最果ての島
小さな港に到着したフェリーから降りようとすると、カモメが賑やかに出迎えてくれた。 加奈子は伸びをし、大きく深呼吸し、飛び交うカモメに微笑みかけつつタラップを降りた。比田勝の港から望む玄界灘はそこから見ても白波を立て荒れ狂っているが、はるか彼方は春霞だろうか、幾分かすんで見える。 天候に恵まれたと表現したほうが良いのだろう、うららかな春の日、初めて訪れた見知らぬ土地で加奈子は冷たい風の中にあって暖かな春の陽射しを感じていた。
春の柔らかな風に誘われるように、加奈子は目的地に向かって歩き出した。 思い切っていつものような街穿きの靴ではなくスポーツシューズにしてよかったと思った。 フェリーを降りた時からして地面は海風の影響からなのか、ひどく荒れていたのである。 おまけに平坦地が極めて少ないように思えた。
フェリー乗り場から目的地に向かって歩き始めて間もなく、街並みが途切れ、道の脇から山に至って切り立った崖状になっていて、まるで樹海でできたトンネルをくぐるようなありさまで、しかもそこからもうかなりの勾配の上りになっていたのだ。 おまけに嵐が過ぎ去った直後からなのか、街中であっても人通りはほぼ絶えており、街を外れるといよいよもって人や行き交う車の姿は皆無となった。 ヒッチハイクでもという考え方自体甘かったことに否応なく気づかされた。 仕方なく空を見上げながら歩いた。 抜けるような青空がどこまでも続いていた。
tag : 初めて訪れた見知らぬ土地平坦地が極めて少ないまるで樹海でできたトンネルをくぐるような人や行き交う車の姿は皆無足元を照らすための気の利いた灯り九州郵船の小倉~比田勝ルート積み荷の大半が乗客ではなく島の生活物資洗面器に新聞紙を敷いたもの今の生活を捨てる覚悟透き通っていて底で蠢くものが手に取るように見える
失恋後、自分を見つける旅に出た加奈子
高校を卒業し運も手伝ってか全国的に名前の知れ渡った企業に就職できた。 あれから10年、27歳になった加奈子に焦りがないといえば噓になる。恋愛は何度かしたが長くは続かなかった。 そういったことは好きなので様々な手を使って秘かに相手探しをした。 合コンも社の内外を問わず誘われれば素直に応じた。 だが、年数を経るにしたがって居心地が悪くなった。 相変わらず会社側は加奈子を宣伝広告に使ってはくれるが、それとていつまでもこんな調子で年齢を経ててもいけないことはわかっていた。 わかってはいたがちやほやしてくれる人が周囲にいるというだけでこういった自堕落な生活を止められなかったのだ。
「今度紹介する相手はイケメン」
などと誘われると、まだ見ぬ将来の旦那像を求め、つい出かけてしまうのだ。 社内で異性と恋愛問題でトラブルを引き起こせば、もうそれだけで居づらくなるので、加奈子は表面上は極力社外の男との出会いを求めた。 見栄っ張りゆえに、いわゆる3高と呼ばれる男たちが来てくれることを期待し、合コンを繰り返した。
しかし、見た目が良いからと言って、心までそうとは限らない。 ちやほやされ育ってきたがゆえに他人の痛みを感じたこともない。 そんな奴らは平気で無神経な言葉を口にする。
tag : 焦りがないといえば噓になる様々な手を使って秘かに相手探し社の内外を問わず誘われれば素直に応じたちやほやしてくれる人が周囲にいる自堕落な生活を止められなかった社内で異性と恋愛問題でトラブルデートに誘われ有頂天になりしつこく躰の関係を求めてくる部長幾人もの男と関係を持ったふと虚しさを覚え
美宇田浜で出会った西郷どん
ここは確かにきれいな浜には違いない。 が、道を間違ったようにも思え鰐浦へ向かうための誰かな方向だけは近隣住民に訊くしか手はないと思い、加奈子はきょろきょろとあたりを見回した。 だが、訊こうにも春先とあって海水浴場には人っ子ひとりいない。 諦めてと言おうか居直って水遊びを始めた。 それほど心の余裕を失っていた。 せっかく来たのだから泳ごうと思うのだが、加奈子もさすがに水着は持ってきていなかったので、素足になって波打ち際で足首まで海水に浸かってはみた。 春先とあって水はまだ冷たく、とても長時間入る気にはなれなかった。ついでのことに辺りを散策しようと背後の藪に踏み入りかけてギョッとした。 何かが藪の中をガサゴソと音を立て歩き回っているのだ。 まさか対馬山猫? と、音がした藪に分け入り更にギョッとした。 まるでゴキブリの大群を思わせるほどの無数のフナ虫がそこにいたのだ。
