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このところ、ここにはいません。
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みなさまつつがなく、よき新年をお迎え下さいますよう、お祈り申し上げます。

# by konohana-bunko | 2025-12-27 23:22 | 日乗

四十数年ぶりに高村光太郎詩集を読む

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四十数年ぶりに『高村光太郎詩集』を引っ張り出して読んでみた。
大方の詩はすっかり忘却していたが、覚えていたもの、数行をはっきりと思い出せるものもあった。中学の授業で読んだ(読まされた)「道程」「冬が来た」「ぼろぼろな駝鳥」。高校一年の一学期に読んで、異様に胸が苦しくなった『智恵子抄』の「樹下の二人」「風にのる智恵子」「山麓の二人」など。

高村光太郎の詩は力強くてわかりやすい。そして随分あどけない。悪口で言うのではない。ストレートな力強さとわかりやすさ、そこに見え隠れするあどけなさ無邪気さが美質だし、作品の生命力の源となっている。
ただ、今の自分の眼で読み直すと、「道程」は堂々としすぎて気恥ずかしいし、「ぼろぼろな駝鳥」はちょっとスローガンみたいに感じられてしまう。『智恵子抄』の諸作品は、高校生の時は素直に恋愛の苦しさうつくしさだけを享受できたが、今となるとつい(智恵子さんはどう思っていたのだろう、彼女が彼女の立場からことばを発することができていたら、それはどんなことばだっただろう)などと考え込んでしまう。男性の芸術家が、女性をミューズとして崇めうつくしい作品を生み出す。それは芸術という大義名分のもとに彼女を消費し、彼女の生を歪めたり損ねたりすることにつながりはしないか。

今あらためて詩集を読んで、こころがのびのびと温まると思ったのは、「わが家」、「下駄」の二篇。個人的な好みと言ってしまえばそれまでだが、このように小さな、さりげない詩がいいと思うのだがどうだろう。

下駄

地面と敷居と塩せんべいの箱とだけがみえる。
せまい往来でとまつた電車の窓からみると、
何といふみそぼらしい汚らしいせんべ屋だが、
その敷居の前に脱ぎすてた下駄が三足。
その中に赤い鼻緒の
買い立ての小さい豆下駄が一足
きちんと大事相に揃へてある。
それへ冬の朝日が暖かさうにあたつてゐる。

『高村光太郎詩集』伊藤信吉編 新潮文庫 (1950年刊)より

# by konohana-bunko | 2025-04-03 23:23 | 読書雑感

最近読んでいる本 土屋文明『新短歌入門』

最近読んでいる本 土屋文明『新短歌入門』_c0073633_23064333.jpg
本を読みながら、気になったところに付箋を貼る。読み了えて、メモを書いたり書かなかったりし、気が済んだら付箋を外す。本に(お疲れ様)と言ってやらなければならない。わたしの読書は、本に対して随分自分勝手なふるまいだと思う。

このごろはゆふべの畑に子等をやり一日にうれし苺つましむ*

『新短歌入門』で土屋文明が取り上げていた例歌のひとつ。
――この頃は夕方の畑にこどもたちを行かして、苺を摘んで来させるのだ――と、生活の中の素直な喜びを描いて、何も難解なところがない。「一日にうれし」を散文に変換すると味気がなくなるが、読み解くためにあえてすれば「(この)一日にうれしく感じることだ」といった感慨だろうか。それが「子等をやり」と「苺つましむ」の間に挟み込まれている。ここがこの歌の構造上最もチャーミングなところだと思う。
「このごろは」というさりげない初句から、一日にうれし、と気持ちを述べて、最後に現れる苺摘み。ああいいな、と思う。表記もほどほどにひらがなを交え、目にやわらかい。ことばにいちいち書かれていなくても、苺の鮮やかな赤、こどもの声、晩春の入日のほのぬくさを受け取ることができる。

作者はアララギの会員だろうか。新聞への投稿者だろうか。作者の名前は記されていない。土屋文明は簡潔に、「日に日に苺が熟れる、それを摘み家族の者が日を過ごしている裕かな生活が思われましょう。」とだけ書いている。

*土屋文明著『新短歌入門』筑摩書房(1986年刊) 40ページより引用


# by konohana-bunko | 2025-02-01 23:07 | 読書雑感

最近読んでいる本 『舟』44・45号(現代短歌舟の会機関紙)

最近読んでいる本 『舟』44・45号(現代短歌舟の会機関紙)_c0073633_23054013.jpg
現代短歌舟の会 機関誌『舟』第44号(2023年6月夏号)
同じく第45号(2024年12月冬号)
こちらの二冊より、いいな、好きだなと思った作品を数首引用する。

