた。
放送準備が出来上がったが、人質の人命が問題になった。
放送冒頭でベランダに立っている覆面男の映像。各カメラ影像のチェック、16mmで撮った記録映像(ワインバーグのインタビューなど)準備を完了した。しかし、問題が出てきた。「交渉期限が正午であるため、生放送中に殺害されたらどうするか?」。
ルーンとマーヴィンが論議を始めた。マーヴィンが人質の親族が見ていること、スポンサーのことを持ち出すと、リーンは「視聴率ではなく起きた事実を伝える」と放送継続を主張した。マーヴィンが「“黒い9月“は世界が注目するオリンピックを選んだ。やつらがもし生中継中に撃ったら、誰に伝える。世界に放送される」と応えた。時間がないので(3分前)ジェフが「緊迫したら16mmだけ回しその間に放送するか決める」と提案し、両者に認められた。
〇放送開始!
冒頭に覆面男の映像をアップで映し出した。タイトルは“テロリストが襲撃”、ジムの事件概要が始まり、ピター記者による現場からの中継を挟み、“黒い9月“の解説、人質の紹介と続く。

ギャリーが持ち帰ったフルムが現像され、マーヴィンとマリアンヌが“女性警官とテロリストの交渉映像”を分析した。さらにBRを聞き、必要なものをジェフとジムに渡した。ピーターから「ドイツ側から試みた作戦が失敗だ、期限を17:00まで延長した」と伝えてきた。
その後、CMを挟み、脱出に成功したソコルスキーのインタヴューが始った。15:00時の終了時間を迎えるがCBSから共同放送を提案され、引き続き放送することになった。
IOCがオリンピック中止を決定した。
観客がスタジアムからコノリー通りに溢れ収拾がつかない情報が伝えられた。これをジムがTV放送した。マリアンヌが警察無線からだと「警察が報道陣を排除する!」と伝えた。ジェフはピーターに「直ぐ隠れろ!警察だ」と無線で送った。
TV塔のカメラが小銃を持つ警察官がイスラエル宿舎の屋根からテロリストの部屋に近づく姿を捕らえた。ピーターもこれを確認しレポートを始めた。ジェフは警官の行動みて“準備不足の行動だ”と評価した。ルーンが「この放送をやつらは見ているぞ」と言った。
警察隊が調整室に来て“放送禁止”を求めた。ルーンが「スタジオからでろ」!」と厳しく抗議し彼等は出て行った。
ピーターから「警察が屋上から去っている。警察の作戦は失敗したようだ」と伝えてきた。クルーから「うちのせいでか!」と声が上がった。ジェフはCMを流すことにした。
マーヴィンは「うちのせいではない」と言ったが、ジェフは「うちのせいで状況を悪化させた」と認めた。マーヴィンは「警察と軍の連携の拙さだ。軍はライフルを与えるだけで使い方を教えてない」と言った。マリアンヌが「憲法の規定だ」と応えた。
ジェフは放送を再開させた。
ピーターから「ゲリンジャー内相がリーダーと会っている」「部屋から人質が連れ出されている」と伝えてきた。マリアンヌが警察無線を傍受し「国外に脱出させるようです」と言った。さらに「婦人警官がヘリ2機で人質とテロリストを空港に運ぶと言っている。目的地はカイロです」と報告した。

人質とテロリストがバスでヘリポートに移動、ここからヘリで飛び立つまでを放送した。
ジェフたちは空港を軍飛行場と決めて、ドイツ語ができるマリアンヌを派遣した。ピーターも急いだ。
〇スタジオはマリアンヌからの報告を待った!
「選手村での仕事が済んだ!」とスタジオでは放送結果の分析を始めていた。
マリアンヌが「人質が解放されたという噂がある」と伝えてきた。第2ドイツTVは「銃撃戦中、人質全員が避難したもよう」と伝えていた。マーヴィンは「放送するな!」と指示した。ジェフは「今、放送すべきだ」と主張した。マーヴィンは「CBSやNBCが追随する。確認まで待て!」と反論した。
ジェフはジムに「人質全員解放されたようです。詳細な経緯は不明です」と放送させた。マーヴィンは激怒した。他局が一斉に報道を始め、“イスラエル人の全員が解放された」という文書が配布された。ルーンは「歴史的な報道であった」と褒め、クルーは乾杯した。
この後、TVでアーランド報道官が事件の顛末を語った。
アーランドは「我々に国外に脱出させる意図はありませんでした。我々が見る限り、警察が成功してくれうれしいです。まだ銃声が続いています」と語った。ジェフは“何か変だ”と気づいた。
ジェフは「人質全員死亡」をジムに伝え、放送した。
マリリンは「罪にない人が又ドイツで亡くなった。私たちドイツはしくじった」と言った。
まとめ:
「飛行場に運ばれたイスラエルの人質は全員が無事か?」と案じていたジェフは上司のマーヴィンの反対を無視して“未確認だが“とフリをつけて全世界に「人質全員解放されたようです。詳細な経緯は不明です」と流した。その後、これが誤報であったという結末。
ジェフの気持ちが痛いほど分る物語だった。
ジャーナリズムの役割や責任について深く考えさせる作品だった。
ジェフはデレクターでありながら情報収集の指示、編集、カメラ運用など全部仕切った。その彼が“放送がテロリストに情報を与えたことで警察の作戦が失敗した”と知った。それだけにジェブは警察とテロリスの取引で空港に連行された人質全員が生きて欲しいを願っていた。しかし、叶わなかった!
責任はジェフだけにあるのではなかったと思う。
ルーンは報道班を無視してスポーツ班で放送すると決めたが本当に正しかったか。クルーは能力不足ではなかったか。放送の目的は正しかったか。ドイツとの連携を理解していたか?マーヴィンは“責任を取る”という覚悟があったか?
しかし通訳のマリアンヌはよくやった。この人がいなかったらもっとひどいことになっていたと思う。
映画作品としてとても面白い作品だった。
当時のカメラ(フィルム)や無線機で活動する情報収集の特性を生かした演出、さらに人間関係がリアルで臨場感を生み、ドラマに引き込まれた。
「リー・ミラー」(2023)でも描かれていましたが、報道は目的(視点)でその価値が決まる、このことを再認識しました。
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