これほど自然が豊かなら、ひょっとして海岸線にお宝(貝だのナマコだのの類)が転がってと、独り語ち。 砂浜の先の岩場にまで足を運んでみた。 ものの数メートル先の水面上に水中から何かが顔を出すのが見えた。
ほんの一瞬海水に足をつけただけで飛び上がってしまうような冷水の中を泳ぎまわる人を見つけてしまって驚いた。
tag : きょろきょろとあたりを見回し人っ子ひとりいない心の余裕を失って藪に踏み入り海女さんバツの悪さに何も身に着けていない生い茂ってよくは見えないグニャグニャ動いてアワビ
隣村への蔑視
加奈子は西郷どんと別れ、ほどなくして、今度こそ道に迷うことなく泉集落に入ることは出来た。 ターミナルの職員と思われる人が説明しようともしなかった集落のひとつにだ。 通ってみてなるほどと思ったのは、比田勝ほどではないにしろ異国に迷い込んだ感があって、しかも、道中と違い、そこここに確かに住民は行き来してはいる。 が、揃いもそろって加奈子の姿を見ると、何故か一目散に家の中とか物陰に逃げ隠れてしまう。散々うろつき、やっとのことで地元の、ちょっとばかりどんくさい若い漁師さんを捕まえて場所を訊くことが出来たが、
「うん? どこな? どこへ向かいんしゃる?」
男は魚を扱って汚れたであろう手を、腰にぶら下げたタオルで拭きながら、綺麗なべべ着た加奈子に躰を摺り寄せるようにし、場所を尋ねた。 加奈子は観光パンフレットの地図を見せ、予約を入れてある民宿を指し示し、こう述べた。
「ここです、 この、大浦さんって方の民宿なんですけど…、 この道に沿って進んだら辿り着けますか?」
ごく普通にものを訪ねたつもりだった。
ところが男は、当初地図を覗 き込んでくれてはいたものの、その場所が鰐浦とわかった途端、怯えたような態度に変わり、
tag : 異国に迷い込んだ感一目散に家の中とか物陰に逃げ隠れ綺麗なべべ着た躰を摺り寄せるように怯えたような態度あっちへ行けという風に手をヒラヒラと横に振って道に迷って途方に暮れた岩だらけの海岸線交通手段は船ヒトツバタゴの花で埋め尽くされて
深夜、どこからともなく聞こえてくる嬌声
その夜、大浦で供された料理は高浜が言ったように、客に出すというより、ごく普通の家庭で食してる料理だった。 魚介類が豊富な島と聞いて期待してきた加奈子にとって落胆そのものだった。魚介類ではなく、蒲鉾やハムなど都会の、それも大食漢が好んで食べる安くて量勝負のそれが、インスタントの吸い物とともに供されたのだ。 こんなものを対価を払ってわざわざ対馬まで食べに来なくても、東京ならもっとましな総菜がいくらでもそこいらの店で売られている。
(かなわないわね……、こんなものがごちそうって考えること自体、どうかしてるわ……)
某国系の量販店が扱う、見かけだけは似てる激安のまがい物であるからして、ちゃんとした自然食品が使われてないことぐらい加奈子にもわかる。 原料が気になって食べる気がしない。 が、もしこの地のどこか他の宿に泊まったとしてもいずこも同じと考えるなら、しかもそれを毛嫌いするなら、すきっ腹を抱えあの船にまた乗って引き返さなければならない。
(来た人たちはみんな、中身はともあれ、楽しかったようなふりして帰っていくんだろうなあ…)
向かいの席で、女将さんが怪訝な顔をし、こちらを見てる。 加奈子は仕方なくそれに倣った。
