転売対策 なぜしない? できない企業の苦悩

転売対策をなぜしない?できない?と、人気商品が買えないたびにSNSなどで企業が批判されているのを見ると、小売業の現場を知る者として非常に複雑な気持ちになります。最近では、マクドナルdのハッピーセットで起きたポケモンカードの騒動で、ついに消費者庁が動く事態になりましたし、ヨシダカメラがガンプラの販売方法で取ったユニークな対策も大きな話題を呼びました。しかし、世間で言われるほど簡単な話ではないのです。
そもそも、転売とせどりの違いはどこにあるのか、明確な法律や規制は存在するのでしょうか。実のところ、転売対策は難しい課題に満ちています。任天堂がswitch2(スイッチ2)で試みた対策や、吉野家が見せたような対応もありますが、メルカリやヤフオクといったフリマサイトを見れば、転売屋の活動が止まっていないのは明らかです。私自身、店長時代に「あなたは転売屋だから売らない」と伝えるのにどれだけ苦労したか。契約自由の原則を盾にされてしまうと、企業の立場は想像以上に弱いのです。この記事では、なぜ企業が十分な転売対策を「しない」のか、あるいは「できない」のか、その根深い事情を解説します。
- 転売対策が「できない」「しない」企業の法的な壁
- 転売とせどりの明確な違いと問題点
- 各社の転売対策事例(成功と失敗)
- 対策強化が一般のお客様に与える影響
転売対策 なぜしない? できない企業の事情
問題なのは?転売・せどりの違い
まず、混同されがちな「転売」と「せどり」の違いについて整理しておきたいと思います。この二つは、似ているようでいて、その性質や社会的な見方が異なります。
「せどり」とは、もともと古本業界で使われていた言葉です。古本屋で安く売られている本(特に背表紙を見て価値を判断することから「背取り」と呼ばれたと言われます)を見つけ出し、別の場所で適正な市場価格、あるいはそれ以上の価格で販売し、利鞘を得る行為を指していました。現在では対象が広がり、中古の家電、おもちゃ、アパレルなど、リサイクルショップやフリマアプリで安く仕入れた中古品を販売する行為全般を指すことが多いです。
重要なのは、せどりは基本的に「中古品」を扱うビジネスであるという点です。営利目的で反復継続して中古品を売買する場合、古物営業法に基づく「古物商許可」が警察署から必要になります。許可を得てルールに基づいて行う限り、中古品の流通を促す経済活動の一環とも言えます。
一方で、私たちが現在問題視している「転売」は、少し意味合いが異なります。こちらは、発売されたばかりの新品、特に限定品や人気で品薄な商品を、小売店やECサイトで買い占める行為を指すことが大半です。そして、その商品が本当に欲しい人々が定価で買えなくなった状況を利用し、フリマサイトなどで定価を大幅に上回る高額で販売する行為です。
せどりが既存の市場価格の歪み(安すぎる中古品)を利用するのに対し、悪質な転売は、買い占めによって意図的に品薄状態を作り出し、価格を不当に吊り上げる点で大きく異なります。お客様が正規の価格で商品を手に入れる機会を奪ってしまうため、企業にとっても消費者にとっても深刻な問題となっているのです。
転売屋が企業を悩ませる
転売屋の存在は、企業にとって本当に頭の痛い問題です。短期的には商品が完売するため売上は立つのですが、長期的に見ると計り知れないダメージを受けてしまいます。
最も大きな問題は、企業や商品のイメージ(ブランド価値)が著しく低下することでしょう。人気商品を発売しても、本当に欲しいと願う長年のファンや一般のお客様の手に渡らず、転売屋が高額で出品しているのを見れば、お客様は「なぜ対策しないんだ」「この企業は転売を容認しているのか」と不満や不信感を抱きます。
また、高額な転売品を購入せざるを得なかったお客様が、もし商品に不具合を感じた場合、メーカー保証を受けられないケースも出てきます。例えば、保証書に必須な購入店の印やレシートがなかったり、そもそも転売品は保証対象外と規約で定めているメーカーもあります。そうなれば、お客様の不満はさらに高まり、結果としてブランドから離れていってしまうかもしれません。
