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アントニオ猪木が語る“レジェンドレスラー”   (16)大木金太郎

【私、韓国人。あなた、ブラジル人】


──19741010日に蔵前国技館で行われた大木金太郎とのNWF戦は忘れられない一戦です。大木選手は猪木さんにとってデビュー戦で苦杯を嘗めさせられた因縁の相手。感慨深いものがあったのではないでしょうか。


猪木 日本プロレスの道場が人形町にあった頃から一緒に練習してたし、先輩でしたからいろんなことがありましたね。あの人は韓国人なのでよく先輩たちにいじめられてたんですよ。食事のとき、ご飯のついた杓文字でぶん殴られて、バーッと米粒が飛び散った光景を憶えてます。練習が終わった後、道場のあったビルのすぐ横に映画館があったんだけど、練習着のままそこに金太郎さんに連れて行かれて、「私、韓国人。あなた、ブラジル人。仲良くやりましょう!」って手を握られたこともあった。その当時の俺は民族のことなんか意識してなかったんだけど、きっと想像以上のものがあったんでしょうね。

金太郎さんは齢もずいぶん上だったから(当初は1933年生まれと公表していたが、後年、1929年生まれと訂正された)、時間が経つほど俺を負かせなくなってきて、アメリカ行きも馬場さんやマンモス鈴木に先を越されて。その次も、本当は俺が行くことになってたんだけど、出発前に膝を怪我して、それで代わりに金太郎さんが行ったんです。俺は悔しくて無念の涙を流したんだけど、それが金太郎さんにとってはチャンスになったんですよ。


【伝説の猪木・大木戦。実力差は見た目以上に開いていた】


──その後、猪木さんは〝日本プロレス追放事件〟(197112月、猪木は不正を働く日本プロレス幹部たちを排除する会社改革に乗り出したが、上田馬之助の密告によって逆に会社乗っ取りを画策したとして除名・追放処分を受けた。新日本プロレスの旗揚げは翌19723月)以来、大木選手とは袂を分かっていたわけですが、再び新日本プロレスのリングで相まみえたときはどんな気分でしたか?


猪木 蔵前かな、最初は。豊登さんがレフェリーをやったんだっけ。あの時点で、正直言って実力的には相当差が開いていたんじゃないですかね。向こうはどう思ってたかわからないけど。


──これはうがった見方かもしれませんが、ゴング前の猪木さんが放ったナックルパートの奇襲攻撃を受けるまで、大木選手は緊張でガチガチになってたようにも見えます。むしろ、あの猪木さんの一撃によって大木選手は目を覚ましたんじゃないですか?


猪木 もともと技のない人でしたからね。頭突きが最大の武器でしたから、それが効かなければやることがなくなっちゃう。不安だったんでしょう。


──実際のところ、大木選手のグラウンドの強さはどのくらいのレベルだったんですか?


猪木 強かったですよ。当時の日本プロレスではね。ただ、悲しいかなやっぱり体が硬い。あるところで動きが止まっちゃうんですよ。

あとは関節技。これはその後に発展したというか、当時の基本にはなかったんです。あの頃のグラウンドの基本的な技術は、足を入れて相手を潰して上から押さえつけ、そこから先はリスト(手首)を極めるとか、幾つかのパターンしかなかった。俺はカール・ゴッチから初めてその先の関節技の技術を学んだんだけど、本当はそういう技術はずっと以前からプロレスにあったはずなんだよね。でも、あの時点においても、一度はそういう技術が忘れられていたんだ。


──この試合中に顕著に見られる猪木さんのテクニックの一つとして、フェイスロックのバリエーションの豊富さがあります。それまでのプロレスにおける寝技の展開は、猪木さんがいま仰ったように相手を倒したあとはリストを極めるか、腕をロックするか、せいぜい足をロックするところまでだったように思われます。ところが猪木さんは、大木選手の上に乗ってフェイスロックを極めながら、じわじわスタミナを奪う流れに持ち込んでいました。


猪木 レスリングを武器に格闘する場合、アルティメット(註/1996年に行われたインタビュー当時、猪木さんは総合格闘技をそう呼んでいた)のようなチョーク(喉締め)や顔面パンチは本来禁止で基本にないんですよ。

しかし、じゃあレスリングは実戦的じゃないかというとそうじゃない! 

ヘッドロックひとつとっても、理屈に合った絞め方をすれば筋力が大きくなくても顎だって砕くような威力があるんですよ。人間の体の弱い場所、顔、腕、足の急所を、手首や肘のように骨の出ているところを使って極める。その技術が本来一番重要な基本なんです。だから、むしろ余計な筋肉をつけていると、それがクッションになってしまって効かなくなる。そういう格闘の基本が、なんかいつの間にかまた忘れられてきているね……。


〈『アントニオ猪木の証明』木村光一著より抜粋〉





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by leicacontax | 2022-10-07 15:01 | プロレス/格闘技/ボクシング | Comments(0)

現実は精巧に造られた夢である。〈長谷川りん二郎の言葉〉


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