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(原題:Smooth Talk / 1985年製作 / 92分 / ジョイス・チョプラ監督 / アメリカ)
※本記事は映画『スムース・トーク』のネタバレを含みます。ネタバレを含む章の前には注意書きを記載しています。また、記載されている考察・解釈は筆者個人の見解です。
オンライン試写にて鑑賞。本作はジョイス・キャロル・オーツの短編「Where Are You Going, Where Have You Been?」(『あたしはどこへ行くの? あたしはどこから来たの?』)を原作に、1985年に公開された。
前半はローラ・ダーン演じる15歳の少女コニーが、夏休みの気だるい日常の中で、異性への関心や友人との軋轢、家族との不仲といった青春の揺らぎを経験する姿を淡々と描く。だが、ラスト30分で物語は一気に転調し、年上の男が言葉巧みに彼女のコンフォートゾーンを侵食していく、不穏でスリラー的な展開に覆われていく。
事前の印象からは『17歳の肖像』のような、年上男性との恋愛と失恋を通じて少女が自尊心を獲得する成長譚を想像していたが、そこで待っていたのはまったく異なる種類の後味だった。
少女がさらされる視線
前半では、コニーの家族との何気ない口論や友人との外出、ドライブインでの遊びが描かれる。しかしその日常には、絶え間なく男性の視線が絡みつく。それらは一つひとつは些細であり、コニー自身も異性への関心を持ち始めてはいる。だが、「女である」というだけで常に性的まなざしに晒される気味悪さと居心地の悪さが、全編を覆っている。この感覚は1980年代に限らず、現代にも通じる普遍的な不安であり、直接的な暴力がなくとも、観客の心にもその居心地の悪さがじわじわと刷り込まれていく。
自由と危うさのはざまで
コニーはまだ運転免許を持っておらず、自由を渇望し、家族の目を避けながら夜遊びや異性との交流を楽しむ。その自由は、家族との距離を置くことで得られるが、同時に危険と隣り合わせだ。母親との関係は冷え切り、姉とは比較され、家庭は安らぎの場ではなくなる。「守られる感覚」を失った彼女は、ラストに外の世界の曖昧な危うさに身をさらすことになる。
“甘い言葉”を携えた男の登場
物語終盤、家族が外出して一人で留守番をしているコニーの前に、謎の男・アーノルド(トリート・ウィリアムズ)が突如現れる。優しい言葉と脅しを巧みに織り交ぜ、部屋の外から声をかけるだけで彼女の心理的防御を少しずつ崩していく。この異様なやり取りは、それまでのトーンとの落差も相まって非常に不気味だ。
最終的にコニーは誘いに乗らないと家族まで危険にさらされるかもしれないと、アーノルドと2人でドライブへ向かう。ドライブ中に何が起きたかは一切描かれないが、「君は僕に誘われてドライブに行っただけだ」というアーノルドの念押しや、ラストで姉に抱き合う際の「私に触れたら汚れた気にならない?」というコニーの言葉から、何か性的接触があったことが示唆される。
悪魔の誘惑とキリスト教的な寓意
アーノルドの出で立ちはどこか現実味が無く、誘惑をもたらす悪魔のような存在に見えた。それどころか、彼との邂逅そのものが、コニーの悪夢の中の出来事のようにも感じられたほどだ。
アーノルドとの接触後には、コニーが家族と向き合う場面が描かれる。そこには「誘惑に負けないよう、家族との結びつきを保つことが大事」というメッセージが読み取れる。これは、キリスト教的価値観――家庭や信頼できる共同体から離れることは魂の危機につながる――に通じる寓話的結末だと思った。
言い換えれば、「家族と距離を置き、夜遊びばかりしている少女はこうなる」という懲罰的な物語であり、“性的に活発な若い女性への罰”という構造も内包している。だが本作はそれに留まらない。コニーはアーノルドに「もう家に来ないで」と告げ、自ら境界を引いたうえで家族と向き合い直す。そのラストは、彼女の主体の回復と精神的成長を感じさせる。
おわりに
『スムース・トーク』は、一見少女のひと夏の成長を描いているようで、少女というだけで異性の目に晒される社会の危険性を、前半の日常描写から終盤の衝撃的展開まで一貫して描き切った作品だと思った。
直接的な暴力を見せずに観客の想像力に委ねることで、強烈な後味を残す。そしてその結末は、悪魔のような誘惑者に立ち向かうためには家族や共同体との結びつきが大切だという寓話的な教訓へとつながっていく。
世界への関心に胸を躍らせた少女が、その裏に潜む危険を知ったとき、彼女は誘惑者の「スムース・トーク」(甘い言葉)から、家族との「スムース・トーク」(なめらかな会話)へと、自らの意志で軸足を移すのだ。
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【公開情報】
京都シネマ:8/8(金)〜「Girls, Girls, Girls 映画のなかの女の子たち」
下高井戸シネマ:8/23(土)〜「インディペンデント・ガールズの肖像」
広島市映像文化ライブラリー:8/28(木)〜「宝探し!未公開外国映画特集」
各特集内の1本として、この夏上映!
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