さらに、転売屋による買い占めは、企業側の販売機会の損失にもつながります。例えば、初回購入者向けに赤字覚悟で提供しているお試し商品(化粧品や健康食品など)が転売屋に買い占められた場合を想像してみてください。企業側は、本来その商品をきっかけに定期購入してくれるはずだった「未来のお客様」に出会う機会を失います。広告費だけがかさみ、本来得られるはずだった長期的な利益(LTV:顧客生涯価値)を丸ごと奪われてしまうのです。
このように、転売屋は企業の売上、ブランドイメージ、そしてお客様との未来の関係性まで、あらゆる側面を蝕んでいく存在と言えます。
転売を禁じる法律・規制の不在
では、なぜ企業は法律で転売屋を厳しく取り締まらないのでしょうか。
「転売対策 なぜしない できない」と疑問に思う根本的な理由がここにあります。
驚かれるかもしれませんが、現在の日本では、悪質な「転売」行為そのものを包括的に禁止する法律は、ほぼ存在しないのです。
唯一の例外と言えるのが、2019年6月に施行された「チケット不正転売禁止法」です。これは、特定のコンサートやスポーツイベントのチケットを、興行主の同意なく、定価を超える価格で業として転売することを禁止する法律です。しかし、これはあくまで「特定興行入場券」に限った話であり、私たちが日常で目にするガンプラ、ゲーム機、スニーカー、おもちゃといった「物品」の転売は、この法律の対象外です。
もちろん、お酒や医薬品、中古品(古物)のように、販売するために免許や許可が必要なものを無許可で転売すれば、それぞれ酒税法や薬機法、古物営業法違反に問われます。また、偽ブランド品を売れば商標法違反や詐欺罪になります。
しかし、一般の小売店で誰でも購入できる新品の商品を買い、それに高い値段を付けて売るという行為自体は、原則として「合法」なのです。
「安く買って高く売る」のは商売の基本であり、市場経済の原則(需要と供給)そのものだ、という見方もできます。企業が「転売はやめてください」といくらお願いしても、それはあくまで道徳的な要請に過ぎず、法的な拘束力はありません。
この「法律や規制がない」という現実こそが、企業が転売屋に対して強い態度に出られない最大の足かせとなっています。
契約自由の原則と販売拒否の壁
「法律がないなら、店側が『転売屋には売らない』と決めればいいじゃないか」と思うかもしれません。
確かに、民法には「契約自由の原則」というものがあります。これは、企業(売り手)が「誰に」「何を」「いくらで」売るかを自由に決定できる権利を保障するものです。ですから、企業が「転売目的のお客様への販売はお断りします」と利用規約や店頭で明記すること自体は可能です。
しかし、問題は「どうやって相手が転売屋だと証明するのか」という点に尽きます。
私にも苦い経験があります。店長だった頃、ある特売品の取り寄せ注文を大量に入れてきたお客様がいました。状況からどう見ても転売目的だと判断した私は、商品が入荷した後、お客様に電話を入れました。「申し訳ありませんが、当店では転売目的での販売はお断りしております。つきましては、お支払いいただいた代金は全額返金いたしますので、キャンセル手続きにご来店いただけますか」と。
もちろん、お客様は激怒しました。「なぜ転売だと決めつけるんだ」「どこにそんな証拠がある」「売ると言ったものを売らないのは契約不履行だ」と。
こちらも「店頭に転売目的の購入をお断りする貼り紙をしている」ことを根拠に粘りましたが、非常に難しい交渉でした。正直なところ、交渉の途中で何度も諦めそうになったのです。なぜなら、この交渉は店にとって何の得にもならないからです。キャンセルにすれば当然、店の売上(実績)は減ります。お客様からは激しく文句を言われ、時間を奪われる。かといって、この毅然とした対応が会社や上司から評価されることはまずありません。損することばかりで、途中で「もう売ってしまった方が楽なのではないか」という考えが頭をよぎりました。
「転売屋とする根拠・定義は何か」「販売を拒否する法的根拠は何か」と詰め寄られれば、言い負かされていた可能性も十分にあります。最終的には何とかキャンセルになりましたが、これは支払い済みで商品引き渡し前だったからできた、ギリギリの対応でした。
