《新刊紹介》ブラッド・コバルト ~ コンゴ人の血がスマートフォンに変わるまで ~

大阪唯物論研究会会員 倉島伝治

  シッダルタ・カラ 著
  夏 目 大 訳
  大和書房 発行
  455頁
  2025年10月20日 刊
  ¥2,750円

 12月20日の朝日新聞の書評欄で取り上げられているので躊躇したが、重要性にかんがみて、紹介することにした。
 コンゴのコバルト鉱山における奴隷労働・児童労働・大量虐殺を暴露・告発するルポルタージュである。

  「我々がどうゆうところで働いているか、わかりましたか」
  「わかったと思います」
  「どういうところですか、言ってみてください」
  「あなたたちの働く環境は劣悪です。そして —————」
  「違います! 我々は墓場で働いているんですよ」

 これは児童労働の母親へのインタビューである。
 コンゴのコバルト鉱山が、大量虐殺の場であることがはっきりとわかる。虐殺の犯人は誰なのか、犯人と名指ししたい者たちはまずコンゴ国内に大勢いる —————
 腐敗した政治家、採掘者を搾取する協同組合、行動のたがが外れた兵士たち、子供たちを脅して利益を貪るボスたち。いずれも犯行に加担していることは間違いない。
 だが彼らは実はもっと規模が大きく、深刻な害悪の一部を成しているにすぎない。規模の大きい深刻な害悪、それはアフリカで猛威を振るうグローバル・エコノミーである。グローバルなサプライチェーンの底辺で、貧しく弱い人たちが食い物にされ、過酷な労働環境で人間としての尊厳を奪われている。世界的な大企業は、表向き、自分たちはサプライチェーンのすべての労働者の権利と尊厳を守ると言っているが、そのような言葉はまったく信用できない。
 著者は、「世界的大企業」の中に中国企業が含まれていることにも触れている。
 どれほど酷い暴力・虐待・拷問を受けようと、私は決して慈悲を乞うようなことをしなかった。私は奴隷状態で生き、神聖な原理を軽んじるよりは、顔を上げて堂々と、揺るぎない信念と祖国の運命に対する最大限の自信を持って死ぬ方を選ぶ。歴史はいずれ真実を語るだろう。植民地主義やその手先を排除した国で教えられる歴史だ。
 アフリカは自らの独自の歴史を綴ることになる。それは栄光と尊厳に満ちた歴史となるだろう。
 今は苦しんでいる祖国だが、自らの独立と自由を守り抜く力があることを私は知っている。コンゴ万歳! アフリカ万歳!
 著者は最後をパトリス・ルムンバの言葉で結んでいる。パトリス・ルムンバは、民族独立闘争を闘い抜き、コンゴ共和国の初代首相となったが、6カ月後35歳で虐殺された。
 「『マイマイ民兵』の『マイ』は水を意味する言葉である。自分たちには、敵の銃弾を水に変える魔法の力があるという信仰に基づく名前だ。」の個所は、ゲバラの「コンゴ戦記」を思い出させる。

《新刊紹介》パレスチナ実験場 世界に輸出されるイスラエルの占領技術

大阪唯物論研究会会員 倉島伝治

  アントニー・ローウェンスティン 著
  河野純治 訳
  岩波書店 刊
  352頁
  2025年12月9日 発行
  ¥3,960円

 イスラエルによるパレスチナ(ガザ・ヨルダン川西岸・東エルサレム)の占領統治が許し難い暴挙であるとの書物は多いが、本書は、パレスチナが、イスラエル軍・産の武器・監視産業複合体による世界市場進出のための「実験場」となっていることを、具体的な事実を積み上げることによって示すことに成功している告発書である。
 章建てを紹介すると、
第1章 欲しがる者には誰であれ武器を売る
第2章 9・11はビジネスにとって好都合だった
第3章 平和の芽を積む
第4章 イスラエル式の占領を世界に売りこむ
第5章 イスラエル式の支配という根強い誘惑
第6章 スマホの中枢に潜むイスラエルの大規模監視
第7章 ソーシャルメディア企業はパレスチナ人を嫌う

 ぜひ一読されることをお勧めする。なお、著者の「ハマース」及び「中国」の評価については、留保がつく。

西側マルクス主義の偏執的な純粋性崇拝の批判

訳者:大阪唯物論研究会会員
兵庫正雄・川下 了・岩本 勲


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この文書は、ミッドウェスタン・マルクス研究所(米:Midwestern Marx Institute)の所長であるカルロス・L・ガリッドが、2021年10月13日に同研究所のWeb Pageに投稿した論文A Critique of Western Marxism’s Purity Fetish. By: Carlos L. Garridoの邦訳である。

著者ガリッドは、南イリノイ大学哲学科に在籍するキューバ系アメリカ人の哲学教授で、ミッドウェスタン・マルクス研究所の所長でもあり、アメリカ共産党(ACP)の教育部長でもある。彼はまた、ACPの理論誌『レッド・アメリカ』およびミッドウェスタン・マルクス研究所の雑誌『アメリカ社会主義研究ジャーナル』の編集長でもある。

ミッドウェスタン・マルクス研究所のホームページ(MIDWESTERN MARX INSTITUTE - Home)のホームには、上の写真とマルクスの有名な文言「理論は、大衆によって獲得されるや否や、物質的な力となる。」(『ヘーゲルの法哲学の批判(序説)』)が添えられている。

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国際共産主義運動における左右の偏向は同根である!

