ひとりの男性を、ふたりの女性が奪い合う
欲しくなったらカーテンを閉めるのを忘れちようが、ご近所の誰かが中を窺っていようが、お構いなしに息子を跨ぐ。 悟ったような気になってはいたが、いざ突っ込まれると素が出始めている。このまま隠れるようにして個室で呑み続けたら、いつかきっと絵里子のペースにハメられる。 そう感じた梨沙は、場所をカウンター席に替えてもらえないかと店員さんに頼んでみた。 カウンター席ならここから先、突っ込みが入らないと思えたからだ。
「お客様、カウンターの方にお席を用意しました」
絵里子お気に入りのお兄ちゃんが告げに来ると
「はいはいわかりました」
素直に応じ、絵里子は梨沙の後を追うように個室を出ようとして、お兄ちゃんに
「あのおばさんがね」
酔った勢いで告げ口しようとした。
「馬っ鹿じゃないの、他人の絵里子に何がわかるって言うのよ」
相手の顔を見ないよう、高鳴る気持ちを鎮めるべく、カウンター席で泡の消えかかったようなビールを煽ったが、自分で自分の鼓動が自覚できるくらい、大きく脈打ってる。
「ふふふ、あんただけじゃないよ、あの子もね、やらかしちゃった、家に入れてもらえないって落ち込んでたよ」
立ったままカウンター席に両手をついて、俯きながらにやけ、絵里子は言った。
「家に入れてもらえないって……たっちゃんが?」
酔いが回った頭で
(家に入れてもらえない?? ウチそんなこと言ったっけか……)
いくら考えても出て行けとか言った記憶がない。
(鍵 カギ カギ……あああっ、ひょっとして……)
若い子なら簡単に開錠できるチャチな内カギを掛けていたことを思い出し、焦った。
甥を男としてみていると敏則が知ったらきっと軽蔑されるだろうと決めてかかっていた梨沙は、心に光が射した気がした。
はす向かいに座り、絵里子と目を合わさないようにしていたものを、きちっと正面向きで座り直し、立ったままの絵里子も、隣の席に座る。
もう誰もふたりをキャバ嬢などと思ってはいない。 良くてせいぜいピンサロ嬢。 もう誰も頓着しなくなった。 梨沙も、出勤はすっかり諦め、腰を据えて飲み始める。
「あははは、ほんと、馬鹿がつくぐらい真っ正直よね、ふたりとも、あいつもさ、アルバイトと偽ってSMやってたことを親に言いつけられたらどうしようかとか、出る場所に出られたらどうしようかとか、普通思うじゃない、ところがさ、口を開けばあんたのことばかり、呆れるわ」
ゲラゲラ笑い転げたと思ったら、急に真顔になって、こちらを見つめてきた。
「あんたもさ、そんなに好きなら徹とかいう漢や、多津なんたらいう教師やらに手を出さず、さっさとあの子自分のモノにしちゃえばいいじゃない」
切れ長の鋭い視線をこちらに向け、真顔でそう云い放った。
「でも……そうはいっても私たちは……」
悪友は何もかもお見通しだった。 絵里子はあのような性格だから、このような場所ではっきり言い切れるが、こちらははいそうですかと、言い切れるはずもなく、呑みまくってせっかく陽気になれたのに、また沈黙が始まった。
いうだけ言って酔いが醒めたのか、絵里子は次から次へとグラスを開けていく。
「ほらあ、飲んで飲んで」
頼みもしないのに、目の前に焼酎ハイボールがデンと置かれる。
「じゃあそうやって一生ウジウジし、敏則が連れてきた女に嫉妬心を抱きつつ日陰者としてお暮らしていくといいわ」
グラスに残っていた焼酎を一気に飲み干すと、絵里子はカウンターに張り手を食らわせ立ち上がった。
「そんな……とっちゃんにお嫁さんだなんて……そんな……そんな」
壁のように立ちはだかる親友に気圧され、梨沙は声を震わせる。
甥っ子の敏則に、もしも恋人が出来たら、自分は叔母として紹介を受け、許可を与え、その先結婚となったら、式に列席し、祝辞を述べねばならない。
胃がせりあがるような興奮を覚え、それが治まると世も末のような感情が込み上げてきた。
「梨沙、アンタとは長い付き合いだから言っとくけど、私はSMなんてちょっと変わった趣味を持ってる、だから言える、好き合った者同士、自分たちだけの世界に浸ってればいいんだよ」
甥っ子といわば半同棲中、しかもSMを介して躰の関係にあった親友が、仁王立ちで見下ろし、梨沙に説教じみたことを口走る。
「たとえそれが、周りの人間から見たら妙ちくりんな形であっても、ふたりがそれで幸せと感じることが出来たなら、万事それでいいの」
絵里子の言葉で思い浮かんだのは千秋の顔だった。
連れ合いを捨て、世間を捨ててかかったから、あんな笑顔で生きていけるのかもしれないと。
「じゃあ帰るから、ここは授業料としてアンタのおごり、じゃあね~、梨沙」
絵里子は脇の椅子の上に置いていたバッグを掴むと、梨沙に背を向け、出て行こうとした。
「ええっ!? ちょっと、なによ、誘ったのは絵里子じゃない、授業料って」
「授業料で不満なら、アンタに敏則を突っ返す代、私だって敏則のSを、誰よりも理解し共に暮らした、いわば一時連れ合いだったんだからね」
意味ありげに笑い、颯爽と店を出て行った。
「なによ、もう」
独り残された梨沙は、カウンターに躰を預け、目の前に並ぶキープ酒を眼で追った。
「たっちゃん……今度はウチのこと……犯したいの?」
SM趣味の敏則が自分のことを女として見ているとしたら、きっと絵里子以上の責めを試してみたいと思ってるに違いなかった。
「とっちゃん……」
恋しさと、複雑な想いがないまぜになり、無意識のうちに乳房に手を伸ばし、揉みしだいた。
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アップデート 2026/01/09 06:45
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