レジに商品を持ってきたお客様に対して、その場で「あなたは転売屋のように見えるので売れません」と断るのは、現実的にはほぼ不可能です。そもそもレジの現場では迅速な会計処理が求められており、一人のお客様に時間をかけることは他のお客様の迷惑につながります。また、見た目や購入点数だけで「転売目的」と主観で判断することは極めて危険です。会社のイベント景品を探している方や、親戚一同へのプレゼントを用意している方など、正当な理由で複数購入されるお客様も実際にいらっしゃいます。
明確な証拠がないまま販売を拒否すれば、それこそがお客様に対する差別や不当な扱いと見なされかねません。もしそのお客様がSNSなどで「この店では不当な理由で販売を拒否された」と発信すれば、企業の評判は一瞬で地に落ちるリスクがありますし、逆に企業側が訴えられる可能性すらあります。
このように、規約で禁止はできても、いざ実行(販売拒否)しようとすると、オペレーション上の困難さ、そして法的なリスクという途端に高い壁が立ちはだかるのです。
メルカリ・ヤフオクが温床に
企業側が販売時点で転売屋を阻止するのが難しい一方で、転売屋が容易に利益を確定させる「出口」は、この数年で驚くほど整備されてしまいました。言うまでもなく、メルカリやヤフオクといったフリマ(オークション)プラットフォームの存在です。
これらのサービスは、本来「個人が不要になったものを手軽に売買できる」という素晴らしい仕組みを提供するものです。しかし、その手軽さが、皮肉にも転売屋にとって格好の「売り場」を提供してしまっています。
匿名で簡単に出品でき、全国の買い手と繋がれるため、転売屋はリスクを負うことなく高値で売りさばくことができます。
もちろん、プラットフォーム側も手をこまねいているわけではありません。例えば、メルカリは国民生活安定緊急措置法で規制されたマスクや消毒液の出品を禁止したり、任天堂と連携して「Nintendo Switch 2」の不正出品(空売りなど)への対策を強化すると発表しています。
しかし、彼らのビジネスモデルは、取引が成立した際に発生する「販売手数料」が収益の柱です。極論を言えば、商品が高額で取引されればされるほど、彼らの利益も増えるという構造になっています。
そのため、法的に明確な違反(偽ブランド品など)でない限り、個別の出品が「悪質な転売」かどうかをシステムや人力で逐一判断し、削除していくのは非常に困難です。規約違反の出品を削除しても、また別のアカウントで出品される「いたちごっこ」が続いており、結果として転売行為の温床になっているという事実は否定できません。
転売対策 できない? 現場の事例と課題

- 転売対策は難しい!コストと顧客への弊害
- 消費者庁の要望とマクドナルドの苦悩
- ヨドバシカメラのガンプラ対策は正義か
- 任天堂 switch2 スイッチ2 の対策
- 吉野家の成功事例に見るファンの忍耐
- 転売対策 なぜしない できないの結論
転売対策は難しい!コストと顧客への弊害
企業が転売対策に及び腰になる背景には、法的な問題だけでなく、非常に現実的な「コスト」と「一般のお客様への影響」という二つの大きな壁があります。
「転売対策 なぜしない できない」という批判は簡単ですが、実行する側の負担は計り知れません。
対策にかかる莫大なコスト
まず、金銭的・人的コストの問題です。
例えば、「1人1点まで」という制限を厳格に実行しようとすれば、どうなるでしょうか。オンラインストアであれば、同一人物が複数のアカウントを作成して購入するのを防ぐシステムが必要です。住所、氏名、電話番号、IPアドレス、決済情報などを照合し、同一人物と判定する仕組みを開発・導入するには、莫大なシステム投資がかかります。
私が今所属している本社の会議でも、こうしたシステムの導入はたびたび議題に上がります。しかし、その費用対効果を考えると、経営層が二の足を踏むのも理解できます。転売を防ぐために数千万円の投資をしても、それによって増える利益は限定的かもしれません。