tag : 魚介類が豊富な島ごく普通の家庭で食してる料理見かけだけは似てる激安のまがい物女将さんが怪訝な顔をし建屋の近くまで山が迫って見えるのは生い茂った木々鰐浦の港からわずか1キロの沖合に浮かぶ島撒き餌がひとうねりで数十メートルも流されて朝鮮海峡の海流と対馬海峡の海流がぶつかる岬の突端風の音に混じって誰かが叫ぶような声が聴こえて
布団部屋に、女中のような娼婦が閉じ込められていた
自衛隊の輸送班、工藤が探してくれた旅館風な宿の、布団を仕舞っておく場所 (押し入れに入りきらない布団などを、一時的に投げ入れておくための、いわば物置) と勘違いしそうな、如何にも殺風景な部屋に客の加奈子は女中然として案内された。 正当な料金を払ったにもかかわらず、ネズミでも這い出るんじゃなかろうかと思えるような部屋にだ。建物は全体的に見れば広いものの、各々の部屋ごと微妙な段差があり、V字に切れ込んだ谷の一番奥に建っていおり、それらをつなぎ合わせるためか、カクカクと曲がりくねる。 ここいらは平地に乏しい反面部屋の需要は半端なく、少しでも広く取ろうと斜面に沿って梯子段状に建てられているものだから、鰐浦の民宿の如く窓から手が届くようなところに山肌がある。 加奈子が泊め置かれた部屋は右側の斜面の最も低い位置にあり、窓は体裁上着けてあるだけだった。
他にもっとましな部屋はないだろうかと、宛がわれた部屋を抜け出し、斜面の右側の建物内を歩き回った。 だが、残念なことに宴会場と思われる部屋以外、ほぼ似通ったような部屋ばかりだった。 このあたりではどうやらこれが普通らしい。
加奈子に宛がわれた部屋にほど近いところに従業員部屋らしきものがあった。 階段を上り、踊り場にある扉を開け、右に折れ曲がりながら降ると、その部屋に辿り着ける。
tag : 旅館風な宿如何にも殺風景な部屋従業員部屋らしきもの室内は派手派手しく飾り立てられ見張りの目の届かない場所拘束に近い状態で部屋に据え置かれ帳場にほど近い場所左側の部屋群で何が行われていたか箱みたいな中に入れられ連れていかれる玄界灘という途方もない荒波が立ちはだかって
騙して連れてこられた……であろう比田勝の夜の蝶
その夜出された食事は表向き、料亭と名乗るだけあって確かに美味しく、加奈子は食が進み、普段の二倍ほども食べてしまった。 地元で獲れたというだけあって、天然ぶりは脂がのって甘く、磯に行けばそこいらにゴロゴロ転がってるというサザエに、高浜が食べさせてくれたアワビと、鰐浦と比べ桁違いの料理を、加奈子は一口一口かみしめるように味わって食べた。夜ともなると昼間と違い、なんだかいうアニメに出てくる料亭のように明々と灯りが点いて賑やかで、でも宴席に花子は駆り出され加奈子は独りぼっち。
女将の勧めで、歩いて港まで出てみた。 昼間見ると何の変哲もない、水深が浅い港だが、夜ともなれば海面を夜光虫が七色に彩る。 それはまるで隅田川の川面に映し出される花火のようで、東京を懐かしみ、しばし見とれた。
翌日は朝から雨だった。 加奈子は多くの時間を花子とレストラン喫茶美松に出かけ過ごした。 食事と飲み物をとり、それが終わると評判のバー桂を中心とした飲み屋街を花子の案内で見て回った。
なるほどと思えたのはその道幅、この時代にあって人力車程度しか通れないほど狭く、しかも建物たるや道に面してる部分はともかく、裏側の見えない部分は鰐浦の民宿同様粗末さそのままのバラック建てなのだ。
tag : アニメに出てくる料亭夜ともなれば海面を夜光虫が七色に彩る本土のどこかから連れてこられた人たち地元の若い女の子と覇を競って一時でもよいから自分を支えてくれ漢が欲しい漢が言い寄る間は娼婦カッコいい自衛隊さんや保安庁さんの誰かと付き合う比田勝のマドンナ失敗したときは隣町の佐須奈の産婦人科比田勝に来ては良い人を見つけ嫁いで海峡を渡った
夕暮れの岸壁に佇む女
いかに豪勢な料理であっても連日似通ったものを供されるとあっては食い飽きもする。 加奈子は女将らに反対されはしたが、料亭を抜け路地を突っ切った港のすぐ脇にある古ぼけた食堂に入ってみることにした。比田勝に来て、何度も店の前を通りかかってはいるが、この店に人が入っていくのを一度だって目にしたことが無かった。
