ゼミでクリスマス会をやる。
正直に言うと、これまでの私なら「うーん、それはゼミじゃないよね」と、やんわり却下していたと思います。
ところが今年は少し事情が違いました。
2年生のゼミ生たち。就職活動も一段落し、しかも卒業論文を全員が予定より1週間も早く提出してくれたのです。そのため、年内最後のゼミに、ぽっかりと余裕が生まれました。
「先生、クリスマス会、やってもいいですか?」
研究室でそう切り出した学生の顔は、いつもの“相談モード”ではなく、完全に“企画モード”でした。
「……まあ、いいですよ。何をやるかは、みんなに任せます」
そう言った瞬間、女子学生4人の目が一斉に輝きました。どうやら、私が思っている以上に、彼女たちはこの“余白”を楽しみにしていたようです。
会場は、私の研究室。机を少し寄せて、椅子を丸く並べ、手作り感満載のクリスマス会が始まりました。
最初の企画は、ビンゴ大会。参加者は学生4人と、なぜか教員の私を含めた5人です。
ルールはシンプル。1人1000円以内でプレゼントを用意し、ビンゴで一番早く当たった人から選ぶ方式。
……ここでまず、私はつまずいていました。
女子学生が喜ぶ1000円のプレゼント。
正直、まったく自信がありません。
「どう思う?これ、若い子、喜ぶかなあ」
軽井沢のショッピングモールまで足を延ばし、妻にも相談しました。
「うーん……攻めすぎない方がいいんじゃない?」
その助言を受けつつも、私はどこかで“無難すぎる自分”に抗いたくなっていました。
そして最終的に選んだのが、ややキモかわいいぬいぐるみのストラップでした。
「今の若い女性には、キモかわいさが流行っている」
そんな話をどこかで聞いた記憶が、私の背中を押したのです。
迎えた当日。
ビンゴカードを配り、番号を読み上げ、場が温まってきた頃――。
「ビンゴ!」
……言ったのは、私でした。
「先生、早くないですか?」
「持ってますね」
なんと、私が一番最初にプレゼントを選ぶ権利を得てしまったのです。
迷った末に選んだのは、ある学生が用意してくれていたバスボム。ラッピングもとてもきれいで、「あ、これは飾りたいな」と思えるほどでした。
「先生、それ、お風呂に入れるやつですよ」
「知ってます。でも、これは卒業まで研究室に飾りたいと思います」
学生たちは笑っていましたが、私は本気でした。
今もそのバスボムは、研究室の棚にちょこんと置かれています。
そして問題は、ここからです。
私が用意したプレゼントを引き当てた学生が、包装を開けた瞬間――。
「……」
一瞬、時が止まりました。
「あ、えっと……」
「キ、キモかわ……?」
私はその沈黙の意味を、痛いほど理解しました。
(やってしまったな)
キモかわいいはずのぬいぐるみは、どうやら“キモ”の比率が少し高すぎたようです。学生は気を遣ってくれましたが、研究室の空気はほんの一瞬、微妙なものになってしまいました。
「先生、こういうの、好きそうですよね」
その一言に、私は全面的に敗北を認めました。
他にも、ディズニーショップのお菓子、マグカップとハンカチのセットなど、学生たちのプレゼントはどれもおしゃれで実用的でした。それと比べると、私のセンスは、やや一人だけ別方向に走っていたようです。
片付けをしながら、私は思いました。
来年、もしまたこんな機会があるなら――。
(攻めない。絶対に攻めない)
無難は、悪ではない。
むしろ、優しさなのかもしれません。
それでも、このクリスマス会で、私は大切なことを学びました。授業を少し離れるだけで、学生たちはこんなにも生き生きとし、私自身もまた、学ぶ側に回るのだということです。
いくつになっても、人生には「初めて」があります。そして、年を重ねるごとに、それらは自分より若い誰かから、さりげなく教えられることになるのかもしれません。
研究室の棚にあるバスボムを見るたび、私は思い出します。
初めてのゼミクリスマス会と、キモかわいい反省会と、自分自身の"のびしろ"を。