実店舗ではさらに深刻です。レジでポイントカードや身分証の提示を求め、購入履歴を一人ひとり確認するとなれば、通常よりもはるかに多くの人員と時間が必要になります。ただでさえ小売業は人手不足が続いているのに、人気商品の発売日だけのために大量のスタッフを確保するのは非現実的です。
一般のお客様が受ける「弊害」
そして、転売対策を強化すればするほど、板挟みになるのが「本当に商品が欲しいだけ」の一般のお客様です。
厳格な本人確認、複雑な抽選システムの導入、購入履歴のチェック——。これらはすべて、転売屋ではないお客様にとっても「面倒な手続き」であり、購入のハードルを上げることにつながります。お客様からすれば、商品を買うために、まるで自分が疑われているかのような気持ちにさえなりかねません。
「ただゲームが買いたいだけなのに、なぜこんなに手間がかかるんだ」
「何度も抽選に申し込んでいるのに全く当たらない。もう買う気が失せてしまった」
このように感じたお客様が購入を諦めてしまえば、それは企業にとって「販売機会の損失」にほかなりません。その一度の不快な体験が、お客様をそのブランドや店舗から永久に遠ざけてしまう可能性すらあります。転売屋を締め出すことに成功したとしても、その過程で大切なお客様の心を離してしまっては、まさに本末転倒です。
企業は常に、転売対策という「正義」を振りかざすことの代償として、一般のお客様の利便性(買いやすさ)や顧客体験(CX)をどこまで犠牲にできるのか、という極めて難しいバランス調整を迫られているのです。
消費者庁の要望とマクドナルドの苦悩
転売問題が、ついに食品ロスの観点からも社会問題化したのが、マクドナルドの事例です。
2025年8月、マクドナルドはハッピーセットのおまけとしてポケモンカードを配布しました。これが転売屋のターゲットとなり、カードだけを抜き取り、ハンバーガーやポテトといった食品が大量に廃棄されている画像がSNSで拡散し、大きな社会問題となりました。子供たちのための楽しいセットが、食べ物が無残に捨てられるという悲しい光景を生み出してしまったのです。
この事態を受け、消費者庁はマクドナルドに対し、食品ロスにつながらないよう販売方法の改善を要望するという異例の対応を取りました。単なる企業活動への指摘にとどまらず、「極めて遺憾である」という強い言葉が使われたことからも、行政がこの問題をいかに重く見ていたかがうかがえます。これは、転売問題が単なる市場の混乱ではなく、社会全体の倫理観にも関わる問題であると公に示された瞬間でもありました。
マクドナルド側もこの事態を重く受け止め、謝罪するとともに、その後に予定されていた「ワンピースカード」のキャンペーンを見送るという苦渋の決断を下し、対策を講じました。具体的には、2025年9月の「マイメロディ&クロミ」などのハッピーセット販売時には、
- 発売初日は店頭・ドライブスルーのみに限定(モバイルオーダーや宅配を停止)
- 1グループ1会計につき3個までの厳格な個数制限
といった対策を導入しました。
しかし、これもまた、前述した「一般のお客様への弊害」を伴うものです。仕事帰りにモバイルオーダーで受け取りたかった親御さんや、悪天候で外出が難しい日に宅配を頼りたかったご家庭にとっては、大きな不便を強いることになります。子供が複数人いる家庭では、3個という制限では全員分を買えないかもしれません。
マクドナルドほどの巨大チェーンであっても、転売屋の組織的な買い占めと、それによって引き起こされる食品ロスという新たな問題に対し、完璧な解決策を見いだすのは極めて困難です。消費者庁から改善要望が出たとはいえ、有効な対策は限られており、どのような手を打っても誰かが不利益を被るというジレンマに陥っているのが実情でしょう。
ヨドバシカメラのガンプラ対策は正義か
こうした企業の苦悩が続くなか、非常にユニークな転売対策で注目を集めたのが、ヨドバシカメラです。
特に話題となったのが、大人気ガンプラ「RG Hi-νガンダム」の販売時です。一部の店舗で、購入希望者に対してレジで「この商品の名前は何ですか?」と口頭で質問し、正確に「ハイニューガンダム」と答えられない人の販売を断った、というものです。