「暖簾が出てるんだから、営業してるんだろうが……」
独り語ち、矯めつ眇めつと言おうか、おっかなびっくり店に入ってみた。 結構な時間、港を眺めつつ様子を伺っての入店だったが、その間、誰ひとりとしてこの店に入らなかったから、店はやってるか、そこからして疑問だった。 めったに人が来ないということからして食当たりも頭の片隅を過ったが、それより何より興味本位的な気持ちの方が強かった。
「ごめんください」
一応訪いはしたが、思った通り店内には誰もいなかった。 仕方なく加奈子は厨房に通じるであろう通路に入り込み、店の奥に向かって「誰かいませんか」と声をかけた。 しばらくして50代ぐらいのおばさんが出てきて
「あらっ、いらっしゃい、 ずいぶん長い間ウチの店見てらしたから、入りたいんじゃないかと思って待っとったとですよ」
tag : 料亭を抜け路地を突っ切った港のすぐ脇古ぼけた食堂比田勝観光客相手に丁寧な言葉で対応ちゃんぽんなるもの野菜炒めがてんこ盛り脇本商店売り子ランナーが走り抜ける売られていった
島に別れを告げていた高浜
「そんな理不尽なことがあってたまるもんですか!」加奈子は電話口に向かって泣き叫んだ。 脇本商店の売り子のことを、せめても高浜にだけはわかってもらいたかくて電話したのに、その高浜はすでに自衛隊を退職し実家に帰ったと、電話口に出た当直隊員が乾いたような声で告げたのだ。
加奈子と美宇田浜で出会ったとき、高浜は獲れたアワビを仲間に配るんだと、嬉し気に語ってくれたのだが、加奈子はその時彼の心の底にあるであろうわだかまりを、我を通そうとするあまり理解できずにいた。
美宇田浜で加奈子に食べさせてくれた残りのアワビは、恐らく退職に際し、餞別代りに無理して獲っていたのだ。
海栗島という名の孤島で、青春などという晴れがましいものに背を向け、3年満期、5年満期と勤めあげるのは並大抵のことではない。 防人として閉じ込められる。 たった1キロ足らずの海峡を挟んだ向こう岸に本島があるのだが、独身者は勤務時間のみならず、勤務外の時間も拘束となると精神を病む。 それを忘れさせてくれるのが、外出の折に出会える例えば脇本商店の売り子さんのような存在。
それを少しでも緩和すべく部隊は、民間に門戸を開くと称し、処々に女の子を配置している。
tag : 理不尽自衛隊を退職餞別代り海栗島という名の孤島勤務外の時間も拘束対馬独特の習慣仲間同士で女の子の奪い合い地元民に取り入って裏から手を回しここで朽ち果てる東京の方が自由に相手を選べるだけマシ
海栗島の食堂でアルバイトに励む美咲
「うわ~、今日もいい天気」美咲の屈託のない声は浜田の耳にも届いた。
鰐浦湾を見下ろす断崖絶壁に建てられた海栗島の三階建て隊舎、その一階にある食堂に美咲は務めている。 隊舎は湾に向かって全面ガラス張りになっていて、食堂では窓の外に出て海や本島の鰐浦集落を眺めることが出来る。 隊員食堂の海側に狭いながらも花壇らしきものを併設した展望用の空き地が設けられていて、通路ならぬ食堂のサッシを開け出入りできる仕組みになっている。
美咲は忙しい作業の合間を縫ってはここに出て、隠れるようにしてタバコを吸うのが唯一の気晴らしになっていた。 女の子がタバコを吸う、たったそれだけのことであってもこの地では偏見の目で見る輩がいる。
「へえ~、美咲ってタバコ吸うんだ」
食事を終えて出てきた美咲を、新兵の浜田が茶化す。
「吸うよ、悪い? そういう浜田さん、タバコタバコ吸わんの? タバコ吸う女、嫌いなんだ」
茶化されはしたが、負けじと言い返す。 ある特定の隊員の前ではすかさずやめるが、浜田の前ではタバコを吸うのを途中で止めるとか、火の付いたタバコをもみ消したりしない。
美咲は浜田に
「幾世じゃなきゃダメなの?」
と訊いてきた過去がある。 その時対象に挙げたのが会計班の和江だったが、