大阪唯物論研究会会員 川 下  了

 


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国際共産主義運動における左右の偏向は、理論的には極めて単純な逸脱から生じている。それはマルクス・レーニン主義の哲学的基礎である弁証法的唯物論と唯物論的歴史観(唯物史観)の基本的諸原則の無視ないしは軽視によってもたらされている。唯物論哲学を少しでもまともに学んだ者であれば、誰でもが「それは間違っている」と判断できる事柄でさえ、左右の偏向者たちはその誤りに気付かないばかりか、自説の誤りを正当化しようとあれこれと詭弁を弄している。

従って、この左右の偏向を指摘すること自体は困難ではない。しかし問題は、国際共産主義運動において、このような単純な偏向と両者の不毛な論争が長年に渡って継続していることである。そのことの物質的原因を明らかにし、その克服の方途を明らかにすることは決して容易ではない。

そしてこの困難な仕事に、残されたわずかばかりの時間を注ごうと思う。今回、改まってこのようなことを口にするのは、最近あった政治的出来事に関係している。しかしそれよりも、左右の偏向が同根であり、理論的にはマルクス・レーニン主義の基本的諸原則からの単純な逸脱に起因していることが、より鮮明に見えてきたことによる。

今日は、ギリシャ共産党[KKE]の文書とベネズエラ共産党[PCV]の文書(本文末尾に添付)を素材として、左右の偏向の同根について述べる。

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参議院選挙(2025)の結果が問うもの

大阪唯物論研究会会員 川 下  了

 


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[1]はじめに

7月20日に第27回参議院選挙が行われてから一カ月が経過した。自公政権は、昨年の衆議院選挙に続けて過半数の議席獲得に失敗した。本来ならとっくに政権交代が起こっていても不思議でないのだが、石破政権は「不思議」なことに何となく続いている。自民党内では旧安倍派を中心に「石破下ろし」の動きが見られるが、今一つ「力不足」で盆明けの今日に至っている。

それというのも、与党の大幅議席減は自民党の「裏金問題」が大きく影響しており、その中心を担った旧安倍派が石破下ろしの声を挙げても、世間は「おまゆう」で冷ややかな目線を送っている。それに、たとえ石破総理を引きずり下ろしたとしても、この時期に総理の座に就くことは「火中の栗を拾うこと」になり、次の首相候補たちも腰が引けてしまっている衆参ともに少数与党内閣では、誰が総理になっても泥を被って早期退陣に追い込まれかねないからである

では野党の方はどうなのか。いわゆる「憲政の常道」からすれば、野党第1党が中心となって新内閣が組閣され、政権交代が行われることになる。だがこちらの方も、そのような気配はまったく感じられない。まず、野党第1党の立憲民主党が意気消沈状態にある。自公両党が大きく議席を減らしたにもかかわらす、立憲民主党の議席は現状維持で、しかも比例区選挙における得票率は7,397,456票(12.50%)に止まり、国民民主党の7,620,493票(12.88%)や、新参の参政党の7,425,054票(12.55%)を下回ったからである。

多くのマスメディアは選挙前から国民民主党と参政党にスポットを当て、両党の応援団の役割を演じた。とりわけ国民民主党については、日本政界の実質的オーナーである財界が、同党を自公政権が過半数割れしたときの政権補強材と見做していたことが大きく影響している。しかし「躍進した」国民民主党や参政党の議席は、政権交代を担うに足る数にはほど遠い。結局、与野党ともに「力不足」で、石破内閣が何となく続くという「不思議」な状態が生まれている

多くのマスメディアの選挙結果を見る視点は、「既成政党」V.S.「新興政党」および「旧メディア」V.S.「SNS」であり、いずれも前者が敗者で後者が勝者であるとしている。この二つの二項対立は、今回の選挙が大きく変わろうとしている時代の一面を映し出しているが、選挙結果の特徴の一部に過ぎない。本稿ではもう少し立ち入って、「選挙結果がわれわれに問いかけているもの」について考えてみたい。

なお脱稿が大幅に遅れたのは、別の原稿に時間がとられたことと、データ入手に手間取ったためである。読者諸氏にお詫びする。

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シリアのアサド政権崩壊が意味すること

大阪唯物論研究会会員 川 下  了


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【前書き】

この一文を書き始めたのは3月上旬であった。3月中には仕上げる予定であったが、パレスチナとウクライナの情勢が緊迫しており、韓国では内乱クーデター事件が予断を許さない状況が続き、国内でも様々な出来事が起き、それらに関係する仕事に追われて本稿は途中で棚晒し状態になったままであった。そしてその後のイスラエルと米国によるイランの原子力施設を含む空爆があり、本来は一から書き直す必要がある。しかしそれではお蔵入りになりかねないので、取りあえず4月頃までの材料を基に、一応本稿を仕上げることにする。

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東京都議会選挙の結果について

大阪唯物論研究会会員 川 下  了

 


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 6月22日に行われた東京都議会選挙は、首都の選挙であるということと、7月参議院選挙の前哨戦という2つの理由によって、重要な政治的意味を持つ選挙であった。以下は、その結果についての短評である。

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