この方法は、「本当に欲しいファンなら商品名を言えるはずだ」「知識のない転売屋をあぶり出す見事な対策だ」と、多くのファンから喝采を浴びました。
しかし、私はこの方法に少し疑問を感じています。 確かに転売屋の排除には一定の効果があったかもしれません。ですが、この方法は「最新のガンダムにあまり詳しくない人は買ってはいけない」と言っているのと同じではないでしょうか。
例えば、「子どもや孫へのプレゼントとして、人気らしいガンダムのプラモデルを買ってあげたい」というお客様もいるはずです。あるいは、「子供の頃ガンダムが好きで、名前はうろ覚えだけど、話題のガンダムがかっこよくて欲しくなった」という古参のファンもいるかもしれません。
そうしたお客様が、レジで「名前が言えないから売れません」と断られたら、どう思うでしょうか。きっと、とても恥ずかしく、嫌な気持ちになるはずです。
転売対策は重要ですが、それが新規のお客様や、ライトなファンを排斥するような「踏み絵」になってはいけないと私は思います。このヨドバシカメラの事例は、転売対策の成功例として語られがちですが、同時に「お客様を選別する」ことの是非という、小売業にとっての重い問いを投げかけているようにも感じ、少なくとも私の会社では同様の手法を採用することはないでしょう。
任天堂 switch2 スイッチ2 の対策
ゲーム機本体は、長らく転売屋の最大のターゲットであり続けてきました。その任天堂が、2025年6月に発売した「Nintendo Switch 2」(スイッチ2)で、非常に踏み込んだ対策を講じたことは記憶に新しいです。
任天堂が公式ストアで行った抽選販売では、応募条件として以下の2点を設定しました。
- 過去のNintendo Switchソフトの累計プレイ時間が50時間以上あること。
- 有料サービス「Nintendo Switch Online」への加入期間が累計1年以上あること。
これは、「これまで任天堂のゲームを実際に遊んでくれた本当のファン」を明確に優遇する措置です。転売目的のためだけに大量のアカウントを作っても、この条件をクリアするのは極めて困難であり、非常に効果的な対策と言えるでしょう。
さらに任天堂は、メルカリ、LINEヤフー、楽天グループといったフリマ事業者3社と連携し、「発売日前の空売り(手元にない商品を出品すること)」や規約違反の出品に対して、能動的な削除対応や情報共有を行う体制を構築しました。
メーカー自らが販売方法を工夫するだけでなく、転売屋の「出口」であるプラットフォーム側とも協力して対策を講じたのです。
この任天堂の対策は、メーカー側ができる最大限の対策の一つであり、高く評価できます。しかし、これもまた、新規のゲームファンや、これからSwitchデビューをしようとしていたお客様にとっては、発売直後に手に入れるのが困難になるという側面も持っています。例えば、誕生日やクリスマスプレゼントとして初めてゲーム機を欲しがった子供や、これまで他社のゲーム機で遊んできたけれどSwitch 2の新作に惹かれて購入を考えた大人など、まさに「これからファンになる可能性」を秘めた人々にとっては、非常に高い参入障壁となります。既存顧客を大切にする姿勢は素晴らしいですが、その一方で未来の顧客を逃すことにも繋がりかねない、諸刃の剣とも言えるでしょう。
吉野家の成功事例に見るファンの忍耐
最後に、飲食業界からもう一つ、非常に巧妙な対策事例として吉野家を紹介します。
吉野家は2024年から「星のカービィ」とのコラボキャンペーンを実施しました。当初は、他の人気コラボと同様に、限定フィギュアが転売屋のターゲットとなり、即座に品切れとなる事態が続きました。
そこで吉野家は、2025年1月からの追加販売(第3弾)で、劇的に方法を変更しました。
- 公式アプリでポイント(450円で1pt)を貯め、2ptでフィギュア1個と交換する方式に変更。
- 交換申し込みをしたフィギュアは、その場渡しではなく、約半年後の「7月上旬」に発送する。