tag : 隊員食堂展望用の空き地他のふたりに比べ愚直で生真面目茶髪のソバージュ派手なフリフリの服スカートの中を仰ぎ見られ夜のPX自分が付き合いたいくせに不特定多数と交際彼女の黒い噂
過去の過ちを認めようとしない者たち
最初は地区にとっても部隊にとっても実に取るに足らないような事件だった。 美咲が、とある男性隊員によって弄ばれ、捨てられ自暴自棄になり出勤してこなくなったのだ。 噂を聞きつけた時、本来ならばその隊員を呼び寄せ事実確認を行い、本人が口にしたことが事実なら厳罰に処すべきだった。ところが、部隊は恥ずべき事実をひた隠しにし、むしろ被害者であるはずの美咲を罵ったのだ。 そんな隊員であっても失いたくなかったからだろうが、給与班は困り果てた。 末席の班であっても人員不足は深刻だったのだ。 応募に名乗りを上げさえすれば家庭の事情など深く追求せず雇うやり方をしてきたものを、この時ばかりは人事自ら自宅に出向き呼び戻したのだ。
戻ってはくれたものの、彼女はすっかり変わってしまっていた。 戻った理由は捨ててくれた隊員を退職に追い込むためだった。 彼女は事実を、鰐浦とはこういう地区であるとそのまま述べたのだ。
そのことをそれこそひた隠しに隠し、訓練に励んでいた真面目一方の隊員がいた。 宮原、その人だ。 彼は優秀な隊員であるばかりか、優秀なランナーだった。 唯一、彼が心の奥底にしまっていたもの、それが近親相姦の果て結婚したことによる出生。 彼の体内には美咲と同じ、忌まわしい血が流れていのだ。
tag : 弄ばれ捨てられ罵った近親相姦の果て結婚したことによる出生忌まわしい血が流れ実の父との間で間違いをやらかし将来を約束したような格好で付き合って都合上遠距離相手が誰であろうと手に手を取って睦会う二股かけて
秘かに島内に帰ってきていた美咲
美咲はあの一件のあと、逃げるようにして小倉に渡り、以前と同じ職業に就こうと昔のツテを頼って勤め先を探したが、生まれ育った対馬や給与班のことが忘れられず、さりとて行き場も泊まる宿代もなく、浮浪者のようになってターミナル付近を彷徨った。丁度そこに急ぎの用事を終え、これから対馬に取って返そうと乗船手続きに馳せ参じた、仁田の翔太を見かけた。 美咲と翔太は小倉に向かう船中で6時間近く話し込んだ仲。 同じ島出身ということもあり、初対面であるにもかかわらず、すぐに打ち解けた。
美咲は何故かひとりでに足が動き、切符を買って宿に帰ろうとする翔太の後を追っていた。 漁民として暮らすのが嫌だと言った美咲に翔太は、それなら農民として生きてみてはどうかと提案してくれていたからだ。
仁田は対馬でいうところの過疎の中の過疎。 とはいえ幸いなことに今節、ブームも手伝って旅行者相手の民宿も何軒かできた。 翔太となら或いはと、美咲は思い切って彼に事情を離し、連れ立ってまた、対馬へと引き返した。 片道切符で出かけた美咲のため、翔太は美咲の切符も買って宿代も払ってくれた。
比田勝に着くと誰にも見られないよう、翔太の背中に隠れるようにしながら仁田行きのバスに乗った。
排卵誘発剤で予期せぬ肥満に
美咲が仁田に移り住み、恋路の予感に浮足立っていた丁度そこ頃、彼女をずるい手を使って排除し結婚に漕ぎつけた泉の幾世は、今度はそれまでと打って変わって子作りに励み、しかし孕めず、処方された排卵誘発剤による予期せぬ肥満に悩まされていた。背丈は150センチにも満たなく、悪さをして太ってもせいぜい45~47キロであった躰が、みるみるまに60キロを通り越し70キロ台後半に迫ったのだ。
奔放だった彼女の母も、彼女同様かそれ以上のことをやらかした。 が何故か孕まず、五十路の声が聞こえ始めた年齢になってやっと、孕んだのか孕まされたのか…。 その血を引いたかどうか知らないが、彼女もまた二股三股をやっても何故だか孕まなかった。 いつしかその心配など皆無とばかりに母同様奔放に異性交遊を続けた。 彼女のこすっからしいところは母と違い、表面上処女を装って行い続けた点にある。
