この旅の計画を練った時、ルアンパバーンからラオスの首都であるヴィエンチャンまで鉄道で辿ろうと考えた。
その列車の予約方法としては、ラオス中国鉄道の公式アプリ「LCR Ticket」を通じて行うのが最もリーズナブル(手数料10kキープ≒70円)で、当初はこれを利用するつもりだったが、その後大きな問題のあることに気付いた。
ラオスにおける電話番号が必要という以前の前提条件はなくなったのでこれはいいとして、新たに浮上したのは、決済に関する障害である。
LCR Ticketにおける支払い方法はいくつかあるものの、日本人が現実的に使えるのはクレジットカードのみ、ところがこれを利用する場合、現在広く行われている3Dセキュア認証を通すためにSMSで認証コードを受信せねばならず、海外でSIMカードを入れ替えることで日本での電話番号が変わってしまう今般の旅では決済できない可能性が高いのである。
手持ちのカードでコードの受信方法をメールに変更できるものはなく、認証を行わない設定に変えられるものが一枚あったのでこれを行ったが、認証なしカードの利用は拒否される場合もあるようなので懸念は残り、加えてこのアプリでの予約は乗車3日前のラオス時間6:30を待って漸く可能となることから、果たして座席が取れるかどうかも定かでない。
かといってLaostrain.com, 12Go, Bookawayなどを通すとかなり支払い額がかなり高くなってしまうし、現地の窓口で切符を購入するという手も、かなり並ぶことを覚悟せよとの情報があって決定打にはならない。
結局、あれこれと考えても決心がつかず、取り敢えずシンプルに最初の案を摂ることにし、万一切符を入手できなかったらバスでヴィエンチャンに向かうことにした。
これだと10時間近くを要するが、道程ではかなりの景色を期待できるらしい。
そして実際はどうなったかというと、メコン川下りの中継地パークベンで予約可能時刻を迎えて直ちにこれを試みたところ、すんなりと希望の列車を予約(ただし座席選択は不能)することができ、決済も3Dセキュア認証なしのカードで行うことができた。
案ずるより産むがやすしである。
ここでもう一つ考えておかねばならないことが生じた。
ルアンパバーン市内から10㎞以上離れているラオス中国鉄道の駅までのアクセス手段である。
バスなどの公共交通はないし、トゥクトゥクではぼられること間違いないので、宿のフロントの兄ちゃんに何か良い方法はないかと尋ねたら、乗り合いのミニバンを勧められた。
料金は確か60kキープで、一台のトゥクトゥクを四人でシェアするのとほとんど同じながら、冷房はあるだろうことなどを鑑みて手配してもらった。
ルアンパバーンを去る日、そのミニバンは予定時刻通りに宿の前に現れた。
ゆったり座れるものと勝手ながら思っていたのに実際はほとんど満席で、補助席もどきに押し込まれて駅まで行く羽目となり、快適とは言い難い道中となった。
いかにもあの国の手になったらしい、壮大と言えなくもないが無駄に大きく変にあてつけがましさを覚える駅舎内で待つこと暫し、列車の到着がアナウンスされると、例によって全席指定にも関わらず皆色めき立って改札口へ殺到、一応列らしきものはできたものの、割り込み押し入りもあちこちに見られた。
ともあれ列車へ乗車、しかし我が指定席、右の窓側には案の定先客が鎮座ましましており、あの席へ移って欲しいと指さすそこは左の通路側である。
些か不満はあったが、この路線の車窓はさほど面白いものではないとの情報を目にしていたし、車内の雰囲気もそれを愉しむといった感じではなかったので、まあよかろうと了解した。
ところが、列車が走りだして何気なく右の車窓に目を遣ると、個人的には結構好もしい風景が流れている。
これを見て悔やむ気持ちが再燃したが、一時間ほど走った次のヴァンビエンで多くの下車客があり、本来と同じ窓際席へ移ることができたので留飲は下がった。

ただ、乗り心地が快適であっという間にヴィエンチャンに着いてしまい、何となく物足りなさを感じたのも否定できない。
この鉄道とバスの中間的な交通手段が欲しいなどというのは贅沢な希望だろうか。
ヴィエンチャン駅を出ると、目の前に予め調べておいた28番バスが停まっており、その横に待機していた姉さんに市内行きであることを確認して乗車した。
当方が乗り込んだ時には先客は数人しかいなかったが、次第に増えてこれも満員で発車、というよりそれを待って出るのかもしれない。
荷物を膝の上に抱えての道中となったことに加え、頭上からエアコンの滴に降られるというおまけもついて少々悲しかった。
運賃は上の姉さんが車内で徴収、25kキープ。
終点まで行くと宿から離れると思われたためその手前で下車し、Googleマップを参照しながら迷うことなく辿り着いた。
ここヴィエンチャンは、世界一何もない首都――と言われることがあるらしい。
こう聞いて建物も疎らな鄙びた町を連想していたのだけれど、実際はビルなども見られるし、大きな通りは交通量も少なくなく、個人的には上の表現を宜うことは出来かねたものの、世界の代表的都市や名立たる観光地に比べればさまざまな点で規模も密度も小さいことは間違いない。
しかし却ってこのような町に惹かれる身にとっては、いつものように町をぶらついたり、三つの寺院に囲まれる位置に建つ宿のベランダで周囲を眺めながら過ごしたりして、二泊の滞在は決して退屈ではなかった。


ヴィエンチャンで印象に残ったことは二つある。
一つはあちこちの道路やほとんどの寺院が工事中だったこと。
これは上のような称号を返上しようとの努力かもしれないが、変に小奇麗に見てくれを整えることで、歴史を通じて醸成されたせっかくの個性を喪失してしまうのは非常にもったいない気がする。
もう一つは、黒人の姿がやたら目に付いたことで、耳に聞こえてきた言葉からするとアメリカ人ではなくアフリカから来たらしい。
上に記したようにほとんど常に工事の光景が目に入る状況だったので、はじめはそこで働くのが目的かとも思ったが、その後少し注意したところではそのような姿は見えなかった。
次いで彼らの人相風体から裏の仕事に従事しているのだろうかという気もしたものの、それにしては朝っぱらからバーやカフェでぼけっと蜷局を巻いているその様子がそぐわず、何とも妙だった。
これらもアジアらしいと言えば言えるのかもしれない。
二晩とも、夕食には宿の近くのナイト・フードマーケットを利用した。
名称の通り出ているのはすべて食い物の店で、売り物の周りには夥しい数の蠅が飛び回ったり集ったりしていた。
はじめはこれを目にして買い求める気が失せたのだけれど、注文してから料理してくれる店があり、その様子を眺めたところ蠅の攻撃はないようだったことから、ここでテイクアウトして宿で摂った。

最初の夜がガパオライス(35kキープ)、翌晩は豚肉と野菜の炒め物にライス(40kキープ)。
どちらもタイの食べ物で、結局ラオスの料理で口にしたものは、ファイサーイでの筍炒めとカオニャオだけに終わってしまった。