  三月六日  浅川洋

ここからは大きな船に乗りますと娘の笑顔を見送る夢も

冬の居場所、春の居場所、ゆるしの居場所、飼い猫たちがそっと知らせる
           
現代短歌舟の会 機関誌 『舟』第44号(2023年6月夏号)(十五首作品より二首引用 40ページ-41ページ)

一首目、夢の中で娘さんが発した「ここからは大きな船に乗ります」ということば。「大きな船に」ということは、遠いところを目指すという意味もあるのだろうか。この夢の意味は想像することしかできないが、この歌全体が発する仄かな淋しさと明るさだけは、手につかみ取れるもののようにはっきりと伝わってくる。事柄だけを簡潔に言い、結句の「も」に詠嘆の念を込めた下句も見事だ。
二首目、二通りの読み方ができるかと思った。ひとつは、猫が季節や状況に応じて快適な場所を上手に探して(そこで過ごしていることで)知らせてくれているというもの。もうひとつは、猫が、冬がここにいたよ、春がここにいたよ、ゆるしがここにあるよ、と、ひとつひとつ見つけて知らせてくれているというもの。個人的には(敢えて)後者の読みで鑑賞したい気持ちでいる。「冬」「春」に「ゆるし」を組み合わせた作者の感性に脱帽する。


  家移りとぞ  斉藤蒔

そらあをく 桜木の下ひとり佇つ のこりの人生グリコのおまけ
                
現代短歌舟の会 機関誌 『舟』第44号(2023年6月夏号)(十五首作品より引用 60-61ページ)


  旅にしあれば  斉藤蒔

ほとばしりを児にふくませたはいつのこと息吹き涸れゆくちぶさかなしも

宇野亜喜良の描く哀(いと)しき少女たち われは少女のなれのはてなり

現代短歌舟の会 機関誌 『舟』第45号(2024年12月冬号)(十五首作品より二首引用 56-57ページ)

斎藤蒔作品の美点は、作者が独自の「美の規矩」を持ち、それを磨き、それに基づいて書いているところにあると思う。そのモノサシで常に自分をも計る。それに恥じない表現を目指す。そして「わたしはこれが美しいと思います。」と堂々とことばを差し出す。筋が通っているから、受け取る側も押し付けがましさを感じない。背筋の立て方を心得ているのだ。

# by konohana-bunko | 2025-01-12 23:08 | 読書雑感

最近読んでいる本 短歌同人誌「Cahiers カイエ あれから」

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短歌同人誌「Cahiers カイエ あれから」(2024年9月8日刊)を読んだ。
2024年9月の大阪文フリでいただいたもの。
ほんの少しだが引用して感想を書く。


聖堂は祈りに満ちるきれぎれの原初のごときみどり児の声
                 二方久文 「別れ」より

聖堂の祈りがみどり児に向けられたものなのか、それとも偶然祈りの場に居合わせた子なのか。それはわからないが、この一首にはみどり児の生命力と、それを祝福する気配が満ちているように思う。
葛原妙子の「疾風はうたごゑを攫ふきれぎれに さんた、ま、りぁ、りぁ、りぁ」という歌を連想した。

半音を下げて話せばぐずぐずと女の枠が外れゆきたり
                 稲泉真紀 「閉じ込められる」より

女性の声の高低にはどういう意味があるのだろうと考えてしまう。よそゆきの声などという言い方もある。電話に出ると声が甲高くなる人もいる。声を半音下げ、身構えず、より素に近い声で話せば、女の枠が外れてゆく。そして中からひとりの、性別にとらわれない本質としての人間が現れてくる。

お祭りの笹の葉枯れて夕風に音する 外はすこし涼しい 
                    とみいえひろこ 「青空」より

七夕の笹飾り笹は、伐ってから日が経つとだんだん緑が褪せ、葉も干からびて縦に細く巻き上がってしまう。そして伐りたての笹より、しばらく飾って乾燥した笹の方がさらさらとよく鳴るのだ。夕風、笹の音、そして涼しさ……と、どこにも無理や力みのない描写が心地よい。

夕暮れは世界をわたりここへ来た神戸大橋空にうかべて   
                草野浩一 「夜店のあかり」より

谷川俊太郎の「朝のリレー」ではないが、夕暮も常に地球上を巡っている。当たり前といえば当たり前のそのことを捉えて「世界をわたりここへ来た」とことばに書くと、詩情が生まれる。「神戸大橋」ということばがあることで、作者が立っている場所、目の焦点が読み手にもくっきりと伝わってくる。夕暮が橋(橋のシルエット?)を空にうかべる、という言い回しも素敵だ。

# by konohana-bunko | 2025-01-04 23:11 | 読書雑感

何もないところを空といふのならわたしは洗ふ虹が顕つまで


by このはな文庫 十谷あとり