ところが鰐浦を起点に広まった近親相姦だの不倫だのに鑑みた自殺問題で、我が身の安全こそ第一と考えた高橋 が我先とばかりに部隊といおうか対馬を去ると、彼の後輩でもある林田 (林田は高橋の使い古しを使い、放出していた)は邪魔者がいなくなった今こそ幾世をと本腰を入れ事実関係作りに奔走し、幾世の義理の兄や姉、親にまでテコ入れし抱き、逝きかけたところで暗に婚姻を迫る (肉体関係を持っておきながら、結婚という言葉は口にしなかった。 最終的には義理の姉に婿養子の話しを持って行かせた) ようになっていった。
tag : 排卵誘発剤近親相姦不倫受胎を試み思慕の念が急激に高まり妻の元に通い詰め言い寄る漢らへの裏切り誘われるままに近隣の漢連中に身を任せ意識し膣壁を蠢かす擦り上げ狂わせておいて放つ
弱い立場の自衛官に付け入る新任女教師
若松は3年満期のお金とわずかばかりの貯蓄を注ぎ込んでカローラレビンを買った。 それに加え同期で同郷の田所と下宿を借りた。 お酒は全く口にしないが、たばこは吸う。 下宿代に加え、カローラレビンの新車をローンを組んで買っている。 従って給与はそれほどもらっていないのでいつも空っ穴。 仕方なく購入したばかりの車を学校の敷地内に無断駐車していた。 事務局から常に苦情を言われていた。もうひとつの趣味がアマチュア無線。
「CQCQ CQ2メーターバンド」
暇さえあれば遠方にいる同じ趣味を持つ仲間に呼びかけていた。 ピカピカの新車にアマチュア無線、それにどちらかというと可愛らしい顔立ち。 学校内に無断駐車を繰り返す常習犯。 楽しいことのひとつとしてないこの島へ赴任してきた新米女教師にとって神田川を思い起こさせる若松はいつしか格好の恋愛対象、欲情の対象となっっていった。
教師という職業は早出残業が当たり前と言われる職業のはずなのに、若松が休みで下宿に帰って来ると、どこからともなく現れ彼の部屋に入り浸り誘惑する。 妄想が募ると相部屋の田所を邪魔者扱いし部屋から追い出すなんてことは日常茶飯事だった。
このような女性が、しかもいつもふたりで現れるものだから、若松もたじたじになる。 彼女らの気が向けば対馬の南端にある厳原へケーキを買いに行きたいなどと、さも行って当然のような口ぶりでドライブデートを要求してくる。
薄明りの部屋で掛かってこない電話を、ひたすら待つ女
幾世はそれはそれは大切に育てられていた。 義理の姉もそれなりに大切に育てられてはいたが、それも幾世が生まれるまでのわずかの期間。 幾世が生まれると、遠い親戚筋に当たる鰐浦へ養女に出されてしまった。 したがって義理の姉が嫁ぐきっかけとなったのも、養女に貰われた先でその家の主がまず手を付け、そののち年嵩の順番に手が付いて、貧乏くじを引いた現主人が責任を取って嫁にしていたのも全て…とは言い難いが多分に幾世のせいでもあった。それと比べ幾世は、例えばこの辺りではまだ貴重だった固定電話を彼女個人の部屋に置いてもらえたほど愛されていた。 欲しいものは、どんなに苦労してでも、対馬になければたとえ本土でも父親が出向き、買って来て与えるほど溺愛されていた。 幾世はだから、年頃になると男達と連絡を取るのに自室の電話を利用した。
「もしもし、幾世ちゃん? ごめんね、待った?」
「ううん……ちっとも待っとらんとよ……ごめんね、玄関は寒かろうもん……」
そのうちのひとりである浜田も、部隊の玄関に据えてある赤電話が空くのを待って、幾世に連絡を取った。 浜田は当直に聞こえないよう送話口を掌で包み込むようにし、見られないよう床にしゃがみ込んで電話を掛ければ幾世も、部屋の戸を閉め切って小声でこれに応じた。
「平気だよ……外套着込んできたから……」
tag : 義理の姉部隊の玄関に据えてある赤電話泊まりに来る林田を幾世の部屋で寝かすと訊かされ未婚の娘に躰目的に来たであろう漢の夜伽をさせ足入れ目的で忍び込んでくる漢の夜伽を命ずる当の本人はその漢の目前で別の漢と睦言を交わし裏切りが欲情に変わる本格の性をしらしめられ快感を躰に植え付けられる種付け馬に選ばれた林田彼の下半身から逃れることが出来なかった