これが何を意味するか。
まず、ポイント制にしたことで、転売屋はフィギュア1個あたり最低900円(2pt分)のコストを支払う必要があり、利鞘が小さくなりました。
そして何より決定的なのは、「半年後に発送」という時間差攻撃です。転売屋は、仕入れた商品をすぐに高値で売って利益を確定させたいのです。半年後にもカービィの人気が維持されているか、市場価格がどうなっているか分からない商品に、今お金を払って仕入れようとは考えにくいでしょう。
この吉野家の対策は、「本当に欲しいファンは、半年待ってでも手に入れたい」というファンの心理(忍耐)を信頼した、見事な戦略でした。
もちろん、これは「すぐに欲しい」というお客様の要望には応えられません。しかし、結果として転売屋をほぼ排除し、希望するファンに(時間はかかっても)確実に行き渡らせることに成功しました。
このように、ヨドバシカメラ、任天堂、吉野家の事例を見ても、転売対策の成功は、何らかの形で「一般のお客様の我慢や忍耐」を前提としていることが分かります。
転売対策 なぜしない できないの結論
転売対策をなぜしない?なぜできない?という、多くの消費者が抱く素朴な疑問。この記事を通じて、その背景にある問題がいかに複雑で根深いものであるか、様々な角度から明らかにしてきました。企業が批判の矢面に立たされがちですが、実のところ、彼らは「法律の不在」という大きな盾を持たないまま、転売屋と対峙しなければなりません。契約自由の原則を逆手に取られれば、販売拒否すら困難なのが現実です。さらに、対策を講じようとすれば、莫大なシステム投資や人件費という「経済的な壁」が立ちはだかります。そして何より、対策を強化すればするほど、本当に商品を届けたい一般のお客様に不便を強いるという「顧客体験の壁」にぶつかるのです。マクドナルドの苦悩、ヨドバシカメラの問いかけ、任天堂の線引き、吉野家の時間差攻撃。いずれの事例も、企業の苦心が見て取れますが、同時に一般のお客様の何らかの「我慢」を伴うものでした。結局のところ、この問題は一企業の努力だけで解決できるレベルを超えています。以下に、この記事で解説してきた要点をまとめます。
- 企業が転売対策をしない、あるいはできないのには明確な理由がある
- 転売行為そのものを直接的に禁止する包括的な法律は現在の日本にほぼ存在しない
- 唯一の例外は「チケット不正転売禁止法」だが、物品の転売は対象外である
- 「せどり」は古物商許可が必要な場合がある中古品売買を指すことが多い
- 問題視される「転売」は、主に新品の買い占めによる意図的な価格吊り上げを指す
- 民法の「契約自由の原則」に基づき、企業は販売相手を選ぶ権利を持つ
- しかし、購入希望者が「転売屋」であると客観的に断定し、販売を拒否する具体的証拠を示すのは極めて困難
- 私自身の店長経験でも、転売が疑われるお客様へのキャンセル交渉は非常に難航した
- 転売対策を強化すればするほど、一般のお客様の購入ハードルが上がり不便になる
- 厳格な本人確認や購入履歴の照合システムを開発・導入するには莫大な金銭的コストがかかる
- 対策の実行には通常以上の人員が必要となり、人手不足の小売現場では人的コストの負担が重すぎる
- マクドナルドの事例は、転売問題が食品ロスという新たな社会問題を引き起こし、消費者庁が介入する事態にまで発展した
- ヨドバシカメラのガンプラ販売方法は、転売屋対策として喝采を浴びた一方で、「詳しくないファン」を排除する可能性もはらむ
- 任天堂のSwitch2対策は、既存ファンを優遇する強力な手法だが、新規顧客には厳しい
- 吉野家のカービィ対策は、転売屋のビジネスモデルの弱点(即時利益)を突いたが、お客様に「半年待つ」忍耐を求めた
- 法整備による根本的な解決がなされない限り、問題は企業の自助努力と、一般のお客様の不便や忍耐によって支えられ続ける
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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