『トマトを選別する女』 になりたがる美咲
翌日は久しぶりに晴れ、雨で鬱屈していた美咲も気分が和んだ。 民宿で美咲をこんな目に合わせた幾世の例の黒い噂を、比田勝を発ち美津島に帰るという人から聞き及んだ。 新たな恋人ができた幾世に姉が嫉妬し、当てつけに自分ですら持て余し気味だった漢を、夫の目をそらすため宛がい、その仲を引き裂こうとし、こともあろうに幾世が堕とされ懇願が始まる段階まで通いつめ、しかもやってる最中に見張ったというくだりだ。
(あの姉も可哀そうな人……)
幾世さえ生まれてこなければ、生涯何も知らないまま平穏無事でいられたろうにと思うにつけ、また海栗島での記憶が蘇った。 こんなことを訊いた後は、素直に翔太に会いに行きたい気分にさせられる。 また農道に佇み、仕事に精出す彼を見つめていたいと思った。
大雨が降った翌日の畑はそこもここもぬかるんでいた。 お百姓さんにしてみれば手入れが大変そうだ。 美咲は翔太を目で追った。 美咲の存在に気付いた翔太が泥まみれになった手を大きく振った。
美咲は林田のことを良く知ってる。 思い切って声を掛けたらいとも簡単になびいてくれるであろう。 そう踏んでか、夕闇迫る車庫から道行く自分に声をかけてくれたことがある。
(…あれはたまたまMの真っ最中だったから……・)
tag : 黒い噂嫉妬当てつけ懇願綺麗上対馬高等学校同期生男を賭けての戦い彼を誰かに奪われはしないかという焦り幾度も幾度もため息をついた
鰐浦峠を下って港に向かう道すがら、無数のコヤがあった
島の子らは往々にして幼い頃、コヤと呼ばれる倉庫群やベエと呼ばれる作業広場で追っかけっこやかくれんぼをして過ごす。 傍から見ればそれほど面白いとは思わないであろうが、やっている当人にとって言われているほどつまらないとも思わなかったようである。 遊びはそれ以外ない以上、そういったことをするしかなかった。 そう思い、日々を過ごした。そのようにして育った子らが思春期を迎えるころになると、近所の男どもはそのコヤに悪さをするため、かねてから目を付けておいた女の子を連れ込もうと手を尽くし始める。 飴をやるだの鞭をくれるだのとまではいかないが、狭い地区のこと、大人同士コヤに誘い合うのを見て育っていたので、その子らもそのことに疑問を抱くとか抵抗を試みるとか、まずしない。 そのようにしてこの地区の女の子は大人の性を覚えさせられる。 それに気づいた本土から来た男らによって彼女らは、性の対象として声を掛けられるようになる。 一緒に遊んだ男の子はそうでもないのに、なぜか女の子に限って一段も二段も高みの大人の社会を垣間見させられることになるのである。
急に優しくされ、親切丁寧に扱われるようになったことで自分は大人社会にとって、いや、地区にとって大切な人なんじゃないだろうかと、ある種勘違いするようになる。 こうして和江はともかく幾世も美咲も、その延長線上で更なる男を、今度は自分の意志により咥え込むことになる。
tag : コヤかくれんぼ思春期大人の社会を垣間見させられる淋しさを紛らす必要性他人の持ち物を奪う躰が自然に反応相手の鼻を明かしてやろうという意気込みに変わり漢に媚び諂わなければ生きてゆけなかったオンナを装い始め
『農家に嫁いだ女 若妻の旬』 美咲の場合
志多留を訪問した翌日、美咲は再び翔太の元を訪れた。 曇り空の下、彼は黙々と仁田特有の畑の土と戦っていた。 美咲は翔太に声をかけ、Tシャツとジーンズ姿のまま畑の中へと入っていった。「また手伝わせんね、草取りでも肥料撒きでん、なんでんすっとばい」
微笑む美咲に、翔太も笑みを返した。
「農作業って、案外面白かじゃろう」
額に浮かぶ汗を腕で拭い、翔太が訊く。
「うん、 楽しか! 土ば弄るとが、こがん気持ちん良かことやとは知らんじゃったわ、 それに躰ば動かしとーと、つまらんことも忘れてしまうし」
美咲はそう言って、目を大きく瞬かせた。 翔太が口にしてくれたように、鰐浦のコヤで行われた忌まわしい過去に怯えるなんて、志多留をそんな目で見てただなんて、今の翔太には似つかわしくない、お嫁に行くために是が非でも忘れたかった。
広い畑の中でふたりは草取りに精出した。
「もう少ししたら収穫や、 うまかとが取るるごたある」
何やらコロボックルに似た葉の農産物を指して翔太が微笑む。 土の中で育っているであろうその植物を想像すると、美咲はなんだか嬉しくなった。 翔太が育てたその何とやらを早く食べたくなった。
農家に嫁いだ女 スカートの中、禁断の収穫
彼の背中に頬擦りをすると、汗と雨に混じって漢の匂いがした。 翔太の野生の匂いが美咲の女ごころを蕩けさせ、官能を刺激する。 美咲は翔太の背にしがみついたまま、うっとりと目を瞑った。「きれか顔が汚れてしまうばい、 ……おい、ズボンにも泥が付いとーけん……・」
翔太はそう言って、美咲を除けようとした。 照れているのだろう、声がやけに掠れてる。 しかし、美咲は翔太の背にしがみついて離れようとしない。 振り払われまいと美咲は、翔太の背中に唇を押し付けたまま、囁いた。
「汚るるなんて、こん際そがんこと構わんばい、 ウチなんちゃそんで良かとよ、 ……ねえ、抱いて、 翔太ん、そん泥ん着いた手で、激しゅう……強う……」
堰を切ったようにこう告げてくる美咲に、溢れる想いを必死で抑え込んでいるのだろう。 翔太は拳を握り躰を震わせている。
彼は深く息を吸うと、目の前にある赤く色づいたトマトをもぎ取り、何かを吹っ切るように勢いよく齧った。
一口齧ると振り返り、齧りかけのトマトを美咲に向かって突き出した。 熟れてグチュグチュになったトマトの中身が支えを失ってタラタラと地面に向かって滴り落ちる。 美咲は翔太を見つめたまま、そのトマトを齧った。 甘酸っぱい芳香を放ち、赤い汁が美咲の唇から地面に垂れる。 その姿を見て、翔太は思わずつばを飲み込んだ。
tag : 背中に頬擦り漢の匂い女ごころを蕩けさせ背中に唇を押し付け拳を握り躰を震わせ熟れてグチュグチュになったトマト甘酸っぱい芳香を放ち互いの唇を貪り合った一層淫靡な世界へと肉体を熱く火照らせ
性欲の強さが美咲の心に漢を愛することの何たるかを悟らせた
「たまらん……オッパイ、程よう熟れとって……白うて……綺麗で……手に吸い付くような餅肌……あああ」つい先ほどまで腫れ物に触るような扱いをしてくれた翔太の態度が一変。 野性的な愛撫は美咲をして躰の芯が蕩けるほどに感じさせてしまう。
「あああっ……あん……気道よか……ううん」
美咲にとって翔太の愛撫は、これまでの漢と違って繊細さに欠けるが、欲望の赴くままという激しさだけは他のどの漢にも負けていない。 都会のどの漢にも負けていない荒々しさに、美咲は過去に経験したことのないほどときめき、花びらから蜜を溢れさせる。
翔太は、ともすれば隠そうとする美咲の手を半ば強引に払いのけ、乳房に顔を埋め、大きく息を吸い込んだ。
「ああ……デカイなあ……柔らこうて……オッパイ揉んどーだけで、漏れてしまいそうだ……うううん……うまか、 美咲さんの乳首、ピンクでやーらしか」
こんなことを囁きながら、翔太は美咲のオッパイをチュバチュバと吸い上げる。 なんだか大きな赤ちゃんに吸われてるようで、美咲は母性本能によって奥深くが疼き始め、それをこの程度の段階で翔太に悟られたくなく身をくねらせた。
「あああん……そこっ、そうされると……変になると……はあああっ」
tag : 腫れ物に触るような扱い野性的な愛撫躰の芯が蕩けるほどに感じさせオッパイをチュバチュバと吸い上げ母性本能によって奥深くが疼き始め乳房に情熱を傾け懇願の意を示すジーンズ野性的な濃い繁み彼の股間に顔を埋めペニスを貪り始め
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アップデート 2026/01/09 06:45
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